第227話:悪魔
「ロード」
ジークの声にロードが振り返ると、その手にはトライデントとイアリス、そしてアスカロンが握られていた。
「今部屋から持ってきた。もう俺が預かる意味は消えたからな……返すぜロード」
「ありがとうございます……ジークさん。ん、あれ? アスカロンは折れていたんじゃ……」
「フッ……部屋で預かってる間にくっついてたよ。流石は伝説の武具ってとこだな。つか、早く受け取ってくれねぇかッ……こいつらお前んとこに早く帰りてぇのか知んねぇがめちゃくちゃ重てぇ!」
「あ、す、すいません!」
ロードは受け取ったトライデントとアスカロンをメルが開いた手帳にしまい、イアリスを腰に差す。
心なしか嬉しそうに輝くイアリスに、ジークはフッと笑った。
「ん、やっぱ似合うな。ところで鎧はどうすんだ?」
ジークの視線が部屋の隅へと移り、他の3人もそこにある砕けた鎧に視線を向けた。
もはや鎧としては使えなくなってしまったそれを見て、ロードはやはり寂しそうに口を開く。
「……あれは一度魔王との戦いで砕けています。ですから……もう二度と元には戻せません。帰ってきたら供養を」
「そうか……」
「じゃあその肌着のままでいくのか? なんなら代わりの鎧を……」
「いえ、鎧は後で手帳から出します。メル、ティエレンを」
「はい!」
「ん、ありがとう」
ロードはメルからティエレンを受け取ると、ジークとオーランドに深々と頭を下げる。
「記憶を失っていた時のことは全部覚えています。お2人とも……本当にありがとうござました」
「……礼なぞいらん。俺は君を友だと思っている。友の身を案ずるのは当然であろう?」
「フッ……馬鹿弟子が一丁前に気を使うんじゃねぇよ。さっさといってこい……ヨルムンガンドをぶっ飛ばしにな」
「はい……! メル、その人は向こうで。まずはギリシアを見渡せるあの山へ飛ぶ」
「分かった!」
「じゃ……行ってきます!」
ジークとオーランドが頷いた直後、ロード達は部屋から消える。
残された2人は同時に一つ息を吐き、そして互いに顔を見合わせて笑った。
「さて、俺は俺の戦いをするとしよう。ジークは?」
「俺は寝る。あいつのおかげで徹夜だからな」
「ぬははッ! そりゃ災難だったな。だが、寝れるのか?」
「フッ……心配なんざ……微塵もねぇよ」
「そうだな……ロードならばきっと……」
2人は同時に窓から空を見る。
太陽は既に頂点へと達し、天空から降り注ぐ光が世界を照らしていた。
――――――――――――――――――――――
時は、ディーがヴィーヴルを屠った頃にまで遡る。
「ぐッ……お……!」
躱し切れなかった巨大な拳が、ソロモンの身体を宙へと攫う。
吹き飛ばされた彼はそのまま建物へと叩きつけられ、壁を滑るように落下して大地に崩れ落ちた。
『……よく粘ったが、ここまでのようだな』
巨腕竜種の長ザッハークは、動かなくなったソロモンを見てニヤリと笑った後、彼に背中を向ける。
そうして巨腕の王は、ヨルムンガンドの下へと歩き出した。
「か、勝手に……終わらせんな……」
背後から聞こえたソロモンの声に、ザッハークの足が止まる。
『ふん……そのまま黙っていれば死なずにすんだものを……何が貴様をそうさせるのかは知らんが、そんなに死にたいのなら……殺してやろう』
ソロモンは持てる力の全てを使いザッハークに挑んだ。
しかし、その全てが巨拳に打ち砕かれ、能力も身体ももはや限界を超えている。
だが、それでも彼は立ち上がった。
いつも側で見てきた……彼の主人がそうであったように。
「確かにいかれてんのかもな……うちの旦那は。けどよぉ……それ以上にッ……ゲホッ……ま、眩しくてな……」
『……なんの話だ?』
「い、今まで俺を使った奴はさ……どいつもこいつも悪魔の力に溺れてよ。散々暴れ回った挙句、結局全員……最後は狂って死んじまった。俺の声なんざ届きやしねぇ……みんな最初はいい奴だったんだがな……悲しいこった」
『やれやれ……殴られ過ぎて頭が……』
「……だがな、ロードの旦那は違った」
『ぬッ……!』
消えかけていたソロモンの魔力が戻っていくのを感じ、ザッハークは再び拳を構える。
「旦那は本当に酷い扱いを受けてた。やり返す力もなく、ただただそれに耐えることしか出来ずに。で、そんな時に力を得た。魔法やスキル……そして俺なんかよりすげぇ武具を一気にな。俺なら復讐するね……散々理不尽な扱いを受けてきたんだから当然さ。だが、旦那はそうしなかった……だから惚れた」
ソロモンの身体から魔力が溢れ出す。
その輝きは――――
「旦那は誰よりも痛みを知ってる。だから傷付けない。だから分かり合おうとする。ま、少々……いや、かなり甘いがな。でもよ、そんな奴が1人ぐらいいたっていいじゃねぇか。それによって救われる奴が1人でもいるならッ……!」
まるで、ロードの魔力のように……輝いていた。
『貴様何をッ……!』
「旦那の道は間違ってねぇッ! だから俺は……俺達はッ……その道を歩む力になると誓ったッ!! この生命と魂にッッ!!」
"いいんだな? 魔神の指輪よ"
「構わねぇ……好きにしやがれアモン」
"貴様の魂が消えるやもしれんのだぞ?"
