第415話:蓋
「うッ……くッ!」
人造魔石機兵が振り下ろした戦鎚が、レヴィの身体の僅か十数センチの位置を通り過ぎる。
直後、轟音とともに地面が砕け、その風圧と衝撃が、傷付いた彼女の身体を咎めた。
「ッ! ……はッ……くぁッ……!」
歯を食いしばり、人造魔石機兵を振り切ろうと駆け出すも、激痛がそれを邪魔する。
使い物にならなくなった左腕と、砕かれてしまった肋骨。
脂汗が額から流れ落ち、全身が痺れ、視界が霞む。
レヴィは今、生死の境にいた。
「どう……すればッ……!」
破壊することは出来ない。
彼女もまた、気付いてしまったから。
魔法を使用した、人造魔石機兵の正体に。
鎖で足を止めようとしたが、傷付いた彼女が生み出したそれでは人造魔石機兵の力を抑えるには至らず、ただ攻撃を躱しながら、前に進むことしか出来なかったのだ。
「うッ!?」
その足を、三体いる人造魔石機兵の一体が繰り出した氷魔法が止める。
前に出そうとした足は刹那、地面と離れることを拒否し、レヴィの身体がガクンと前に垂れた。
「まずいッ……がはッ……!」
咄嗟に腰を捻り、後方から迫る人造魔石機兵達を迎撃せんと振り返った瞬間、折れた肋骨が内臓を傷付けていた。
途端に口に充満する鉄の味と匂い。
それでも――――
「お許しをッ……はぁッ!」
「ッ!」
迫っていた大剣持ちの人造魔石機兵目掛け、レヴィは魔力弾を放つ。
腹部に命中したそれは、強い光を放ちながら人造魔石機兵を押し返し、転倒させることに成功した。
だが、すぐさま他の二体が彼女に迫る。
「ふんッ!」
レヴィは拳を固め、凍りついた地面を砕きにかかる。
しかし、足を覆う氷にヒビが入るも、完全に砕くには至らない。
「ちッ……ならば!」
レヴィは瞬時に目標を変更し、見えない鎖を生み出すと、迫る二体の足に向けてそれを投げつけた。
「「ッ!!」」
鎖は絡み合い、バランスを失った二体は顔面から地面に倒れ込む。
レヴィはその隙に、凍った地面を拳で砕くことに成功すると、残る力を振り絞って地面を蹴った。
「がッ……!?」
その直後、彼女の身体に凄まじい衝撃と激痛が走る。
飛びそうになる意識の中、振り返った彼女の目に、倒れたままに手を伸ばす人造魔石機兵の姿が見えた。
レヴィの身体を貫いたのは、人造魔石機兵の一体が繰り出した雷魔法。
「う……あ……」
レヴィの身体が地面に崩れ落ち、同時に三体の人造魔石機兵が立ち上がる。
「うっ……くっ……」
右手を地面に押し当て、レヴィはなんとか身体を起こそうとしていた。
「あぐっ……」
しかし、力が入らず、身体が再び地に伏せる。
僅かに残っていた全てを雷魔法に奪い去られ、レヴィは今、完全に無力と化した。
その彼女に、三つの足音が迫る。
やがて、その足音が止まった。
彼女を囲んで。
「ロ……ロード……様……」
地に伏せる彼女の頭上で、三つの凶刃が振り上げられる。
そして、一切の慈悲もなく、それが簡単に振り下ろされ――――
「「「ッ!?」」」
「あ……」
高く響く金属音が、レヴィの目を上に向けさせる。
そして、その男と目があった瞬間、彼女は安堵して……気を失ったのだった。
「よく頑張ったねレヴィ……後は任せろ」
魔銀の義手で全てを受け止めたロードは、そう言った後、黒い手帳をゆっくりと開いた。
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「ん……う……?」
「気が付いたか……レヴィ」
「ロード様……はっ!? あの鎧は……!」
「大丈夫。もう動きは止めたよ」
ロードが向いた方向にレヴィが目をやると、片膝を突いて動かなくなった三体の人造魔石機兵が見えた。
「それより身体は?」
「あ、はい……もう大丈夫だと思います。ご迷惑を……あの、ロード様はどうしてこちらに?」
「それは……移動しながら話そう。走れるか?」
「あ、はいっ」
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「やはりあの中には……」
「……ほぼ間違いなくね。人が連れ去られていて、あの鎧の中から感じる魔力……歪んでいるのは、多分無理矢理そうさせられているからだと思う。魔法も使ってきたし、何より……あの中には生命があった。レヴィがそうだったように、他のみんなも気付いている筈だ」
