表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

544/553

第536話:真髄

 

 腕力を強化し、心肺機能や動体視力も全て魔法によって引き上げている。

 無論、ただ闇雲に振り回しているわけではなく、相手の動きを読み、微かなフェイントや、視線の誘導、また両手の武器による攻撃だけではなく、蹴りや当て身も駆使し、反撃の隙も与えぬ、文字通り完璧な連撃を彼は放ち続けていた。


 だが、当たらない。

 かすりもしない。

 まるで、あらかじめそこへ来ることが分かっているかのように、彼が打ち込もうとした次の瞬間には、彼女はすでに回避行動を取り始めていた。

 放った大剣の袈裟斬りは空を切り、一瞬も間を開けず繰り出された巨斧による切り上げも、そこから手首を返して放たれる打ち下ろしも、彼女は全て紙一重でかわしていく。


「……ッ! ぬぅえぃッ!!」


 振り下ろした巨斧をそのまま地面にめり込ませ、ズィグラッドは手首を捻りながらそれを掬い上げる。

 刹那、大量に巻き上がった土埃が、レヴィから視界を奪った。


「うッ!?」


 彼女は手でそれを拭いながら、強く地面を蹴って後方へと跳び、微かに肩で息をするズィグラッドから距離を取った。

 そうして、2人の間に一時の静寂が訪れる。


「ふー…………いけませんね」


 レヴィは、深く息を吐いた後にそう呟いた。

 今彼女は、ロードから禁止されていたその力に、足を踏み入れつつあった。

 いや、実際には、踏み入れていたと言った方が正しい。


 ズィグラッドの猛攻に対抗すべく、レヴィの心は無意識にそれを求め、漏れ出た力によって彼女は死地を脱したのだ。

 距離が離れ、それを自覚した彼女は、強靭な精神力でその力を押さえ込んでいた。

 しかし、果たしてそれがいつまで持つかと、彼女は心の中で眉をひそめた。


「ちッ……」


 一方で、ズィグラッドは己の浅慮を恥じていた。

 "何が底が見えた"だ、と。

 それどころか、彼は打ち込みながら全く逆の印象を受けていたのである。


「あの力はいったい……ぬっ?」


 その時、彼女が胸元から何かを取り出し、スッと口元に当てた。


「通信魔石か……」


 戦闘中に、何度か光っているのはズィグラッドにも見えていた。

 彼は"まぁ、よいか"と呟きながら、自身も髭に埋め込んだ魔石へ向けて指示を出し始めた。

 今のうちに自身も、という考えも当然あったが、何よりもを取りたかったのである。

 この先の展望を思案する、そのを。


『レヴィ! よかった……やっと繋がった!』


 魔石から聞こえてくる友の声に、レヴィの表情が自然と和らぐ。


「アスナ……久しぶり。助けに来てくれたんだね……」


『うん……今度は、私たちがあなたたちを助ける番だからね』


「ふふっ! ありがとう」


『どういたしまして。で、ズィグラッドは大丈夫?』


「今のところは……とにかく、あれは私がなんとかするから」


『……分かった。あ、カルサさんはギブライとバーメディに集中するから、他をお願いって。私は今からカサナエル軍を抑えにいく』


「カサナエルを……?」


『うん。このままだと結界が持ちそうにないからね。あ、南は多分大丈夫。シェリルとカレンが行ったから』


「そっか……みんな、強くなったんだね。あ、ティアにはびっくりしちゃった。でも、来てくれたのが分かって嬉しかったよ」


『あははっ! あ、それで"仕込み"はどう?』


「あ、聞いたんだね。多分もうすぐ……さっき連絡があったから」


『了解。レヴィ……無茶しないでね』


「……しないよ。私は、私に出来ることをする。じゃ、また後で」


『うん……後でね!』


 光が消えた魔石を少し見つめた後、彼女はそれを胸元にしまった。


「話は終わったかの?」


 武器を両肩に担ぎ、ゆっくりと彼女へ近づいていたズィグラッドはそう言った。

 死地は脱したが、状況が好転したわけではない。

 レヴィは1つ息を吐くと、いつも通りに構えをとった。


「……失礼いたしました。では、続きを」


「ふん……見てみい」


 ズィグラッドに促され、レヴィはそちらへと視線を移した。


「く……」


 レヴィは本当の意味で眉を顰めた。

 そこに、諸国連合軍を吸収したレア本軍総勢5万が、もう間近まで迫っているのが見えたからである。


「中央はご覧の通りガラ空きじゃ。もはや、端にこだわる必要もない。歩兵ばかりでちと再編成と移動に時間がかかっておるが、これで終わりじゃよ。これでもまだ……それはどうかと言えるかの?」


「ええ」


 目を見て、はっきりと即答するレヴィに、ズィグラッドは苦笑で返す。

 だが、内心は逆。

 己ですら読み切れず、何を企てているかが分からないという不気味さに、開戦当初に感じた心の中のもやが晴れない。

 唯一、思い当たるのは────


「それほどか……ロード=アーヴァインとは」


「はい」


 再びの即答に、ここでズィグラッドは確信した。

 彼以外にも、何かがあると。


「フッ……では、本気でやろうかの」


 故に、そうすることを決めた。


「ッ!」


 レヴィは無意識に構えをとっていた。

 咄嗟に身体が反応したのだ。

 ────その、凄まじい殺気に。


「先刻も言った通り、ワシはお主の命なんぞ微塵も興味がなかった。ただ邪魔をさせぬよう、抑えるだけでよいとな。しかし、やはり駄目じゃな。お主はあまりにも……危険すぎる」


 彼がそう決めた理由は2つ。

 1つは、今彼が言った通り、レヴィから感じた底知れぬ何かに対し、放置してはならないと判断したため。

 そしてもう1つは、何を企んでいるのか分からない以上、自身が本軍を直接指揮し、それを確実に対処するためである。


「────よって、今ここで確実に……殺す」


「……ッ!」


 レヴィの頬を汗が伝う。

 彼女は今、誰よりも深く理解していた。

 この目の前にいる男が、決して虚勢を張るような人間ではないということを。


「ぬんッ……!」


 もはやいつ以来か、彼自身でも思い出せないほどであった。

 全力全開の、魔法の行使。

 身体能力を引き上げるというのは、この魔法においては最も程度の低い使い方。

 この魔法には、さらにその先があった。

 それこそが、"身体能力極化魔法"の真髄。


「ぬぅぅう……かぁぁぁぁぁぁあッ!!!」


 それは、単純な身体能力の強化ではない。

 脳を、肉を、骨を、血を、神経を。

 細胞の一つひとつを全て極限まで強化することにより、彼は今までとは一線を画す、別次元の存在へと昇華する。


「…………待たせたのぅ」


 見た目はそう変わっていない。

 だが、レヴィはひしひしと感じていた。

 その、あまりにも圧倒的な────


「さぁ……参ろうかッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
しつけえじじいはオイラから嫌われるぞ。さあレヴィたん覚醒の時なりよ~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