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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

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第249話:隣

 

「えーっと……これは……」


「ロード様、それは私が。というか、全部やりますので座ってて下さい」


「あ、はい」


 出発は明日の早朝に決まり、最後の復興作業をキリのいい所まで行った俺達は、城へと戻って旅の準備を始めていた。

 まぁ、全部レヴィがやってくれてるんだけど。

 それにしても、ヴァンデミオンのことといい馬車といい……フリードリッヒ様には逆に気を遣わせてしまって申し訳なかったな……。

 復興もある程度のところまではきているし、俺達の役目はここまでにした方がよさそうだ。


「ロード様、大体終わりました。あとは明日の朝に」


「ん、ありがとうレヴィ」


 アガートラムを右腕から外して手帳へと収める。

 さすがに寝る時はそうしていた。

 部屋の外に頼もしい護衛もいるしな。


「あ、もうお休みになられますか?」


 それに反応し、レヴィが俺にそう声を掛ける。


「いや、まだ……レヴィはもう眠い?」


「いえ、大丈夫ですが……どうかされました?」


「明日からの話をしようかと思って。他にもいくつか……横になりながらでいいからさ」


「分かりました。では、灯りを弱めますのでロード様は先に」


「ああ」


 ベッドの近くに置かれたランプ以外の灯りが消され、部屋が一気に薄暗くなっていく。

 やがて白い肌着姿のレヴィがベッドに入り、そのまま俺の隣へと身体を寄せた。

 俺が左手をレヴィに差し出すと、彼女はそこに頭を乗せ、そのまま俺の胸へと額を当てる。

 竜族との戦いを終えた後は、互いに何を言わずともいつしかそれが決まりになっていた。


「で、明日からどうされます?」


 胸から顔を離し、上目遣いでレヴィがそう聞いてくる。

 俺はこの顔に弱い。


「ん、ああ……まずは、ブランスさんの国に行こうかなって」


「あ、そうですね。一応調べておきました。ブランス様がいる国の名は"シュメール"……ケルトとオリンポスに挟まれた中堅国家のようです」


「聞いたことはあったけど、行ったことはないんだよな。かなり栄えてる国だってことだけは知ってる」


「ええ。首都はかなり大きな町になっています。強国二つに挟まれて苦労もしているようですが、逆にそれを利用してもいるようですね」


「ああ……ヒストリアみたいな、所謂いわゆる中継地点になってるってことか」


「ええ。ですが、規模が段違いです」


 確かに……オリンポスとケルトって、世界1位と2位だもんな。

 それに挟まれているってことは、人の出入りも半端ではないだろう。

 相当賑わっているとみてよさそうだ。


「また、中継地としての恩恵とは別に、冒険者業での恩恵も大きいようです」


「冒険者業?」


「ええ。シュメールはオリンポスとケルトの良いところを吸収し、それによって財を成した国だと言われています。例えばオリンポスのように、一流の商店を町に誘致したり、町の景観や利便性を高めたりと、自国の価値を引き上げる努力をしています。また、冒険者業に関しては、ケルトのように冒険者に必要な店……つまり、酒場、食堂、宿屋、武具屋などに対し、税率を引き下げる法律を制定しています。特に宿屋に関してはかなり税率が低いらしく、町の半分が宿屋になった……なんて話もあるくらいです」


「ま、町の半分が宿屋……そりゃ、泊まるところには困らなそうだな」


「ふふっ……ですね。また、特に珍しい点として、シュメールの冒険者ギルドに掲載されている依頼は、そのほとんどがオリンポスとケルトで出されているものであるというところです」


「ん? それって……」


「ええ。オリンポスとケルトは大国です。故に、依頼の量も尋常ではありません。シュメールはそこに目を付け、両国のギルドと連携を取り、多くの依頼を分散させてはどうかと提案した訳です。両国がそれを了承したことにより、シュメールにいればどちらかの国に行かずとも、どちらの依頼も受けられる……もちろんシュメールでしか出ていない依頼もありますから、依頼を多くこなしたい冒険者にとってはうってつけのシステムですね。また、本国で受けるよりも気楽でいい、という声も多いようです。特にオリンポスは、かなり腕の立つ者でないと冒険者で財を成すのは難しいと言われていて、新規の冒険者が委縮して外に流れている程ですから」


 なるほど。

 それもあってケルトは冒険者業で世界1位になっているのかもな。

 更にその受け皿としてシュメールがあるって感じか。


「また、特に難易度が高い依頼はシュメールに出ないようなので、各国で棲み分けが出来ているとみていいでしょう。とにかく腕に覚えがある者はオリンポスやケルト本国に行き、その次に最も間口が広いシュメールがある、というような感じだと思います。なんにせよ、冒険者にとってはよい修行の場と言えますね」


「じゃあ、今なんか特に冒険者で溢れかえってるだろうな。ギリシアはまだ冒険者を受け入れられる状態じゃないし、北はいつ戦争が起きてもおかしくない。行くところっていえば、ニーベルグかその三つくらいしかないんじゃないか?」


「そうですね……まぁ、他にもいくつか有力な中堅国家はありますが、恐らく今最も冒険者が多いのは今話した3国でしょう。北の戦乱が早く収まればよいのですが……」


「そうだな……でも、きっとバーンさんが何か掴んでいる筈だ。もうすぐ暇が出来るって言ってたし」


「ええ。バーン様なら大丈夫でしょうね。皆様も信頼しておられますし」


 そう……バーンさんが絡んでいる場所は大丈夫だろう。

 ただ、ティアとアスナもそうだが、ティタノマキアがいる北にいる可能性が高いっていうのが気になる。

 もちろん竜族と連絡を取っていたそいつがたまたま北にいただけっていうこともありえるけど……。

 あ、そういや……ヨルムンガンドが連絡を取っていたのは女の人だったって言ってたな。

 俺の記憶を封印したティタノマキアも女の人だったし、ひょっとすると同一人物なんじゃないか?

