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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第273話:舐

 

 開始と同時、ゲイボーは長い足を前へと踏み出す。

 剣と槍。

 そのリーチ差は明白であり、それはそのままゲイボーが有利であることを示していた。


「うひッ! あはぁ……遠いねぇ……!」


 連続して放たれる高速の突きを剣で受けながら、クルージンは少しずつ後退していく。

 彼女の剣《つるぎ》が通常のものより大きいとはいえ、それは大剣とまでは決して言えず、そのリーチ差を埋めることは敵わない。

 ならばと、クルージンは槍を受けた直後、地を蹴って前へと出る。

 だが――――


「……ちッ」


 ゲイボーはそれを予測していたのか、クルージンが前に出た分だけ後退する。


「付き合いの悪いこって……」


「悪いが、お前の間合いに付き合うつもりはない」


「あはぁ! そう言われっとさぁ……無理にでも入りたくなるんだよねぇ!」


 剣《つるぎ》を両手に持ち、前に出ようとするクルージンだったが、直後その眼前に穂先が突きつけられる。


「ぬひッ!」


 身体をよじらせてそれを躱したものの、前に出る力は完全に殺され、開いた間合いから突きの雨が彼女に向けて再び降り注ぐ。

 無理に避けたことにより崩れた体勢。

 ゲイボーが命中を確信した刹那、クルージンの身体が歪に曲がる。


「なッ!?」


「ほら……舐めた」


 完全に脱力した彼女の肉体は、迫り来る槍を縫うようにゲイボーへと迫っていた。


「言ったろぉ? 柔らかいってさぁ!」


「ちぃッ……!」


 一瞬で懐に潜り込んだクルージンは、そのまま剣《つるぎ》を前に出す。

 喉元を狙ったその一閃。

 ゲイボーは首を曲げてギリギリでそれを避けると、突きを放つ為に伸びきった手を、手前に引きながら下へと振り下ろした。


「にひッ! ざぁんねぇん!」


 穂先は鎧の右肩に当たり、鋼を叩く音とともに火花が散る。

 その直後――――


「ぬおッ!?」


 ゲイボーの首が、彼女に引き寄せられた。


「つぅかまえたぁぁぁぁあッ!」


 それは、先に放ったクルージンの剣《つるぎ》。

 まるでフックのように折れ曲がったそれが、ゲイボーの首を後ろから掴んでいた。

 クルージンは剣《つるぎ》を引き寄せると同時に、前へと跳んでゲイボーの身体に飛びかかる。

 そうしてそのまま、彼を強く抱き締めた。


「な、何をッ!?」


「にっひっひっひっ!」


 クルージンの柔軟性は、剣《つるぎ》だけに適用されるものではなかった。

 鎧や首に腰、手足やその先端に至るまで、その全てが通常ではあり得ない方向に曲がり、ゲイボーの身体を縛り上げていく。


「く……おッ……!?」


 拘束されたゲイボーはそれを振り払おうと力を込めるが、まるで鉄の鎖に囚われたかの如く、その動きを完全に封じられてしまう。


「す、すごっ! 巻きついてるよ!? どうなってんのあれ……!」


「どうやらクルージン様の身体もまた、ご自身の能力通りに柔らかいようですね……」


「フフ……まるで蛸だな。しかも、どうやら柔らかいだけではなく、あの状態からでも身体を硬化出来るらしい。単純な腕力ならゲイボーの方が上の筈……それでも動けないということは、恐らくそういうことだろう」


