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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第4章:闇へと堕ちる病

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第118話:因果

 

「我が一撃をッ……!」


「痛みを感じたのは久しぶりだ……!」


 ジークのスキル"戦闘力強化"。

 それは単なる身体能力の強化とは似て非なるもので、戦闘時にのみ発動する勝利の為の強化である。

 単純な筋力強化はもちろんのこと、皮膚や骨が攻撃に耐える為に鋼のように強化され、また、驚異的な反射神経や速さを得るなど、人間の限界を超えた力を発揮出来るというものであった。

 因果魔法と戦闘力強化という強大な力を2つ持っていたことで、彼はこれまでの戦い全てに勝利している。

 故に彼はかつてこう呼ばれていた。


 "戦神の勇者ジーク"と。


「うぉらぁッ!」


「ぬぅッ!」


 ジークは受け止めた棍棒を弾き返し、ヘラクレスの巨体を押し返す。

 さらにそのままヘラクレスへ殴り掛かろうとするが、雷速で迫るロードに反応して因果を断つ。

 灼熱の槍はジークの身体をすり抜けて空を斬り、ロードはそのまま2人の間を駆け抜けて距離を取った。


「くっ……!」


「速えなおい」


 実はこの時フラガラッハも背後からジークを捉えていたのだが、ブリューナクと同様ジークには当たらずすり抜けてしまう。

 アロンダイトとフラガラッハにジークが気付いていなかったと感じたロードは、因果魔法は対象を定める能力ではなく、ジーク自身を全ての因果から外しているのだと推測した。


「はぁッ!」


「ぬぅらぁ!」


 ロードはジークの右から、ヘラクレスはジークの左から攻撃を放つ。

 次にロードが知りたいのは因果魔法が使用出来る間隔。

 ブリューナクとフラガラッハを躱されてから数秒、ジークはそれぞれの攻撃に対し魔法を使わず両腕で防いだ。

 再び凄まじい衝撃波が周囲に広がる中、ジークの背後から迫るフラガラッハが紅い閃光へと変わる。


「目で追うな馬鹿野郎」


 瞬間発動した因果魔法によりフラガラッハは再び外れ、ロードとヘラクレスは対象を失いバランスを崩す。


「ぐっ!」


「ぬぁっ!」


 体勢の崩れたロードとヘラクレスを蹴り飛ばし、ジークは膝を突く2人の前でニヤリと笑う。


「終わりかい? お2人さん」


「……いえ」


 今の攻防から持続時間は約3秒、使用間隔は約5秒だとロードは推察した。

 そして、その隙間を縫って攻撃を叩き込むより他はないと。


「ん、その意気だ」


 最初は単に諦めさせるつもりだったジークだが、決して悪くないその動きとロードの目が気に入り、いつしか楽しいとすら思い始めていた。


「いや、そうじゃなく……2人じゃないんで」


「……ぬ」


 フェイルノートは既に弓を引いていた。

 彼女は初手を放った後、ヘラクレスの攻撃に合わせて気配を消しジークの家の中へと入る。

 そうして彼女は静かに合図を待っていたのだ。

 窓越しに、撃ち貫くべき相手をその目に映して。


「タスラム!」


 黒い手帳から金色《こんじき》の魔弾が現れ、フラガラッハとともにロードの周囲を飛び回り始めた。

 それに目を奪われていたジークだったが、視界の端で弓を引くヘラクレスに気付く。


「ちっ……!」


「"神すら殺す毒牙の光弾《ヴェロスディリティリオ》"!」


 剛弓から放たれる禍々しい紫色の閃光がジークに迫る。

 さらにロードから放たれた4つの切っ先を視界に捉え、ジークは因果を断つしかなかった。

 結果、5つの軌跡はジークをすり抜け虚空を貫く。


「……今」


 ロードからの合図を受け、放たれた"無駄なしの弓(フェイルノート)"は扉から飛び出し地を這うようにジークへと迫る。

 狙いは足。

 今までの攻防から判断して、因果が再び繋がり、さらに魔法を発動出来ないであろう完璧なタイミングだった。

 ただそれは、今までがジークの全力だったならばという話。

 迫る矢にジークが手をかざした瞬間、矢は世界から静かに姿を消した。


「……!?」


 因果魔法には様々な力がある。

 今まで彼が使っていたのは自身に対する因果を断つ力のみ。

 そして今使用したのは対象と世界の因果を断つ力。

 前者は視認せずとも、後者は視認する必要があるという違いはあるが、この2つがある限りジークに隙はない。


「ク、クソ……!」


「惜しかったな。最後が真正面じゃ……」


 その時トンッとジークの背中が叩かれる。


「いっ!?」


