第425話:戴く
「はい……間違いないです」
「……やっぱりな。だったら相手は……俺がする」
直後、ブランスの身体が金色の輝きを放つ。
一度拳を交えた男を、救う為に。
「……分かりました。お願いします」
そういい残し、ロードは階段へと走り出した。
その背中をレヴィとバイザーが追う。
次の瞬間――――
『……!』
「てめぇの相手は俺だろがッ……!」
鋼と鋼がぶつかり合う凄まじい轟音が、巨大な地下空間に響き渡る。
それは、ロード達を進ませまいと放たれた巨拳を、ブランスの剣が受け止める音。
「いけぇッ!」
その言葉を背中で受け、ロード達は振り返ることなく一気に階段を駆け下りる。
そんな彼らの前に、今度は大量の人造魔石機兵達が立ちはだかった。
その時、バイザーがロード達の前へと出る。
「悪いなッ……!」
懺悔の言葉とともに、数多の爆炎が咲き乱れる。
それは人造魔石機兵達の足を吹き飛ばし、彼らの身体を次々に地へと伏せさせていった。
「ちッ! 数が多い……下まではなんとかしてやる! 後はてめぇらでやりやがれ!」
「了解です!」
直後バイザーはその場で足を止め、残る魔力全てを放出する。
「……吹き飛べッ!」
瞬間、連鎖する爆発音が辺りに響いた。
威力を抑えたそれは、人造魔石機兵達の身体を吹き飛ばし、2人の視界が開けていく。
そうして爆炎が作り出した道を駆け抜け、ロードとレヴィは遂に最下層へと辿り着いた。
「スカークさんッ!」
「お!?」
スカークはロード達に気付いた瞬間、その身体を地面に沈めた。
「ほ、ほら隊長!」
「くッ……役立たずどもがッ……!」
それに反応し、リナリアとエミーナは距離を取った。
そして、ロード達が臨戦態勢に移行するのに合わせ、地面からスカークが姿を現す。
「ふいー……バーンのことは?」
「上でティアから大体のことは」
「おっけ。後は3人だけっぽいな。こいつらと……」
「シュメール王ですね……あの人はどこに?」
「わかんね。一回見たけど、姿を隠しちまった。多分下だと思う」
「分かりました……レヴィ」
「はい。スカーク様、私がサポートします」
「そりゃ助かる。あいつらどっちもクソ厄介でよ。1人じゃきついとこだったんだわ。んで、あいつらの能力だけど……」
「ありがとうございます。ですが、説明は不要です。もう、"視"ていますので」
レヴィの紅い瞳が、魔力によって微かに輝く。
そして、彼女の頭の中には既に、その対抗策が構築され始めていた。
「なるほどね……ロード、入り口はあそこな」
スカークの指差す先に、巨大な空間を貫く円柱があった。
その根本にある扉に、ロードは狙いを定める。
「頭をとりゃこっちの勝ちだ。任せたぜ」
「分かりました……ブリューナク!」
手帳から引き抜いた雷神の槍が、ロードの手のひらの上で翻ったのと同時、スカークは再び地面に沈み、レヴィは全身から魔力を放出した。
そして――――
「ッ!?」
「はやッ……!」
一歩でリナリアとエミーナの間を擦り抜け、ロードは円柱の根元へと雷速で向かう。
「行かせッ……ぬぐッ!?」
「あなた様のお相手は……私がします」
「きッ……さまぁッ!」
ロードへと伸ばしたリナリアの手が、彼女の意思に逆らって上へ向く。
レヴィの生み出した見えない鎖に捕縛され、リナリアの顔が憤怒と焦燥で醜く歪んだ。
「たいちょッ……んひぃ!?」
「んー、やっぱりいいおっぱいしてんねぇ!」
「い、いやぁぁぁぁああッ!?」
そうして、怒声と奇声を置き去りに、ロードは1人、最深部へと至る扉を打ち砕いた。
「うっ……!」
そのまま中へと突入したロードを襲ったのは、形容し難いほどの悪臭であった。
言葉にするならば、何かが腐ったものに汚物を足したような……そんな匂い。
思わず足が止まったロードだったが、マスク越しに鼻を押さえ、薄暗く、緩やかに下る通路を再び進み出した。
その最中、ロードはこの先で待つであろう王を想う。
即ち、何が彼をそうさせてしまったのか、と。
その答えに近いものを、既に彼はレヴィから託されていた。
「けど、もう言葉では……」
"引き戻せない"。
それは理解していた。
