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病弱令嬢のスキルクラフト!  作者: 鏡石渚
最終章

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56 生徒会探検隊!

学園七不思議

その一「校舎の紋様」──校舎のどこかに刻まれた紋様をなぞると魔法陣が発動するらしい。

その二「不思議の扉」──存在しないはずの巨大な扉の前で呪文を唱えると、未知の世界に繋がるらしい。

その三「魔力の泉」──学園のどこかに魔力が無尽蔵に湧き出す泉があるらしい。

その四「動く石像」──悪魔の顔を持った石像が血を求めて暗闇を動き回っているらしい。

その五「死者の呼び声」──夜になると死者の呻きが聞こえ、返事をするとあの世に連れて行かれるらしい。

その六「隠された黄金」──学園内のどこかにかつての王が残した金銀財宝が眠っているらしい。

その七「不明」──六つの不思議を解き明かした時、現れるらしい。

「栄光よ、時の主よ。過ぎ去りし夢の跡へ、我を(いざな)い給え」


 巨大な鉄扉が開くと、底知れぬ闇がベッタリと貼り付けられていた。

 コンフィズリ先生の後に続き、わたしたちは進んでいく。

 この学園の秘密を解きに──。




 生徒会室前に設置された目安箱。

 そこに入っていた投書から冒険は始まった。


「見て、久々に投書あったよ! ほらね、やっぱり内なる悩みを抱えてる生徒はいるんだよ!」

「いたずらじゃねーの」

「ゴミ箱とまちがえた?」

「あり得ますね」

「みんな酷い! 久しぶりの投書なのに!」

「それで、なんて書いてあるの?」

「うん……読むね」


 それはフラン・フランヴァワーズからの依頼だった。


『生徒会の皆様ごきげんようですの! ぜひ生徒会のお力をお借りしたいですの!

 皆様は学園七不思議をご存知でして? その一つが、黄金伝説ですの!

 この学園は、かつてこの国が栄華を極めた時代の王城の跡と言われており、その黄金時代の金銀財宝が敷地のどこかに眠っているそうですの!

 残念ながら、私は見つけられなかったですの……。でも生徒会の皆様ならきっと見つけ出せると信じていますの! 頑張ってくださいですの!


 追伸

 分け前は半々で構いませんの!』


「フラン、あいつか……。ちゃっかり自分も取り分貰おうとしやがって」

「眉唾な話ですね。見なかったことにしますか?」

「いやいや、せっかくの目安箱への投書だよ!? これは全力でお宝を捜索して、生徒会の力をアピールするチャンスだ! そしたら目安箱にゴミを捨てる人も減ると思うし……」

「やっぱゴミ箱」

「でも、手掛かりもなしにどう探せばいいのかしら」


 そもそもフランちゃんは情弱で有名だ。あの子が仕入れてくる情報はいつも噂レベルで信用ならない。

 けど、学園七不思議というのが気になる。そんなの学園に来てから今に至るまで一度も聞いたことがない話だ。

 本当にお宝が眠っているのか怪しいものだが、調べて損はないと判断した。

 生徒会探検隊結成だー!


