最後の手紙
この手紙を読んでいるということは、お前は最後の宝箱を開けたのだろう。
広大なダンジョンの攻略、本当にご苦労だった。
そう、伝説の大迷宮と言うのは真っ赤な嘘だ。
からっぽ、徒労、無駄足、あらゆるがっかりする単語を授けよう。「ふざけるなクソ親父」という悪態が聞こえてくるようだが、復讐したくとも私はすでに死んでいる。残念だったな。
お前は昔から命を敬う気持ちを持たない子供だった。
不治の病を得た私が後悔したのは、ただひとつ。息子に人間としての正しい優しさを教えてやれなかったことだ。
母さんの死は早すぎたが、それは言い訳にならない。片親であっても両親がいなくとも、立派に育った子はたくさんいるのだから。
責任は私にある。
だからこそ残された力のすべてを注ぎ、このダンジョンを用意した。
お前に心を与え直すために。
道の途中に、帰郷を願って行き倒れた冒険者がいただろう。
面白半分に狩り出され、傷を負って逃げてきた妖精がいただろう。
人間と姿が異なるというだけで理不尽に住処を追われたモンスターの親子がいただろう。
お前は泣いて命乞いする彼らを葬り去って装備や魔力を手に入れ、最奥部にたどり着いた。最高の力を得たいという浅ましい我欲の下に。
なぜ見逃してやらなかった?
なぜ少しも心を動かさなかった?
なぜ歓喜の声をあげながら弱き者の命を奪った?
もう気づいているように、哀れな犠牲者は私が配置したオブジェクトだ。
すべてのスイッチは順調に押された。そろそろ魔法が発動する頃だろう。私の人生の成果、漆黒の大魔法が。
おめでとう、息子よ。
お前は最高の魔力の代わりに、変身を得る。
そしてお前は魔王となり、
世界中の勇者がお前を殺しにくる。
私は幾度か警告をした。
お前が母さんの肖像画をどちらか一方でも見に行っていたなら、その場に置かれた私の手紙を読むことができただろう。これが偽りのダンジョンだという種明かしと、長い長い詫びの手紙を。
だがお前はどこまでも他者を慈しまなかった。
その結果が、今だ。
突き放した物言いになってしまったが、お前が可愛い我が子であることに変わりはない。
小さくともあたたかな幸せを手にして欲しかったし、そう導けなかった己を悔いつつ、この手紙が永遠に開封されないように願っていた。
それだけは真実だと誓おう。
さあ新たな魔王よ、名声を求め押し寄せる勇者達に何を語る?
ありったけの言葉で罵り、力の限り戦うか。
顛末を打ち明け同情と助けを乞うか。
もし潔く口を閉じてこちらへやってきたなら、その時は存分に不平不満を聞きたい。母さんとも一緒になれることだし、家族三人でやり直そう。私としてはそれが最良の選択ではないかと
いや、こうした訴えなど無用なのかもしれない。
どれだけ残虐で周囲を苦しめようと、お前は自分の力で人生を歩んできた。当然、相応の責任を負う覚悟もできているだろう。
我々親子はここで終わりだ。
どうか老いた病人の今際の戯言としてこのくだらない手紙を焼き捨ててくれ。お前自身が築き上げた、比類なき最高の魔法で。
魔王になった息子へ 愛を込めて
最後まで無力だった父より