「分かってるよレラジェ」
"こちらの世界は退屈でなぁ……もう少しそちらの世界を貴様越しに見ていたかったのだが……"
「ハッ……そう思うんなら手加減してくれや……アスモデウス」
"まぁ、貴様の魂次第だな。精々耐えることだ……門よ"
「優しいじゃねぇか……それともお得意の二枚舌かい? ベリアルさんよ」
『誰と話して……!』
ソロモンは指輪を掲げる。
そうして異界の門を……こじ開けた。
『うッ!?』
直後ソロモンの背後が紫色に光り輝き、何もない空間に亀裂が走る。
空間を引き裂いて現れる無数の爪と顎。
そのどれもが禍々しく、そして歪であった。
『これ……は……!?』
ソロモンの背後に現れるは72の悪魔達。
彼らは一つの世界を終わらせた……異世界の支配者である。
「我が名はソロモンッ……! 悪魔を宿す……魔神の指輪なりッ! さぁ、二度と見られない大悪魔達の共演だ。きっとあんたも楽しめる筈だぜ? まぁ、全てを見終わる前に……あんたの命が終わるだろうがなッ!」
『……ほざけッ!』
踏み出した足が地に着く刹那、ザッハークは何かを感じて右へと飛ぶ。
しかし――――
『あぁ、そこは駄目だ』
『がッ!?』
右へと飛んだ瞬間、ザッハークの右腕が宙を舞っていた。
『ぐぁぁあッ!? 馬鹿なッ……お、お、俺の腕がッ……!』
『ベリアルよ。お前がしっかり伝えない所為で彼の右腕が千切れてしまったではないか』
そう言ってニヤけるのは断空のガープ。
彼が生み出す空間の断裂に入った者は、その形が留まることを決して許されない。
『あぁ、すまない。私から見て右であったわ。そこはガープによって空間が切断されていたのだったな。失敬失敬……クックックッ……』
そう言って笑うのは二枚舌のベリアル。
彼の言葉は対象の脳内で本人の直感へと変わり、誘導されたということを認識させない。
『何やら能力を持っていたようだが、空間の断裂の前では無意味なことよ。全ては等しく……千切れて消える』
『く、空間ッ……!?』
ザッハークの能力は"鈍化"。
それは、自分に影響を与える全ての効果を鈍らせる力だったのだが、空間そのものを切断されては意味がない。
『ん? 何やら身体が……おやおや』
『もう駄目かぁ? まだ2人しか能力を使っていないんだがなぁ……』
「うるせッ……はぁッ……はぁッ……!」
このままなら間違いなくソロモンは勝てるだろう。
しかし、彼の限界も近い。
『ぬぅぅぅらぁぁぁぁあッ!!』
右腕を失ってもザッハークは止まらない。
動きの鈍る悪魔達を無視し、ソロモン本体へと左腕を振りかざす。
「くッ……うぉぉぉおッ!」
ソロモンは最後の力を振り絞る。
そして、彼らの死闘に決着の時が迫るのと同時、巨大な魔力がギリシアの町から放たれようとしていた。
――――――――――――――――――――――
「まずいッ……おぉらあッ!」
ヴォルクスファング渾身の一撃が、大竜種の長であるファーブニルの足へと叩き込まれる。
幾度となく繰り返した攻撃により、150メートルの巨体を誇るファーブニルとて流石に痛みを感じ始めてはいた。
だが――――
「クソッ……止まらぬかぁぁぁあッ!」
既に周囲は血に染まり、粉砕された肉片が山のように積み重なっていたが、それでも骨にすら届かなかった。
もうどうやっても……ファーブニルは止まらない。
『無駄よ……もう息吹は溜め終えた。何やら散らばっておるようだが関係ない。薙ぎ払って……全てを灰塵と為すのみ』
「くッ……味方ごと殺る気かッ!」
『何をぬるいことを……全ての竜族はヨルムンガンド様の為に生き、そして死ぬと決めている。たとえ死のうが、役に立てればそれで本望。それは俺とて当然同じこと。貴様に殺されても別に構わん……これが終わればな』
「ちぃッ……!」
ファーブニルはあえて語らなかったが、竜族の大半は飛ぶことが出来る。
故に、人間達より被害は格段に少ないだろう。
『さぁ、まずはこの戦を終わらせよう……そして始めるのだ。ヨルムンガンド様が望む世界を』
今年の更新はこれで終わりとなります。
約一年間、本当にお世話になりました。
ランキング1位や書籍化など、ありがたいことばかり……。
これも全て、読んでいただいている皆様のおかげでございます。
本当にありがとうございました。
次回は元旦の朝に更新致します。
その次の更新は少しだけお休みをいただき、1月5日金曜日に投稿予定です。
年が明けましたら、また改めて活動報告でご挨拶を。
それでは皆様……よいお年をお迎えください。
そして、来年もよろしくお願い申し上げます。
ではまた。




