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第四話:覚悟


 レイアは一度大きく息を吸い込み自らを落ち着かせた。

 そして何か決心した様な力強い瞳を飛鳥に向ける。


「飛鳥様。あなた様にここシルフィニア魔法王国の第ニ十代女王陛下になって頂きたいのです」


 予想してた通りの答え。 飛鳥も真剣に聞く。私を選んだのは私しか力を持つ者がいないから。でも召喚しなければレイアに力があったはずだ。その理由が知りたい。


「……私でいけなかった理由は?」


「この国は代々女性が統治すると決まっています。ですが成人したフェルド家の血を引く者でないと王である証の精霊王との契約をすることが出来ません。なので本来は飛鳥様のシルアスカ様を召喚しこちらの世界に帰ってきていただこうと思っていましたが……」


「来たのはお母さんの力を継いだ私だったわけだ?なるほどね。でも成人したって言ってたけど私まだ十六だよ?ってか精霊王?なにそれ」


「それは大丈夫です。この国の法は成人は十五才と定められていますから。精霊王とは魔法を使う為の精霊の王で、その精霊王との契約がないと魔法は使うことが出来ません」


 魔法……本当にファンタジーな世界に来たんだなと飛鳥は思った。


「それで私に国王になってほしいわけなのね。でもレイアじゃだめだったの?後十年待つとか」


 その言葉を聞いたレイアは悔しそうな表情になる。


「それは隣国である武装王国ガルガンドが侵略してくる可能性があったのです。今までガルガンドはこちらの魔法を恐れ侵略してこなかったのですが、先代女王の死をきっかけにいつ動き出すか分からないのです」


 確かにレイアが成人するまでの約十年の間、他国が侵略をしないとは言い切れない。むしろ確実に侵略するだろう。魔法と言う脅威が無くなった今、これ以上のチャンスはない。


「……他の国は魔法は使えないの?」


「ガルガンドは魔法は使えません。武力は強大ですが。エルフ族率いるフランソワ王国は治癒魔法に特化した一族です。攻撃系の魔法は使えません。代わりに人間より遥かに高い身体能力と自己治癒能力があり、ガルガンドはどちらにも手が出せずにいました」


「なるほど。私が精霊王と契約して王国に魔法の力が戻れば、ガルガンドも侵略してこない。ってわけね」


「その通りです。ですから!お願いします。この国を救ってください!勝手な言い分というのはわかってます。ですがこの方法しかなかったんです……」


 レイアは再び頭を下げる。ぽたっと足元に涙を落として震えながら飛鳥に懇願している。


「……わかったよ。頭をあげて?私には選択の余地はないんだから」


 もう元の世界に戻ることは難しい。この世界にいるのならせめて自分に出来ることはしようと思った。そう思って飛鳥は受け入れた。現実を、運命を。


 その言葉を聞いたレイアが顔をあげて飛鳥に飛び付き大声をあげて泣いた。

 飛鳥はレイアの頭を撫でてなだめる。


「今までがんばって耐えてきたんだよね。ごめんね?自分の事ばっかり考えてて相手の事なんか知ろうともしなかった。レイアはまだ小さいのに立派だよ。だからもう無理しなくて良いからね?」


 レイアはしばらく泣き続け、泣き疲れたのか寝てしまった。


「ふふっ。かわいい寝顔。まだまだ子供だね」


 飛鳥は眠っているレイアの頬を突っつきながら呟く。

 ふと外を見てテラスに出ると外はもう暗く、これからの飛鳥を見守るかの様に星達は輝き。月の光は飛鳥を優しく包んでいた。


「もう戻れないんだよね……」


 月明かりの下の飛鳥の影は寂しそうに揺れていた。




「てか、お腹空いたよ。召喚から丸一日何も食べてないんだけど……仮にも女王陛下になるんだよね私?普通『お食事をお持ちいたしました』って展開あってもよくない?」


 ――シーン……


「よし!いつまでもウジウジしてらんない。セルフ上等だよ。食堂かなんかあるでしょ。探索がてら行きますか」


 扉の前に行き振り返る。


「レイアは……置いといていいかな?」


 飛鳥は部屋から出ていった。なぜかわからないが飛鳥はどこかのスパイのように足音を消して忍び足で進む。

「フフフ……今の私はあのスネ○クよりも隠密行動を得意とする超S級諜報員の【アスカ】だ!見つかるはずはない!」


 アスカは気配を消し階段を降りていく。すると階段の先に敵兵二名を発見する。


「二名か……できれば戦闘は避けたい。よし」


 アスカは壁に沿って足音を消し敵兵に近づく。


 ――シュッ!