 軟化と硬化。

 それがクルージンの本質であった。

 その切り替えは自由自在であり、更に剣《つるぎ》の形状を意のままに操ることも可能な彼女の攻撃は、常識を超えた動きを容易に実現する。


「あんたさぁ、うちの能力を知った時こう思ったろぉ? "なぁんだ……柔らかいだけかぁ"ってさぁ」


「ッ!」


 彼女はゲイボーを締め上げたまま、その耳元に唇を近付けてそう囁く。


「ダメダメぇ……舐めたらさぁ……にっひっひっひっ!」


 クルージンの刃が、ゆっくりと彼の首に巻きついていく。

 そのまま締め上げるもよし。

 そのまま引き裂くもよし。

 生殺与奪の権限は、今間違いなくクルージンの手にあった……筈だった。


「……確かに。俺自身にも気付けぬ甘さがあったかもしれん。だが……」


「あ?」


「今この時においては……お前が俺を舐めている」


「はぁん? 何言っ……いぎっ!?」


 直後、彼女の胸に激痛が走る。

 いきなり出現したその痛みによって余裕の笑みはかき消され、その顔は苦悶の表情へと変わっていた。


「なんで……う、うちは当たって……ねぇぞ……!」


「その柔らかい首を捻ってよく見てみるがいい。己の鎧をな」


「な……なッ!?」


 確かに、彼女の身体に槍は当たっていない。

 だが、鎧には当たっていた。


「き、傷が伸びて……!」


 クルージンの目に映ったのは、右の肩から伸びた傷が鎧を這うようにして心臓の上へと達し、そこに拳大の穴が開いている光景であった。


「なんだこ……ぐぎッ!」


「ぬんッ!」


 痛みと驚きによってクルージンの力が弱まった瞬間を、ゲイボーは逃さない。


「あ……がッ!?」


 瞬間、クルージンは弾き飛ばされ、地面を転がってうつ伏せに倒れこむ。

 それでも痛みを必死に堪え、なんとか顔を上げた彼女の眼前に……ゲイボーの槍が向けられていた。


「お前も見誤ったのだ。我が槍の力は、身につけているものにも適用される。鎧であれ盾であれ、刻まれしその"傷"は……やがてその者の心臓を抉る」


 突きつけられた槍と言葉、そしてその胸の痛み。

 彼女はそれらを受け止めると、目を閉じてニヤリと笑った。


「……あーあ。うちの負けだね……いつつ!」


「潔し。お前を赦そう……クルージン」


 そうして、彼女の身体から痛みが消えたと同時――――


「勝者、ゲイボー!」


 ロードの声が、2人の戦いに終わりを告げた。



 ―――――――――――――――――――――



「だいぶ日が傾いてきたな……レヴィ、今何時?」


 少し赤みを帯びてきた空を見上げながら、ロードはレヴィにそう声を掛ける。

 主人《あるじ》の問い掛けに、彼女は懐中時計を取り出して時間を確認した。


「午後3時を回ったところですね。どうやらこの時期、この地方は昼間の時間が短いようです」


「みたいだなぁ。んー……ギリギリいけるか? とにかく次を始めよう。いっぺんに引くね。まず1人目は……ん、ミョルニルか。で、もう1人が……お、初めての人だな。フロッティだ」


「はいはーい!」


 まず現れたのは、青白く光る雷神の槌。

 かつて雷の神が操ったというそれは、まるでその時を待ちわびているかのように、ロードの手の中で唸り声にも似た雷鳴を轟かせていた。



 ―――――――――――――――――――――



 ミョルニル 雷神の槌《つち》


 雷の神が自身の為に生み出したという伝説の槌。

 振るうだけで雷を生み出し、そして操ることを可能とする。


 単純な槌としての威力も凄まじく、神が握りし時は巨大な岩山を一撃で粉砕したという。

 雷は何かを叩けば叩く程に威力を増していき、その繰り返しの終《つい》に放たれたそれによって、巨大な湖を一撃で蒸発させたという伝承が残っている。


 ただし、使用者より小さい者にはダメージを与えられない。


 武器ランク:【SSS】

 武具ランク:【SSS】



 ―――――――――――――――――――――



 そして、続けて現れたその柄《つか》にロードの手が触れた瞬間、もう一つの伝説もまた……その針のような剣身から鋭い光を放っていた。


「これは……レイピアだったっけ?」


「はい。見た目からも分かるように、斬るのではなく、貫くことを目的とした剣《つるぎ》ですね」


「確かヒストリアのギルドマスター、イネアさんが使ってたよね。よし、それじゃあ早速……」


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