↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

391/563

第383話:準優勝

 

「す、すいませーん……あのー……」


「あら? いらっしゃい……って、ふふっ! どうしたの? 顔だけ覗かせて」


「あ、いやっ……もう終わっちゃったかなって……」


「ああ、そういうこと……大丈夫よ。どうぞ入って」


「あ、ありがとうございます! 入っていいって!」


 笑顔で振り返ったティアの元気な声が、暗い町の中に響く。

 どうやら間に合ったようね。


「お邪魔しまーす!」


「失礼しまーす」


「あらあら……これはまた可愛い冒険者さん達ねぇ」


 私達が中に入ると、受付に立っていた女の人がそう言ってニコッと笑う。

 綺麗な人だ。

 歳は……二十代前半くらいかしら。


「すいませんこんな遅くに……」


「大丈夫大丈夫。といっても、依頼の受注は終わっちゃってるけど」


「あ、違うんです。実は……」


 アスナが受付嬢さんと話している間に、ギルド中を見回すと、少し離れた席に男の人が1人で座っているのが見えた。

 赤と黒を基調とした鎧にマントを身につけたその人は、手にしたグラスを傾けながら、こちらを向かずにじっと机を見つめている。

 それにしてもあの人……。


「……おいシェリル」


「ええ……凄いわね」


 どうやらカレンも気付いたらしい。

 あの人……相当な使い手だ。

 ティタノマキアの人達と一緒にいたから分かるけど、漂う魔力や雰囲気が常人のそれじゃない。

 あの人達の中にいても全く遜色ないレベル……こちらを直接見てはいないけど、間違いなく私達を警戒してる。

 女で、しかもまだ若い私達に対し、全く油断していない……いったい何者かしら?


「という訳なんですけど……」


「うん、いいわよ。ちょうど4人部屋が空いてるし、そういうことなら泊まっていきなさい。冒険者じゃない子は……まぁ特別ね」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ!」


「よかったぁ。助かります」


 こちらは首尾よくいったようだ。

 野宿は回避ね。


「いいからいいから。その為の冒険者ギルドだもの。困った時はお互い様よ」


 その時――――


 "ぐぅぅぅ〜"


 ティアの中にいる獣が、雄叫びを上げた。


「ひゃっ!? こ、これは違くて……!」


 何が違うのかは分からないが、ティアは耳まで真っ赤にしてお腹を抑えている。

 本当に可愛い子ね……同い年だけど。


「あっはっはっはっ! なぁにぃ? ご飯食べてないの?」


「あはは……町に着いたのが遅くて……」


「うふふ……いいわ。何か作ってあげるから、適当に座って待ってなさい」


「えっ!? そ、そんな……いいんですか!?」


「簡単なものでよければね。あなた達は?」


「じゃ、じゃあお願いします……すいません」


「あたいも頼むわ。腹ペコでどうにかなりそうだからよぉ」


「あ、私もいただきます」


 実は私もペコペコだった。

 まさに地獄に仏……いや、女神ね。


「おっけー! それじゃ……あ、バイザー!」


「……気にするな」


 彼女に名前を呼ばれた男の人は、口に含んだものを飲み込んだ後、呟くようにそう応えた。

 というかバイザーって……なんかどこかで聞いたような……。


「ん……あ、お水はまだそこに……そう、その樽。グラスはこれ使って」


「はーい!」


「それじゃ……あ、自己紹介がまだだったわね。私はシュメール冒険者ギルドで受付を担当してるミュンっていうの。よろしくね」


「よろしくお願いします! 私はティアっていいます!」


「アスナです。お世話になります」


「あたいはカレン」


「シェリルです。よろしくお願いします」


「みんな可愛い名前ねぇ。うん、覚えたわ。それじゃ、ちょっと待っててね」


 そう言い残し、彼女は奥の部屋へと消えていった。

 受付の中をちらりと見ると、綺麗に整頓された書類が積まれている。

 恐らく、もうほとんどの仕事を終え、もう少しであの男の人と帰るところだったのだろう……2人の邪魔をしてしまったようね。


「いやー! いい人でよかったね!」


「そうだね。泊めてくれるだけでもありがたいのにご飯まで……」


「うんうん! あ、そだ。あのー……」


 ティアに声を掛けられ、男の人が初めてこちらを向く。


「ごめんなさい! 私達の所為で帰るのが遅く……」


「……それがあいつの仕事だ。お前達が気に病む必要はない」


「そ、そうですか……でも! ありがとうこざいます!」


「フッ……まぁ、のんびりしていけ」


「はいっ!」


「ありがとうこざいます」


 男の人……バイザーさんは、片手を上げてそれに応えた後、再び視線を机へと向け、グラスを口に運んだ。

 どうやら悪い人じゃなさそうね。

 さて……。


「じゃあ、今のうちに明日の予定を組みましょう。とりあえず、先立つ物がなければどうしようもないし、お礼のことも兼ねて依頼を受ける……で、いいわね?」


「あ、それなんだけどさ、さっきちらっと見えたんだけど……ほらあれ」


 そう言いながら、アスナが受付の方を指差す。

 そこには、1枚のポスターが貼ってあった。


「冒険者……闘技大会?」


 ティアがそれを読み上げた直後、バイザーさんの方から"カラン"……と、氷がグラスを叩く音が聞こえてきた。

 あ、ひょっとしてバイザーさんも出るのかしら?