 そんなこんなで聴き込みを行なったが、わたしたち同様、誰も七不思議を知らない。長年勤めている先生方ですら噂を耳にしたことがある程度。

 しかし何故かコンフィズリ先生だけは詳しいらしく、案内してくれることになった。


「……よろしくお願いします、先生」

「ええ、よろしく」


 先生はこの学園出身で、在学中は学園内のありとあらゆる設備を破壊して回ったらしい。学園のことで知らないことは何もないそうだ。

 笑いながら語るその姿は狂気そのものだった。やっぱり怖い人だ……。

 放課後の校舎を、先生とわたしたち生徒会メンバーたちで練り歩く。


「学園七不思議かー。こういうの、わくわくするよね」

「でも本当なのかな……。『動く石像』とか、『死者の呼び声』とか……」

「いえ、あるわけありません。誰かの見間違いですよ……きっと……」

「それに七不思議のくせに、肝心の七つ目がよくわかんないしな」

「『六つの不思議を解き明かした時、現れる』か……。それが金銀財宝のことなのかと思いきや黄金の噂は別にあるし、一体何があるんだろ……」

「さーて、着いたよ」


 到着したのは、不夜城に繋がる鉄扉の前。

 コンフィズリ先生は聞いたことのない呪文を唱え始めた。


「栄光よ、時の主よ。過ぎ去りし夢の跡へ、我を(いざな)い給え」


 おいおい先生呪文間違ってるぜー、といったノリで生徒会のみんなと顔を合わせていたら、重苦しい音を立てて扉は開かれた。

 光の魔法が照らしたその場所は、地下(・・)へと続いている。不夜城の時とは違う部屋に繋がってる……?

 わたしたち一向は、学園のその下へと潜っていった。


「隠された財宝は地下にあるのかな……」

「なんかそれっぽいね! ダンジョンみたい!」

「そんで、お宝を守る魔物とかがいるわけか。まるで御伽噺みたいだな」

「いえ、あながち間違っていないのでは」


 一番後ろを歩き何やら思案していたクレープちゃんが、階段を降りながら人差し指を立てた。

 ちなみにフェーヴちゃんは七不思議の話を聞いてから怯え上がり、わたしにへばりついている。最早わたしの体の一部といっても過言ではない。

 シューはクレープちゃんの方を振り向き煽り立てる。


「なんだ? 御伽噺がまさか現実にあるだなんて言い出さないよな?」

「なんですか、あなた。無意味な発言で場をかき乱して何が目的……」

「まあまあ! そ、それで、何か気づいたことでもあるの?」

「七不思議のその二『不思議の扉』。これはてっきり不夜城の入り口かと思っていましたが、もしやこの地下へ続く扉のことなのではないでしょうか」

「確かに、噂と合ってるね」

「そしてその一『校舎の紋様』。校舎のどこかに魔法を発生させる紋様が刻まれているという話でしたが、これって今歩いてきた道そのものなのではないでしょうか」


 わたしはコンフィズリ先生の後について歩いてきた道のりを思い返してみた。

 思えば不夜城行きの時も、校舎を変なルートで歩き回ったらでかい鉄扉の前に辿り着いた。

 この歩くルート自体が紋様なのだとしたら……。


「扉が現れるのは、紋様をなぞったから?」

「はい、そう考えると辻褄が合います。それからその三以降の不思議もそれぞれ相関がないように見えて、実は関連し合っているのかもしれません。たとえば、ほら」


 クレープちゃんは、暗闇を照らすために放った光の玉を指差した。

 光はふわふわ浮いてわたしたちを照らしてくれている。


「気のせいと思っていたんですが、いつもの感覚で魔法を放ったはずなのにいつもよりも光が強いんですよ、何故か」

「なんでだろ。魔力操作が強すぎた、とか?」

「もし学園地下が魔力溜まりのような場所であるなら、その影響を受けたのかと。そして不思議その三『魔力の泉』も、地下の魔力溜まりから漏れ出したのだと考えれば七不思議同士が繋がってきます」

