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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第394話:無言

長らく更新をお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

今日から再開します。

詳しくは活動報告をご覧下さい。

 

「む、霧が……」


 ジグドラが地に伏せると同時、路地裏の一角を覆っていた霧が晴れていく。

 その時、背後から近付く足音に、レヴィはゆっくりと振り返った。


「どうやら……保険は必要なかったみたいだな」


「あっという間すぎ」


「バーン様、ブランス様……ええ、流石はロード様です」


 彼らの後ろにはバイザーもおり、仮にジグドラが逃げ出していたとしても、同じ結果となっていたのは言うまでもない。

 更に――――


「出番なしかよ……つまんねぇの」


「……」


 そうぼやきながら、路地を形成する建物と建物の間からゲイボルクが、その反対からは、無言のままにフラガラッハが姿を現わす。

 もはや、局地的な天変地異でも起きない限り、誰であろうがどうすることも出来ない鉄壁の布陣。

 ただ、それ以前に、ロードがシェリルの後ろにいた時点で、彼らは既に詰んでいたのではあるが。


「シェリル、怪我は?」


「あ、大丈夫……です……」


 自身が霧に覆われてから、僅か数秒の出来事。

 シェリルは驚愕していた。

 そして、同時にこう思う。

 自分達が手も足もでなかった相手。

 事前情報があったとはいえ、かなりの手練れである彼らを容易く……あまつさえ、ほぼ無傷で捕らえてしまった。

 いったい――――


「あっ! もういいわよ……カレン」


「……ん」


 シェリルにそう声を掛けられ、カレンは乱れた髪を手櫛で整えながらゆっくりと起き上がる。

 既に、シェリルとカレンは、アスクレピオスの力により完全に回復していた。

 シェリルがふらついていたのも、カレンが気を失っていたのも、全て演技である。

 そうして、顔を見合わせた2人は、互いに同じことを考えていることに気付いた。


「凄いわね……」


「……ああ」


 "自分達とロードに、いったいどれほどの差があるのだろう"。

 2人は地面に座ったまま、同い年の英雄を静かに見上げていた。


「レヴィ! そいつもこっちに! グレイプニルでまとめて縛ろう!」


「はい! ただいま!」


 冥界の兜を手帳に収めながら、ロードがレヴィにそう指示を出す。

 その時、シェリルがあることに気付いた。


「あ、あの……ロードさん?」


「ん?」


「なんで目を……?」


 そう、ロードは終始目を閉じていたのだ。

 それは無論――――


「ああ、それはこの剣《つるぎ》……オートクレールの力だよ。この剣を握ると、一時的に視力を失う代わりに、全てを感じられるようになるんだ。だから、霧の中でも相手を見失わずに済んだ」


「じゃ、じゃあ……今も見えてるんですか?」


「見えてはないよ。ただ、2人が座ったまま、俺を見上げているのは分かる」


「はぁー……さっきの兜といいそれといい……いいもん持ってんなぁ」


「……俺は、運がよかったんだと思う。まぁ、世間一般的には、"無能"だった時点でそうじゃないのかもしれないけど、全てを諦めた後に、この力と、ある人から託された想い、それと……意味を貰えたから」


「意味……?」


「うん。生きる意味」


 薄暗い路地裏を、気持ちのいい風が通り抜けていく。

 2人はやはり見上げたまま、ロードの次の言葉を待った。


「俺達は……この世界においては非常識な存在だった。足を出せば歩けるように、見上げた空が青いように、美味しいものを食べれば笑顔になるように……そんな当たり前のことと、同じように存在する魔法が使えなかったから。"無能"になった時点で世界は閉ざされ、どんなに踠いても前には進めない。それが、この世界の"常識"だ。けど、実際は違った。俺達は、最初から魔法を持っていたんだ。知らなかっただけで。そして、それをよしとする何者かがいる。"無能"と呼ばれた人達が、苦しむことをよしとする何者かが……俺は一度死を選んだ。でも、その先で出逢った2人のおかげで、俺はまた……歩くことが出来た。そして、今はこう思う。あの時、俺が死ななかったのは……いつかその何者かを倒し、"無能"と呼ばれる人がいない世界にする為だって」


「"無能"と呼ばれる人が……いない世界……」


「そいつはぁ……いいねぇ」


 2人は、自分の過去を思い出していた。

 どうしようもないくらいに理不尽で、どうしようもないくらいに凄惨だったその日々を。

 だからこそ、ロードの言葉が胸に沁みた。

 "そうなってほしい"、"そうなるべきだ"……と。


「きっと……今も苦しんでいる人がいる。俺や、君達2人がそうだったように。それに、今はそれだけじゃない。世界がよくない方向に進んでいるんだ。俺達はそれを知ってしまった……だから、止めなくちゃならない。まずはこの国からだ。ティアとアスナは勿論、この国を……」


 ロードはオートクレールを手帳に収め、2人に向けて両手を差し出す。

 そして、その瞼をゆっくりと開け――――


「救おう……みんなで」


 笑顔で、彼はそう言った。

 シェリルとカレンは、差し出された手を無言で掴み立ち上がる。

 そして、力強く頷いたのだった。



 ―――――――――――――――――――――



「ん……お……?」


 目覚めたリドリーは、まだ霞みがかった意識のままに辺りを見回す。

 薄暗い部屋。

 ぼんやりと光る、机に置かれた一つのランプ。

 それに照らされた、冷たい印象を受ける石レンガの壁と床。


「ぐッ!?」


 ここがどこで、どうしてこんな場所にいるのかを理解出来ぬまま、咄嗟に動こうとした彼であったが、その身体は縄で椅子に固定されていた。

 戸惑いつつも、彼は右手で左の腕を掴み、転移を試みたが――――


「ま、魔法が……!」


「よう……お目覚めかい?」


「ッ!?」


 その時、暗闇から1人の男が現れ、彼へ向けてゆっくりと近付いていく。


「え、お、おまッ……お前はッ……!」


 リドリーは彼を知っていた。

 いや、むしろ知らない者の方が少ないだろう。

 その世界に生きる者ならば……尚更。


「バ、バーン……アルティメイト……!」


「フルネームでどうも。どうやら、お互いに自己紹介は必要ないみたいだな……リドリー=バルシース」


「ッ! な、な、なんでお前がッ……お、俺になんの……はッ!? ジグドラ……ジグドラはどうした!?」


「……まぁ落ち着けって。俺はなリドリー……ちょっとあんたに聞きたいことがあるだけなんだ。正直に答えてくれれば、お互いに面倒がなくなるんだが……どうかな?」


 リドリーの思考が、段々と現実に追いついていく。

 思い出してきたのだ。

 ここで目覚める前のことを。


「……そ、そうか……あれは、お前だった訳だ……」


「いや、お前をぶちのめしたのは俺じゃあない。あれは俺の仲間だよ。今そいつは、別室でジグドラを……な?」


「うぅッ……!」


 大粒の汗が、彼の頬を幾度も伝う。

 それは、彼が全てを理解したという証だった。


「状況は理解してもらえたようだな。じゃ、そろそろ聞かせてもらうぜ? まずはそうだな……」


 バーンは両手を膝につき、震える彼の顔面へと顔を近付ける。

 そして――――


「あんたの……雇い主の話からにしようか」


 そう言って、ニヤリと笑った。


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