「確かに……」
「俺は目の前で動かし方を見てたからね。この魔石……あ、レヴィを襲っていたのはこっちの魔石か。これに魔力を込めれば止められる。多分、もう一度込めればまた動き出す仕組みだ。魔石によって、操れる個体が決められているみたいだね。レヴィが危ない時にこれで止めようとしたんだけど、アレは止まらなかったから」
「ではその魔石は……」
「あの三体をグレイプニルで止めて、微かな生命を辿ってあの女の人を見つけたんだ。レヴィが倒したんだろ?」
「ああ、なるほど……彼女が持っていた訳ですね。で、ロード様がここに来られたのは、私の生命エネルギーが弱っていたから……」
ロードは走りながら頷く。
「ああ。レヴィだけじゃなく、バイザーさんも危なかった。レヴィと同じように、相手が相当強かったんだと思う。あと、ブランスさんとカレンもかな。そっちには武具達に行ってもらったよ。壁をデュランダルに斬り裂いてもらってね」
ロード達が今いる場所は、巨大な地下採掘場を支える役割を担っていた。
これは、空間自体を魔法の力で固定している為、本来ならば必要ないものではあるが、術者に不測の事態が起きた場合に備えてのものである。
七つの採掘道に合わせ、七つの巨大な空間が隣接しており、ロードは隣のレヴィへ、2人の伝説の武具は、デュランダルと共にその先へと向かっていた。
「なるほど……ん? ブランス様とカレン様?」
「ああ……シェリルは1人で先に進んだみたいなんだ。多分、2人がそうさせたんだろう。大丈夫。そっちも伝説の武具に追ってもらってる。俺がもともと進んでいた坑道を通ってね」
「そうでしたか……あ、ということは、今ロード様は生命魔法を……」
「うん。使えない。でも手帳はあるし、何よりレヴィがいるから。きっとなんとかなるさ」
「……はい。お任せください」
「ああ。頼りにしてるよ」
微笑むロードを見て、レヴィもまた笑顔を見せた。
「ふふ……あ、バーン様達は?」
「うーん……それが分からないんだ。バハムートさんの反応はあって、かなり先にいるみたいなんだけど、先に行った2人の反応がない」
「そうですか……ご無事だといいのですが……」
「あの2人なら大丈夫だと思うけどね。とにかく先に進もう。ティアとアスナ……それに、ソフィアが心配だ」
「ですね……急ぎましょう!」
「ああ!」
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いくつもの通路を通り、いくつもの鋼鉄の扉を開け、暗く長い階段を下りた先。
「ふぅ……やっとついたねぇ」
巨大な黒い扉の前で、シュメール王がそう呟く。
ロードとレヴィが合流した頃、既にシュメール王とリナリア、そして作業用の人造魔石機兵に担がれたティア、アスナ、ソフィア達は、城の地下に広がる空間、その最深部へと辿り着いていた。
「申し訳ありません陛下。エミーナがいればよかったのですが……」
「いやいや。昨日も歩いたし、別に構わないよ。それに、エミーナ君は僕を守るより……戦っている方が好きみたいだからねぇ。彼女が嬉しいなら僕も嬉しいよ」
「勿体なき御言葉……後でエミーナに伝えておきます。きっと、涙を流して喜ぶことでしょう」
「ははっ! まぁそれはいいとして……あ、来たね」
王がそう言った直後、黒く巨大な扉がひとりでに動き出す。
古く、ところどころ錆び付いているそれは重く、そして嫌な音を上げながら、ゆっくりと開いていった。
「お待ちしておりました……陛下」
その扉の先、白い服を着た3人の男達が、そう言って王に首を垂れる。
「うん。で、首尾は?」
「滞りなく。ご連絡頂きました通り、小型と中型……そして、超大型を」
「んっふっふっふっ……いいね。さ、行こうか」
その会話を聞いていたティアとアスナは、未だに動けずにいた。
ソフィアがいることも理由の一つであったが、何よりも……リナリアに、全く隙がなかったのである。
焦る2人と、放心状態のソフィアを担いだ人造魔石機兵が門を抜けた後、地獄の蓋は……再び閉じられた。