「だからわたしもいつもより元気なんだ! なんかすごい納得した!」

「えーっと、順番に繋がってるってことは、このまま進んでいくと七不思議その四から先が待ち受けてるってこと……?」

「『動く石像』……! 『死者の呼び声』……!」


 きゃー! フェーヴちゃんに加えシャルロットまで抱きついてきて身動きが取れなくなる。

 後方からクレープちゃんのなんとも言えない感情を帯びた視線が送られてくる。嫌悪とかではなさそうだけど……怖いから気づかないふりしておこう。

 こういう時、普段は頼りになるシューも死者に剣が効くか不安の色を覗かせている。

 生徒会探検隊、早くも瓦解寸前。この先大丈夫ですかね……。


「あらよっと」


 前方から凄まじい爆音が轟き、舞い上がる粉塵の中、コンフィズリ先生は平然と立ちつくしていた。

 驚くわたしたちに気づくと、急に笑顔を作り先生らしく振る舞い始める。


「みんな、怪我はない?」


 先生の奥に広がる部屋には、チェス盤のようなチェック柄の床の上に、、チェスの駒のような形の石像が立っていた……形跡があった。

 悪魔の顔をした石像たちは今しがた粉砕され、ほとんど原型を留めず砂と化している。


「……今の、コンフィズリ先生が……?」

「あ、ごめんなさい! 生徒会のみんなは七不思議の解明もしていたのよね。つい癖でぶっ壊しちゃった」


 ふふふ、と狂気の笑みを浮かべる先生を見てみんな竦み上がっていたが、わたしは何故か安心感を覚えた。

 この光景、わたしが魔法の練習を始めた時とそっくりだ。強すぎる魔力を操作しきれず暴走させたあの時を思い出す。

 この人、ほんとにガストリエのお姉ちゃんなんだな……しみじみ。


 その後、地下を歩いているとたまに地響きが起きた。

 この現象にクレープちゃんはすぐに合点がいったようだ。


「これが不思議その五『死者の呼び声』なのでは」

「死者が地面を揺らしてるってか?」

「はあ、そんなわけないでしょう。この地響きが、地上では死者の声に聞こえたのではないでしょうか」

「でも確かに、夜眠れない時に変な声が聞こえたことがあるけれど、その時も地面がちょっと揺れてた気がする」

「じゃあこれも七不思議なのか。なんか納得いかねーな」

「あなたが納得したかなんて関係ありませんが」

「まあまあまあ! とにかく死者なんていなかったってことで! ね!?」


 シューとクレープちゃん、馬が合わない……。身分の考え方的に相反する二人だからそりゃそうなんだけども。

 ひやひやするわたしを他所に、クレープちゃんは「そういえば、死者に魔力を流したら蘇るなんて噂がありましたね」なんて言い出した。やめてよ怖い話!