 そして、ギリシアの壁に設置されていた結界を破ったのも恐らくその人だろう。

 その人はマリアナさんを含め、その場にいた冒険者や兵士達を1人で……しかも、一瞬で倒せるだけの力を持っている。

 一筋縄じゃいかないだろうな……とにかく常に警戒しておかないと。


「あと気になるのは、やはり冥界の神……ハデスについてですね」


「ああ……というより、神という存在自体だな」


 ギリシアの復興に携わったこの1ヶ月。

 俺は武具達と会話を重ね、神について色々聞いてみていた。

 以前にも聞いたそれをトライデントとグングニルに尋ねると、やはり答えは2人とも同じで、曰く"自身を創った神の存在が感じられない"……つまり、消えたのではないかと言う。

 そんなことはあり得るのかと問うと、答えは2人とも"さぁ?"とのことだった。

 また、トライデントは"事実として消えているのだから仕方がない"とも言っていたな。


 他の武具達にも聞いてみたのだが、どうやら自身を創った神が分かる人とそうでない人がいるらしく、また、そもそも神に創られたものではない人もいて正直よく分からなかった。

 例えばヘラクレスなんかは大英雄が自分で作ったものだし、アイアンハートやケニュシュベルト達は古の鍛冶職人であるオルキュリアに作成されている。

 エポリィとかミスティルテインは神に創られているのだが、返ってきた答えは"いるような……いないような"。

 ただ、レーヴァテインとミョルニルの2人は、揃って"感じない"と言っていた。

 つまり現状は分かっているのは……。


「トライデント、グングニル、レーヴァテイン、ミョルニル……少なくとも、この4人を創った神が消えている。名前は……なんだったっけ?」


「む、ロード様にしては珍しい……あ、そういえば、カドゥケウス様の鑑定結果にだけは、女神ヘルメスと名前が載っていましたけど、それも覚えていませんでしたね」


「んー……なんか覚えられないんだよね。なんでだろう?」


「ふふ……では、もう一度。トライデント様は海の神ポセイドン、グングニル様は嵐の神オーディン、レーヴァテイン様は火の神プロメテウス、ミョルニル様は雷の神トールにそれぞれ創られているそうです」


「うーん……やっぱりどれも聞いたことないな。というか、神に名前があったことも初めて知ったくらいだし……あの後さ、俺だけが知らないのかと思っていろんな人に聞いてみたんだんだよ。でも、やっぱり誰も神のことをよく知らないんだ。俺と同じように名前どころか、いろんな神がいることすらね」


「やっぱりおかしいですね……以前は皆様知っておいででしたが……」


「因みに、以前っていつくらい?」


「少なくとも、私とクラウン様が世界から離れる前……千年前は皆様知っていたと思います」


「つまり、無能という概念が生まれる前ってことか……」


「それって……」


「うん……無関係じゃないと思う。でも、どう繋がっているかは分からない」


 魔法は神から授けられる知識。

 けど、人間はその知識を与えてくれる神の名前も……何もかもを知らない。

 なんなんだろう……神って。

 ただ、それを考えるとなんかこう……胸の辺りが妙にもやもやする。


「一度神殿に行ってみてはどうでしょう? 神に仕えているという彼らなら、ひょっとすると私達が知らないことを知っているかもしれません」


「そうだな……それもありかもしれない。ただ、行くなら本部だよな」


「ですね。上に立つ方にお聞きしないと意味がないと思います」


「つまり、オリンポスに行かなきゃ駄目ってことか……」


 神殿の本部はオリンポスにあり、そのトップである教皇も当然そこにいる。

 さすがに教皇には会えないだろうが、それに近い枢機卿など、神殿の幹部クラスに聞かないと意味が無い。何故なら聞きたいのは神殿に属している個人がどう考えているかではなく、神という存在を神殿全体がどう捉えているか、そしてどれくらいの知識があるかということだ。

 それを聞くなら、やはり上に立つ人でなければ駄目だろう。

 それにしても……。


「やることも考えることもいっぱいだ……まぁ、まずはとにかくシュメールに行くところから始めるしかないな」


「ふふっ……どうやら、やはりのんびりは出来そうに……あっ……」


 俺は左手でレヴィを抱き寄せる。


「レヴィは何かしたいことないのか?」


「え? したいこと……ですか?」


「うん。武具達もそうだけど……レヴィにだって恩返ししたいからさ」


「ロード様……」


「なんでもいいぞ。絶対叶えてみせる」


「んー……今は……特にないです」


「えっ? ないの?」


「ふふっ……ええ。だって私のしたいことは……もう叶ってますから」


第5章終。

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