第245話:復興
「いけるか? エクスカリバー」
「うーむ……我もこれだけ巨大なものを戻したことはないのう。まぁ、やってはみるが……」
「頼む」
あの戦から今日で一週間。
世界は一応の平穏を取り戻し、皆それぞれの日常を取り戻し始めていた。
あの後、俺達は一足先にアディード様の下へと行き、何があったかを全て話した。
全てを理解してくれたアディード様は、俺達に一旦ケルトへ向かうように指示を出し、その後フリードリッヒ様と共に全世界へ向けて戦が終わったことを宣言。
ケルトでオーランド様やジークさんとそれを聞いた俺達はそのまま少し休養を取り、ジークさんと一緒に村人達を送った後、再びこのギリシアへと戻ったのだった。
「し、しかしなぁ……」
「ん?」
エクスカリバーはきょろきょろと辺りを見回している。
ああ……なるほど。
「ははっ……そういうことか」
「こ、こう見られると……」
今俺達は、崩壊したギリシア城の目の前にいる。
そして、多くの人々が俺達を囲うようにしてじっとこちらを見つめていた。
みんなギリシア復興の為に駆けつけた人達で、もともとギリシアにいた人はもちろん、手助けをする為に他国から無償で来てくれた人も大勢いる。
普段はみんな各々復興作業をしているのだが、城を一瞬で直す魔法があると聞いて集まってきたらしい。
どこで漏れたんだか……。
「伝説の聖剣でも照れるんだな」
「主人は顔を隠しているから平気なのであろう!? 我だって照れることくらいあるわ!」
俺はフード付きの黒いマントを羽織り、グラウディさんがくれた予備の黒いマスクを付けていた。
まぁ、がっつり魔法も使ってるし、こんなんじゃすぐバレるかもしれないが……ないよりはマシだろう。
「エクスカリバーが顔を赤らめているのなんて初めて見たよ。なぁ、レヴィ」
「ふふっ……はい、ロード様。これはよく見ておかないといけませんね」
いつかの仕返しだ。
「む、むぅ……2人してからかうでない! えぇい! 速攻で終わらせてくれるわッ!」
まるで戦う前に言うようなセリフだな……。
「いくぞ……! "原点に帰す聖剣の導き"ッ!」
次の瞬間、聖剣が眩いばかりの輝きを放つ。
直後瓦礫が次々に浮き上がり、まるで積み木を重ねるかのように城が元の形へと戻り始めた。
「おおっ!?」
「す、すげぇ! あっという間に戻ってくぞ!?」
「マジかよ……」
周りから感嘆と驚愕の声が聞こえてくる。
確かに……何度見ても凄い。
しかも、これだけ巨大なものだと尚更だ。
「ぐぬぬッ……こ、これはしんどいな……!」
「だ、大丈夫か?」
「いけそうだがッ……魔力が全部持っていかれそうだ……!」
結構多めに魔力を入れたんだが、さすがにこれだけ大きいと厳しいか。
他の武具達にも動いてもらっているし、エクスカリバーの力は日に数度が限界かもしれない。
直す建物の優先度を決めとかないと駄目だな。
「おー……こりゃすげぇ」
「あ、ヴォルクスファング様。お疲れ様です」
「こんにちは。ヴォルクスファングさん」
ヴォルクスファングさんも無償で来てくれた人達の1人。
粉砕魔法で瓦礫を粉々にして、他の人の魔法でそれを建材へと再利用しているらしい。
また、町の中にそびえ立つ、石化したファーブニルの身体の撤去も行なってくれている。
「おう。なんかすげぇことになってるって騒いでたからよ、休憩がてら来ちまったわ」
「そうでしたか。お紅茶でよければございますが、お飲みになられます?」
「ああ、いただくとしよう」
「ロード様は?」
「うん。貰うよ」
「かしこまりました」
城が戻るのを見つめながら、俺達3人は適当な瓦礫に腰掛け、レヴィの淹れてくれた紅茶を飲む。
うん……やっぱり美味い。
「あ、ヴォルクスファングさん。そういえばヴィヴィアンさんって……」
「まだ目覚めておらぬようだ。今回は……ちと長いかもしれんな」
ヴィヴィアンさんは戦が終わった後、戦場から少し離れた位置で眠っているのが見つかった。
もう一週間経つが、まだ起きていないのか……。
「そうですか……でも、無事でよかったです」
「うむ。あ、そういや……お前宛てに手紙が来てるぞ。この光景と美味い紅茶で忘れておったわ」
ヴォルクスファングさんはポケットから何枚かの紙を取り出すと、それを俺に手渡した。
「こ、こんなに? なんでヴォルクスファングさんを通して……」