 実際のところ、死んでも魔力を流し続ければ動けるけど自我がないためゾンビみたいになるとか。それに魔力を止めればすぐに動かなくなるらしい。

 興味深く聞いていたわたしに抱きつきながら、フェーヴちゃんとシャルロットは耳を塞いでいる。器用だなあ。


「さて、そろそろ目的地に着くよ」


 地下の最奥、進むほどに地響きが強くなり空気が冷んやり張り詰める。

 わたしたちはゆっくりと、重厚感ある扉を開いた。

 暗闇の中に光の玉が飛んでいくと、光が何倍にも増幅し目を背けてしまうほど眩く輝いた。

 その室内は溢れんばかりの黄金で埋め尽くされていた。


「これが、不思議その六……『隠された黄金』!」

「学園の地下に、こんな場所が……」


 文字通り目を輝かせるわたしたち。

 その背後で、コンフィズリさんは一人、さらに奥を見つめていた。


「グルルルル……」


 空気を揺らす唸りに吹き飛ばされそうになる。

 揺らめく光の魔法の輝きが金銀財宝に反射し、やがて一点に収斂する。

 そこに鎮座するは、全身を鱗に覆われ鋭い爪や牙を持ち、燃え上がる赤に染まった魔獣の頂点──。


「えー! ドラゴン……!?」

「六つの不思議を解き明かしたら現れるという、七不思議その七……!」

「いや、でかすぎだろ……! どうする、戦うか……?」

「今ならまだ間に合います! 七不思議はもう十分解明しましたし、すぐに逃げましょう!」

「あわわわわ……」


 ドラゴンはわたしたちに気づいたのか双眸を開き、人ひとりパクっと食べてしまいそうな頭部をもたげた。

 呼気が風を起こし、喉を鳴らすだけで地が揺れる。

 巨大な翼を何度か伸ばし、ずっしりとした巨体を逞しい四肢で持ち上げていく。

 気づけば、遥か高みから見下ろされている。黄色く煌めく眼光はわたしたち人間の価値を値踏みしているようだった。


「いけ、フェーヴちゃん! 魔獣を操作するアレ、見せちゃって!」


 フェーヴちゃんが「やー!」と叫ぶと、ドラゴンの頭上に日傘が出現し、ポロリと落ちた。


「むり……! あんなにでかいの、初めて……」

「王家の力でも抑えられないんですか!? まずいですよ、やっぱり早く逃げましょう!」

「……そうだな。俺が殿になるから、みんなは先に──」

「怖くないよ」


 シャルロットが一歩前に出た。

 困惑するわたしたちを横目に、さらにもう一歩。

 唸るドラゴンへと、また一歩、歩を進めていく。

 そしてそのまま、シャルロットはドラゴンの首筋に触れた。


「ごめんね、突然起こしちゃって。大丈夫、怖くないよ」

「グルルルル……」

「え……? ふふっ、ふふふ……あははは! ふふふ、ふふっ、ふふふふ……もう、やめて……!」

「そうか! シャルロットはスキルで動物と話せるから、ドラゴンともお話できてるんだ!」

「……なんであんな笑ってるんだ?」

「さ、さあ……。何か面白い話でもしているのでしょうか……」


 笑いすぎて涙を流すシャルロットが、訳のわからないわたしたちにドラゴン語を通訳してくれた。


「昔、コンフィズリ先生がここに乗り込んできてドラゴンさん相手に大暴れした話をしてくれたよ」

「え、私?」


 後方で気まずそうにしていた先生は、突然矢面に立たされた。

 逃げようとするも、生徒たちからの冷たい視線に耐えかね、観念してドラゴンの前に出頭する。


「あー、いやー……その節はご迷惑をお掛けしました。あの頃は若気の至りで、つい魔法の練習台にしたりなんかして……ほんと、すみませんでした……!」

「グルルルル」

「『許さない』だそうです」

「そんな……!」


 何故か七不思議に詳しかった先生だが、なるほど、過去にわたしたちみたいに探索済みだったのか。

 にしても、ドラゴンを的当てに使ったなんて……。なんて面白い人なんだ。

 ガストリエちゃんはこの姉のこと、どう思うかな。やべー奴と思うだろうな。


 シャルロットがドラゴンと仲良くなったところで、わたしたちは地上へと魔法で帰還した。

 お目当ての金銀財宝はあえて持ち帰らなかった。

 かつて七不思議を制覇したはずのコンフィズリ先生は、その話を誰にもせず胸の内にしまった。それは何故か。

 きっと、今後後輩たちが危険な冒険に出ないようにしていたのだろう。

 そして、わたしたち生徒会なら、七不思議を解明できる……そう信じて案内してくれたんだと思う。

 まあ先生の同伴がなければどうなってたかわかんないけどね。

 先生がそうしたように、わたしたちもこのことは生徒会の秘密にしようと誓い合った。


 探検を終え、時刻はすっかり夕暮れ。

 寮に帰る道すがら、シャルロットが声をかけてきた。

 

「ねえ、コンフィズリさんってガストリエのお姉様なのよね。どうして他人みたいな話し方なの?」

「姉のことはわたしもあんまり知らないし、それに向こうもわたしがガストリエだって気づいてないみたい」

「そうかな? すごく心配してるように見えたけれど」

「心配……してたかな?」

「うん、きっと久しぶりの再会でうまく話せないだけよ。ほんとはもっと仲良く喋りたいものじゃないかしら、姉妹なら」

「……そっか。今度時間ができたら、お姉ちゃんとゆっくり話してみるよ」


 その“今度”が二度と来ないことを、この時のわたしは知る由もなかった。

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