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病弱令嬢のスキルクラフト!  作者: 鏡石渚
第2章

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21 学園入試①

 馬車に揺られ二時間ほど。白雪が降り積もる道の先に学園の校舎が見えてきた。

 緊張のせいか、少し震えているシュー。

 シューに殺意の波動を放つ、付き添いダリオル。

 そして、初めての学園にわくわくしているわたし。

 ついにここまで来たんだ。あとは勉強の成果を見せるのみ!


 白く染まった道には、学園へと伸びていく足跡がちらほら見られた。

 みんな、学園入学を目指す好敵手(ライバル)なんだ。まともに学習できる環境もない中で努力と研鑽を積み重ねてきた猛者たち……!

 前世で経験した時よりも俄然、緊張感に包まれる。隣を歩くシューを励まそうとするもうまく言葉が出てこなかった。

 そんなわたしたちの背後が何やら騒がしくなる。


 馬車……ではなく人力車が、車輪を軋ませながら走ってきた。

 牽引していた老執事は息も切れ切れ、脚をぷるぷると震わせ、顔も赤いのか青いのか判断つかない色に染まっていた。

 それでも執事らしい立ち居振る舞いで、人力車のドアを開く。……正確にはドアなんてものはなかったので、身振り手振り(パントマイム)で開けるフリをしていた。


「ガチャ、ギイイ……。さ、フラン様。学園に到着しましたぞ」

「ありがとうですわ、ティロパティナム」


 老執事の手を借り、ボロの人力車から一人の少女が降りてきた。

 平民っぽくないドレスを身に纏い、令嬢らしさを感じる言葉遣いの少女は、校門の前で高らかに宣言した。


「私、フラン・フランヴァワーズ。お家のため、お父様のため……必ずや学園に入学してみせますわ!」

「よっ! 男爵家の星! 今日も麗しいですぞー!」


 花吹雪を撒く老執事に見送られ、フランもまた、学園へと歩みを進めた。

 何故ここに貴族が……。特別枠の貴族は入学試験免除されるのでは? と思っていたらダリオルが即座に補足してくれた。


「特別枠の入学金を支払えない下流貴族は、こうして一般枠で受験するのです」

「そうなんだ。貴族も世知辛いね」

「マジかよ……。貴族ってことは勉強は完璧なんだろうな」

「ええ、あの手の受験者は間違いなく合格すると見てよろしいかと」


 特別枠は定員がないのに対し、一般枠は毎年三十名と定員が決まっているらしい。

 貴族が一般に流れてくると、その分平民の合格者が減ってしまう。これも平民の入学が難しい要因の一つなのだろう。

 とはいえ、わたしたちだって今日のために勉強してきたんだ。そう簡単に譲ってあげるつもりはない。


「大丈夫……やれるだけのことはやってきた! お互い頑張ろうね、シュー!」

「……ああ! 絶対に二人で合格してやる!」


 わたしとシューは拳を打ち合わし、二人での合格を誓った。




 試験が始まる。

 教室中にペンの音が鳴り響く。焦る気持ちを抑え、わたしは用紙に目を落とす。

 わたし的には第二、第三言語となるこの世界の文字だが、11年生きていればもうお手のものだ。読み書きも支障なく問題を解き進められる。

 とはいえ試験の難易度はそこそこ高い。詰まる部分もあるがなんとかなってる。

 ……あ、ここ! ダリオルで習ったところだ!


