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その婚約破棄は困ります  作者: 葵


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友情の証

「そんなことは…現に小公爵様もご心配して登城されていらっしゃるのでしょうし」

「心配?兄上が?」


ありえない、とメルローサが笑い出す。


「アンリエッタ様。エゼルキナ侯爵家ではどのような家族関係かは推し量りかねますが、少なくとも父も兄も私の事は家の為に仕える駒としてしか見ておりません」


アンリエッタは反論しようと思ったが、自分の思い込みを押し付けるのも良くない。


「兄は公爵家を継ぐ者として王都に留まり、領地の実務を私に任せるつもりでしたわ。私に長く婚約者も定まらなかったのは最良と思われる政略の相手が見つからなかったからですわ」

「それは勿体ないことでは」

「ありがとうございます、アンリエッタ様」


アンリエッタはメルローサに向かい合って座った。


「ですから第一王子殿下との縁談が来た時には、一も二もなく父は飛びつきましたわ。想い人がいるという評判の王子殿下との婚約に。そんな相手と私が幸せになれると本気で思っているわけがないじゃないですか。父にとって大切なのはアンデル公爵家にとっての利のみです」


自分にはとても考えられないことだったけれど、高位貴族の子女ならそれも当たり前のようにあることなのだろう。

アンリエッタは好きだと思える人と婚約できて幸運だったのだ。


「ですが、私はメルローサ様がロドニー殿下の婚約者であって良かったと思っているのです。その、私から見たらメルローサ様はしっかりなさってると思うので」


アンリエッタがそう言うと、メルローサが溜息を溢した。


「私はしっかりしなきゃいけなかったから」


それについてはアンリエッタも同意できた。

何かにつけて自分を頼りにしてくるロドニー。

自分が居ればロドニーが駄目になる。

そう思ったのに、メルローサに頼りきりなのでは何も変わってない。


家でも王宮でも、しっかり支える役目を背負わされてきたメルローサ。


「メルローサ様。私はメルローサ様を支えたいと思います」


そう言うと、メルローサは目を見開いてアンリエッタを見遣った。


「臣下となるから、だけではありません。支えるばかりでは人は立っていられないでしょう?メルローサ様のなさることが、私にも共感できるからなんです」

「アンリエッタ様…!」

「メルローサ様、これを」


そう言うと、アンリエッタは持ってきた箱を取り出した。

先日宝飾店で作ったブローチだった。


「あの、これは?」

「私をお友達と言ってくださったメルローサ様に。私達の友情の証として」


箱を開けると、鳥を象ったピンクダイヤとダイヤをあしらったブローチが現れた。


「私も、同じものを作りました。目的に向かって走り続けていたら疲れる時だってあります。そんな時に、支えてくれる人がいると思えたら、きっと強くなれると思うのです」


メルローサはブローチを手に取って眺めた。

ピンクと透明な2つのダイヤがきらきらと陽光を反射している。


「学び舎の設立について、私も大いに感銘を受けましたの。アンデル公爵家とエゼルキナ侯爵家では得意な分野が違っています。ですから、私は学び舎で教えを授ける講師を集めて育てていきたいと思ったのです」

「講師を、育てる?」


尋ねるように復唱したメルローサに、アンリエッタが頷く。


「そうです。教えを授ける者も、様々な能力の者がいます。同じことを教えるのに知識やマナーのばらつきがあっては困ります」

「それで、講師を育てるのですね」

「高位貴族家にて勉学を教える講師達は、それぞれの情報を共有していません。ですから教えを乞う側の子女達も、教える講師によって得られる学びに差ができてしまいます。それは健全な家門や領地の経営にも差がついてしまいます。ですが、その機会が均等であれば、どの領地にも大きな問題が起きにくくなるはずです」


暫く呆けたように聞いていたメルローサが、顔を綻ばせた。


「アンリエッタ様…!なんて素晴らしいお考えなのでしょう。私はただ、教えを授ける場があればそれでいいのだとばかり思っていました」

「メルローサ様、これが支え合うということなのですわ」


それを聞いて、メルローサはアンリエッタを抱きしめた。


「ずっと私が頑張ればそれでいいのだと思ってまいりましたわ。でもアンリエッタ様がいてくださって、本当に良かったと思いました」


メルローサの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「これを、今、つけても?」


ブローチを箱から取り出すと、大事そうにそれを両手の上に乗せた。


「ええ、私が着けてさしあげましょうか、メルローサ様」


にっこり微笑んだアンリエッタにそれを渡すと、ドレスの胸元に着けてもらった。

丁度胸元で浅い角度で左右に分かれるドレスのラインに沿って、羽を広げた鳥がそこで羽ばたいているようだった。

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