第170話:振動
「そうか……なら、私と同じだな」
「……ジル様もですか?」
「その、私は明確に言われた訳ではないが……は、初めて意識したというか……気付いたというべきか……しかもグラウディの奴、あの後何も言ってこないのだ。だからちょっと……不安でな」
私と同じだ。
ロード様の気持ちは分かっている……つもり。
私の気持ちもロード様は分かってくれていると思う……。
でも、時々不安になる。
私だけがそう思っているんじゃないかって。
もちろん、そんなことにかまけている場合じゃないのは分かっている。
ただ、いつも側にいるからこそ……その想いは強くなっていた。
だから余計に微妙な距離感を感じてしまう。
あんまり考えないようにはしているけど、私には魅力がないのかなとか、どうすればもっと振り向いてくれるかなとか、不意に……特に夜はそう考えてしまうことが……。
「ふぅん……あんたら意外と乙女なのね」
「「う……」」
「恋心ですか……私達にはない感情ですね」
「え? お2人にはないんですか?」
「んー……考えたこともないわね。あ、もちろんそれがどんな感じなのかは分かるわよ」
「私もバルムンクと同じです。何故なら……まず大前提として、我々は武器ですから。所持者に対し、いかにお役に立てるのかが重要なのです。なので、恋人というよりは戦友みたいなものでしょう。まぁ、中にはそういった感情を持つ者もいるかもしれませんが」
「じゃあ、他の武具を好きになるとかはないのか?」
「ないわねぇ……あ、恋愛感情じゃなく、知り合いとして好き嫌いはあるわよ? だってさー……こうして身体をもらうまでみんな武具の形で接してたし、そもそも何百年何千年と一緒にいるしねぇ。今更どうこうならないでしょ」
「なるほどな……ではロードはどうなんだ?」
「ん、んー……まぁ、かっこいいとは……思う。そういう感情は正直あるわね。ただ、だからといって好きとか嫌いとかはまた別の話よ。それに、ロードはレヴィのだし」
「ちょ……!」
「そうですね。ロード様はレヴィ様のものですから」
「いや……あのっ……!」
「いや、そこは認めなさいよ……」
「うぅっ……」
そ、そう言われても……恥ずかしい……。
「もっと積極的にやっちゃえば? じゃないとトライデント辺りにとられちゃうわよ? あいつはまんざらでもなさそうだし」
「あー確かに。レヴィ様はいいのですか? ロード様を誰かにとられてしまっても?」
「そ、それは……」
アスナとティアなら……いやでも……うぅ……。
「…………嫌です」
「ならやっちゃえ」
「バ、バルムンク様っ!」
そんな簡単なものでは……!
「ジルもそうだけどさぁ……もっと自信持ったら? あんた達綺麗なんだし。それともなに? 女から迫っちゃいけないっていう決まりでもあんの?」
「「うぅっ……」」
「ま、この場合男達が情けないってのもあるわねー。私だったら毎晩揉みしだく自信がある」
「同意」
「て、手をわきわきしないでくださいっ!」
でも、確かに……。
いや、自分に自信があるわけじゃないけど、もっと積極的に……いってみようかな。
――――――――――――――――――――――
「あの……スパルタクスさん……」
「なぁに? ロードちゃん?」
「自分で歩くんで……降ろしてください」
軍議が終わった後、俺はスパルタクスさんに攫わ……連れられ、テーベさんとニアさんも一緒に何処かへと向かっていた。
因みに俺は今……スパルタクスさんの肩に乗っている。
「嫌よ」
「なんっ……!?」
「悪いなロード。スパルタクスはそんな感じだ」
「テ、テーベさん……」
「ふふっ……安心して? 私はバイよ」
…………いや全然安心出来ませんけど!?
「ウェッヘッヘッ……まぁとって食う訳じゃないですからー」
ニアさん……可愛い顔して笑い方が……しかも男なんだよな……?
「んもう……ニアちゃんも顔は可愛いのだけれど……笑い方がキショいのよね。超減点」
は、はっきり言うな……。
「すんませんねぇキショくて。おかげで食われずに済んでますよ……ウェッヘッヘッ」
……やっぱり俺食われかけているんじゃないか?
