第416話:機
「ッ! な、何……これ……」
門の先は球状の広い空間が広がっており、白い服を着た男達を筆頭に、王達は橋のような通路を歩いていく。
アスナが周りを見渡すと、かなり下の方に人造魔石機兵がずらりと並んでいるのが見え、それを点検しているような作業員の姿も目に入った。
「ティア……」
「うん……」
2人は、人造魔石機兵の右肩にまとめられるように担がれていた。
そのおかげで、小声ならば誰にも会話を聞かれずに済んでいたのだ。
「このままじゃまずい……なんとかならない?」
「……ダメ。まだ私の魔法で操れるものがない」
「そう……せめて、その子だけでもなんとかしたいんだけど……」
2人の視線が、人造魔石機兵の左肩に担がれ、放心状態で涙を流すソフィアに向けられる。
両親の行末を知り、絶望に包まれた少女に。
「分かってる……でも、今はダメ。隙もないし、どうしようもない。ただ、アレは絶対ある。それが見つかればなんとか……」
「そうだね……それを待って……」
「それにしてもさぁ!」
「「ッ!?」」
突然大きな声を上げたシュメール王に、2人の心臓が跳ね上がる。
「随分静かになっちゃったねぇ……君」
鉄で出来た橋の中央で立ち止まり、突如振り返ったシュメール王は、そう言って笑みを浮かべながらソフィアを見た。
安堵する2人。
しかし、それでも全く反応がない彼女を見て、その安堵感はすぐに消える。
ソフィアは俯いたまま、ただ静かに涙を流すのみであった。
「んっふっふっふっ……まだ生きてるかもよ? お父さんとお母さん」
「……え?」
ソフィアが顔を上げる。
それを待っていたかのように、シュメール王は笑みを浮かべた。
「人造魔石機兵ってね、人の魔力で動いてるわけ。つまり、死体を入れても意味ないのよ。生きてないと。だから、開ければいるかもよ……この中のどっかに」
「まだ……生きて……」
ソフィアの目に正気が宿る。
そして、父と母を探すように、眼下に佇む人造魔石機兵達を見回した。
「……ま、余分なとこは取っちゃうんだけどね」
「「……!」」
ぼそりと王が呟いたその言葉。
必死に両親を探すソフィアには届かなかったが、ティアとアスナは確かに聞いていた。
その悍ましい台詞を。
「いいねいいね! やっぱり子供は元気が一番! んっふっふっふっ!」
「陛下……お戯れが過ぎます。アレはもう、ここにはおりません」
「……え?」
その一言で、ソフィアの顔が再び曇る。
「だーめだよリナリア君! もうちょっとはしゃがせておきたかったのにぃ!」
「ど、どういう……」
「言った通りの意味だ。貴様の両親は、人造魔石機兵の核となり、既に出荷されている。ティーターンにな」
「え……」
「あーあ……言っちゃった」
「アレらは気付いてしまったのだ。ここの秘密に。だからよく覚えているよ。何しろ、貴様の両親を無力化したのは……この私なのだからな」
胸に手を当て、リナリアは自分が仇だとソフィアに告げる。
微かに笑みを浮かべて。
「あな……たが……?」
「そうだ。そして人造魔石機兵の核とし、ティーターンへの第一陣として送った。あれから半年……恐らく、もう役目を終えている頃だろう。無駄な希望は捨てることだ」
「だ、だったらなんでッ……!」
ソフィアの視線が王へと移る。
怒りと嘆き、その両方を込めて。
それを受けたシュメール王は――――
「ん? その顔が見たかったから」
「ッ!」
こともなげに、そう言った。
「ほんとはさぁ、もうちょっと後で教えるつもりだったんだけどなぁ。そしたらもっと……楽しめたのに」
「な、なんな……」
「なのに酷いよね! リナリア君はさ!」
「陛下のことは敬愛しておりますが、そのご趣味はいかがなものかと」
「なんでさ!? 楽しいじゃない! 落ちて上がってまた落ちて……その様がいいのに!」
「分からなくもないですが、相手はまだ子供ですよ? もう少し分別をおつけになられた方がよろしいかと」
「あーはいはい! でもね! この際だから言わせてもらうけど――――」
ソフィアを無視し、王とリナリアの会話が続く。
楽しげに、笑いながら。
ソフィアは、それを黙って見ているしかなかった。
大きく開かれた瞳から涙を流しながら、怒りの声を上げようとした口も閉じれずに。
「なん……なの……?」
「……ん?」
そんなソフィアの替わりに、ティアがそう呟いた。
「何か言ったかなお嬢……」
「なんなのよアンタらはッ!」
「ティア……!」
「ふざけんじゃないわよッ! 何がおかしいのッ!? 人のッ……人の人生をなんだと思ってんのよッ!!」
ティアの叫びに、王とリナリアの会話が止まる。
2人は顔を見合わせた後、ゆっくりとティア達に近づいていった。
そして、歯を食いしばり、涙をいっぱいに貯めた彼女の目の前まで来ると――――
「別に何も」
「……は?」
「いやだから、何も思わない。僕は王だ。この国の。全て僕のものだ。だから、何も、思わない。分かった?」
