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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第5章:それぞれの戦場で
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第170話:振動

 

「そうか……なら、私と同じだな」


「……ジル様もですか?」


「その、私は明確に言われた訳ではないが……は、初めて意識したというか……気付いたというべきか……しかもグラウディの奴、あの後何も言ってこないのだ。だからちょっと……不安でな」


 私と同じだ。

 ロード様の気持ちは分かっている……つもり。

 私の気持ちもロード様は分かってくれていると思う……。

 でも、時々不安になる。

 私だけがそう思っているんじゃないかって。

 もちろん、そんなことにかまけている場合じゃないのは分かっている。

 ただ、いつも側にいるからこそ……その想いは強くなっていた。

 だから余計に微妙な距離感を感じてしまう。

 あんまり考えないようにはしているけど、私には魅力がないのかなとか、どうすればもっと振り向いてくれるかなとか、不意に……特に夜はそう考えてしまうことが……。


「ふぅん……あんたら意外と乙女なのね」


「「う……」」


「恋心ですか……私達にはない感情ですね」


「え? お2人にはないんですか?」


「んー……考えたこともないわね。あ、もちろんそれがどんな感じなのかは分かるわよ」


「私もバルムンクと同じです。何故なら……まず大前提として、我々は武器ですから。所持者に対し、いかにお役に立てるのかが重要なのです。なので、恋人というよりは戦友みたいなものでしょう。まぁ、中にはそういった感情を持つ者もいるかもしれませんが」


「じゃあ、他の武具を好きになるとかはないのか?」


「ないわねぇ……あ、恋愛感情じゃなく、知り合いとして好き嫌いはあるわよ? だってさー……こうして身体をもらうまでみんな武具の形で接してたし、そもそも何百年何千年と一緒にいるしねぇ。今更どうこうならないでしょ」


「なるほどな……ではロードはどうなんだ?」


「ん、んー……まぁ、かっこいいとは……思う。そういう感情は正直あるわね。ただ、だからといって好きとか嫌いとかはまた別の話よ。それに、ロードはレヴィのだし」


「ちょ……!」


「そうですね。ロード様はレヴィ様のものですから」


「いや……あのっ……!」


「いや、そこは認めなさいよ……」


「うぅっ……」


 そ、そう言われても……恥ずかしい……。


「もっと積極的にやっちゃえば? じゃないとトライデント辺りにとられちゃうわよ? あいつはまんざらでもなさそうだし」


「あー確かに。レヴィ様はいいのですか? ロード様を誰かにとられてしまっても?」


「そ、それは……」


 アスナとティアなら……いやでも……うぅ……。


「…………嫌です」


「ならやっちゃえ」


「バ、バルムンク様っ!」


 そんな簡単なものでは……!


「ジルもそうだけどさぁ……もっと自信持ったら? あんた達綺麗なんだし。それともなに? 女から迫っちゃいけないっていう決まりでもあんの?」


「「うぅっ……」」


「ま、この場合男達が情けないってのもあるわねー。私だったら毎晩揉みしだく自信がある」


「同意」


「て、手をわきわきしないでくださいっ!」


 でも、確かに……。

 いや、自分に自信があるわけじゃないけど、もっと積極的に……いってみようかな。



 ――――――――――――――――――――――



「あの……スパルタクスさん……」


「なぁに? ロードちゃん?」


「自分で歩くんで……降ろしてください」


 軍議が終わった後、俺はスパルタクスさんに攫わ……連れられ、テーベさんとニアさんも一緒に何処かへと向かっていた。

 因みに俺は今……スパルタクスさんの肩に乗っている。


「嫌よ」


「なんっ……!?」


「悪いなロード。スパルタクスはそんな感じだ」


「テ、テーベさん……」


「ふふっ……安心して? 私はバイよ」


 …………いや全然安心出来ませんけど!?


「ウェッヘッヘッ……まぁとって食う訳じゃないですからー」


 ニアさん……可愛い顔して笑い方が……しかも男なんだよな……?


「んもう……ニアちゃんも顔は可愛いのだけれど……笑い方がキショいのよね。超減点」


 は、はっきり言うな……。


「すんませんねぇキショくて。おかげで食われずに済んでますよ……ウェッヘッヘッ」


 ……やっぱり俺食われかけているんじゃないか?


