↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/563

第213話:違い

 

 彼女を乗せた紅蓮の不死鳥(フェニックス)は一気に空を駆け昇り、強大な魔力を放つそれへと向かって突き進む。

 そして天空に潜んでいたそれもまた、凄まじい力を持った何かが近付いてくるのを感じ、息吹《ブレス》を吐き出すことをやめて身構えた。


「……!」


『ほう……』


 やがて天空で相対した両者は、互いに距離を取ったまま睨み合う。

 既に互いの力量を察し、簡単にどうにかなる相手ではないことを同時に理解していた。


『グハハ……よもやここに辿り着ける人間がいるとはなぁ……少々驚いたぞ? エルフの小娘よ』


 翼をゆっくりと羽ばたかせながら、息吹竜種(アンドラゴラ)の長であるニーズヘッグはそう言ってニヤリと笑う。


「あら、別にこの程度のこと……わたくしにとってはいつものお散歩に過ぎませんが?」


 今彼女達がいるのは、雲よりも遥かに高い超上空。

 ドラゴンであるニーズヘッグならいざ知らず、普通の人間ならば寒さでまともに動くことすら出来ない場所である。

 だが、彼女が使役する紅蓮の不死鳥(フェニックス)は、主人《あるじ》である彼女を炎で優しく包み込み、寒さからその身を守っていた。


『ふぅむ、なかなかに興味深い力だな。その鳥からはどことなく神にも似た力を感じる……ただの人間である貴様が奴隷のように扱える存在とは到底思えぬのだが?』


 ニーズヘッグの問い掛けに、ヴィヴィアンの眉がピクリと動く。


「……あなたの質問にお答えする気はありませんが、一つだけ訂正を。この子は奴隷などではなく、わたくしの大切な家族です。そして、皆様をお守りする力でもあります。これ以上……あなたの好きにはさせませんッ!」


『グハハハハッ! 家族か! いやはや、人間とは本当に面白い生き物よ! あー……で、俺の好きにはさせないと、そう言ったなぁ? やれるものなら……やってみろッ!』


 ニーズヘッグの咆哮とともに吐き出される巨大な火球。

 それを翼で弾き飛ばし、ヴィヴィアンを乗せた紅蓮の不死鳥(フェニックス)はニーズヘッグへと飛び掛かった。


『ギォォォオッ!』


『ぬうッ!』


 そうして誰にも邪魔されない天空の世界で、強大な力と力が激突した。



 ――――――――――――――――――――――



「陛下」


 ヴィヴィアンが消えた空を見上げるアディードの下へ、バイパーが再び舞い戻る。

 アディードは視線を向けることなく、前を向いて腕を組んだままそれに応えた。


「……ご苦労バイパー。やれやれ……やはり勘が鈍っておるわ。オリンポス軍には悪いことをしたのう」


 彼女の特技は"戦場の先見"。

 それは戦いの場において、普通の人間ではまず気付けない程の些細な違和感を感じ取るという、所謂《いわゆる》第六感的な力である。

 それにより彼女は数多の戦で勝利を掴み、ニーベルグの"戦神"と謳われるまでに至った。

 とはいえ、アディードが模擬戦ではない実戦の場に出るのは数十年ぶりのことであり、そのブランクが彼女のそれを若干鈍らせてしまう。

 ニーズヘッグの存在に気付いた時には既に遅く、二撃目はなんとか防げたものの、結果として多くのオリンポス兵を失ってしまった。


「ふぅ……」


 アディードは一つ息を吐いた後、再び戦場へと視線を向ける。

 戦局は序盤から中盤へと移り、少しずつ竜族の主力が戦場へと現れ始めていた。

 対する人間達もニーベルグ、オリンポス、ケルトの軍が揃ったことで、互いに溜めていた力を出し合う総力戦の様相を呈していく。

 ニーズヘッグの一撃以外は、ここまで全て彼女の筋書き通りに進んでいた。


「おっといかん……悔やむのは後じゃ。ヴィヴィアンを取られたのはちと痛いが、まぁ仕方あるまい。ブランスは?」


「既に所定の位置に。ギリシア連合軍、及びアースヘイムとウッドガルド軍もその時を待っています」


「結構。突入隊は?」


「"結界"付近で潜伏中です。作戦通り、あちらは突入のタイミングを独自に判断するとのこと」


「それでよい。その6名を出来る限り無傷でヨルムンガンドまで運びたいところだが……意外と奴ら我慢強いのぅ」


 ヨルムンガンド討伐隊はヴォルクスファングを筆頭に、ズィード、ディー、ルカ、そしてレヴィとソロモンに決まった。

 本来ならここにヴィヴィアンがいた筈なのだが、ニーズヘッグを抑えられるのが彼女しかいない以上仕方がない。


「あのデカブツは放置するとして、残るは翼爪竜種(ワイバーン)の長ヴィーヴル、巨腕竜種(ヴァルビード)の長ザッハーク、多頭竜種(ヒュドラ)の長ミドガルズオルムか……ここまでで出てこないとなると、もう動かないとみた方がよいやもしれんな」


