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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第327話:念

 

「ごッ……!」


 瞬間、巨体が跳ね、そして消える。


「ひぃっ!?」


 メルが思わず耳を塞ぐ程の轟音。

 人が人を打つ音としては、それはあまりにも異質過ぎた。


「がッ……ぐッ……! がはぁッ!」


 ドラグヴァンディルは二度三度と大地を跳ねた後、レヴィが作成した鎖の手間でようやく止まる。

 その左腕はどす黒く変色し、負ったダメージの深刻さを、見ていた者全てに一瞬で分からせていた。


「今……一瞬消えたよね……?」


「え、ええ……」


「あり得ないでしょあんなの……剣が刺さったまま持ち上げて……あのおっきなドラグヴァンディルが消えるくらい速く……」


「例外なのだ。ヘラクレスは」


「れ、例外?」


「先に話したであろう。武具の"格"について」


「え? う、うん……あ……」


 その時、メルは思い出す。

 トライデントの説明通りならば、武具の"格"は神との関わりが強ければ強い程に高くなるもの。

 だが、ヘラクレスは――――


「今我らが目にしている武具のヘラクレスは、大英雄ヘラクレスが作った存在だ。つまり、神は一切関わっていない。だが……」


「ヘラクレス様の強さは、他の武具様と比べても圧倒的……いかに"格"が強さに直結しないとはいえ、その観点からすれば……尋常ではないですね」


「そう……故にあれは例外なのだ。大英雄ヘラクレスは、最期まで不敗のままこの世を去ったと聞く。全ては民の想い……念だ。"大英雄は敗れない"。民から見て、神より近い場所にいたが故に、たった1人の人間は、そうして本当に神となったのだ。それが奴の真なる力」


