第253話:フェブズルング
2人を部屋に残し、俺達はブランスさんに続いて外へと出る。
まさかアプルさんがそういった英雄譚が好きだとは思わなかったな。
まぁ、喜んでもらえたならよかったけど。
「座って話そう。こっちだ」
ブランスさんに連れられ、彼女の部屋から少し離れたまた別の部屋へと入る。
そこにはとんでもなく長いテーブルが置かれており、既にビウスさんを始めとする数人の執事さんやメイドさん達が俺達を出迎えるように立っていた。
また、正面には暖炉が見え、壁には高価そうな絵画が数点掛けられている。
雰囲気から察するにどうやらここは食堂のようで、俺達はブランスさんに促されるまま、彼とテーブルを挟んだ正面に腰掛けた。
すると、ビウスさんが椅子に座ったブランスさんへすっと近付く。
「コーヒーを頼む。お前らは?」
「あ、じゃあ紅茶を」
「我々はロード様と同じものをお願いします」
「かしこまりました」
「……で、どうだった?」
ビウスさんが離れていくのを目で追いながら、ブランスさんは少し心配そうにアスクレピオスへとそう問い掛ける。
馬車の中で話したことはアスクレピオスにも伝わっており、さっき握手をした際に大体のことは分かった筈だ。
「ん~……神経自体は残っているので大丈夫かと」
「ほ、ほんとか!?」
凄い勢いで机に身を乗り出すブランスさん。
平静を装っていたみたいだけど、やっぱり心配だったんだろう。
「は、はい! えっと、私の力は回復というより修復みたいな感じでして、例えば千切れた手足でも、それが残っていればくっ付けられます。ただ、かなり時間が経っているので……めっちゃくちゃ痛いと思いますよ。あと、治すのにかなり時間が掛かるかもしれません」
「それって……どれくらいだ?」
「そうですねぇ~……もう死んだ方がマシな感じの痛みで、下手したらそれが一日中……」
それは……相当だな。
果たしてアプルさんが耐えられるかどうか……。
「そうか……」
「エクスカリバーじゃ……やっぱり無理かな?」
「う~ん……後でもう一回話してみないと分かりませんけど~……10年前に戻すっていう行為がどういった影響を及ぼすかってとこなんですよね~。ひょっとしたら身体ごと戻っちゃうって可能性もありますし、馬車の中でエクスカリバーさんも言ってたように、万全を期すなら私がやった方がいいと思います」
「そうか……」
エクスカリバーの能力である"事象の巻き戻し"は、起きたことを起きなかった時点まで戻すことが出来る。
つまり今回の場合は、"10年前の事故が起きる手前まで戻る"ということだ。
エクスカリバーはそれだけ時間が経過したものを戻したことはないらしく、神経だけが治るのか、それとも身体ごとその時点まで戻るのか……正直なところどうなるか分からないと言っていた。
だとするならば、アスクレピオスに任せた方が間違いがない……か。
「……治るならいいさ。アプルならきっと耐えられる。なんせ……この俺の妹だぜ?」
「ブランスさん……ええ、そうですね」
「じゃあ、私でいいですか~?」
「ああ……頼む」
「分かりました~! 全力を尽くしましょう! 私のことを可愛いって言ってくれましたしね!」
「ありがとよ……あ、そういやお前ら腹は減ってねぇか?」
「あ、そういえば今日はまだ何も……」
「なら食ってけよ。うちの飯はうめぇぞ。で、俺はお前らが食ってる間にアプルと話すわ」
「分かりました。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
後はアプルさん次第か。
でも、きっと大丈夫だろう。
なんせブランスさんが言ったように……"箍無し"の妹さんだもんな。
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「すご……」
とんでもなく長いテーブルが、あっという間に豪華な料理で埋め尽くされていく。
「……ごくり」
その音に、ふと隣に座るレヴィを見ると、キラキラと目を輝かせながら、身を乗り出してそれらをじっと見つめていた。
なんか可愛い。
「ふわぁ~……私~何かを食べるの初めてです~!」
「あたいもだ。なぁご主人様よぉ! もう食っていいのか!?」
「貴公ら……もう少しおしとやかには出来んのか? 伝説の武具として、そして同じ淑女として……我は恥ずかしいぞ」
