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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第421話:収容所

 

「うきゃあッ!?」


「ティアッ! アスナッ!」


 背後から胸を揉みしだかれ、エミーナは錯乱状態に陥っていた。

 結果、制御不能となった魔法が暴走する。


「エ、エミーナァッ! その程度で何をッ……魔法を止めろォッ!」


「いやぁぁぁッ! ひぃぃぃッ!」


 リナリアの声も届かず、エミーナは手をバタつかせながら魔力を放出し続け、辺りに散らばっていた様々な破片が浮かび上がり、ティアやアスナ達の身体とともに宙を舞う。

 それらは縦横無尽に飛び回り、加えて空間自体にも歪みが発生している為、誰もその場から動けない程であった。

 ただし――――


「きっ……きゃあぁぁぁー!」


「よっとぉ!」


「あっ!?」


 その男には、何も関係がない。


「間一髪だったね! いやぁ、予想以上に上手くいったわ!」


 地面に激突しかけたティアを受け止め、男はそう言ってにこっと笑った。


「あ!シェリルちゃん! そっち行ったよぉ!」


「あ、はいっ! 2秒ッ……!」


 男はシェリルに指示を出しながら、リナリアを牽制するように視線を送った。


「はっ!? き、貴様はッ……!」


 そこで彼女は思い出す。

 不適に笑う、その男の名を。


「んー……悪いね! オイラ、ロリコンじゃないから!」


「ッ! このッ……!」


 そうして、2人を回収したシェリルが彼に近付くと――――


「よっしゃ! さっさと逃げんべ! 掴まって!」


「はいっ!」


「えっ? あのっ……シェリルこの人っ……!」


「大丈夫! 味方よ!」


「いっくよぉ!」


「えっ!? うわぁっ!?」


「ま、待てッ!」


「さいなら〜!」


 4人の身体が、一気に地面へと吸い込まれていく。

 リナリアの魔法も間に合わず、彼らはそのまま姿を消した。


「くッ! ま、まさか奴までいるとは……!」


「お、おっぱい! おっぱい触られたぁあ!」


「えぇいッ! この……間抜けがァッ!」


「はぶッ!?」


 リナリアの魔法が、エミーナの顔面に炸裂する。

 その瞬間、歪んでいた空間は元に戻り、宙に浮いていたものが一斉に地面へと落ちていった。


「いった……! な、何するんですか!」


「この馬鹿がッ! 生娘でもあるまいに! 乳を揉まれたくらいで我を見失いおって!」


「だ、だって……っていうか! 私は生娘ですから!? は、初めて男の人にッ……うわぁーん!」


「いい加減にッ……!」


「……もういいかな? お2人さん」


「「ッ!」」


 背後から聞こえた王の声に、2人は慌てて振り返り、そのまま片膝を突いてこうべを垂れた。


「も、申し訳ありません陛下ッ……!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「はいはい。謝罪はもういいから。で、エミーナ君」