「負けない……力……」


 全員の視線が、中央に立つヘラクレスへと向けられる。

 古の民がそうだったように、尊敬と畏怖の念を込めて。


「フ……」


 そのヘラクレスは、自身の左腕を見ながらニヤリと笑う。

 そこに継承剣の姿はなく、ざっくりと開いた傷口から、大量の血が流れ出していた。


「ぬ……ぐ……」


 地に伏せていたドラグヴァンディルが立ち上がる。

 その右手に、しっかりと己が身を掴んだまま。


「我が一撃を喰らって尚……放さぬか」


 ヘラクレスの一撃が迫る中、ドラグヴァンディルは咄嗟に身体を捻り、左腕を犠牲にして致命傷を避けていた。

 とはいえ、剣を手放していれば躱せていた可能性は高い。

 だが――――


「ふはは……け、剣がこの身を離れた時ッ……それこそが……真の敗北なりッ! たとえ肉体が砕けようとも、それだけは……それだけは魂が赦せぬのよッ!」


 故に、ドラグヴァンディルは放さなかったのだ。

 それが彼の矜持。

 放してはならない……いや、決して放せるものではない。

 その強い想いが生んだ力と、ヘラクレス全力の一撃により、継承剣は彼女の手から抜け、今尚彼の手の中で光り輝いていた。


「……見事」


「ヘラクレスよッ!」


 ドラグヴァンディルの剣《つるぎ》が、真っ直ぐにヘラクレスへと向けられる。


「主人《あるじ》に貰いしこの身体……儂にまだ動けと言っておるわッ!」


 声を出す度に、身体中に激痛が走る。

 しかし、生まれて初めて感ずるそれが、今は逆に彼を奮い立たせていた。


「……あい分かった」


 ヘラクレスもまた、右手1本で握った大英雄の棍棒をドラグヴァンディルへと向ける。

 互いに片腕は使えず、残された時間も長くはない。

 故に両者は――――


「「いざッ!」」


 全力で、ただ前へと足を出した。


「はぁぁぁぁあッ!」


「おぉぉおッ!」


 両者は走り、そのまま互いの伝説を振りかぶる。

 そうして間合いに入った刹那、両者の踏み込みが大地を揺らした。


「ひっ!?」


 再び鳴り響く轟音。

 腹の底へと叩き込まれるかのようなそれに、メルの身体が震えていた。


「えっ……み、見えなっ……!」


「凄い……あれだけ巨大な武器がほとんど……」


 両者は足を止め、その場で己が身を放ち続ける。

 それは、レヴィですら目で追うのがやっとという凄まじい攻防。

 剣《つるぎ》と棍棒がぶつかり合う音が、その衝撃とともに絶え間なく鳴り続ける。


「ぬえいりゃッ!」


「おッ……あぁぁぁあッ!」


 一見すると互角の打ち合い。

 しかし、一歩、また一歩と、ドラグヴァンディルの足が後ろへ退がっていく。

 ダメージを負っていた所為もあった。

 だが、何よりも……。


「さ、更に速く……!」


「もー全然見えないよぉっ!」


 ヘラクレスの連撃が、更に回転数を増していく。

 背中の筋肉はこれ以上ない程に隆起し、踏み込む足は、まるで踊るように大地を抉っていた。

 無論、彼女は最初から全力を出している。

 だが、大英雄ヘラクレスはそれ以上を求められた時、いつ何時も……それを軽々と超えてきた。

 だからこそ――――


「ドラグヴァンディルよッ……!」


「ぐおッ!?」


 継承剣が弾かれ、腕ごと空へと跳ね上がる。

 そうして開いた胴体への道。


「がッ……あッ……!」


 ドラグヴァンディルの身体がくの字に曲がる。

 大英雄の一撃は迷うことなく、その道の上をなぞったのだった。


「お主もまた……強敵であったッ!」


「勝負ありッ!」



 ―――――――――――――――――――――



「ドラグヴァンディル……大丈夫か?」


 地面に大の字になって寝転がるドラグヴァンディルに対し、ロードは心配そうに声を掛ける。


「なんとかな……しかし、これが痛みというものか。フッ……なかなかに堪えるものよ。それより、ヘラクレスの腕は?」


「大事ない。この程度、放っておけば勝手に治る」


「そうか……儂もしばらく休めば元に戻るだろう」


「うむ……さて、ドラグヴァンディルよ」


 ヘラクレスは右手を彼へと差し出す。


「感謝する。実によい戦《いくさ》だった」


 笑顔でそう言った彼女に、彼もまた笑顔を見せる。

 そして、身体を起こし、その手を強く握りしめた。


「……ああ。儂も滾った。また闘《や》ろう」


「フッ……望むところよ」


「……じゃ、手帳に戻すよ。2人ともまたな」


「うむ。さらばだ継承者よ。また呼んでくれ」


「次があればよいが……まぁ、なくともよいか。十分楽しめたわ。ではな所持者よ……また会おう」


 ロードは頷くと、満足気な表情を見せる2人から魔力を抜き、本来の姿へと戻した。

 そうして2人を手に、レヴィ達へ向けて歩き出す。


「お疲れ様でした。ロード様」


「うん。メル、2人を頼む」


「はいはーい。んしょっと……それにしても、またまた凄い戦いだったねぇ。闘技場がめちゃくちゃだもん」


「うーん……少し場所をずらした方がいいかもな」


「かしこまりました。ではすぐに」


「頼む。俺はその間に次を引いておくよ。さて、あと残ってるのは、デュランダルにゲイボー、それからガラドボルグとエクスカリバーだな」


「また凄いことになるんだろうねぇ……」


「ふふふ……案外あっさりと終わるやもしれんぞ?」


「えっ? な、なんで?」


「組み合わせ次第だが……相性とはそういうものだ。まぁ、やれば分かる」


 そう言って、トライデントは不敵に笑う。

 不思議そうな顔をするロードとメルだったが、この後に行われた試合によって、すぐにそれを理解することとなるのだった。


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