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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第415話:蓋

 

「うッ……くッ!」


 人造魔石機兵(ハイゴーレム)が振り下ろした戦鎚が、レヴィの身体の僅か十数センチの位置を通り過ぎる。

 直後、轟音とともに地面が砕け、その風圧と衝撃が、傷付いた彼女の身体を咎めた。


「ッ! ……はッ……くぁッ……!」


 歯を食いしばり、人造魔石機兵(ハイゴーレム)を振り切ろうと駆け出すも、激痛がそれを邪魔する。

 使い物にならなくなった左腕と、砕かれてしまった肋骨。

 脂汗が額から流れ落ち、全身が痺れ、視界が霞む。

 レヴィは今、生死の境にいた。


「どう……すればッ……!」


 破壊することは出来ない。

 彼女もまた、気付いてしまったから。

 魔法を使用した、人造魔石機兵(ハイゴーレム)の正体に。

 鎖で足を止めようとしたが、傷付いた彼女が生み出したそれでは人造魔石機兵(ハイゴーレム)の力を抑えるには至らず、ただ攻撃を躱《かわ》しながら、前に進むことしか出来なかったのだ。


「うッ!?」


 その足を、三体いる人造魔石機兵(ハイゴーレム)の一体が繰り出した氷魔法が止める。

 前に出そうとした足は刹那、地面と離れることを拒否し、レヴィの身体がガクンと前に垂れた。


「まずいッ……がはッ……!」


 咄嗟に腰を捻り、後方から迫る人造魔石機兵(ハイゴーレム)達を迎撃せんと振り返った瞬間、折れた肋骨が内臓を傷付けていた。

 途端に口に充満する鉄の味と匂い。

 それでも――――


「お許しをッ……はぁッ!」


「ッ!」


 迫っていた大剣持ちの人造魔石機兵(ハイゴーレム)目掛け、レヴィは魔力弾を放つ。

 腹部に命中したそれは、強い光を放ちながら人造魔石機兵(ハイゴーレム)を押し返し、転倒させることに成功した。

 だが、すぐさま他の二体が彼女に迫る。


「ふんッ!」


 レヴィは拳を固め、凍りついた地面を砕きにかかる。

 しかし、足を覆う氷にヒビが入るも、完全に砕くには至らない。


「ちッ……ならば!」


 レヴィは瞬時に目標を変更し、見えない鎖を生み出すと、迫る二体の足に向けてそれを投げつけた。


「「ッ!!」」


 鎖は絡み合い、バランスを失った二体は顔面から地面に倒れ込む。

 レヴィはその隙に、凍った地面を拳で砕くことに成功すると、残る力を振り絞って地面を蹴った。


「がッ……!?」


 その直後、彼女の身体に凄まじい衝撃と激痛が走る。

 飛びそうになる意識の中、振り返った彼女の目に、倒れたままに手を伸ばす人造魔石機兵(ハイゴーレム)の姿が見えた。

 レヴィの身体を貫いたのは、人造魔石機兵(ハイゴーレム)の一体が繰り出した雷魔法。


「う……あ……」


 レヴィの身体が地面に崩れ落ち、同時に三体の人造魔石機兵(ハイゴーレム)が立ち上がる。


「うっ……くっ……」


 右手を地面に押し当て、レヴィはなんとか身体を起こそうとしていた。


「あぐっ……」


 しかし、力が入らず、身体が再び地に伏せる。

 僅かに残っていた全てを雷魔法に奪い去られ、レヴィは今、完全に無力と化した。

 その彼女に、三つの足音が迫る。

 やがて、その足音が止まった。

 彼女を囲んで。


「ロ……ロード……様……」


 地に伏せる彼女の頭上で、三つの凶刃が振り上げられる。

 そして、一切の慈悲もなく、それが簡単に振り下ろされ――――


「「「ッ!?」」」


「あ……」


 高く響く金属音が、レヴィの目を上に向けさせる。

 そして、その男と目があった瞬間、彼女は安堵して……気を失ったのだった。


「よく頑張ったねレヴィ……後は任せろ」


 魔銀の義手で全てを受け止めたロードは、そう言った後、黒い手帳をゆっくりと開いた。



 ―――――――――――――――――――――



「ん……う……?」


「気が付いたか……レヴィ」


「ロード様……はっ!? あの鎧は……!」


「大丈夫。もう動きは止めたよ」


 ロードが向いた方向にレヴィが目をやると、片膝を突いて動かなくなった三体の人造魔石機兵(ハイゴーレム)が見えた。


「それより身体は?」


「あ、はい……もう大丈夫だと思います。ご迷惑を……あの、ロード様はどうしてこちらに?」


「それは……移動しながら話そう。走れるか?」


「あ、はいっ」



 ―――――――――――――――――――――



「やはりあの中には……」


「……ほぼ間違いなくね。人が連れ去られていて、あの鎧の中から感じる魔力……歪んでいるのは、多分無理矢理そうさせられているからだと思う。魔法も使ってきたし、何より……あの中には生命があった。レヴィがそうだったように、他のみんなも気付いている筈だ」


