兄セドリックの懸念
アンリエッタとエルネストの婚約は、周囲に伏せられていたため、大っぴらに二人が連れ立って歩くこともなかった。
第一王子の悋気を誘い、信頼関係が失われることを避けるためである。
ただ、王子の側近候補達とは皆近しい関係だったということもあり、アンリエッタが他の側近の令息達と親しく話していても咎められることはなかった。
それでもエルネストにはロドニーに対する負い目はあった。
ロドニーには婚約者が決定して、アンリエッタに対して独占欲を出せなくなってしまったのはストレスだっただろう。
「アンリエッタが、僕をロドニー様って名前で呼んでくれなくなった。第一王子殿下って呼ばれると、凄く他人行儀で距離ができてしまったようで寂しい」
そう側近候補達にも溢していた。
もう一人の次期宰相候補はアンリエッタの兄、セドリック。
ロドニーの側近候補達の中で最年長だ。
エルネストとの婚約を知る数少ない一人。
「仕方がないでしょう。父上も私も、アンリエッタがそうしていることに賛成です。殿下には婚約者がおられるのですから」
「メルローサはつまらない。難しい話を父上とよくしているけど。僕はアンリエッタがよかった」
何かあるたびに城に呼び出される妹が不憫だと何度も思ったことがある。
いくら王族とはいえ、まるで自分の所有物のように考えている節があるのには不満を持っていた。
「恐れながら殿下。妹は貴方様の為に存在しているのではありません」
そう言われ、ロドニーは唇を嚙む。
「…もっと…もっとアンリエッタを自由にさせてたら…僕の妃になってくれたのかな」
何故この方は、アンリエッタにも心があるのだと思えないのだろう。
「殿下は、ご自身さえよければそれで構わないのですか」
「…」
「それに、メルローサ嬢にだって心があるのです。ご自身の事ばかりで、公爵令嬢のお気持ちを少しでもお考えになられたことは」
「メルローサだって僕の妃にと望んだわけではないだろう」
確かに、そうかもしれないとセドリックは嘆息する。
「ですが、メルローサ嬢も努力していらっしゃいます。最近では王太子殿下も国政を任せるに足りる方だと仰っていました」
国政の中枢を担うのは宰相の仕事になる。
セドリックにすれば直接仕事相手となるのだから、王子妃が有能なのは大いに助かる。
アンリエッタでは不足という訳ではない。
ただ、エルネストが外務を担当する場合、内務はセドリックに回ってくる。
仮にアンリエッタが王子妃になるならエゼルキナ侯爵家の力が大きくなりすぎる。
そういうパワーバランスの点でもアンデル公爵家の令嬢が王子妃になるのは好ましいと思えた。
頼れる王子妃とセドリックが国内を固め、アンリエッタとエルネストに外交を任せる。
たとえ王子の能力が低くてもそれでやっていけるはずだ。
(王太子殿下も、もう少しロドニー殿下を厳しく躾けることができなかったのか)
妹の気苦労を思えば、どうしてもそう考えてしまう。
逆にアンリエッタという逃げ道があったからどんどん逃げて行ったのだろうが。
王子殿下からアンリエッタを引き離すのが最良というのはセドリックには納得がいった。