「直に着く。なぁに……大したことはせんよ」
「は、はい……」
そうして不安な気持ちに苛まれたまま担がれること数分、俺は城の外へと連れ出された。
そのまま隣にある建物へと入り、そこでようやく俺は地面へと降ろされる。
ここは……。
「訓練所……ですか?」
建物は楕円形になっており、中央の広場には土が敷かれている。
かなり広く、その周りには広場を囲うように座席まで設置されていた。
広場には訓練に使うのだろう、木で作られた人形や中型の魔物を模したものが置かれている。
「まぁそんなところね。私達は練兵闘技場と呼んでいるわ。因みに……この時間は私達以外誰もいないから安心して」
いや、だから安心出来ません。
というかここで何を……。
「こっちに来てくれロード」
「あ、はい」
テーベさんに言われるがまま、俺は闘技場の中へと入る。
地面は土だがかなり固い。
相当ここで訓練が行われているのだろう。
「さて、ここに来たのは他でもない。ロードの力を見せて欲しいのだ。なんせ、君の強さを知っているのはジルだけだからな」
「あ、そういうことですか」
「ロードさん本当に食べられると思ってました?」
……若干。
「んもうっ! あたしそこまで節操ない訳じゃないからねっ!?」
「はは……すいません」
……あなたの筋肉の隆起が怖いです。
「その辺にしておけ。まぁ後は、君も我らの力を知っておいた方がよいだろう? 奴らはいつ来るか分からんからな。早いに越したことはない」
「……分かりました。生命魔法は使えませんが、今出せる全力を出します」
「うむ……では、私からいこう」
――――――――――――――――――――――
あぁ……やっぱりいいわねぇロードちゃん……。
さっきと顔つきが全然違う。
戦いに生きる男ってカンジ……うふふ。
おっといけないいけない……ちゃあんと見ないとね。
……彼の強さを。
「勝負に決まりはない。どちらかが降参するまで行う」
「……分かりました」
あら、テーベったら……最初から剣を2本抜くなんて珍しいわね。
でも確かに……ロードちゃんから溢れてる魔力、それに醸し出している雰囲気は……強者のそれ。
佇まいからして只者じゃない。
「エッケザックス……!」
「へぇ……」
手帳から剣を……。
エッケザックスといえば伝説の剣……なるほど、あの手帳にそれらが入っているってことね。
それを自由に呼び出し扱える……さらに生命を与えて味方を増やせる訳か。
あぁん……頼もしいわねぇ……。
「スパ姉……顔がキモいよ?」
「……やかましい。こっち見んな」
「おー怖……」
んもう!
人が真剣に考えてるのを邪魔して……だからニアちゃんは超減点。
「はぁッ!」
「うっ!?」
始まったわね。
ふふ、ロードちゃん驚いてる驚いてる。
彼の魔法は振動魔法……剣を震わせて切断力をあげたり、範囲内の地面を震わせて相手の動きを止めちゃったりしちゃう。
白兵戦は僅かな隙が命取り……達人同士なら尚更ね。
「ミョルニルッ!」
「うおッ!?」
ミョルニルって……本当になんでもありねぇ!
ロードちゃんの周りに雷が……あれじゃテーベも近付けない。
けど……。
「ぐ……!? これ……は!?」
「まともに立っていられないだろう。これで終わりだッ!」
範囲内なら、テーベの振動は身体の内部をも揺らす。
それはつまり……脳もってこと。
「……ゲイジャルグッ!」
「なっ!?」
赤い槍で自分の足を……刺した!?
しかも動きがよくなって……!
「馬鹿な!? 動ける筈がっ……」
「"輝き魅了す宝石剣"!」
「こ、これは……!?」
周囲に宝石が!?
な、なんて美しい……はっ!?
ロードちゃんはどこ!?
ロードちゃんがいた場所には赤い槍しか残って……。
「ぐ……お……!?」
私が見失った瞬間、もう勝負はついていた。
いつの間にかテーベの背後にいたロードちゃんから雷が放たれ、テーベはその場に崩れ落ちる。
これは……とんでもないわね……。
「あ、すいません! 大丈夫ですか? 加減はしたんですけど……」
「う……む……み、見事だ……よもやこれ程とは……」
テーベがこんなあっさりやられるなんてね。
正直ここまでとは思わなかったわ。
「大丈夫よロードちゃん。ニア、次あなたがやる?」
「……遠慮しときまーす。ロードさんの力は分かったし、つか……絶対勝てないし」
「そ、じゃあテーベを端に寄せて頂戴。次はあたしがやるわ。あ、でもその足じゃ無理かしら?」
「あ、いえ、大丈夫です。アスクレピオス」
ロードちゃんは手帳に武器を納めた後、今度は綺麗な杖を取り出した。
「それは?」
「癒しの杖です。ちょっと時間は掛かり……いったっ……! か、掛かりますけど……治りますからっ」
「あら、本当……傷が塞がって……ねぇ、あの槍はゲイジャルグって言ってたわよね?」
「え、ええ……英雄ディルムッドが持っていた特殊な力を打ち消す槍です。魔力を含んだものに当てれば打ち消せますが、テーベさんの魔法は見えなかったので……」
なるほど。
身体を振動させていたテーベの魔法を打ち消す為に、自分の身体を刺した訳ね。
それをあの一瞬で判断出来る……か。
「ん、もう大丈夫です」
「じゃ、ヤりましょっか」
この子……やっぱり食べちゃいたい。
明日からちょいとお休みします。
詳しくは活動報告にm(_ _)m




