第132話:親子
「ん? 奴を知っているのか?」
「え、ええ……まさかあの人だったとは……」
彼はこちらに気付くと、俺達に向かってゆっくりと歩き出した。
あの時と全く変わらない……まるで獣のような目つきで。
マスクで隠れた口元を恐らく緩ませながら、彼は俺達の前に立った。
「お久しぶりですね」
「Sランクの小僧だと聞いた時にまさかとは思ったが……本当にお前だったとはな。また会えて嬉しいぜ……ロード、レヴィ」
「俺もです……グラウディさん」
「ご無沙汰致しております」
ニーベルグの闘技大会決勝戦。
その相手だったのがこのグラウディさんだ。
職業は重力剣士で、スキルは剣術。
あの時はヘラクレスとグングニル達のおかげでなんとか勝てたが……グラウディさんは本当に強かった。
もうあれから2ヶ月近く経つが、なんだか戦ったのが昨日のことのように思い出される。
「雷神姫様が名前も言わずに通信を切りやがってな。ったく……おかげで一晩モヤモヤしてたぜ」
そう言ってグラウディさんがジルさんを見る。
ジルさんは腕を組んで眉間にシワを寄せていた。
「ふん……お前達が知り合いなどとは想像もしていなかったからな。まぁ知っているのなら手間が省けたわ。グラウディ、私はこれより陛下にご報告してくる。その間に準備を整えておけ」
「ああ。で、移動方法は?」
「転移魔法使いにやらせる。準備が出来たら西門で待機しろ」
「かしこまりました……雷神姫様」
グラウディさんはおどけて頭を下げる。
こういう一面もあったんだな。
「ちっ……ではなロード、レヴィ。また後で会おう。おい! 馬を繋いでおけ! この馬車もだ!」
そう兵士に命じた後、スピアを担いで去っていくジルさんを見送り、俺達はグラウディさんに連れられて町の中を歩き出した。
「見なかった間に随分強くなったみてぇだな。あの頃とはえらい違いだ」
白く美しい町並みに目を奪われていると、不意にグラウディさんにそう言われた。
「え? そ、そうですか?」
「ああ。安っぽい言い方になっちまうが、以前に比べると隙がねぇ。仕掛けるのを躊躇するくらいにな」
し、仕掛けるって……。
でも、グラウディさんにそう言われると嬉しい。
あの時の試合には勝ったが、実力的にはグラウディさんの方が全然上だったから。
「あ、因みにジルなんだが……あいつはちと……いや、かなり高飛車な女だが……本当に悪い奴じゃねぇんだ。女の身であそこまで上り詰めるのは並大抵のことじゃねーからな。ああならざるを得なかったんだろうよ」
グラウディさんの言う通りなんだろう。
ジークさんの気持ちは分かるが……ジルさんはジルさんでかなり大変だった筈だ。
「ましてやあいつは元勇者ジークの実の娘だからな。周りからは色々言われてたみたいだが、それでもあいつは全てをねじ伏せてきた。まったく……大した女だよ」
あれ……?
