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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第416話:機

 

「ッ! な、何……これ……」


 門の先は球状の広い空間が広がっており、白い服を着た男達を筆頭に、王達は橋のような通路を歩いていく。

 アスナが周りを見渡すと、かなり下の方に人造魔石機兵(ハイゴーレム)がずらりと並んでいるのが見え、それを点検しているような作業員の姿も目に入った。


「ティア……」


「うん……」


 2人は、人造魔石機兵(ハイゴーレム)の右肩にまとめられるように担がれていた。

 そのおかげで、小声ならば誰にも会話を聞かれずに済んでいたのだ。


「このままじゃまずい……なんとかならない?」


「……ダメ。まだ私の魔法で操れるものがない」


「そう……せめて、その子だけでもなんとかしたいんだけど……」


 2人の視線が、人造魔石機兵(ハイゴーレム)の左肩に担がれ、放心状態で涙を流すソフィアに向けられる。

 両親の行末を知り、絶望に包まれた少女に。


「分かってる……でも、今はダメ。隙もないし、どうしようもない。ただ、アレは絶対ある。それが見つかればなんとか……」


「そうだね……それを待って……」


「それにしてもさぁ!」


「「ッ!?」」


 突然大きな声を上げたシュメール王に、2人の心臓が跳ね上がる。


「随分静かになっちゃったねぇ……君」


 鉄で出来た橋の中央で立ち止まり、突如振り返ったシュメール王は、そう言って笑みを浮かべながらソフィアを見た。

 安堵する2人。

 しかし、それでも全く反応がない彼女を見て、その安堵感はすぐに消える。

 ソフィアは俯いたまま、ただ静かに涙を流すのみであった。


「んっふっふっふっ……まだ生きてるかもよ? お父さんとお母さん」


「……え?」


 ソフィアが顔を上げる。

 それを待っていたかのように、シュメール王は笑みを浮かべた。


「人造魔石機兵(ハイゴーレム)ってね、人の魔力で動いてるわけ。つまり、死体を入れても意味ないのよ。生きてないと。だから、開ければいるかもよ……この中のどっかに」


「まだ……生きて……」


 ソフィアの目に正気が宿る。

 そして、父と母を探すように、眼下に佇む人造魔石機兵(ハイゴーレム)達を見回した。


「……ま、余分なとこは取っちゃうんだけどね」


「「……!」」


 ぼそりと王が呟いたその言葉。

 必死に両親を探すソフィアには届かなかったが、ティアとアスナは確かに聞いていた。

 その悍ましい台詞を。


「いいねいいね! やっぱり子供は元気が一番! んっふっふっふっ!」


「陛下……お戯れが過ぎます。アレはもう、ここにはおりません」


「……え?」


 その一言で、ソフィアの顔が再び曇る。


「だーめだよリナリア君! もうちょっとはしゃがせておきたかったのにぃ!」


「ど、どういう……」


「言った通りの意味だ。貴様の両親は、人造魔石機兵(ハイゴーレム)の核となり、既に出荷されている。ティーターンにな」


「え……」


「あーあ……言っちゃった」


「アレらは気付いてしまったのだ。ここの秘密に。だからよく覚えているよ。何しろ、貴様の両親を無力化したのは……この私なのだからな」


 胸に手を当て、リナリアは自分が仇だとソフィアに告げる。

 微かに笑みを浮かべて。


「あな……たが……?」


「そうだ。そして人造魔石機兵(ハイゴーレム)の核とし、ティーターンへの第一陣として送った。あれから半年……恐らく、もう役目を終えている頃だろう。無駄な希望は捨てることだ」


