第428話:2人組
「くッ……エミーナァッ!」
「ひぃッ!? すすすすいませぇん!!」
リナリアの怒号に、エミーナは宙に浮かんだまま身体を丸めた。
しかし、エミーナに非はない。
彼女はやれるだけのことをやったのだ。
ただ単にバーンの力が、それを上回っただけのことである。
『……落ち着きたまえリナリア君』
「へ、陛下……」
バーンの登場に多少動揺したものの、既にロバートは平静さを取り戻していた。
『関係ないよ。誰が相手だろうとね。このゴッドロバートに勝てる者はこの世にいない……バーン君! 邪魔するのならば、君も一緒に叩き潰すだけだ!』
「ゴッドロバートねぇ……」
バーンはそう言ってニヤリと笑ったあと、声を落としてロードへと語りかけた。
「見た感じ……というか、なんとなくデカいだけじゃないように思うが、どうなんだ?」
「はい……アレに魔法は効きません。というより、魔力自体が通らないみたいです。伝説の武具ですら弾かれ、神の盾ですら危うく破壊されそうになりましたから……」
「厄介だなそりゃ……」
「それから、中には捕らえられた人達が大量に入っているようです。迂闊に破壊するのは……」
「ふむ……因みに、一応聞いておくが……その人らは助けられるのか?」
「エクスカリバーの力を使えばおそらく……」
「そうか……だとすると、他のも潰す訳にはいかねぇな」
バーンはそう言って、周囲にいた人造魔石機兵達に視線を送る。
ロードはそれに頷いたあと、再び口を開いた。
「はい。なので、この地下空間が崩れるのも避けないと駄目です」
「この深さ……埋まっちまったらどうしようもねぇしな。だが、アレが派手に動きゃ……」
「あ、いや、バーンさんを閉じ込めた人が、この空間を固定しているらしいので……」
「あー、なるほどな。ここに入った時に感じた魔力は、やっぱりあいつのもんか。つまり、あの浮いてる空間使いと、ついでにあっちの小さいのを無力化し、デカいのの中に入ってる人らを傷付けず、王だけを討つ必要があるって訳か」
「ええ……そうなります」
「なかなかのハンデだな。策は?」
「今のところはっきりとしたものは……バーンさんは?」
「……本気でやれば、あのデカブツに風穴を開ける自信はある」
「ッ! ……本当ですか?」
「ああ……ま、奥の手ってやつだ。魔力が効かねぇとか関係なく、まず間違いなくぶち抜ける。だが、加減が出来ねぇ。ロバート王はもちろん、中にいる人らも"消し"ちまう可能性が高い」
「"消す"……」
「そういう技なんだ。だから俺はサポートに回る。あのデカブツはお前に任せるぜ。まぁ、俺も試しちゃみるがな」
「……分かりました。なんとかやってみます」
『作戦会議はもういいかな?』
聞こえてきたロバートの声に、2人は視線を上へと向けた。
「ずいぶんとお優しいじゃねぇか」
『なぁに……僕は神だからねぇ。それくらい許してあげるさ』
「そらお有り難いこって。さて、んじゃ……」
『「「ッ!」」』
瞬間、地面に降り積もっていた土埃が再び舞い上がる。
「こ、こんなッ!」
「くッ……!」
大気の鳴動に呼応するように、リナリアとエミーナの身体が震え始めていた。
バーンから溢れ出す、人ならざる尋常ではない魔力によって。
「状況が状況なんでな。死なない程度に……軽く本気を出してやるよ」
「ッ! 上等だッ! 陛下の御身に近付く者は、その全てをッ……我ら七影が駆逐するッ! 行くぞエミーナァッ!」
「は、はいッ!」
「ロード……こっちも行くぜッ!」
「分かりましたッ!」
ロードの返事を聞くや否や、バーンの姿がそこから消える。
「いぎッ……!」
「え……はぐッ!?」
「おめぇらは……俺が相手をしてやるよ」
時空魔法で消えたバーンは、地上にいたリナリアに大剣の腹を叩きつけて吹き飛ばすと、再び消え、宙空にいたエミーナにも一撃を見舞う。
そのあまりの速さに、二人は何も出来ずに王への道を明け渡していた。
