第263話:開眼
魂が抜けてしまったブリューナクを手帳へと戻し、ロードは再び箱の中へと手を入れていた。
その横にはレヴィが書いたトーナメント表があり、トライデントが2回戦進出を決めたことが記されている。
「ブリューナク……なんかかわいそう……」
「運もまた実力よ。今回あやつにはそれがなかった。残念ながらな」
「ご、ごめんなブリューナク……」
とはいえ、出てしまったものは仕方がない。
ロードは自身にそう言い聞かせながら、1回戦第3試合に登場する1人目の紙を引き抜いた。
「まずは……おっ、初めての人だ。オートクレール」
ロードの呼び掛けに応え、メルが持つ手帳から現れたのは、綺麗にカットされた水晶が先端に付けられた黄金の柄であった。
彼がそれを引き抜くと、剣身は透き通るように白く――――
「……えっ!? ちょ……目が見えなくっ!?」
ロードは間違いなく目を開けている。
にも拘らず、彼の視界は完全に閉ざされ、辺りが一瞬で暗闇に包まれてしまった。
慌てふためくロードに、レヴィは彼の手を取って優しく声を掛ける。
「落ち着いて下さいロード様。それはオートクレール様のお力によるものです。今ご説明を」
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オートクレール 開眼の剣
神が創りし伝説の直剣。
英雄オリヴィエが使用したことで知られる。
オートクレールの能力は、使用する際に視力を一時的に失うが、その代わりに人智を超えた第六感を得るというもの。
それは、驚異的な察知能力や空間把握能力であり、その場全ての事柄が手に取るように理解出来たという。
オリヴィエは智謀に優れた騎士であったのだが、戦いの中で視力を失い、その剣は一度折れたかに思われた。
しかし、この剣を得たことにより、オリヴィエは更なる高みへと到達する。
そうして彼は親友であるローランと共に数多の戦場を駆け抜け、その剣技と知略により再び名を馳せたのだった。
武器ランク:【SS】
能力ランク:【SS】
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「なるほど……確かに……」
レヴィの説明を受け、ロードが落ち着きを取り戻す頃には、オートクレールの能力がどういったものなのかを理解するに至っていた。
視界は暗闇に閉ざされているにも拘らず、まるで見えているかのように全てが分かる。
吹き抜ける風、漂う匂い、感じる魔力、それら全ての感覚が、欠落した視界という重要な要素を完全に補い、そしてそれを遥かに凌駕していた。
「オートクレールがあれば、何も見えない暗闇でも戦えるって訳か……凄い剣だ」
ロードは、握りし開眼の剣に生命を与える。
そうして彼の手元から離れたオートクレールは、白い輝きを放ちながら人型へと姿を変えた。
「あ、見える」
「目が見えなくなるのは私を握っている間だけよ。因みに、私自身は常に見えていないわ。まぁ、必要ないけどね」
ブロンドの短い髪をかきあげ、彼女は目を閉じたままそう言って微笑を浮かべる。
そして、身につけている白い甲冑に指を滑らせると、胸の中心で輝く水晶を優しく撫でた。
「んふ……いい感触。礼を言わせてもらうわ。ありがとうロードくん」
「ああ。よろしくなオートクレール」
「よろしくお願い致します。オートクレール様」
「こちらこそ。さ、私のお相手は誰かしら?」
「よし、じゃあ引くぞ。えーっと……お、これも初めての人だ。ドラグヴァンディル」
「おいでー」
メルが開く手帳から、今度は鉈のような形をした剣が姿を見せる。
剣身だけでロードの身長近くあるその剣は、重厚感のある鈍い鋼色をしており、今まで見てきた伝説の武具達とは少し違う印象を彼に抱かせた。
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ドラグヴァンディル 継承剣
古の刀鍛冶が生み出し、様々な英雄の手を渡り歩いたことにより伝説の武器となった剣。
ドラグヴァンディルは魔力を蓄える性質を持った特殊な鋼で作られており、今までこの剣を握った全ての者達の魔力を宿している。
また、それと同時に英雄達の魂と技をも継承しており、新たな所持者は先人達の勇姿をこの剣に垣間見るという。
武器ランク:【S】
能力ランク:【SSS】
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「あ……」
握った瞬間、その手に伝わる形容し難い重み。
継承剣は今まさに新たな所持者へと渡り、その剣身に刻まれた全てを彼へと伝えていた。
ロードはその太く無骨な柄を強く握りしめた後、その剣へと魔力を込める。
やはり鈍い鋼色の光を放ったドラグヴァンディルは、すぐさま人の身へと姿を変え、その無骨な剣がよく似合う銀髪の大男となり、何も言葉を発さずにゆっくりと跪いた。
「お初に。我が新たな継承者よ。改めて自己紹介をさせてもらおう。儂の名はドラグヴァンディル。ぬしの魂……しかと感じさせてもらった。この身を継承するに相応しい器よ。さぁ、なんなりと申されよ」
「ありがとう……ドラグヴァンディル。じゃあ、今はただ楽しんでくれ」
「……ぬははっ! あいわかった。ならば、我が力をお見せするとしよう」
闘技場の中央へと移動し、二つの伝説は静かに向かい合う。
オートクレールは自身である白い剣を片手で握り、そのままだらりと地面へ垂らすように構え、対するドラグヴァンディルはオートクレールの身長程はある剣を両手で握り、その切っ先を彼女へと向けていた。
体格差はもはや語るまでもなく、身長3メートル近いドラグヴァンディルに対し、オートクレールはその半分程度。
2人の間には、誇張なしに大人と子供程の差があった。
だが、伝説の武具にとり、体格差はあくまで強さを測る指標の一つに過ぎず、そしてそれは決して多くを占めるものではない。
それは、2人を見守るロードが誰よりも知っていた。
そうして、彼の銀の腕が空を指す。
「……始めッ!」
瞬間、大地が揺れた。
ただの踏み込みが驚愕の吐息を観覧者にもたらし、上段から斜めに振り下ろされたその鈍い鋼が、空気を切り裂いて細身の彼女へと刹那に至る。
……いや、至ったかに見えた。
「……ッ!」
オートクレールが動いたのは僅かに半歩。
未だに目は閉じられており……いや、仮に開いていたとしても、その視界にはやはり何も映らないのだが、まるで最初からそこに刃が通ることを分かっていたかの如く、喰らえば一撃で終わるであろう打ち込みを彼女は紙一重で躱していた。
即座に振り抜かれる二撃目の薙ぎ払い。
今度はそれを屈んで躱すと、彼女の刃がドラグヴァンディルの顔へと向けて一直線に突き進む。
「あら……!」
思わず漏れた声。
間違いなく当たると、そう確信していた一撃を、今度はドラグヴァンディルが薄皮一枚で躱していた。
微かに曲げられた首。
目線だけでオートクレールの刃を追い、それを見事躱したドラグヴァンディルの二の腕の筋肉が破裂しそうな程に隆起していく。
左から右へと薙ぎ払った二撃目から、左足をぐっと前に出し、左下から右上に放たれる追撃のすくい上げが、土と芝生を撒き散らしながら彼女へと――――
「ぬうッ!?」
先程の攻撃の際、オートクレールは大きく右足を踏み込み、右手一本で突きを放っていた。
そんな彼女の体勢的に考えて、避けられる筈のなかったその一振り。
だが、既にオートクレールはその場におらず、ドラグヴァンディルから見て右側の安全地帯へと移動していた。
舞い散る土埃すら全て躱し、彼女はやはり目を閉じたまま微笑を浮かべる。
「……なるほど。儂の魔力の流れを読みおったか」




