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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第270話:背後

 

 ロードはハルパーに生命を与える。

 すると、湾曲した剣《つるぎ》は宙に浮かび、白い光を放ちながら人型へと姿を変えた。


「……どうも」


 現れたのは、白い服を着た色白の青年。

 彼はか細い声でそう言うと、ブロンドの短い髪を揺らしながら、ロード達に向けてぺこりと頭を下げた。


「よろしくなハルパー」


「はい……よろしくお願いします」


 一見礼儀正しく思えるその姿。

 だが、色々な意味で希薄だと、ロードはそう感じた。

 何故なら今まで彼が会ってきた武具達からは、語らずとも溢れ出る"何か"があったから。

 それは抽象的なもので、例えば過去の英雄達を想像させる威圧感だったり、尋常ならざる魔力であったり、または魂から迸る強い想いだったりするのだが、今対面するハルパーからは、およそそういったものを感じない。

 威圧感も、魔力も、想いすらも。


「ハルパー、一つ聞いてもいいかな?」


「はい? なんでしょうか?」


「君が参加した理由って、やっぱり戦いたかったから?」


 ロードの問いに、ハルパーは小首を傾げた後、視線を上へと向ける。


「はぁ……まぁ、そうですね。後は誘われたからというのもありますけど」


「そっか……分かった」


「おっしゃあっ! やるぞハルパー!」


「はい」


「じゃ、中央へ」


 対照的な2人を引き連れ、ロードは闘技場の中央へ立つ。

 両者は数メートル離れて向かい合い、申し合わせたかのように同時に剣《つるぎ》を腰から抜いた。

 ウルフバートはやはりフラついており、本人的には真っ直ぐ構えているつもりなのだろうが、剣先が明後日の方向に向いている。

 対するハルパーは、その特殊な剣《つるぎ》をだらりと持ち、静かにウルフバートを見つめていた。


「2人ともいいな? じゃあ……始めッ!」


「いくぞぉぉぉお!」


 開始と同時に走り出すウルフバート。

 ハルパーは動かず、やはりじっと彼女を見つめ続ける。


「おりゃぁぁぁあ!」


 そうして振り下ろされた曲剣が――――


「あっ!?」


 空を切った直後だった。


「……なんで止めるんですか?」


「動くなよ……ウルフバート」


「へっ!? あ、え……い、いつの間に!?」


 ハルパーの湾曲した刃がウルフバートの首に触れる寸前、ロードの銀の手がそれを止めていた。

 何も感じなかったハルパーから漏れた……凄まじい殺気に反応して。

 本当なら魔法を解除して止めるつもりだったのだが、それよりも早く身体が勝手に動いていたのだ。

 だが、そうしなければウルフバートの首は間違いなく飛んでいただろう。


「ハルパー……一応聞くけど、止める気はあったか?」


「え? なんでですか?」


「なんでって……これはあくまで試合なんだ。殺し合いじゃない」


「よく分かりませんが、僕はこれしか知らないので。どうやったら首を狩れるのか……それだけです」


 悪意のない殺意。

 ハルパーは、ただひたすらに純粋だった。

 首を狩るというただ一点に全ては注がれ、それ以外は彼の中に存在しない。

 果たしてそれが最初からそうだったのか、それともかつての使い手によってそうなったのかは分からないが、それを感じたロードは一つ息を吐いた後に口を開く。


「そうか……危険だと判断し、この試合は両者敗退とする。2人ともいいな?」


 ウルフバートが負けたことは間違いないが、ハルパーのそれを許す訳にもいかない。

 それ故のルールである。


「あ、はい」


「い、いいから剣をどかしてくれよぉ!」


 ロードはその場で魔力を抜き、2人を剣《つるぎ》の姿へと戻した後、レヴィ達の下へと向かう。

 そうして彼は歩きながら、先程のハルパーの動きを思い返していた。


「ああいった奴もいる。あまり気にせぬことだ」


 帰ってきたロードに、クラウソラスはそう声を掛ける。


「ん、ああ……ハルパーとはまた話さなきゃだな」


「うむ。我らは使い手に似ることもあるでな。時をかければ開くやもしれん」


 ゲイボルグがそうであったように、またヘラクレスに至っては、ほとんど英雄ヘラクレスと変わらない性格をしているなど、武具達が使用者の性格に寄ることは多い。


「それにしても不思議ですね……こう言ってはなんですが、ハルパー様はそこまで……」


「うん。レヴィが感じた通り、ハルパーは速いんじゃない。どうやったら背後に回れるかを知り尽くしているんだ」


 レヴィ達の場所から見えた光景は、ウルフバートの剣をひらりと躱し、彼女の背後に回り込むハルパーの姿。

 それは決して速い動きではなかったのだが、当のウルフバートが全く気付いていないというのが解せなかて。

 だが、近くから見ていたロードは気付いていた。


「ハルパーはウルフバートをじっと見つめてた。多分あれは観察してたんだと思う。どうやれば背後に回れるのか、そしてその首を狩れるのかを探る為に。呼吸や構え、フラつきなんかもそうだけど、多分一番重要なのは……目かな」


「目……ですか?」


「うん。ウルフバートは背後に回られたことに全然気付いてなかった。そんなに速い動きじゃなかったから、いくら彼女が本調子でないとはいえさすがにおかしい。なんせ目の前にいて、しかも剣を振り下ろしてる訳だからな。だからその瞬間だけ……ウルフバートにはハルパーが見えていなかったことになる。でも、ハルパーに姿を隠すような力はない。となると、そういう技術を使っているとしか……レヴィ、目の前に立って俺を見ていてくれ」


「え? あ、はい……」


 レヴィは指示された場所に立ち、ロードをじっと見つめる。

 その直後。


「えっ……」


「見えた?」


「きゃっ!?」


 一瞬でロードが消え、更に突然背後から声を掛けられたことでレヴィが飛び上がる。


「ど、どうやったんですか……?」


「レヴィのまばたきに合わせて移動したんだ。こんなに上手くいくとは思わなかったけど」


「まばたきって……そんなことよく出来ますね……あ、ではハルパー様もこうやって?」


「多分な。俺が上手く出来たのはたまたまだし、そもそもレヴィは立ってるだけだったからね。ハルパーは今の何十倍も難しいことをやってる。斬りかかってくる相手の動きを見ながら、そのまばたきに合わせて背後に移動し、そして首へ……何百何千と繰り返した動きなんだろうな。なんとか止められたけど、本当にギリギリだった」


 ハルパーの能力を最大限に生かす為の技。

 かつての英雄が生み出したそれは、彼自身のものとなっていたのだった。


「というか……ロードはよく気付いたね」


「最初はウルフバートの死角……右眼の眼帯を利用したのかなって思ったんだけど、よく思い返すとハルパーは逆から回り込んでたんだ。多分、眼帯がフェイクの可能性も考慮してたんだと思う。だからそれしかないかなって」


「よ、よく見てるね……全然分かんなかった」


「凄い技術だよ。実戦じゃまず真似出来ない。だから、今度話す時は色々聞いてみたいな。なんで力を貸してくれたのかも含めて……色々と」


 ロードは手に持っていたハルパーへ語りかけるようにそう言うと、ウルフバートと合わせて手帳にしまう。

 そして、箱の中へと手を入れた。


「じゃ、次にいくぞ。1人目は……ジュワユーズか。会うのは初めてだな。それと……ん、きたか」


 続けて引いた2人目。

 ロードは何人かいる優勝候補の中で、この人こそ本命だと思っている武具がいた。

 その名は――――


「ガラドボルグ」


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