第169話:恋人
フリードリッヒ様は俺の目をじっと見ていた。
伝えるべきことは伝えたし、後はもう信じてもらうしかない。
そう祈っていたその時、不意にフリードリッヒ様がニッと笑った。
「よし、信じよう」
「……へ?」
「フ、フリードリッヒ様!?」
ジルさんも驚いていた。
こ、こんな簡単に?
これはいったいどういう……。
「いや、すまんな……少々試させてもらったのだ」
た、試す……?
「悪かったなロードよ。先刻の台詞は本意ではない……どうか忘れて欲しい」
「テ、テーベさん……?」
「ぶはぁっ! もう喋ってよいのかしらぁ? やぁねぇ……睨み続けるって結構疲れちゃう!」
えっ……え!?
ス、スパルタクスさん!?
どっ……どういう……えっ!?
「ん? おいニア。もうよいぞ」
フリードリッヒ様がそう声を掛けるが、ニアさんは未だに俺を睨んでいる。
ど、どうなって……頭が追い付かない……。
「ニアッ!」
「はっ!? …………すいません寝てました」
目を開けたまま!?
「まったく……まぁ、ニアはその方がよかったかもしれん。話し出すとボロが出るからな」
「ウェッヘッヘッ……すんませんねぇバカで……」
「お、お前達……フリードリッヒ様も……私まで騙していたのですか!?」
「すまないジル……まぁ許せ。ジルはロードと近しいからな。本当のことを言う訳にはいかなかったのだ。そしてロード、レヴィも……試したことをどうか許して欲しい」
そう言ってフリードリッヒ様が立ち上がると、他の3人も立ち上がり同時に頭を下げた。
「あ、いや……どっ……もう大丈夫ですんで!」
俺の隣では、レヴィが腹を押さえながら椅子に沈み込んでいた。
「はぁ……よ、よかったです……胃がキリキリしましたよ……」
「ごめんなさいねぇ……フリードリッヒ様がどうしてもっていうから。ロードちゃんを睨むのは辛かったわぁ……こんな可愛い子を……あーやだやだ」
緊張感から解放されたからか、なんだか俺も腹が痛くなってきた……あとスパルタクスさんが……嘘だろ……。
「フハハ! あ、いや、本当にすまない。実は……これも申し訳ないとは思ったのだが、ロードに監視を付けさせてもらっていたのだ」
「えっ!?そ、そうだったんですか!?」
「僕が後ろにいたの気付かなかったっしょ。ま、それが僕の魔法だからねん」
「ニアの魔法は透明化魔法。その力を使い、外出時は常に見張らせてもらっていたのだが、怪しい点は何1つなかった。今日の昼間もニアが近くで全てを聞いていたのだよ。その時点で君がスパイではないと確信していたのだが……どうしても直接反応が見たくてな」
全然気付かなかった。
町の中だから生命の反応は沢山あったし、つけられているとは夢にも……。
「じゃ、じゃあ最初から……」
「ああ、そうだ。全てを知ったうえで君がどういう人間なのかを見たかった。無礼は百も承知……だが、全てが嘘だった訳ではない。信用に足る人物か否かは見極めねばならん。特に……今の世界ではな」
確かに……。
読心魔法の使い手でもない限り、人の心は誰にも分からない。
俺がいくらギリシアを守りたいと思っていても、周りの人がそれをどう受け止めるかは別の話だ。
「父上……いや、陛下は寛容なお方だ。無論、人を見る目はあるが……この状況で万が一は許されん。どうか分かって欲しい」
「そうでしたか……いえ、当然のことかと思います」
「ありがとう……さて、それでは竜族について聞かせてもらえるかな? 我々も策は講じているつもりだが、是非伝説の武具達の意見を伺いたい」
「ん、やっと喋れるわね。色々言っちゃうけどいいかしら?」
「無論だ。忌憚ない意見を頼む」
「おっけー。んじゃまずは……」
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「適当にカゴを使ってくれ。我ら4人以外は来ないようにしておいたから」
軍議を終えた私達は部屋を後にし、ジル様に連れられて大浴場へとやってきていた。