ただ、虚しさと、侘しさだけが、ロードの心の中にあった。
「ッ! これが……!」
そうして暗い通路を抜けた先。
そこにそれはあった。
まさに天を貫くような、巨大な鉄の塊が。
『おや……ようこそ。アヴァン君』
「ッ!?」
何かで増幅されたシュメール王の声が、その巨大な空間に響き渡る。
ロードはブリューナクを巨人に向け、重心をスッと下ろした。
『ははッ! いやはや……まさか君もそうだったとはね。闘技大会に出場したのは、下見か何かだったのかな?』
「……」
王の問いにロードは答えず、そのまま生命の反応を探る。
だが、王を見つけることは出来なかった。
途中までは確かに見えていたその反応。
しかし今、この空間には……彼1人の生命しかなかった。
『……そう警戒せんでもよろしい。少し話そうじゃないか。まずはそうだな……君はいったい何者かね? 闘技大会に出場した者は、細かくその素性を洗ったのだが……君についてはついぞよく分からなかった。Sランクなのにだよ? そんなおかしな話はない。そこまでの冒険者ならば、何かしら情報があって然るべきだろう。つまり、君の身分は偽りだ。まぁ、なんでもよかったのだがね。優秀な素材でさえあれば。しかし残念だ……秘密裏に拐うには君は強過ぎたし、決勝戦の後にでも城に招いてどうこうするという作戦もあったのだが、いきなり消えてしまうしね』
王の声だけが響き続ける。
ロードはただ聞いていた。
それは、彼の迷いでもあった。
『ふむ、だんまりか。ではこうしよう。私の質問に答えてくれれば、私も君の質問に答えよう。どちらにせよ、君がここに来たということは、恐らく私はもう終わりだろうからね。まぁ、冥土の土産というやつだ。知りたいのだよ。何故露見し、どうやって突き止め、誰が私を討つのかを。それくらいはいいだろう? 私が納得すれば、大人しく投降し、罪を償おうではないか。いかがかな?』
「……分かりました」
ロードは一つ間を開けた後、静かにそう言った。
『そうかそうか! それはよかった! ではまず君の……いや、ここは私から名乗るのが筋だな。まぁ、知っているとは思うがね。私の名はロバート=ヴィラニウス=シュメール……第7代シュメール国王だ。さぁ、君の名は?』
「俺はロード……ロード=アーヴァインです」
『ロード……ああ! あのギリシアで活躍した!? そ、それから確か、ニーベルグの闘技大会でも優勝した……期待の超新星じゃないか! なるほどなるほど! どうりで強い訳だ!』
「……お詳しいんですね』
『当然さ! 私は強い者が好きだからね。そういった情報はチェックを欠かさないんだ』
「人造魔石機兵の素材にする為……ですか?」
ここまで間髪を入れずに返ってきた王の言葉が、そこで一旦途切れを見せた。
静まり返る巨大な空間に、重い重い沈黙の時が流れる。
『……いや、そうではないよ。強い者に憧れているのさ。私はそうではないからね』
「王であるあなたが……ですか?」
『そうさ。私の力は私が生み出したものではない。ただ"戴いた"だけのもの……権力とはそういうものだ。それにすがるだけの矮小な存在だよ……私はね。さて、話を戻そう。どうやって知ったのかな?』
「失踪者の数です。あまりにも多過ぎました」
『なるほどね……上手くやっていたつもりだったが、ここ最近は需要過多でね。そのあたりから綻んだかな……気付いたのは君かい?』
「いえ、バーンさんです」
『ん、さすがは"神殺し"といったところか。厄介な男だね彼は……まぁ、うちの部下に片付けられたようだが。他には誰かいるのかな? スカーク以外に』
「申し訳ありませんが、全てを語るつもりはありません」
『ふむ、まぁ当然だね。私を信用出来る筈もない。さて、では私はどうしたら……君の信用を勝ち取ることが出来るのかな?』
「姿を見せて下さい。あなたを拘束……」
『んっふっふっふっ! 君は何を言っているんだい?』
「え……?」
『ずっと見せているじゃあないか……君の目の前でッ!』
重い扉が開かれるような、そんな鈍い音がこだまする。
そして次の瞬間、巨大な人造魔石機兵の瞳が……赤く輝いたのだった。