「直に着く。なぁに……大したことはせんよ」


「は、はい……」


 そうして不安な気持ちに苛まれたまま担がれること数分、俺は城の外へと連れ出された。

 そのまま隣にある建物へと入り、そこでようやく俺は地面へと降ろされる。

 ここは……。


「訓練所……ですか?」


 建物は楕円形になっており、中央の広場には土が敷かれている。

 かなり広く、その周りには広場を囲うように座席まで設置されていた。

 広場には訓練に使うのだろう、木で作られた人形や中型の魔物を模したものが置かれている。


「まぁそんなところね。私達は練兵闘技場と呼んでいるわ。因みに……この時間は私達以外誰もいないから安心して」


 いや、だから安心出来ません。

 というかここで何を……。


「こっちに来てくれロード」


「あ、はい」


 テーベさんに言われるがまま、俺は闘技場の中へと入る。

 地面は土だがかなり固い。

 相当ここで訓練が行われているのだろう。


「さて、ここに来たのは他でもない。ロードの力を見せて欲しいのだ。なんせ、君の強さを知っているのはジルだけだからな」


「あ、そういうことですか」


「ロードさん本当に食べられると思ってました?」


 ……若干。


「んもうっ! あたしそこまで節操ない訳じゃないからねっ!?」


「はは……すいません」


 ……あなたの筋肉の隆起が怖いです。


「その辺にしておけ。まぁ後は、君も我らの力を知っておいた方がよいだろう? 奴らはいつ来るか分からんからな。早いに越したことはない」


「……分かりました。生命魔法は使えませんが、今出せる全力を出します」


「うむ……では、私からいこう」



 ――――――――――――――――――――――



 あぁ……やっぱりいいわねぇロードちゃん……。

 さっきと顔つきが全然違う。

 戦いに生きる男ってカンジ……うふふ。

 おっといけないいけない……ちゃあんと見ないとね。

 ……彼の強さを。


「勝負に決まりはない。どちらかが降参するまで行う」


「……分かりました」


 あら、テーベったら……最初から剣を2本抜くなんて珍しいわね。

 でも確かに……ロードちゃんから溢れてる魔力、それに醸し出している雰囲気は……強者のそれ。

 佇まいからして只者じゃない。


「エッケザックス……!」


「へぇ……」


 手帳から剣を……。

 エッケザックスといえば伝説のつるぎ……なるほど、あの手帳にそれらが入っているってことね。

 それを自由に呼び出し扱える……さらに生命を与えて味方を増やせる訳か。

 あぁん……頼もしいわねぇ……。


「スパねぇ……顔がキモいよ?」


「……やかましい。こっち見んな」


「おー怖……」


 んもう!

 人が真剣に考えてるのを邪魔して……だからニアちゃんは超減点。


「はぁッ!」


「うっ!?」


 始まったわね。

 ふふ、ロードちゃん驚いてる驚いてる。

 彼の魔法は振動魔法……剣を震わせて切断力をあげたり、範囲内の地面を震わせて相手の動きを止めちゃったりしちゃう。

 白兵戦は僅かな隙が命取り……達人同士なら尚更ね。


「ミョルニルッ!」


「うおッ!?」


 ミョルニルって……本当になんでもありねぇ!

 ロードちゃんの周りに雷が……あれじゃテーベも近付けない。

 けど……。


「ぐ……!? これ……は!?」


「まともに立っていられないだろう。これで終わりだッ!」


 範囲内なら、テーベの振動は身体の内部をも揺らす。

 それはつまり……脳もってこと。


「……ゲイジャルグッ!」


「なっ!?」


 赤い槍で自分の足を……刺した!?

 しかも動きがよくなって……!


「馬鹿な!? 動ける筈がっ……」


「"輝き魅了す宝石剣(エッケザックス)"!」


「こ、これは……!?」


 周囲に宝石が!?

 な、なんて美しい……はっ!?

 ロードちゃんはどこ!?

 ロードちゃんがいた場所には赤い槍しか残って……。


「ぐ……お……!?」


 私が見失った瞬間、もう勝負はついていた。

 いつの間にかテーベの背後にいたロードちゃんから雷が放たれ、テーベはその場に崩れ落ちる。

 これは……とんでもないわね……。


「あ、すいません! 大丈夫ですか? 加減はしたんですけど……」


「う……む……み、見事だ……よもやこれ程とは……」


 テーベがこんなあっさりやられるなんてね。

 正直ここまでとは思わなかったわ。


「大丈夫よロードちゃん。ニア、次あなたがやる?」


「……遠慮しときまーす。ロードさんの力は分かったし、つか……絶対勝てないし」


「そ、じゃあテーベを端に寄せて頂戴。次はあたしがやるわ。あ、でもその足じゃ無理かしら?」


「あ、いえ、大丈夫です。アスクレピオス」


 ロードちゃんは手帳に武器を納めた後、今度は綺麗な杖を取り出した。


「それは?」


「癒しの杖です。ちょっと時間は掛かり……いったっ……! か、掛かりますけど……治りますからっ」


「あら、本当……傷が塞がって……ねぇ、あの槍はゲイジャルグって言ってたわよね?」


「え、ええ……英雄ディルムッドが持っていた特殊な力を打ち消す槍です。魔力を含んだものに当てれば打ち消せますが、テーベさんの魔法は見えなかったので……」


 なるほど。

 身体を振動させていたテーベの魔法を打ち消す為に、自分の身体を刺した訳ね。

 それをあの一瞬で判断出来る……か。


「ん、もう大丈夫です」


「じゃ、ヤりましょっか」


 この子……やっぱり食べちゃいたい。


明日からちょいとお休みします。

詳しくは活動報告にm(_ _)m

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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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