第384話:席
「おはようございます!」
「はいおはよう! 朝から元気ねぇ」
「取り柄ですから!」
今は朝の10時。
ギルド内は既に多くの人で溢れ、昨日の夜とは違い、少し騒がしいくらいになっていた。
けど、ざっと見た感じ……あまりレベルは高くない。
中堅クラスがちらほらいるくらいで、あとは駆け出しと都落ちってところだろう。
「いいわねぇティアちゃんのキャラ……私好きよ」
「ありがとうございます!」
「ふふっ! ところで、よく眠れた?」
「はい! おかげ様で! で、あの、早速依頼を受けたいんですけど……」
「分かったわ。えーっと……確か2人はBランクだったわね。あ、でもカレンちゃんとシェリルちゃんは冒険者じゃないのよね?」
「あ、はい……やっぱりまずいですか?」
「一応……冒険者の補助として、一般人が同行することはなくはないわ。ただ、そういうのは私達の知らないところで行われていることで、知ってしまった以上、それを見て見ぬ振りは出来ないかな。やっぱり危ない仕事だし」
まぁ、そうでしょうね。
要は、どうなっても責任を取れないってことだろう。
つまり、自分で責任を取ることを明確にするしかない。
となると……。
「なら、今冒険者になれは問題ないですか?」
「え? まぁ、そうねぇ……じゃあ登録しちゃう?」
「お願いします」
「シェリル……いいの?」
「ええ。一緒に行動する為に必要だし、いずれそうするつもりだったから」
本来なら、あまり名前を出すべきではないのだろう。
ただ、シェリルという名前は珍しいものでもないし、既にムムの千里眼からは抜け出せている。
これから先のことを考えると、慎重に動くことに越したことはないのだろうけれど、あまり神経質になり過ぎるのもよくない。
「ん、それじゃこれに記入して」
「ほら、カレンもよ」
「あいあい。名前書きゃいいんか?」
「名前と年齢、それから名乗る職業ね」
「職業? ああ、運び屋とか回収屋とか?」
なんでまた微妙にアウトローよりなものを……。
「ま、まぁなんでもいいけど……あんまりふざけ過ぎないようにね?」
「わぁってるよ。任せろ。さーて、なんにするかねぇ……やっぱつえー感じのがいいよなぁ」
……不安しかないわね。
―――――――――――――――――――――
シュメール冒険者ギルドの1階には、依頼を受注、または申請する為のカウンターがあり、それ以外のスペースには、丸机と椅子が所狭しと並べられていた。
冒険者達はそのスペースを、これから受ける依頼の相談や、受けた依頼の作戦会議、または出発前の腹ごしらえ、更には依頼達成後の打ち上げなど、様々な用途で活用している。
シェリルとカレンが受付で登録作業をしている間も、その後ろでは、そういった冒険者達の日常風景が流れていた。
そんな中――――
「……みない顔だな」
「ああ……みない顔だ」
ギルドの隅にいた2人の男の視線が、彼女達4人へと向けられていた。
2人が身につけている鎧には多くの傷があり、数多の経験を踏んだ冒険者だということを一目で分からせる。
「なんか書いてるな」
「ああ、書いてる。ありゃ……登録書だな。で、他の2人はBランクらしい。ちらっとギルドカードが見えた」
「ほー……Bランク2人に新人さん2人か。しっかし、お前は本当に目がいいな」
「まぁな。物心がついた頃から、100メートル先のアリンコも数えられたぜ?」
当然彼は知らないが、それは生まれつき持っていたスキル。
名は"鷹の目"。
レヴィが"視"ない限り、彼がそれを知ることは一生ない。
「そりゃすげぇ」
「で? そっちはどうなんだよ?」
「今見てるが……ありゃ本当に新人か? つか、Bランクの方も相当だぞ。特に、短い茶髪と長い赤髪の2人がやべぇ。魔力だけなら中堅以上……ははっ! 俺らも超えてやがるわ」
彼のスキルは"魔力測量"。
対象を凝視することで、おおまかな魔力量を測ることが出来る力である。
因みに、アスナはブロンド、ティアが茶髪、シェリルが赤でカレンは黒髪。
つまり、彼が指しているのは……ティアとシェリルのことである。
「マジか? こりゃ久々の大物だな……」
「ああ……どうする?」
もう一方の男からの問いに、もう1人の男は、顎に生えた髭をさすりながら思案する。
相手は女。
しかもルーキー。
だが、向こうが4人であるのに対し、自分達は2人。
加えて、魔力量からして只者ではない。
能力も不明。
万全を期すなら、避けた方がいいかもしれない。
とはいえ、ここで簡単に諦めるには、あまりにも惜しい獲物であるのもまた事実。
「……とりあえず後をつけよう。まずは奴らの魔法を見る。あとはタイミングだな」
「オーケー……まぁ、俺とお前のコンボなら、大抵の奴は上手く捌けるんだがな……ただ、今回はマジで気を引き締めねぇとやばい。女だからって油断してたら、下手すりゃこっちがやられちまうぞ」
「お前がそれだけ言うってことは……マジだな」
「ああ。今日1日でどうこうするのは避けた方がいいかもな。奴らは階段を降りてきた。つまり、ここに泊まってたんだ。ミュンのやつとも親しそうだし、まず間違いねぇだろう。んで、今登録してるってこたぁ、恐らく町に着いたのは昨日の夜……まぁ、いつまでもここに泊まっちゃいねぇだろうから、やるなら奴らが別の宿に移動してからかね。で、また依頼を受けたらそん時に……どうだ?」
「ふむ……だが、あまり余裕ぶっこいちまうのもまずいぜ? いついなくなるか分からねぇし」
「そこがな……まぁ最悪の場合、奴らが町を出た瞬間を狙うしかない。街道を通られたら終わりだが」
町と町を結ぶ街道には、常にそれなりの人間が行き交っている。
そこを外れない限り、いかにプロである彼らとはいえ、おいそれと手を出すことは出来ない。
「大抵町を離れるのは朝か昼……明るい時間じゃ、流石に手は出せねぇ」
「そういうこった。まぁ、チャンスがありゃ今日やっちまおう。このままだと……俺らが処分されちまう可能性だってある」
真顔で、そして一段と低い声で、顎髭が生えた男がそう呟く。
そう……彼らもまた、決して安全な場所にいる訳ではない。
彼らを雇っているのは、頂点に立つあの男からすれば、下の下のそのまた下。
彼らはなんの為に人を攫っているかも分かなければ、それが誰の指示かも全く知らない。
というより、それを下手に知ろうとすれば、消えるのは自分達の方であると理解しているのだ。
だから探らない。興味も持たない。
むしろ、これだけ闇が深い仕事である以上、いつ口を封じられてもおかしくはないのだ。
利用価値がなくなれば、その瞬間に死が待っている。
それでも、彼は金の為に命を懸けていた。
「……だな。多少のリスクはつきものだ。ま、こんな生き方してる以上、そうなっても仕方ねぇやな」
「まぁな……おっ? 移動するぜ。依頼に向かうみたいだな」
「じゃ……俺らも行くか」
「ああ」
そうして、彼らは同時に席を立った。




