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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時

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第261話:試合開始

 

「ロード様ぁー! このくらいでよろしいですかぁー!?」


 芝生が綺麗に敷き詰められた広い庭に、レヴィの大きな声が響き渡る。


「ああ! そこでいいよレヴィ!」


 レヴィが生み出した鎖の一端を握り、俺は彼女にそう返す。

 天気は快晴。

 太陽はまだ空高くに見え、少し暑いくらいの日差しが照りつける中、俺達は武具達が戦う闘技場を作っていた。


「見えますよね?」


「うん。大きめに出してくれたから大丈夫」


 小走りに戻ってきた彼女を迎え、大きな鎖で囲まれた簡易闘技場を2人で見つめる。

 広さはニーベルグの闘技場より少し小さいくらい。

 これならヘラクレスだけが不利にはならないだろう。


「お屋敷からも離れていますし、遠慮なく戦っていただけそうですね」


「ああ。せっかくの機会だしな。こうなった以上は楽しんでもらいたいしね。よし……」


 俺は手帳に魔力を込める。

 手帳は黒い光を放ちながら宙に浮かび、すぐに小さな女の子がその光の中から姿を現した。


「ロード! レヴィ! 久しぶり!」


 金色のツインテールを上下に揺らし、メルはそう言いながら満面の笑みを浮かべる。

 服も破れてないし、元気そうでよかった。


「久しぶり。なかなか呼べなくてごめんな。メル」


「メル様、ご無沙汰致しております。それにしても……やっぱり可愛いですぅ!」


「わぁあっ!? レヴィ……ひゃっ!? く、くすぐったいよぉ!」


 メルに頬ずりするレヴィ。

 和む……じゃなかった。


「あの、そろそろいい?」


「あ、申し訳ありません! つい……」


 気持ちは分かる。


「えへへ……びっくりしたけど嬉しい!」


「メル様……可愛いですっ!」


「ひゃ!?」


 ……もういいやそのままで。


「メル、みんな聞いてるかな?」


「え、あ、うん!」


「じゃ、みんなにルールを伝えるよ」



 ――――――――――――――――――――――



 ルール


 1、勝敗はどちらかが負けを認めるか気絶した場合、あるいは決着に値する寸止めなど、審判が止めた際に決する。

 2、場外に出た場合はその時点で失格。

 3、試合時間は5分。それが過ぎた場合、両者敗北となる。

 4、準決勝からは時間無制限。

 5、危険だと判断した場合、強制的に魔法を解除する。その場合は両者敗北となる。

 6、能力の使用は1試合につき1回まで。破った者は即失格となる。


 以上



 ――――――――――――――――――――――



「……っと、こんなところかな。あ、能力が複数ある場合……例えばエクスカリバーなら、事象の巻き戻しも魔力の斬撃も全部まとめて1回だけだからね。他に質問があれば、手帳から出た時に聞いてくれ」


「ん、分かったってエクスカリバーが言って……レ、レヴィ……くすぐったいってばぁ!」


「メル様ぁ……よしよし」


「はは……じゃあ、俺が審判をやるからさ、レヴィはメルと一緒に座って見てなよ。あ、椅子を持ってくるついでにクラウソラスを呼んできてくれ。それからさっき作ったやつも頼む」


「かしこまりました。行きましょうメル様」


「うん!」


 手を繋いで屋敷へと歩いていく2人。

 なんだか幼い妹をあやすお姉さんみたいだな。

 まぁ、2人とも数千年生きてるんだけど。


「さて、それはいいとして……」


 いったい誰が優勝するんだろう。

 能力の強さで言えば、トライデントやエクスカリバー、ガラドボルクあたりが有利。

 逆に身体能力の高さで言えば、ゲイボルグやヘラクレス、ブリューナクってとこか。

 あとはまだ未知数な武具達も気になる。

 んー……相性や運もあるだろうし、全く予想がつかないな。

 まぁ、とりあえずは……。


「巻き込まれないように気をつけよ……」



 ――――――――――――――――――――――



 鎖で囲まれた簡易闘技場。

 そこから少し離れた位置に置かれた二脚の白い椅子には、片一方にクラウソラスが座り、もう片方にはメルを抱えたレヴィがそれぞれ腰掛けていた。

 その間にある少し大きめの丸テーブルの上には、紅茶が入ったカップやポット、レヴィが作ったクッキーなどが並べられている。

 そして、テーブルの中心には蓋に穴が空いた小さな木箱が置かれ、その穴の中へとロードの左手が吸い込まれていった。


「最初は誰かなぁ?」


 レヴィの膝の上からその様子を見つめていたメルからそんな声が聞こえ、ロードは半ば緊張しながら、箱に入れられた複数の紙の切れ端から一枚を選択して引き抜いた。


「1人目は……デュランダル」


 ロードは紙に書かれていた名を呼び、手帳から黒き剣《つるぎ》を引き抜く。

 すぐさま生命魔法がデュランダルへとかけられ、その場に黒い騎士が姿を現した。


「一番手か……光栄だね」


 左手を鞘に置き、やや前傾姿勢を取ったデュランダルがそう呟く。

 既に臨戦態勢に入っていると気付いたロードは、あえて彼に声はかけず、そのままもう一度箱の中へと手を入れた。


「さて、神剣デュランダルのお相手は誰かな?」


 クラウソラスの声に導かれるように、ロードは丁寧に折られた紙の切れ端をゆっくりと開く。


「デュランダルの相手は……アロンダイト」


 手帳から引き抜かれるは静寂の剣《つるぎ》。

 そうして現れたアロンダイトは、長く伸びた蒼い髪を揺らしながら一礼する。

 デュランダルもそれに応え、次の瞬間、同時に上がった両者の視線が交わった。

 無論、互いに敵意がある訳ではない。

 しかし、ひりつく空気により、互いが互いに本気であることを示していた。


「……ルールはさっき説明した通りだ。デュランダルの斬る力、アロンダイトの抵抗を消す力、どっちも使えるのは一度だけ。それ以外は普通の斬撃で戦うこと。いいね?」


 デュランダルの能力は"硬いものの切断"。

 堅牢な鎧を容易に引き裂ける代わりに、その中に隠された肉体までは断ち切れない。

 だが、その一撃は切れずとも重く、相手を打ち倒す力は十二分にある。

 対するアロンダイトの能力は"抵抗の遮断"。

 それは、重量、遠心力、空気といった抵抗を全て打ち消し、更には音も気配すらも感じさせない斬撃を放てるというもの。

 打ち合いの最中《さなか》に飛んでくる見えない斬撃は、脅威以外の何物でもない。


「了解だ。ロード殿」


「僕もだ主人《あるじ》。デュランダル……いい戦いにしよう」


「ああ。全力でいかせてもらう」


「ふふ……望むところだ」


「じゃ、2人とも少し離れて」


 10メートル程の距離を取り、両者はそこで己が身を抜いた。

 緊張感が高まる中、ロードの銀の腕が空へと掲げられ――――


「クックックッ……いよいよだな」


「どっちが勝つかなぁ?」


「さぁな。だが、いずれにせよ……魂が強い方が勝つ」


 そうして、銀の腕が振り下ろされた。


「始めッ!」


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