「はひっ!」


「空間は閉ざしてるんだよね?」


「ひゃい! 地下から出ることは出来ない筈です!」


「出来ない筈……ってことは、可能性はゼロじゃないのね?」


「え、えぇっと……私と同じような魔法とか……空間自体が耐えきれないような何かが起こらない限りは……あ、あと! 私が死んだ場合も……」


「なるほどなるほど。まぁとにかく、ここで呑気に話してる場合じゃ……ないってことだね」


 優しい口調。

 しかし、王の目は笑っていなかった。


「お、仰る通りです……!」


「ん……で、リナリア君」


「はっ……」


「さっきの男、君は知ってたみたいだけど……あれは誰?」


「はい……奴は、バーンと同じ黄金世代の1人、SSランク冒険者の……」



 ―――――――――――――――――――――



「じゃ、じゃあ! あなたがあの……"空白"のスカークさん!?」


「そだよー。てか、オイラってば有名人?」


 耳が隠れる程度の長さの赤い髪に、微かに黒い肌。

 そして、橙色の鮮やかな鎧を身に纏ったスカークは、まるでルビーのように紅い瞳を細めながら、嬉しそうにそう答えた。


「そりゃ有名……だし! ちょっと前まで私、あなたを探してたんですよ! ディンさんと一緒に!」


「は? 親父と? なになになんでよ?」


「あ、いや……それは話すと長く……」


「す、すいませんスカークさん。その話は後で。今は、とにかくロードさん達と合流……」


「え!? え!? や、やっぱりロードさん来てるの!? 嘘じゃないよね!?」


「あー! なになにそういう感じぃ!? たっはー! やっぱりあいつ色男なんだねぇ! まぁ、カッコいいもんなぁ……羨まし」


「あーもー! ティアもスカークさんも! 今はそんなこと言ってる場合じゃ……というか、さっきからですけど、大声出して平気なんですかこれ!?」


「へーきへーき! だいぶ深く潜ってるもーん! オイラの"透過魔法"を信じなさいよ!」


 彼らは今、通常進むことの出来ない場所にいた。

 そこは地下の地下。

 つまり、地面の中である。


「それにしても凄い魔法ですよね……なんだか不思議な感じがします」


「うん。なんか全部透けて見えるというか……てか、なんで見えるんだろ? 灯りもないのに……」


「オイラもそこらへんはよく分からんのよ。学者に言わせると、透過の力が視界にも干渉してるとか、魔力発光によるものだとか……まぁ、とにかく便利な魔法ってことで!」


「水の中のような……あ、空飛んでる時に近いかなぁ……でも、確かに感触があって、普通に歩ける……うわっ!? 今なんかパイプを擦り抜けた……」


「視界が変な感じになるわね……」


 スカークの使う"透過魔法"は、物体の透視から始まり、あらゆる物体、果ては魔法の無干渉化など、擦り抜けることに特化した魔法である。

 その力により、彼はこれまでに、全ての依頼をほぼ無傷でこなしてきた。

 そうして付いた二つ名が"空白"。

 それはつまり、彼のいる地点は、この世にとって存在しない場所、という意味である。


「オイラは慣れっこだけどねー。なんでもかんでも擦り抜けて、好きなところに好きなだけーってね。あ、絶対オイラから離れないでよ? その瞬間埋まっちゃうからさ。気絶してる2人も、手を離した途端……永遠に気を失ったままになるからね」


「わ、分かってますよ。ところで、これはどこに向かってるんですか?」


「このまま一気に地下施設を抜けて、一旦地上に戻るつもりだよ」


「えっ……で、でもまだ……!」


「シェリルちゃんはまだいいけどね。ティアちゃんだっけ? 君とその2人は……怪我もしてるし、地下にはいない方がいい。で、君はその側にいるべきだ。違う?」


「それは……」


 要するに、足手まといになる……と、彼はそう言っているのだ。

 実際、その判断は間違っていない。

 シェリルはまだ戦えるとしても、ティアは地下施設内では力を発揮出来ず、アスナとソフィアは戦力外。

 これ以上、地下にいる理由はどこにもなかった。


「後はオイラ達に任せなよ。君らは地上で待っ……んッ!?」


 その時、先行していたスカークの動きが、言葉とともに突然止まる。


「ど、どうかしたんですか?」


「……あの子、凄い使い手だったみたいだね。殺した方がよかったかも」


「「え……」」


 突如出た物騒な言葉に、シェリルとティアは少し驚き、互いに顔を見合わせた。


「あ、あの子って……エミーナって人ですか?」


「そう。んとね……この先、空間が断絶してる。触った感じで分かるんだけど、丸く……球状になってるね。多分、地下施設全てを覆うように、あの子が空間を切り取ってるんだろう。これはオイラじゃ破れない」


「それって……」


「うん、地上には戻れないね。このまま地面の中を通ろうが、普通に上がっていこうが……どっちもダメだと思う。地下から出す気はないって訳だ。となると、あの子をどうにかするしかないね。もしくは、この魔法と似た力で打ち破るしかないけど……まいったな。バーンならどうにか出来ると思うけど……」


「あ、あの……バーンさんはなんか、空間に閉じ込めたって……エミーナって人がそう……」


「マジ!?」


「あ、はい! な、なんか、何重にも異空間を作ってそれに入れたとかなんとか……」


「かー! あの馬鹿……オイラ遠回りしてから行ったのに、いないからおかしいと思ったんだよなぁ……」


「え? 遠回り?」


「ん、ああ……捕らえられた人を探してたんよ。一応、収容所っぽいところはあったんだけど……」


「やっぱり……ということは、あの人を倒さないと、そこにいる人達も地上には……」


「あ、いや、その……誰もいなかったんだ。だから、収容所っ"ぽい"……なんだよ」


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