第353話:入場
『皆さまッ! 大変長らくお待たせいたしましたァッ! それではこれよりッ! 午前の部……決勝トーナメントを開始いたしまァァァァァあッすッ!!』
「「「「ワァァァァァァァァァアッ!!」」」」
「……始まるね」
「はい……」
ミュンの話を聞き終え、自分達の控え室へと戻ったロードとレヴィは、大歓声に包まれる試合場を窓から眺めていた。
「ロード様……その……」
「レヴィ、今はソフィアの試合に集中しよう。バイザーさんのことは……それからだ」
聞かされたそれは、あまりにも理不尽で、救いようのない話。
無論、だからといって、バイザーの行いを無条件で肯定など出来ない。
しかし、バイザーへ対する同情の念が、少なからず彼ら2人に湧き上がっているのもまた事実であった。
「そうですね……よしっ! はりきって応援しましょう!」
「ん、そうしよう!」
『さてッ! 皆さまが既にご存知の通りッ! 決勝トーナメントに進出したのは10名ッ! よって、トーナメント表には逆シードが存在しますッ! 予めご了承くださいッ!』
「逆シードか……」
「10名ですとそうなりますね……1試合余計に戦う分、不利になることは間違いありません。どうかソフィアになりませんように……」
『それではこれより抽選にて、1回戦の組み合わせを決めてまいりますッ! あ、念の為に申し上げておきますが、最初の2試合が逆シードの1回戦となり、3試合からが2回戦となりますッ! ではオルグレン様ッ! こちらの箱から1枚ずつ2枚……あ、ちょっ……う、腕が太くて入りませんね……か、係りの方! 何か切るものをッ……切るものをくださァいッ!』
映像魔石を通じて見えるその光景に、闘技場内が笑い声に包まれる。
試行錯誤の末、ようやくオルグレンの腕が抽選箱へと入った。
「別に他の人でもよかったんじゃ……」
「確かに」
『……失礼いたしました。ではッ! まず最初に戦う両名の発表をお願いいたしますッ!』
『腕が太くてすいません。えー……決勝トーナメント1回戦第1試合、まず1人目は……ソフィア選手です』
「いっ!?」
「ああ……そんな……」
そんな2人の思いとは裏腹に、会場内は大歓声に包まれていた。
ソフィアが今大会最年少であることや、Dランクであること、また、予選での闘いぶりなどから、彼女を応援する者が増えていたのである。
『おおッとォッ! 今大会のダークホースが早速の登場ですッ! 会場内も盛り上がってまいりましたッ! さァッ! 果たして彼女の対戦相手はッ!?』
『対戦相手は……ベニー選手です』
「ッ!? い、いきなりか……」
「ソフィア……」
会場内が、再び大歓声に包まれる。
何故なら――――
『なんとォッ! ソフィア選手の対戦相手は、Aランクのベニー選手だァッ! 資料によりますと、シュメール冒険者ギルドの依頼達成ランキングにおいて、常に上位にランクインしている猛者とのことッ! 今大会においても、予選を圧倒的な強さで突破しておりますッ! まさに、優勝候補筆頭と言ってよいでしょうッ! ソフィア選手ッ! いきなり強敵とぶつかってしまったァッ!』
「……どのみちいつかは当たるんだ。逆によかったかもしれない」
「そうですね……何より、ベニー様にソフィアが勝てれば……」
バイザー派の冒険者の中でも、筆頭と呼ばれるのがこのベニーであった。
その彼を倒せば、いかにバイザーといえどもソフィアを認めざるを得ない。
「ああ……それに、まだソフィアの手の内は全部バレてない筈だ。まぁ、それはベニーさんも同じだけど……」
言うまでもないが、両者は互いの試合を観戦しており、どういった魔法なのかをある程度は知っている。
とはいえ、ソフィアがそうであるように、ベニーもまた全てを出してはいなかった。
「あとは、どれだけ相手の想像を超えられるかにかかってる。厳し戦いになるのは間違いないけど、ソフィアならきっと……」
「はい……」
『さぁオルグレン様ッ! この試合、優勝候補筆頭のベニー選手と、今大会のダークホース、ソフィア選手との戦いになりましたが、どのような展開が予想されますでしょうかッ!?』
『はい。予選を見る限り、ソフィア選手は恐らく操作魔法を、ベニー選手は風属性系統の魔法を使用していると思われます。詳しい能力は不明ですが、5大属性魔法の中において、風魔法は最も攻守のバランスが良い魔法です』
5大属性魔法とは、火、水、風、土、雷の5つを指し、全ての魔法の中で最も使用者が多く、最も基本的な魔法であるとされている。
また、基本的であるが故に派生も多く、例えば一口に風魔法といっても、全てが全て同じではなく、それこそ星の数ほどの多様さを持つ。
その為、5大属性魔法の使い手と対峙した場合、相手の魔法に出来ることと出来ないことを区別することが重要となる。
『風を操って防御壁を形成したり、風を魔力で固め、それを放つことで攻撃したりと……まぁ、これは5大属性魔法全てに言えることですが、無形であるが故に無限の可能性を秘めている、と言ったところでしょうか。その中でも、風は屋外なら必ず存在していますし、生み出さなくていい分、魔力消費が少なく済みます。何より軽い。水や土は風に比べると重いので、どうしても動きが遅くなりがちです。また、火や雷は攻撃力は抜群なんですが、その反面防御が弱い』
『なるほど……だから風魔法が一番バランスが良い、ということですか』
『そういうことになります。次に、ソフィア選手の操作魔法ですが……』
『あ、操作魔法といえば、同じSSSランクのベアトリーチェ様がお使いになられてますよね?』
『ああ……うん……そうですね……』
『オ、オルグレン様? なんだか急に顔色が……』
『あ、いや……あれが町一つ潰したことを思い出しちゃいましてね……私が尻拭いを……』
『ああ……』
『は、話を戻しましょう。あれは規格外なので忘れてください。で、ソフィア選手についてですが、この試合場での戦い自体、かなり厳しいものであることは間違いありません』
『と、言いますと?』
『操作魔法は、基本的に物質を操れるという魔法です。正確に言えば無機物……つまり、生物は不可ということですね。そうなると、今現状でソフィア選手が操れるのは、自身が身につけているものか、相手が身につけているものに限られます。仮に町や森の中であれば、他にいくらでも操れるものがありますが、ここにはそれがない』
『なるほどなるほど……確かに、それを聞く限りでは厳しいですね』
『はい。まぁ、もちろんそうでない場合もありますし、魔法の熟練具合にもよりますから、一概にどうこうとは言い切れません。ただ、一つ言えることは、予選での戦いぶりを見る限り、両名ともに有利不利を覆す力があると私は思います。ですので、間違いなく素晴らしい戦いになることでしょう』
『よく分かりましたッ! オルグレン様ありがとうございますッ! おッ!? どうやら準備が整ったようですッ! それではッ! 両選手の入場ですッ!』




