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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病

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第131話:ギリシア

 

 アロンダイト達を手帳に戻した後、レヴィがまとめてくれた荷物を馬車に積み込む。

 大体積み終えたところでジークさんの家からレヴィが出てきた。


「お待たせ致しました」


「うん。ところでジークさんとなんの話をしてたんだ?」


「え? ああ……私の力について最後にアドバイスを。伝え忘れていたことがあったとのことで」


「ふーん……そっか」


 なんか変な感じだけど……まぁいいか。


「よし……と」


 最後の荷物を載せ終え、俺はジークさんの家に一礼して馬車に乗り込んだ。

 必ずまた……。


「準備は出来たようだな。では、私についてきてくれ」


 敷地の入り口でジルさんが既に待っていた。

 立派な赤毛の馬だけど……多分ついてこれないよな。


「あ、ジルさんちょっと」


「ん? まだ何かあるのか?」


「多分こっちの方が速いので……エポリィ頼む」


 手帳から呼び出した籠手に生命を与えると、ムスッとしたエポリィが現れた。

 あ……あの時突然戻したからか?

 結構引きずるタイプなんだな……。


「いきなり戻すなんてひどいし!」


「ごめんなエポリィ……また食事に連れて行くからさ」


「じゃあ許すし!」


 はやっ……。


「こ、この者は?」


「あ、行きながら説明します。とりあえずこっちの馬車に乗ってください。エポリィ、ジルさんの馬もいけるか?」


「馬車に繋げば大丈夫だし。やるから乗ってていいよ」


「分かった。頼む」


「な、何がなにやら……」



 ――――――――――――――――――――――



 エポリィが操る馬車が深夜の山道を駆け抜ける。

 速さもそうだが、相変わらずほとんど揺れない。

 エポリィのおかげで旅は随分楽になった。


「……便利な力だな。あの男が言っていたこともまんざら嘘ではないらしい。まぁ、完全に信用した訳ではないがな」


「はは……認めてもらえるように頑張ります」


 ジルさんには俺とレヴィの力を説明しておいた。

 因みにこれまでの旅のことは話していない。

 というより、ジルさんに"自分で調べるからいい"と先に言われてしまったからなのだが。

 どうもジルさんはあまり他人を信用しない人のようだ。

 それが今までの経験からなのか、ジークさんとのいざこざのせいなのかは分からないが……。


「あの、ジル様の武器は槍……ですよね?」


 ジルさんが乗っていた馬の側面には、円錐型の巨大なトゲのようなものがついていた。

 持ち手を含めると2メートル以上はある。


「ああ。スピアと呼ばれるタイプの槍だ。貫くことに特化している。私の魔法と相性がいいのでな」


「なるほど……」


「既に私を鑑定しているのだろう? まぁ、そういうことだ。なんだろうが貫き穿つのが我が信条。そうやって……生きてきたからな」


 この目だ。

 この悲しげな目がジークさんにそっくりだった。

 2人とも素直じゃないから……いや、なれないのか。

 ジークさんとジルさんにとって、きっと亡くなった人は本当に大きな存在だったのだろう。

 でも、いつか2人が……。


「エポリィとやら、悪いが寝させてもらう。地図通りに進めば問題ない筈だ。着いたら起こしてくれ」


「ほいよー。分かったしー」


「お前達も今のうちに寝ておけ。ギリシアに着いたら陛下に報告後、準備をしてすぐ出発だ」


「分かりました。リッヒヴェーク、エポリィ、見張りは任せる」


「ほーい」


「かしこまりました……」


「ぐぅ……」


「え……ジ、ジル様……?」


「寝て……るな……」


 ジルさんは座ったまま一瞬で眠りについていた。

 すごいなこの人……。


「……俺達も寝ようレヴィ」


「……ですね」


 起きる頃にはギリシアに着いているだろう。

 初めてのダンジョン……そして神獣か……。

 このタイミングで現れた厄災。

 これも世界の歪みなのかもしれない。

 託された想いに応える為にも、ジークさんに教わったことを全てぶつけよう。

 俺は拳を握りしめた後、微かに揺れる馬車の振動に身を委ねた。



 ――――――――――――――――――――――



 皇都ギリシア。


 ギリシアの中心であり最大の町。

 広い平原に造られたこの町は、首都ニーベルグ、帝都オリンポスに次ぐ広さを誇る。

 商業、加工業、冒険者業のバランスがよく、また、オリンポス領にあるヴァルハラ大陸最大の山、"剣帝峰ヴァナヘイム"から湧き出る雪解け水が生み出した"豊穣の川ミズガルズ"が町の北西を流れていることで造船技術も発達していた。