 だとしたら強敵ね……。


「そんなんがあるんか……って……おいこれ賞金!」


「え? あっ……い、いっせんまんごーるど!?」


「それはSランク以上の部ね。ランクによって二つに分けられてるみたい。私達が出られるのはAランク以下だね」


 それなら、仮にバイザーさんが出場するつもりでも当たらないわね。

 間違いなくSランク以上だろうし。

 ん? じゃあさっきの反応は……。


「それでも500万ゴールドか……それだけありゃ、しばらく金の心配はなくなるな」


「うん。まぁ、優勝出来なくてもある程度の賞金が出るみたいだし、私はともかくとして、ティアなら結構いいところまでいけるんじゃないかなと思って」


 確かに……ティアは今Bランクだけど、強さだけで言えばSでもおかしくはない。

 もしかしたらもしかするかも。


「はいお待た……あら、どうしたの? みんな揃ってこっち向いて……」


 その時、受付の奥から、両手に色々と抱えたミュンさんが現れた。


「あ、手伝いますっ!」


 すぐさまティアが立ち上がり、ミュンさんへと走り寄る。

 私も動こう。


「こっち持ちます」


「ん、ありがと。ごめんね遅くなって……」


「あ、いやいや! これですこれ。これを見てたんです」


「え? あ……やば。剥がすの忘れてたわ」


「「「「……え?」」」」


 それってまさか……。


「ごめーん! これ昨日終わったやつなのよ……」


「えー!?」


 ……そういうオチか。


「そ、そうだったんですか……」


「ごめんねー……あ、ひょっとして出場考えたりしてた!?」


「あはは……そんな話を今してたんです」


「あちゃー……変に気を持たせちゃったわねぇ……ん? っていうかバイザー! なんであんた言ってあげないのよ!?」


 あら……矛先が……。


「え? あ、いや……というか、お前が剥がし忘れたのがいけ――――」


「はぁ!?」


「……お、俺が悪かった」


 完全に敷かれている……。


「なんかこう……言い出しにくくてだな……」


「まったく……ほんとにごめんね!」


「い、いえいえいえ! 気にしないでください! まだ出るとか決めた訳じゃなかったんで!」


「ティアの言う通りです。あくまで選択肢の一つ……みたいな感じだったので」


「そ、そう? それならまだよかったけど……」


 ん?

 ってことは……。


「あの、因みになんですけど、バイザーさんも出たんですか?」


「あ、うん。出たわよ」


「じゃあ、ひょっとして優勝……」


「……しちゃうのかなって、私も思ってたんだけどね」


「え? じゃあ……」


「優勝したのは他の人よ。あいつは準決勝敗退」


 こ、この人が準決勝で?

 上には上がいるものね……。


「っていうか、バイザーのこと知ってたの?」


「あ、いえ……凄く強い人だっていうのは感じてたので、もしかしたらそうなのかなと」


「へー……結構分かるものなのね。あ、因みに、色々あったけど、とにかく優勝したのはブランスって人よ。知ってる?」


「ブランスって……黄金世代の?」


「そうそう。"箍無し"のブランス。シュメール出身なのよ彼」


 なるほど……それならまだ納得出来る。

 黄金世代は化け物揃いで有名だし。


「で、準優勝がロー……」


「おいミュン!」


「ッ!?」


 び、びっくりした……急にどうしたんだろう……?


「あっ……と……ほ、ほら! あいつ負けてイラついちゃってるから、闘技大会の話はもう終わりで! ごめんね! さ、ご飯にしましょ!」


 不思議そうに顔を見合わせる私達を尻目に、ミュンさんは食事の支度をし始める。

 なんだったんだろう今の。

 まるで何かを隠しているような……ん?

 うわ……なんだか凄くいい香りが……。


「はっ!? こ、この匂いは!?」


「じゃじゃーん! 今日のメインは作り置きしておいた……ビーフシチューでーす!」


「やったぁー! ビーフシチューだぁぁあ!!」


「あはは! そんなに喜んじゃう?」


「ビーフシチューはティアの大好物なんです」


「です!」


「あら! だったらちょうどよかったわね。おかわりもあるから、たーんとお食べなさい!」


「いただきまーす!」


「召し上がれー!」


 ……なんか、上手く誤魔化されたような気がするわね。

 でもまぁ……私もお腹ぺこぺこなので――――


「……いただきます」


 続きはまた明日考えましょう。

 あ……めちゃくちゃ美味しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。