「念の為だろうな。儂を通せば、奴らにバレるリスクも減るだろう」
「なるほど……じゃ、ちょっと読ませてもらいますね」
「おう。しっかし美味いなこの紅茶は……おかわりを貰ってもよいか?」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう。むおっ!? あんな巨大な瓦礫が……!」
「わぁ……凄い光景ですね……」
そんなやり取りを聞きながら、俺は貰った手紙に目を通す。
まずは……あ、ズィードさんからだ。
"よう。とりあえずお前の存在は隠しておいたぜ。ヨルムンガンドは逃げたが、かなりのダメージを負って再起不能ってことにしといたわ。ただ評議会の連中が若干騒ぎやがってよ。ドラゴニアに行けとかぬかしやがったから軽く脅しといた。そしたら黙ったから、まぁ心配すんな。俺はもともと受けてた依頼が溜まってて力を貸せねぇが、ギリシアのことをよろしく頼むわ。んじゃ、またな"
評議会……確か、冒険者ギルドの第三者機関だったな。
各国の政府関係者や豪商、貴族、引退した元高ランク冒険者などから構成されているもので、冒険者ギルドが私利私欲の為に動かないよう監視する……ってのが役目なんだけど、何かと黒い噂がある。
高ランクの冒険者をそれこそ私利私欲の為に使ったとか、冒険者ギルドの金を横領したとか、他にもいくつかある……全部噂だけど。
それにしてもドラゴニアに行け……か。結構無茶言うんだな。
まぁ、ズィードさんが心配するなって言うなら大丈夫だろう。
次は……ディーさんとルカさんからか。
"やっほー。まずは身体を治してくれてあんがとね。おかげで助かったよん。あ、記憶が戻ってよかったね! レヴィちゃんにも笑顔が戻ったみたいだしよかったよかった。んで、俺はルカちゃんと一緒に北の方にいるからさ、なんかあったら声かけてよ。あと、ソロモンにもよろしく。んじゃ、またねー"
"ロードさん、傷を治してくださってありがとうございます。私はディーさんと一緒に北の戦を止めるべく動くことにしました。北に来るようなことがあれば連絡ください。ではまた"
ディーさんとルカさんは北に行ったのか。
確かにこっちの戦は終わったけど、北の戦乱はまだ……。
俺にも何か出来ればいいのだが、その前にやることもあるし、出しゃばっても仕方ないか。
もし声が掛かったら、その時は全力を尽くそう。
さて、次は……え? こ、これ……!
「バーンさんから……! 確か、北の戦乱の中心になっているレアに潜入してるんじゃ……」
「ん……ああ、バーンのやつからも来ておったな。どっからどう何を聞き、どうやってこれを儂に送ったかは知らぬが……あやつは通常の秤では測れない男よ。考えるだけ無駄無駄」
「そ、そうですか……」
「そういえば……ズィード様も同じようなことを仰っていましたね。心配するだけ無駄だと……」
「うむ、無駄だ。物凄く無駄だ」
……多分、みんな心配して損したことが多かったんだろうな。
と、とにかく読もう。
"久しぶりだなロード。色々あったのは知ってたんだが、手を貸してやれなくて悪かったな。ま、お前ならなんとかするだろうと思ってたよ。それでな、少し暇が出来そうだからそのうち会いに行くわ。同封してある魔石を近くに置いといてくれ。んじゃ、またその時に"
「ひ、暇って……あ、魔石……これか」
封筒の中から小さな青い魔石を取り出す。
何に使うんだろうこれ……。
会えるのは嬉しいけど、暇なんかあるのか?
「ん? あ、まだある……えっ?」
ブ、ブランスさんから?
あの人から手紙……なんか意外だな。
ええっと……。
"頼みがある。暇な時で構わないから俺の国に来てくれ。場所は地図に書いてある。よろしく"
「……なるほど。あの人らしい」
「これは依頼……ですかね」
「あやつめ……すまんなロード」
「あ、いや、全然大丈夫です。頼みか……なんだろう?」
「急いではいないようですね。恐らくギリシアが復興してから来てくれ、ということなのでしょう。とりあえず、地図は私が預かっておきます」
「ああ、頼むレヴィ。そうだな……ギリシアの復興が済んだら行こう。それ以外にもやりたいことがあるけど……まぁ、それはどこでも出来るかな」
「やりたいこと?」
「うん。武具達の望みを叶えながら、ちょっとゆっくりしようかと思って……レヴィと」




