第307話:道筋
「なんだと!?」
「ジハードのトップが、ティタノマキアに殺されたってのか……?」
「ああ……一瞬でな。首だけが綺麗にぶっ飛んで、身体は座ったまま……ははっ……そんときゃ何が起きたのか分からなくてよぉ……俺はただただ呆然と、それを見ていることしか出来なかった」
「ぬぅ……」
「それでジハードが終わったって言った訳か」
「なるほどな……だが、大頭目が死んだとしても、それに変わる奴は他にもいるだろう? ジハードが終わったという程では……」
「それともう一つ……状況がよく分からねぇんだが、なんでお前は無事だったんだ?」
「……全部話してやるよ。あの日、何があったのかを」
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1週間前。
その日、ジハードの本部では、定期的に行われる幹部会が開催されていた。
その末席に加わったピリオドは、遠く離れた大頭目の姿に目をやりつつ、その場にいられる喜びを噛み締めていた。
それが最後の見納めになることなど、当然ながら知る由もなく。
各部署の報告は滞りなく進み、やがて議題はティタノマキアへと移る。
巷の噂通り、ジハードはティタノマキアの存在を疎ましく思っていた。
もともと比べられること自体が癪であったのだが、アルメニアがティタノマキアに滅ぼされた後は特にそれが顕著となっていたのだ。
"ジハードにはあんなこと出来ない"、"やはりティタノマキアは格が違う"……そんな言葉が、町はもとより世界に広がり、ジハードが特に変わっていないにも拘わらず、取り引き相手や敵対組織、果ては町の住民にすら舐められるという屈辱を味わった。
"このままにはしておけない"……それが、ジハードの出した結論である。
彼らはあらゆる力を使い、ティタノマキアの情報をかき集めた。
その結果、顔が割れているメンバーがいることが分かり、更にティタノマキアの潜伏先が、どうやら北にあるということを掴んだ。
他の土地ならいざ知らず、北は彼らのホームグラウンド。全ての町にそうと分からない彼らの支部がある。
顔が割れているメンバー……つまり、フェイクを発見することは、彼らにとって造作もないことであった。
それらの情報を聞き終えたジハードの大頭目は、椅子に座ったまま、静かにこう言った。
"戦争を始める"……と。
そして、それが最期の言葉となったのだった。
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「言い終えた瞬間だ……首が跳んだのは」
ピリオドは、目に薄っすらと涙を浮かべながらそう呟いた。
彼は鼻をすすった後、ゆっくりと言葉を続ける。
「その直後、首がなくなった大頭目の後ろに……黒いローブの男が立っていた」
「黒いローブ……」
ディンは、誰に言うでもなくそう呟く。
彼は聞いていた。
ロードが話したというその男の容姿を。
「いきなり湧いて出たから、多分空間転移系だと思う。で、瞬きする間にまた首が跳んだ。大頭目に近い大幹部達の首が……その護衛なんかもまとめてだから20人くらいかな……そん中には、次期大頭目と言われてた人もいたんだ」
「そういうことか……」
ピリオドが言った、"ジハードが終わった"というのが、そういう意味であったと、彼らはそこで理解する。
要するに、ジハードの上層部をごっそりまるごと消されたのだ。
引き継ぐ者がいなければ、組織というものはそこで終わる。
だからこそピリオドは、ジハードを守ろうと今まで以上に力を入れていた。
そこに現れたディンとズィード。
全く歯が立たない現実と、もうそれをどうにかする力がジハードにないと分かってしまった彼は、そこで心が折れたのだった。
「……今のジハードははりぼてだ。うっすい皮を引き伸ばすだけ引き伸ばして作ったでかい饅頭……中身のないすっからかんのな。構成員のほとんどは残ってるから、なんとかやりくり出来ちゃいるが、あんたらみたいなのが現れたら……さっきみたいに意味がねぇ。あの場には、ジハードの中でも猛者と呼ばれる人らが集まってた。それが全部殺されたんだ……五殺師も含めてな」
「五殺師もか……!」
「な、なんですかそれ?」
「ジハードの中でも最強と呼ばれる5人だ。冒険者ランクなら……SSは確実って言われてたな」
「そ、そんな人達も一瞬で……」
「よくよく思い出すと、あの人らは何かに反応してた気がする。だが、動けなかったみてぇだ。よく分かんねぇけど」
「ふむ……」
「因みに、あの人ら以外にも俺なんかじゃ足元にも及ばねぇくらいのがゴロゴロいたよ。幹部連中は化け物揃いだったからな。まぁ、タイマンであんたらに勝てる奴がいるのかと言われりゃアレだが……その全員対あんたらなら、勝負は分からねぇと思うぜ?」
「……いかに不意打ちとはいえ、そう簡単にはいかねぇだろうな」
「かもな……で、それからどうなったんだ?」
「……静かだったよ。俺もそうだが、周りの連中も現状がよく理解出来なかったんだろう。まぁ、仮に理解出来ていたとしても動けなかったかもな……なんせ残ったのは、俺みたいなジハード直下の暗殺ギルドのマスターだったり、主に金回りを管理する非武闘派幹部だったり……消された人らに比べると、戦力的には一枚も二枚も劣る。どっちみち、俺らに抵抗する術はなかった。で、呆然とする俺らに向け、奴は静かにこう言った……自分がティタノマキアのリーダーだってな」
「マ、マジかよ……!」
「リーダーが直接きたの!?」
「……なぁ、そいつの髪は何色だった?」
「え? は、灰色だったかな……」
「歳は?」
「多分20代だと……」
ピリオドが戸惑いながらそう答えると、ディンは人差し指を額に当てる。
「ロードから受けた報告通りの容姿……恐らく本物だろう」
「えっ? それって……!」
「ロードさんがティタノマキアのリーダーと会ってたってこと!?」
「あ、話してなかったか。ギリシアで会ったそうだ。話だけして帰ったらしいが……マジで堂々とした奴みてぇだな。余程自分に自信があるってことかね。あ、続けてくれ」
「あ、ああ……奴は続けてこう言った。自分達を嗅ぎまわっていることも知っていたし、敵意があることも分かっていたと……だが、それが理由じゃなく、これは"無能"を迫害した俺らの罪……だから消しにきたって……」
「やっぱり……」
先刻までいた寂れた宿の一室において、ティアが感じた違和感がこれであった。
ジハードが"無能"を迫害しているにも拘らず、手を出さないのはおかしいと考えたのだ。
だが、やはり彼らは現れた。
同胞の憎しみを背負って。
「更に奴は続けた。俺らは生かしておく……今まで通りの体裁を保てと。ただし、自分達に二度と関わるなと……そして、"無能"に手出しすることは許さない。見つけた場合は保護しろとな。約束を違えた場合、今度は全てを消す……脅しには聞こえなかった。見ちまってるしな……その力を……」
ピリオドはそう言い終えた後、静かに目を閉じる。
やり返したくても、それを行う力がない。
それどころか、組織自体が危ういのだ。
今は残された者達でなんとかやりくりしているが、それも今後どうなるか分からない。
今回の一件でそれを痛感したピリオドに、もう起き上がる力は残されていなかった。
「そういうことか……しかし、奴らはなんでジハードを完全に消さなかったんだろうな? 今まではそうだったろ?」
「さぁな……"無能"の保護だけが目的なのか、それともジハードがなくなると、何かしらの不都合があるのか……現時点じゃ分からねぇな。おい、最後にこれだけ答えろ……奴らの居場所はどこだ」
ピリオドは目を開け、じっと天井を見つめたまま答えた。
「奴らは……オトリスにいる」