「確かに……」


「俺は目の前で動かし方を見てたからね。この魔石……あ、レヴィを襲っていたのはこっちの魔石か。これに魔力を込めれば止められる。多分、もう一度込めればまた動き出す仕組みだ。魔石によって、操れる個体が決められているみたいだね。レヴィが危ない時にこれで止めようとしたんだけど、アレは止まらなかったから」


「ではその魔石は……」


「あの三体をグレイプニルで止めて、微かな生命を辿ってあの女の人を見つけたんだ。レヴィが倒したんだろ?」


「ああ、なるほど……彼女が持っていた訳ですね。で、ロード様がここに来られたのは、私の生命エネルギーが弱っていたから……」


 ロードは走りながら頷く。


「ああ。レヴィだけじゃなく、バイザーさんも危なかった。レヴィと同じように、相手が相当強かったんだと思う。あと、ブランスさんとカレンもかな。そっちには武具達に行ってもらったよ。壁をデュランダルに斬り裂いてもらってね」


 ロード達が今いる場所は、巨大な地下採掘場を支える役割を担っていた。

 これは、空間自体を魔法の力で固定している為、本来ならば必要ないものではあるが、術者に不測の事態が起きた場合に備えてのものである。

 七つの採掘道に合わせ、七つの巨大な空間が隣接しており、ロードは隣のレヴィへ、2人の伝説の武具は、デュランダルと共にその先へと向かっていた。


「なるほど……ん? ブランス様とカレン様?」


「ああ……シェリルは1人で先に進んだみたいなんだ。多分、2人がそうさせたんだろう。大丈夫。そっちも伝説の武具に追ってもらってる。俺がもともと進んでいた坑道を通ってね」


「そうでしたか……あ、ということは、今ロード様は生命魔法を……」


「うん。使えない。でも手帳はあるし、何よりレヴィがいるから。きっとなんとかなるさ」


「……はい。お任せください」


「ああ。頼りにしてるよ」


 微笑むロードを見て、レヴィもまた笑顔を見せた。


「ふふ……あ、バーン様達は?」


「うーん……それが分からないんだ。バハムートさんの反応はあって、かなり先にいるみたいなんだけど、先に行った2人の反応がない」


「そうですか……ご無事だといいのですが……」


「あの2人なら大丈夫だと思うけどね。とにかく先に進もう。ティアとアスナ……それに、ソフィアが心配だ」


「ですね……急ぎましょう!」


「ああ!」



 ―――――――――――――――――――――



 いくつもの通路を通り、いくつもの鋼鉄の扉を開け、暗く長い階段を下りた先。


「ふぅ……やっとついたねぇ」


 巨大な黒い扉の前で、シュメール王がそう呟く。

 ロードとレヴィが合流した頃、既にシュメール王とリナリア、そして作業用の人造魔石機兵(ハイゴーレム)に担がれたティア、アスナ、ソフィア達は、城の地下に広がる空間、その最深部へと辿り着いていた。


「申し訳ありません陛下。エミーナがいればよかったのですが……」


「いやいや。昨日も歩いたし、別に構わないよ。それに、エミーナ君は僕を守るより……戦っている方が好きみたいだからねぇ。彼女が嬉しいなら僕も嬉しいよ」


「勿体なき御言葉……後でエミーナに伝えておきます。きっと、涙を流して喜ぶことでしょう」


「ははっ! まぁそれはいいとして……あ、来たね」


 王がそう言った直後、黒く巨大な扉がひとりでに動き出す。

 古く、ところどころ錆び付いているそれは重く、そして嫌な音を上げながら、ゆっくりと開いていった。


「お待ちしておりました……陛下」


 その扉の先、白い服を着た3人の男達が、そう言って王に首を垂れる。


「うん。で、首尾は?」


「滞りなく。ご連絡頂きました通り、小型と中型……そして、超大型を」


「んっふっふっふっ……いいね。さ、行こうか」


 その会話を聞いていたティアとアスナは、未だに動けずにいた。

 ソフィアがいることも理由の一つであったが、何よりも……リナリアに、全く隙がなかったのである。

 焦る2人と、放心状態のソフィアを担いだ人造魔石機兵(ハイゴーレム)が門を抜けた後、地獄の蓋は……再び閉じられた。


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