「このッ……!」
「普段僕はあまり怒らない。ただ、時々イラッとすることはある。今みたいに、生意気な口をきかれた時とかね……リナリア君」
「はい。黙らせます」
「ッ!」
リナリアの手が、ティアの頭へと伸びる。
闘技場の医務室で、コスモにしたときと同じように。
と、その時――――
「……あら、お取り込み中でしたか」
「エミーナ……」
七影が1人、空間を操る魔法使いであるエミーナが、橋の手すりの上に立っていた。
「侵入者は?」
「ええまぁ……とりあえず閉じ込めておきました。ただ……」
「……ただ?」
「私がお相手したのが、かの大英雄……バーンだったもので」
「「えっ!?」」
この時、2人は驚愕すると同時に、あることを考えていた。
それは、バーンが来ているということはつまり、ひょっとして"彼"もここに来ているのではないか、ということである。
「バ、バーンだと!? "神殺し"の!?」
「ええ。で、どうやらこれは……ティタノマキアの仕業ではないのではと思いまして……」
「へ、陛下……!」
「うーん……これはあれかな……ザディアックにバレたかな?」
「……あっ! オルグレンが!?」
「そう。オルグレンがうちに残ってたじゃない? あれさぁ、コスモ君の件とは別でしょ絶対。怪しむには早過ぎるし。だから、やっぱり最初から何かを探ってたんじゃないかな。ティーターンが頑張れてる理由は、間違いなくうちの人造魔石機兵でしょ? ティーターンにそんな技術力がないのはオリンポスなら分かるだろうし、だから提供先を探して……」
「この国に目星を……で、何かを掴み、オルグレン経由でバーンに依頼をした……」
「そんな感じ。まぁ、バーンがティタノマキアの可能性も勿論あるよ? けど、それより今言った方が現実味がある。だとしたらやばいね。ティタノマキアならなんとでもなるけど、オリンポスが後ろにいるとなぁ……今バレたら終わりじゃん」
人造魔石機兵の存在自体に問題はなく、ティーターンを助けていることにも問題はない。
問題なのは、当然エネルギーとして人を使用している点である。
かつて王とリナリアが語っていたように、戦争が終わり次第、人造魔石機兵を求めるであろう各国から、人造魔石機兵起動に適した魔石を回収し、真っ当な状態としてから出荷、それによって莫大な利益を得るというのがシュメールの戦略であった。
更に言えば、出荷した人造魔石機兵を操れる魔石を確保しておけば、仮にどこかの国が人造魔石機兵を使用して攻めてきたとしても、確実に勝つことが出来る。
だが、今ここの存在がバレてしまえば、当然人を核としていたことも明かされることになる。
そうなれば、シュメールは全てを失うだろう。
「くッ……エミーナ! バーンを閉じ込めたと言ったな!?」
「あ、はい……普通にやったら絶対勝てないんで。対峙する前に異次元空間を何個か作って、それを何重にも重ねて重ねて……あれは出られないと思いますよ。やった私でも無理ですもん」
それを聞いたティアとアスナだったが、特段焦りはなかった。
何故なら、バーンと関わった全ての人間が言う台詞があったから。
"あれは、心配するだけ無駄"、と。
「よし……他から連絡は?」
「ないです。むしろ、隊長に来てないんですか?」
「私にもない……まさか……」
「やられちゃったかもねぇ。まいったなぁ……ねぇ、人造魔石機兵は出したの?」
王が白衣を着た男達にそう尋ねる。
「あ、はいっ! 陛下が通り過ぎた階層に次々と……」
「それでなんとかなるかな?」
「分かりません……バーンがいたということは、他にもかなりの手練れがいる筈です。最悪の場合オルグレンも……バーンは運良くエミーナがなんとかしてくれましたが、他はどうなっているか……とにかく、1人も帰す訳にはいきません」
「だね。エミーナ君、侵入者が入った後、地下から出た者は?」
「あ、おりません」
「ふんふん……なら、とりあえず地下と地上を遮断しようか。出来る?」
「あー……なんとか出来るかと……」
「ん、よろしく。じゃ、先に進もう」
「陛下まさか……」
「いや、さすがに分かってるって。アレを使おうよ。完成した超大型。この子じゃないやつ」
「なるほど……おい、すぐに起動出来るか?」
「か、可能ではありますが……果たしてこの空間が耐えられるかどうか……」
「それはエミーナがなんとかする」
「え……?」
「とにかく起動準備だけでもしておけ。そうなる前になんとかなればいいが……念の為だ」
「か、かしこまりました。とにかくこちらへ……」
「はいはい。やれやれまったく……邪魔が入ってばっかだねぇ」
王の苦々しげな呟きを最後に、一向は沈黙し、地下施設の奥へと歩み始めた。
その様子に、ティアとアスナは互いに頷き合うと、再び機を見計らう。
確実に来るであろう、"彼"の顔を思い描き、胸を躍らせながら。