「恐らくは」


「ふん……あの結界がある以上、迂闊に入れば外から狙い撃ちじゃからのう。まったく……面倒な能力じゃ」


 現在ギリシアにはある結界が張られている。

 それは、町の中央に陣取った150メートルを超える大竜種(グランドドラゴン)の長、ファーブニルの能力によるものであった。

 レヴィの"鑑定魔法"により判明したその力は"封鎖"。

 ファーブニルを中心に町を覆うように張られたその結界は、彼が許可したもの以外は出入り出来ないというもので、バイパーのような空間を移動する力でも侵入出来ない。


「破ること自体はヴォルクスファングの力を持ってすれば可能……だが、そうしたところですぐにまた同じ結界を張られてしまう。結界を破って軍を町の中へ飛ばせば、奴らは結界の外から息吹《ブレス》の雨を降らせる腹づもりじゃろうて」


 だからこその少数精鋭。

 竜族の大半を外にいる軍で引きつけ、あわよくば各種族の長も引きずり出すつもりであった。


「ヨルムンガンドはこちらの考えを分かっておる。ヴォルクスファングの力は奴も知っておるからな。ニーズヘッグ以外の長が出てこないのが奴の命令によるものかどうかは分からぬが、だったらそれを超える策であたればよいだけの話……なのだがな」


 現在竜族は総数3千から2千まで数を減らし、町の外にいる竜族は目算でおよそ1千5百。

 対する人間達はオリンポスが残り約2万、ケルトとニーベルグがそれぞれ約8千程。

 それに加え、まだ動いていないギリシア連合5千、アースヘイム、ウッドガルド軍合わせて1万も控えている。

 残っている竜族が主力であることを差し引いても戦力的には問題ない筈なのだが、アディードの第六感が彼女に告げていた。


「何かある……嫌な感じだ」


 戦場に漂う不穏な空気。

 アディードはそれを感じていた。


「…………あり得るな。バイパー、すぐにギリシア連合の下へいけ。フリードリッヒに今から言うことを伝えるのじゃ。ザイルには妾《わらわ》から伝えておく」


「は……!」


「これを間違えると……やれやれ、攻守において厄介な奴じゃわい」



 ――――――――――――――――――――――



「フレイア様!」


「わぁってるッ! ったく……さっきまでとはえれぇ違うじゃねぇかこの野郎ッ……!」


 フレイアがそう言ってしまうのも無理はない。

 先程まではその突撃により、何十匹もの翼爪竜種(ワイバーン)や息吹竜種(アンドラゴラ)を事も無げに駆逐してきた彼らだったが、新たに現れたドラゴン達はそれを躱し、防ぎ、強力な息吹《ブレス》で反撃すらしてくる。

 突撃の戦果は挙げられず、むしろそれをする度に騎兵騎士団の兵達がどんどんと削られていた。


「だが、やめる訳にはいかねぇッ! 俺らが踏ん張らなきゃ地上が終わっちまうッ……! おめぇらッ! 死ぬ気でついてこいやッ!!」


「「「「応ッ!!」」」」


 団員を鼓舞するフレイアの視界の端に、巨大な5つの影が映り込む。

 横一線に並んでゆっくりと進軍する大竜種(グランドドラゴン)。

 彼らは鳴き声を上げるでも、息吹《ブレス》で攻撃するでもなく、ただただ静かに前へと進む。

 それが、とにかく不気味だった。


「……あれが何しようとしてんのかは分からねぇ。分からねぇが………とにかく嫌な感じだッ……!」


 実際、それが気になってしまっている時点で、既に竜族の思惑の中にいるのかもしれないと彼は感じていた。

 だが、フレイア達がそれを相手にしている暇はない。

 彼らは彼らで翼爪竜種(ワイバーン)や息吹竜種(アンドラゴラ)を引きつけるという役目がある。

 それを放棄する訳にはいかない。

 そして地上でもまた、大竜種(グランドドラゴン)の存在が戦局に影響を与えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。