 建物のほぼ全てがギリシア原産の白鋼石という石で造られており、その町並みは白く輝く宝石のようだと比喩される。

 他国と同じように町は堅牢な壁に覆われており、現在は竜族の侵攻に備え、町の南側には軍が常に展開している状態にあった。

 アルメニアとの共闘関係を結んだ際に提供された対竜兵器も多数並んでおり、町の外で迎撃する為の準備が着々と進められている。


 また、アルメニアから脱出した民衆や兵士達は、その半数がケルトに向けて旅立ち、もう半分は町の北側で細々と生活を送っていた。

 ケルト、オリンポス、ニーベルグの3ヶ国が物資を提供しているおかげで食糧にはまだ余裕があるものの、国を失い、住む家も仕事も失ったアルメニアの民は希望を失いつつあるのが現状である。

 現在ギリシアではそんな彼らの為に家屋を建設し、国無き民を受け入れる態勢を整えようとしていた。



 ――――――――――――――――――――――



「あれが……」


「皇都ギリシアか……四角い町なんだな」


 少し離れた山頂から見えたその町は、白い壁に囲まれた美しい町だった。

 中心部に一際目立つ白い城があり、町の中も城を中心に壁で仕切られているようだ。

 町の手前には軍が展開しており、あちこちから白い煙が昇っている。

 竜族に対する備えって訳か。


「ふむ……数万はいますね」


「ああ。ほとんどがギリシア軍だが、ギリシア領にある協力国家からも多少兵が来ている。あの水色の旗は水上国家アークマリン、緑色の旗はエルフの国ウッドガルド、土色の旗はドワーフの国アースヘイムだ。もちろんアルメニアから来た兵士達も隊列に加わっている」


 協力国家の軍はギリシアに比べるとかなり少ない。

 自国の防衛もあるからあまり割けないってことなんだろうか。


「とはいえ……竜族が本気でくればこれでも足りんくらいだ。アルメニアは数千規模の軍だったが、町は対竜防衛に特化していたし、兵達の竜に対する練度も我らより上だ。だからこそアルメニアと協力して迎え撃つつもりだったのだが、こうなった以上は今あるものでなんとかするしかない。そんな状態にあるここで神獣が暴れでもしたら最悪だ。無論討伐は出来るだろうが……」


「強さによってはかなりの被害が出るでしょうね。そこに竜族の侵攻が重なれば大変なことになる……」


「そういうことだ。大軍故に一度乱れると立て直しがきかん。最悪の事態を未然に防ぐ為には、なんとしても今のうちに神獣を討伐せねばならんのだ」


 馬車は山を下り終え、俺達は軍のど真ん中を進んでいく。

 周りにジロジロと見られるが、ジルさんが顔を出した途端全員が一瞬で目を逸らした。


「ら、"雷神姫"じゃねぇか……なんでこんなとこに……?」


「おいバカ……! 目を合わせたら殺されるぞ……!」


「道を開けろって後ろの奴らに伝えてこい! 死人が出る前に……!」


 ……全部聞こえてるしめっちゃ恐れられてる。

 雷神姫ってのはジルさんのあだ名か。

 なんとなく分かるけど。


「……ちっ!」


 こわ……。


「ジル様? そんなに眉間にシワを寄せてはせっかくの美しいお顔が台無しですよ?」


 ばっ……レ、レヴィ……!


「ふん……興味ないわ。私は女である前に騎士だ」


「お綺麗なのにもったいない……」


「うるさいわ……第一、お前に言われると嫌味にしか聞こえん」


「えぇ……私なんかよりジル様の方がお綺麗ですよ?」


「フッ……ぬかせ」


 すごいなレヴィ……。

 やっぱり女の人同士にしか分からない何かがあるのだろうか。

 にしても少数精鋭でダンジョンを攻略し、最深部にいる神獣を討伐する……か。

 全員で力を合わせないと絶対に無理だ。武具達にも頑張ってもらわないと。

 あ、そういえば……。


「ジルさん、あと1人はどんな人なんですか?」


「ん、ああ……そういえばまだ言ってなかったな。そいつは……」


「門に着いたしー!」


「お、着いたか。ちと待っていてくれ」


 ジルさんが顔を出すと、すぐに町の中へと案内される。

 門をくぐり中へ入ると、美しい町並みが目に飛び込んできた。

 建物の白、植物の緑、水の青……綺麗な町だ。

 町の中にはいくつもの水路が流れ、この町の通行手段なのだろう、様々な形をした小舟に乗って水路を行き交う人々の姿が印象的だった。


「もう1人だがな、昨日の夜に連絡したから多分近くに居る筈……ああ、あいつだ」


 そう言ってジルさんが指差す方向には……。


「え……あ、あの人は……」


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