 驚いてジークが振り返ると、いつの間にかそこにいたレヴィの拳が彼に当たっていた。


「おま……!」


「一発……でしたよねジーク様? ロード様が当てなければならないとは伺っておりません」


 目を丸くするジークだったが、ニコッと笑うレヴィに対し思わず吹き出してしまった。


「クッ……ハハハハハ! あーそうだな……確かに言ってなかった。そうか……お嬢ちゃんも……」


「はい。私もロード様のお力の1つですので」


「だよな……分かった。俺の負けだ」


「ジークさんじゃあ……!」


「ああ、俺が教えられることはな」


「あ、ありがとうございます!」


「ま、戦ってる間に楽しいと感じちまった時点でな。オーランドの野郎が気に入るのも無理はねぇ。にしてもお嬢ちゃん……全然気付かなかったぞ。いったいどうやったんだ?」


 レヴィは被っている黒い兜を指差す。

 ロードがヘラクレスを呼んだ理由。それは彼女の力はもちろんのこと、その圧倒的な存在感によりフェイルノートと自身の行動、そしてハディスを拾い消えるレヴィに気付かせない為だった。


「この方はハディス様と仰いまして、被っている間気配と姿を消せる力を与えて下さるのです」


「ほー……つーかどんだけ武器持ってんだよお前……まぁ、そもそもお嬢ちゃんが消えたのにも気付かなかったし……俺の完敗だったって訳だ。なぁ、1つ聞かせてくれ。お前らあの時会話してなかったよな? サインを出してた様子もねぇし……念話魔法でも使ってたのか?」


「「いや違いますけど」」


「あー……もういいや。何となく分かったから」


「「はい?」」



 ――――――――――――――――――――――



 その日の夜。俺達はジークさんの家の庭で丸太を椅子代わりにして焚き火を囲んでいた。

 パチパチ火の粉が舞い、ジュージューと鹿肉が焼ける音とともに芳ばしい匂いが広がっていく。

 まぁ俺はそれよりも、隣でその肉を食い入るように見つめるレヴィと、地面にどかっと座り、ヨダレを垂らしながら焼けるのを待つヘラクレスとフェイルノートの方が気になっていたのだが。


「大体の話は分かった。俺が勇者を辞めてから色々あったみてぇだな」


 肉が焼けるのを待つ間、俺はジークさんにこれまでの全てを詳しく話しておいた。


「俺はてっきりバーンさんから聞いているものだと思ってました」


「あの野郎二言目には復帰しろって言うからな。だから話を聞かないようにしてたんだよ。お前にも一応言っとくが、俺はここから離れるつもりも手を貸すつもりもねぇ。あくまでお前を鍛えてやるだけだ。いいな?」


 ジークさんはそう言いながら物凄い顔で俺を睨む。

 怖……。


「わ、分かりました」


「ジーク様、1つお聞きしたいことがあるのですが」


「言ってみな」


「何故ジーク様は勇者をお辞めになったのですか?」


 レヴィの問い掛けにすぐには答えず、ジークさんは火に薪を放り投げ、酒の入ったボトルを口に運ぶ。

 葉巻を取り出して焚き火で火をつけると、夜空に向けて煙を吐いた。


「……くだらねぇ話よ。全部馬鹿らしくなっちまったのさ。何の為に戦っていたのか……分からなくなる程にな」


「いったい何が……」


「フッ、悪いことってのは重なるもんだ。そして、どうでもいいとすら思っていたことが、何よりも大切なもんだったんだと気付くのは……いつだって失った後なんだよ」


 それは……何だか分かる気がする。

 15歳の誕生日から俺の日常は変わってしまった。

 いるのが当たり前だった両親がいなくなり、俺は無能として1人で生きていかざるを得なくなった。

 俺はその時……普通の日常がどれだけ大切なのかを思い知らされる。

 この間レヴィが拐われた時もそう。

 いなくなってから……ああしておけば、こうしておけばの繰り返しだった。


「教えて下さい……何があったのか」


「……まぁ、ロイが絡んでるからな。お前らにもまるっきり無関係って訳ではないか……話してやってもいいが、くだらなくて虚しくて、そして……情けない話だぞ?」


「……はい」


「んじゃ飲め」


「え!?」


「シラフじゃ話せねぇし、聞いてらんねぇ話だ。飲まなきゃ話さん」


「わ、分かりました……飲みます」


「我にもくれ。飲んでみたい」


「……私も」


「では、私もいただきます」


「ん? 武器2人は分かるが……お嬢ちゃんは酒飲める歳か?」


「4832歳です」


「……は!?」


「あ、言うの忘れてました。レヴィは魔族なんです」


「マジか……まぁいいや。んじゃ、飲みながら聞けや」


 そうしてジークさんは俺達に酒を注ぎ、静かに語り始めた。


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