 そして午前の試験が終わった。時間に余裕がなく見返しはできなかったが、我ながら満足いく出来だったと自負している。

 教室内は緊張から解き放たれ、皆ぞろぞろと部屋を出ていく。

 午後の試験に向け、中庭では受験生たちが昼食を摂ったり集中を高めたりと思い思いに過ごしている。

 わたしとシューはベンチに座り、シブーストさんお手製お弁当を頬張りながら過ごした。


「シュー、午前はどうだった? 緊張してたみたいだけど」

「……まずまず。お前は?」

「ぼちぼちかな。勉強してきた成果は発揮できてるとは思う」

「そうか。じゃあ大丈夫そうだな」

「ねえねえ、合格したら毎日ここでお昼食べようよ」

「……いいのか?」

「いいって、何が?」

「お前は誰とでも仲良くなるから、学園に入ったら俺とは距離置くんじゃないかって」

「もうやだなー。シューの隣はわたしの特等席だよ」


 しばらくすると、ダリオルが現れた。まるで瞬間移動してきたように音もなく、雪に足跡をつけずに。

 白雪を背景に、黒のダリオルはよく映えた。


「頼まれていた件を調べて参りました。今年の受験者は二百余名だそうです」

「倍率六倍かー。これは狭き関門だ」

「……いやいや、ちょっと待て。なんでダリオル先生が普通に学園内にいるんだ」

「リエからの頼みで学園に潜入してますリエの隣に座るな教師に扮して学園の情報を集めてほしいとお願いされましたので」

「はあ? 潜入って……先生マジで何者なんだ」


 鐘が鳴り、午後の試験の時間を告げた。

 試験教室に戻る前に、わたしはダリオルにこっそり訊ねた。


「……で、どうだった?」

「芳しくないですね……それに今年は全体的に水準が高い。リエ様は問題ありませんが、シューはギリギリ不合格といったところでしょう」

「そんな……! ダリオル、なんとかできないの?」

「試験結果を改竄しろと? ええ、できます。しかしそれでよいのですか? これまでの努力をすべて否定する行為ですよ」

「…………そうよね。でも、うーん……どうしたら……」

「リエ様にできることはありません。これはシューの自己管理の問題ですので」

「自己管理……?」

「シューさんはどうやら体調不良のようです。少し触れてみたところ熱がありました」

「あ……! 緊張のせいかと思ったけど、体調不良で震えてたんだ。それで本来の力が出せないのか……」

「……それでは私はここで。午後の試験も頑張ってください」


 ダリオルは一瞬で服装を変え、教師に混じって去っていった。

 教室に入ると張り詰めた空気が肌に刺さった。わたしは自分の席に着く。

 午後の試験が始まる。


 ……もし今年の入試がダメだったら、また来年の挑戦となる。

 失敗してもチャンスはあるといえば聞こえはいいが、あれだけ頑張ってきたシューが浪人だなんて。

 シューは毎日勉強してきたんだ。お店で働きながら、空いた時間で自主学習し学園入学を目指してた。

 家庭教師(ダリオル)がついてからも変わらず今まで以上に勉強を続け、十分合格に足る成績だったと思うんだ。

 それなのに、体調不良で夢を掴み損ねるなんて……。そんなこと、絶対にあってはならない。


 教室中にペンの音が鳴り響いている。あ、そうだ……今は試験中だった。

 集中しなきゃ……。でも、シューのことが……。

 シューには合格してほしい。学園に入学し、お父さんに会う目標を叶えてほしい。

 来年じゃダメなんだ。できるだけ早く、今年度に入学するんだ。

 わたしには何もできないかもしれない。けど、わたしにできることがあるならなんでもしたかった。

 シューのために……。




 合格発表には一月もかからなかった。

 パティスリーに二通の手紙が届く。何故かわたしたちより緊張しているシブーストさんに見守られながら、わたしとシューは掛け声とともに手紙を開いた。


「おい、なんて書いてあるんだ……?」

「ちょっと待て、えー…………あ、合格……! 合格って書いてある……!!」

「やったじゃねーか! すげーぞ、流石はグジェールの息子だ!」

「ああ! これでかあさんと同じ学園に行ける!」


 シューは喜びを噛み締め、おじいちゃんと抱き合っていた。

 そこでふと我に返り、こちらに視線を飛ばす。


「パティスリエはどうだった? まあ俺より頭いいし、当然合格だろうけど」

「……いやー、不合格だったよ。頑張ったんだけどねー」

「え……。う、嘘だろ……?」

「そ、そうか……。残念だったな、嬢ちゃん」

「……まあダメだったものはしょうがないよ。合格おめでとう、シュー。わたしの分まで学園生活楽しんできてね!」

「あ、ああ……」


 わたしに気を遣って暗い表情になる二人を励まし、ダリオルを呼んで、シューの合格記念に店をあげての盛大なお祝いをした。

 シューは複雑そうにしていたが、わたしのことなんか気にする必要ない。学園入学という夢への切符を手に入れたのだからもっと喜んでほしい。

 これで春から、シューは学園に行き、わたしはパティスリーで勉強と製菓の修行を続けることになる。

 シューと離れ離れになるのは寂しいが、来年わたしが受かれば一緒に学園生活を楽しめる。それまでしばしの別れだ。


 お祝いもお開きになり、シューは家庭教師をしてくれたダリオルに感謝の意を伝えていた。ふむふむ、いい師弟関係が築けてそうだ。

 その光景を満足そうに見ていると、ダリオルに呼び出された。

 二人きりで話したいと言われ、わたしたちは店を出て少し歩いた。


「リエ様が不合格で、不調だったシューが合格とは。これまた意外な結末でしたね」

「そうね、シューの頑張りには目を見張るものがあるわ。わたしもシューに倣って頑張らなきゃ」

「ところでリエ様の試験結果を見ましたが、どうにも腑に落ちない」

「そう? あれがわたしの限界だったのよ。期待に応えられなくてごめんなさい」

「……嘘はいけませんね」


 ダリオルは立ち止まり、わたしを見つめてくる。

 いや、もっと深く……心の内まで覗かれているようにすら感じた。


「あなたはわざと(・・・)不合格になった。違いますか?」

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