そうして、そびえ立つ巨神を前に、ロードは思考を巡らせる。
まともにぶつかれば勝機はない。
人が虫を踏み潰すが如く、あまりにも簡単にロードは死ぬだろう。
だが、彼はただの虫ではない。
「ブリューナク! タラリア! ウィガール!」
彼の呼びかけに呼応し、朱の槍が手に、翼の生えた靴が足に、白銀の鎖帷子が身体を覆う。
『ほう……君の魔法は本当に不思議だねぇ。いったいどういう能力なんだい?』
「……」
ロードは応えず、黙したままに宙へと浮かんだ。
答えは未だに見えない。
だが、状況は待ってはくれないのだ。
『……まぁいいか。どうせすぐに……死ぬんだしねぇッ!』
巨神の瞳が赤く輝く。
ロードはブリューナクを握りしめ、強く宙を蹴った。
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「はぁッ……はぁッ……こ、この野郎……マジでバケモンじゃねぇかッ……!」
肩で息をするゲイボルグの視線の先に、ほとんど無傷のままに立つボッグスの姿があった。
再三にわたり打ち込んだ致命の筈の一撃。
だが、それら全ては彼の魔法の前に打ち砕かれ、彼女の魔力と心を徐々に削っていた。
「ふむ……さて、どうするかな」
その隣に立つバハムートもまた、焦りこそ見せないものの、無敵とも言えるボッグスの能力に手を拱いていた。
「あんたのおかげでやりたい放題出来たけどよぉ……刺さんなきゃ意味ねぇし……!」
バハムートが使う"一瞬の永遠"。
単体を対象とすれば、数分間に渡りそのものの"時"を止めるという恐ろしい能力。
しかし、止めたところで、とどめを刺せなければ意味がない。
「そうさな……お主の力で貫けないとなると、今あれを殺すのは不可能に近い。まぁ、我らの力との相性が悪かったと言えばそれまでだが、まったく……どれほどの代償を払っているのかは知らんが……大したものだ」
「おい! 関心してる場合かよ!」
「いやいや、ここは素直に負けを認めようではないか。明らかに奴の方が上なのだ。残念だがな」
「ざ、ざけんな! だったら尻尾でも巻いて逃げろってのか!? 冗談じゃねぇぞ! 逃げんならあんただけにしてくれや! あたいは一人でも……!」
「勘違いするな、魔槍よ」
「あぁ!?」
「確かに負けだとは言った。だが、策はある」
「さ、策って――――」
「……!」
その時、立ち尽くしていたボッグスの身体がピクリと動く。
そして、視界にいた二人を認識すると、王の怨敵を駆逐する為、再び前進を開始した。
「ちッ!」
「術が解けたか……聞け、魔槍よ。残る魔力からいって、"一瞬"が使えるのはあと一度……だが、私の推測が正しければ、それで十分奴を討てる」
「なッ……なんでんなことが……!」
「あれだ」
「あれって……」
バハムートの指差す先。
それは、ボッグスの腕にあった微かな傷。
「あ、あんな傷がなん……っていうか、あたいはあんなんつけた覚えが……」
「そうだ。あれは我らがつけたものではない。我らの前に戦った者がつけた傷だ。そして、それは恐らく……とにかく、破れるのだあれは」
「……あたいは、どうすりゃいい?」
即座に気持ちを切り替えたゲイボルグに、バハムートは微笑を浮かべたあと――――
「まずは推測を確信に導く。お主はまず……」
ボッグスがゆっくりと迫る中、バハムートはゲイボルグの耳元で策を語る。
ゲイボルグは頷きながらそれを聞いていたが、バハムートが考えた最後の策を聞くと――――
「おまッ……大丈夫なのかよ!?」
そう言って、驚愕の表情を浮かべて彼女の方を見た。
バハムートはニヤリと笑ったあと、静かに首を縦に振る。
「恐らくな。とにかくやるしかあるまい。さぁ、さっさとやれ」
「あー! もう! どうなっても知らねぇぞ!」
次の瞬間、漆黒の魔槍が……バハムートの身体を貫いていた。