なんかグラウディさんとジルさんって……。
「あの、グラウディ様はジル様と以前から?」
「ん、ああ……俺はニーベルグ出身だが、おふくろの出身がギリシアでな。一時期親父の仕事の関係で行ったり来たりの生活をしてたんだ。そん時寝泊まりしてたおふくろの実家がたまたまジルんちに近かったから、あいつのことは昔っから知ってんだよ」
なるほど……それでか。
「てっきり冒険者になるとばかり思っていたが……まぁ、親父さん絡みで色々悩んだんだろう。んで、あいつは違う道を選んだって訳……ん? そういやあいつが行ったのって……ってことはお前ら……ジークさんのとこにいたのか!」
「え、ええ……稽古をつけてもらってました」
「はぁ!? マ、マジかよ……羨ましいなおい。居場所を知ってるのは限られた奴だけだってジルが言ってたが……なんでお前らそれを知ってんだよ? てか、俺と別れてから何があったか教えろや」
「あれ? バーンさんからは何も?」
「あの人も忙しいみたいでな。前に一度話したっきりで、そん時は暇かどうか聞かれたんだが……丁度依頼を受けたばっかりでな。その後は音沙汰なしだ。で、何があったんだよ」
バーンさんは今レアに潜入中だし、その前はティーターンにいた。
多分グラウディさんに協力を依頼しようとしたんだな。
そういえば俺も暫く話をしていない。
無事だと……いや、俺があの人の心配をするなんておこがましいか。
「分かりました。全部お話ししますよ」
俺はグラウディさんにニーベルグ闘技大会以降の話を全部伝えた。
また、俺が今知り得る情報も全て。
「……とんでもねぇなお前ら。よく生きてたな」
「はは……実際死にかけました……」
「世界は俺の知らぬ間に……いや、ほとんどの人間がだな。ひょっとすると、今回の神獣もその一端なのかもしれねぇな」
「どうでしょう……ところで、グラウディ様はそれを実際に見たんですよね? どの程度の相手ですか?」
「レヴィは戦ったことないのか? 何千年も生きてるんだろ?」
「何度かは見たことがあります。ですが……私は見ていただけでしたし、個体差もありますから」
因みに、レヴィが出会った神獣は全てクラウンさんが1人で仕留めてしまったらしい。
やっぱりクラウンさんは凄かったんだと改めて分かる。
「まぁそうだな。俺が見たのはでけぇ狼みたいな奴だった。全身真っ黒で目だけが金色だったよ。結構離れてたんだが、それでも見た瞬間分かったね……ありゃ無理だって」
「グラウディさんでも……」
「神獣は最低でもSSSクラスと言われてる。だが、その枠の中でもあいつはかなり上位なんじゃねぇかな。俺も初めて見たが……とにかく魔力量が桁違いだった。それに、高ランクのドラゴンや魔物を喰い散らかしてたからすぐに神獣だと分かったよ」
「かなりの強敵……という訳ですね」
「ああ。正直やりたい気持ちもあったが……能力も謎だし、ここで俺が死んだらまずいと思ってな。それで引いた訳だ。おっと……ここだここだ。さ、準備を済ませちまおう。あんまりのんびりしてると雷神姫様に殺されちまう」
神獣もそうだが、グラウディさんにそう言わせるジルさんも相当だな……。
俺達は店で物資を購入後、急いで西門へと向かったのだった。
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「そうか……ジークは動かぬか……」
「……申し訳ありません陛下。ですが、代わりにジークの弟子を連れてまいりました。調べた結果、ロードとレヴィはニーベルグ闘技大会の優勝者で、あのグラウディに勝ったパーティです。それに……」
そこでジルは言葉に詰まってしまう。
"ジークが認めているから"と言おうとしたがやはり言えなかった。
それを他人に言ってしまうと、父を許してしまったことになるような気がして。
ギリシア王はそれを察し、ジルの代わりに言葉を続けた。
「ジークが認めておるのだろう?」
「……はい」
ギリシア王であるクリスティアノ=ゲオルギオス=ギリシアが神獣討伐に彼女を指名したのは、もちろんその強さ故であった。
ギリシアには4つの騎士団があり、それを率いる4人の騎士団長のことを通称四騎将という。
彼ら4人はギリシア最強と言われ、王の信頼はもちろん国民からの信頼も厚い。
神獣発見の報を受けた当初、ギリシアは冒険者ギルドにSSSランク冒険者の派遣を要請した。
だが、先にジルがジーク達に語ったように、すぐに動けるSSSランクはおらず、また、SSランクですら見つからないという報告をギルドから受ける。
そこでギリシア王は討伐任務をジルに与え、さらにジークを呼ぶように命じたのだった。
ギリシア王はジークとジルの関係を知っており、ジルを討伐任務に当たらせた背景にはそんな2人のわだかまりを解消しようとする狙いもあった。
ジークにあてた手紙にはギリシア王の想いが込められており、詳細を書かなかったのはジルとジークの話す機会を増やす為だった。
ギリシア王は気付いていないが、結果としてそれは少し成功している。
何故ならジークもジルも、僅かではあるが話せてよかったと感じていたのだから。
「ならば託そうではないか。それに……ギリシアが誇る四騎将の1人である貴公と、SSSランクに最も近いとされるグラウディがいるのだ。必ずや成し遂げるであろう。頼んだぞ……ジル」
「はっ……!」