「……エクスカリバーさんだって、最初食べた時泣いてたくせに」
「なっ……何故それを!?」
そういえば、イストでレヴィの料理を食べた時泣いてたなエクスカリバー。
「あたいも手帳の中から聞いてたぜ? 飯食って泣く奴に、淑女がどうとか言われたかないねぇ……」
「ぐぬぬ……!」
劣勢に追いやられる聖剣。
喧嘩が始まる前に止めないと……。
「ロード様」
「あ、はい?」
言い争いがピタッと止まる。
丁度いいタイミングでビウスさんが声を掛けてくれた。
「お食事の準備が整ったのですが、もうお一方はいかがなさいますか?」
「あ、やっぱり気付いてたんですね?」
「ええ。あの時はかろうじで……ですが。因みに、今は全く気配を感じません。素晴らしい使い手の方です」
「彼も伝説の武具なんです。今は何処かで周囲を見張っているかと」
いつ何が起こるか分からない。
それは、これまでの旅で身に染みている。
「そうでしたか。ここでも常に警戒はしておりますが、ご心配でしたら私が直接見張りに立ちましょう。せっかくのご機会ですし、その方にも是非お食事を楽しんでいただければ嬉しく思います。余計なこととは存じておりますが……」
「あ、いえいえ! ありがたいです! では、お言葉に甘えさせてもらいます」
「それはよかったです」
そう言って、ニコッと笑うビウスさん。
気遣いといい立ち振る舞いといい……いい人だなぁ。
それに、フェブズルングに気付いたビウスさんなら問題ないだろう。
「フェブズ……」
「いいんすか? もう食べても」
「のわっ!? い、いたのか!?」
既に椅子へと座り、料理をじっと見つめる赤い髪をした青年……フェブズルングがそこにいた。
着ている服は青や黄色に緑など、物凄く派手で鮮やかなのだが、彼が声を上げるまで俺を含めた全員が一切気付けなかった。
「い、いつからいたんだ?」
「さっきっす。この人にバレちゃったんで、能力レベルを上げたんすよ。ロードさんも気付かないレベルにね」
「な、なるほど」
さすがは神が悪戯に使ったという伝説の靴……。
俺の感知すら及ばない力なら、他人には決して見つからないだろう。
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フェブズルング 奇術の神靴
神が創りし伝説の靴。
かつて悪戯好きな神が愛用し、姿や気配を消したり、容姿を自由自在に変えたり出来る力を持つ。
また、垂直な壁や水の上など、空こそ飛べないが様々な場所を歩くことも可能。
ただし、使用時には一切の攻撃を行えず、敵の攻撃は全て致命の一撃となってしまう。
武具ランク:【SS】
能力ランク:【SS】
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「それでは皆様お揃いのようですので、どうぞお召し上がり下さいませ。私は周囲の警戒にあたります。何かあれば周りの者になんなりとお申し付け下さい」
「ありがとうございます。ビウスさん」
「いえいえ……それでは失礼致します」
再びニコッと笑うビウスさんを見送り、ふと目をやると……もう我慢出来ないとばかりに全員が俺を見ていた。
「……それじゃ、いただこうか」
「わ~い! う~……どれから食べようか迷っちゃいますね~!」
「ずべぇ……ぼればぼくびか! ふぁいこうだぶぇ!」
「はしたないぞゲイボルグ。食べながら喋るな」
「こ、これが"美味い"ってやつっすか! 人間はずるいっすね! でも感謝っす!」
「はは……よかったな」
「あ、これおいしい……ん、これも……」
レヴィの前から凄い勢いで料理が消えていく。
見かけによらず結構食べるんだよねレヴィは。
「ロード様ロード様。これおいしいですよ。お取りしますね」
「ん、ありがとう。レヴィもよかったな」
「ふふふ……ええ、よかったです。シュメール独自のお料理なんですかね? 初めて味わうものばかりで勉強になります。今度作ってみますね」
「ああ。楽しみにしてるよ」
そうして美味しい食事を楽しんでいると、不意に食堂の扉がゆっくりと開き、そこからブランスさんが中へと入ってきた。
「あ、ブランスさ……ん……?」
そのまま俺の正面に無言で座ると、ブランスさんはそのまま額に手を当てる。
どうも様子がおかしい。
まさか……。
「あの……」
「……このままでいいって」
「えっ?」
「アプルのやつ……足を治したくないってさ……」