因みにロード様はスパルタクス様に連れさら……声を掛けられ、私達とは別行動をとっている。
……何もなければよいのですが。
「すまなかったなレヴィ。まさか私まで騙されているとは思わなかった……」
鎧を外して服を脱ぎながら、ジル様はそう言って眉尻を下げる。
ジル様は性格上、堂々と嘘をつけるタイプではないですからね。
フリードリッヒ様の判断は間違っていないでしょう。
「お気になさらないでください。フリードリッヒ様のお言葉はもっともですし、むしろこれで憂いもなくなりましたから」
「そう言ってもらえると助かる……バルムンク達もありがとう。おかげで色々と改善することが出来そうだ」
バルムンク様とアスカロン様も既に服を脱がれ、初めて入るお風呂に興味津々のようだった。
「礼なんていいわよ別に。それに、お風呂入ってみたかったしね。ってかアスカロンあんた……無駄にデカくない?」
「あ、これですか?」
アスカロン様はご自分のお胸を両手で持ち上げる。
着痩せするタイプの方でしたか……。
「女である以上大きい方がいいかと思いまして。それに、あなたに言われたくはありませんが?」
「……私とあんたじゃ意味合いが違うのよ」
バルムンク様もアスカロン様もよいものをお持ちですね……ジル様もですが。
「ま、私もあんたもレビィには敵わないけどね」
「そのようですね。さすがはレヴィ様……ご立派です」
「えっ……いや、ちょっ……!」
「確かに……道理でロードが骨抜きになる訳だ」
3人とも私をジロジロと見つめてくる。
「そ、そんなに見ないでくださいっ!」
恥ずかしい……。
「いーじゃないの減るもんじゃなし。うりうりー」
「やっ!? ちょっ……!」
いつの間に後ろっ……!?
「なーんかレビィを見てるといじめたくなるのよねぇ……ほれほれ」
「バ、バルムンク様っ! おやめくださいぃ……!」
背後から胸を鷲掴みにっ……!
なんとかそれを振りほどき、バルムンク様から距離を取る。
……この方は危険です!
「はっはっはっ! 後で私にもやらせてくれ」
「ジ、ジル様!」
「冗談だ。さ、風邪を引く前に入ろうではないか」
「もうっ……」
「レヴィ様、私も……」
「ダメですっ!」
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身体を洗った後、4人で湯船に浸かる。
全てが白い石で作られた美しい浴場は、私達だけでは勿体無いくらいに広い。
それにしても……。
「生き返りますねぇ……」
「ああ……風呂はいい」
「最高ねこれぇ……人間はずるいわぁ……」
「同感です……」
常に無表情のアスカロン様まで顔が緩んでいる。
やっぱりお風呂はいい。
心も身体も癒されますね……。
「なぁレヴィ……1つ聞きたいことがあるのだが……」
「なんでしょうかぁ……」
「……普段ロードとはどんな感じなんだ?」
「ふぇっ!?」
い、いきなり何を……。
「いや、その……分からんのだ。今までそんな気持ちを持ったことがなかったから……グ、グラウディとどう接すればよいのか……」
あ、ああ……そういうことですか……。
「わ、私達も……似たようなものですよ」
「え? お前達は恋人同士なのだろう?」
「ん……ええ……多分……」
「多分って……どういう……」
「た、確かにその……一緒に寝たり、キ……キ、キスっ……くらいはしますけどっ……」
あの時……魔王の城が崩壊していく中で、ロード様は私を好きだと言ってくれた。
確かにあれ以来、私達の距離はすごく縮まったと思う。
ただ、まだ一線は超えていない……いや、超えられていない。
自分では結構頑張っているつもりなんだけど……なんだかんだはぐらかされているというかなんというか……。
「よく分からんが……い、いいのかそれで?」
「どう……なんでしょうね……なんか怖くて……」
ロード様が照れ屋なのは知っている。
だから私も深くは聞かないし、考えないようにしていた。
それに私自身……ティアとアスナのことが気になっているのもある。
だから今のままでいいと……そう考えてはいた。