「だ、だったらなんでッ……!」


 ソフィアの視線が王へと移る。

 怒りと嘆き、その両方を込めて。

 それを受けたシュメール王は――――


「ん? その顔が見たかったから」


「ッ!」


 こともなげに、そう言った。


「ほんとはさぁ、もうちょっと後で教えるつもりだったんだけどなぁ。そしたらもっと……楽しめたのに」


「な、なんな……」


「なのに酷いよね! リナリア君はさ!」


「陛下のことは敬愛しておりますが、そのご趣味はいかがなものかと」


「なんでさ!? 楽しいじゃない! 落ちて上がってまた落ちて……その様がいいのに!」


「分からなくもないですが、相手はまだ子供ですよ? もう少し分別をおつけになられた方がよろしいかと」


「あーはいはい! でもね! この際だから言わせてもらうけど――――」


 ソフィアを無視し、王とリナリアの会話が続く。

 楽しげに、笑いながら。

 ソフィアは、それを黙って見ているしかなかった。

 大きく開かれた瞳から涙を流しながら、怒りの声を上げようとした口も閉じれずに。


「なん……なの……?」


「……ん?」


 そんなソフィアの替わりに、ティアがそう呟いた。


「何か言ったかなお嬢……」


「なんなのよアンタらはッ!」


「ティア……!」


「ふざけんじゃないわよッ! 何がおかしいのッ!? 人のッ……人の人生をなんだと思ってんのよッ!!」


 ティアの叫びに、王とリナリアの会話が止まる。

 2人は顔を見合わせた後、ゆっくりとティア達に近づいていった。

 そして、歯を食いしばり、涙をいっぱいに貯めた彼女の目の前まで来ると――――


「別に何も」


「……は?」


「いやだから、何も思わない。僕は王だ。この国の。全て僕のものだ。だから、何も、思わない。分かった?」


「このッ……!」


「普段僕はあまり怒らない。ただ、時々イラッとすることはある。今みたいに、生意気な口をきかれた時とかね……リナリア君」


「はい。黙らせます」


「ッ!」


 リナリアの手が、ティアの頭へと伸びる。

 闘技場の医務室で、コスモにしたときと同じように。

 と、その時――――


「……あら、お取り込み中でしたか」


「エミーナ……」


 七影が1人、空間を操る魔法使いであるエミーナが、橋の手すりの上に立っていた。


「侵入者は?」


「ええまぁ……とりあえず閉じ込めておきました。ただ……」


「……ただ?」


「私がお相手したのが、かの大英雄……バーンだったもので」


「「えっ!?」」


 この時、2人は驚愕すると同時に、あることを考えていた。

 それは、バーンが来ているということはつまり、ひょっとして"彼"もここに来ているのではないか、ということである。


「バ、バーンだと!? "神殺し"の!?」


「ええ。で、どうやらこれは……ティタノマキアの仕業ではないのではと思いまして……」


「へ、陛下……!」


「うーん……これはあれかな……ザディアックにバレたかな?」


「……あっ! オルグレンが!?」


「そう。オルグレンがうちに残ってたじゃない? あれさぁ、コスモ君の件とは別でしょ絶対。怪しむには早過ぎるし。だから、やっぱり最初から何かを探ってたんじゃないかな。ティーターンが頑張れてる理由は、間違いなくうちの人造魔石機兵(ハイゴーレム)でしょ? ティーターンにそんな技術力がないのはオリンポスなら分かるだろうし、だから提供先を探して……」


「この国に目星を……で、何かを掴み、オルグレン経由でバーンに依頼をした……」


「そんな感じ。まぁ、バーンがティタノマキアの可能性も勿論あるよ? けど、それより今言った方が現実味がある。だとしたらやばいね。ティタノマキアならなんとでもなるけど、オリンポスが後ろにいるとなぁ……今バレたら終わりじゃん」


 人造魔石機兵(ハイゴーレム)の存在自体に問題はなく、ティーターンを助けていることにも問題はない。

 問題なのは、当然エネルギーとして人を使用している点である。

 かつて王とリナリアが語っていたように、戦争が終わり次第、人造魔石機兵(ハイゴーレム)を求めるであろう各国から、人造魔石機兵(ハイゴーレム)起動に適した魔石を回収し、真っ当な状態としてから出荷、それによって莫大な利益を得るというのがシュメールの戦略であった。

 更に言えば、出荷した人造魔石機兵(ハイゴーレム)を操れる魔石を確保しておけば、仮にどこかの国が人造魔石機兵(ハイゴーレム)を使用して攻めてきたとしても、確実に勝つことが出来る。

 だが、今ここの存在がバレてしまえば、当然人を核としていたことも明かされることになる。

 そうなれば、シュメールは全てを失うだろう。


「くッ……エミーナ! バーンを閉じ込めたと言ったな!?」


「あ、はい……普通にやったら絶対勝てないんで。対峙する前に異次元空間を何個か作って、それを何重にも重ねて重ねて……あれは出られないと思いますよ。やった私でも無理ですもん」


 それを聞いたティアとアスナだったが、特段焦りはなかった。

 何故なら、バーンと関わった全ての人間が言う台詞があったから。

 "あれは、心配するだけ無駄"、と。


「よし……他から連絡は?」


「ないです。むしろ、隊長に来てないんですか?」


「私にもない……まさか……」


「やられちゃったかもねぇ。まいったなぁ……ねぇ、人造魔石機兵(ハイゴーレム)は出したの?」


 王が白衣を着た男達にそう尋ねる。


「あ、はいっ! 陛下が通り過ぎた階層に次々と……」


「それでなんとかなるかな?」


「分かりません……バーンがいたということは、他にもかなりの手練れがいる筈です。最悪の場合オルグレンも……バーンは運良くエミーナがなんとかしてくれましたが、他はどうなっているか……とにかく、1人も帰す訳にはいきません」


「だね。エミーナ君、侵入者が入った後、地下から出た者は?」


「あ、おりません」


「ふんふん……なら、とりあえず地下と地上を遮断しようか。出来る?」


「あー……なんとか出来るかと……」


「ん、よろしく。じゃ、先に進もう」


「陛下まさか……」


「いや、さすがに分かってるって。アレを使おうよ。完成した超大型。この子じゃないやつ」


「なるほど……おい、すぐに起動出来るか?」


「か、可能ではありますが……果たしてこの空間が耐えられるかどうか……」


「それはエミーナがなんとかする」


「え……?」


「とにかく起動準備だけでもしておけ。そうなる前になんとかなればいいが……念の為だ」


「か、かしこまりました。とにかくこちらへ……」


「はいはい。やれやれまったく……邪魔が入ってばっかだねぇ」


 王の苦々しげな呟きを最後に、一向は沈黙し、地下施設の奥へと歩み始めた。

 その様子に、ティアとアスナは互いに頷き合うと、再び機を見計らう。

 確実に来るであろう、"彼"の顔を思い描き、胸を躍らせながら。


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