 一人の敵兵の後ろから首に手刀を叩き込む。異変に気付いたもう一人の敵兵が振り返る。敵兵の両目を素早くジャブで攻撃し一時的に視力を奪う。


「――うがっ!」


 敵兵が目を押さえて怯んだ隙に倒れている敵兵の剣を取り未だ怯んでいる敵兵の背後に回り込む。


「動くな。わかったら両手を挙げろ。ゆっくりだ」


 敵兵はアスカの言う通りに手を挙げる。


「聞きたい事がある」


「……何だ?」


 ――バシッ!


 アスカは敵兵の膝裏に蹴りを入れ跪かせた。


「口の聞き方に気を付けろ!食堂はどこだ?」


「食堂だと?そんな事聞いて――ぐっ……」


 アスカは剣に力を加える。


「いいから答えろ。どこだ?」


「か、階段を降りて左手に少し進んだらそこに食堂がある」


「そうか。じゃあな」


 ――シュッ!


 敵兵に手刀を叩き込む。倒れた敵兵達から財布を抜き取る。


「このまま置いておくと見つかるのも時間の問題だ」


 アスカは敵兵を隅っこに移動さして何故か抱き締め合う様に寝かせて食堂に向かった。

 食堂に行くとちょうど晩飯時なのもあり結構な人がいた。


「結構広いなー。それに400人ぐらいいるかな?隠密行動はここまでだね」


 諦めた飛鳥は食堂の注文するための列に並ぶ。

 飛鳥の存在に気付いたのか列に並んでいた人達が一斉に道をあけ始めた。飛鳥の前には誰もいなくなった。


「ん?なに?譲ってくれる感じ?ラッキー」


 飛鳥はスキップしながら受付に行く。食堂のおばちゃんっぽい人がいた。


「い、いらっしゃいませ女王陛下様。き、今日はどういったご用件で?」


 食堂のおばちゃんは顔が引きつっている。


「女王陛下って、はぁー。おばちゃんそれみんな知ってるの?」


「は、はいもちろん!城内でそれはもう噂になっております」


「肩身狭いな〜。まぁいいや!おばちゃん。えーっとあの人が持ってるの特盛でちょうだい?」


 飛鳥は周りで飛鳥を観察していた青年が持っていたしょうが焼き定食のような食べ物を指して言った。

 その青年はいきなり自分が指された事に驚きトレイを落としてしまった。


「あららーもったいない。おばちゃん。いくらかな?」


「!!女王陛下様からお代を頂くなんて滅相もございません!もちろん無料です!しかもこんな食堂の物を食べるだなんて、その大丈夫でしょうか?」


「え?タダなの?じゃあお言葉に甘えて。あ、でもさっき落とした子の分払うからもう一度出してあげて?いくら?それに食堂のご飯私好きだよ?」


 そう言うとトレイを落としてしまった青年は失神して倒れた。


「どうやらご飯どころじゃないらしいね?じゃあよろしくね!出来たら読んで?」


 そう言うと飛鳥は空いている席がないか見渡した。するとその視線を感じたのか、座っていた人達は急いで食事を終わらせた。


「そ、そんな避けなくても」


 飛鳥は少し残念そうに呟いた。ガラガラになった席の真ん中辺りに座り少し待っているとおばちゃんが料理を持ってきてくれた。


「おばちゃーん。呼んでだくれたら取りに行ったのに」


「いえいえ。そ、そんな事できません」


 女王陛下様ー。料理できましたよー?なんて誰も言えないだろう。


「ありがとおばちゃん。あれ?何かこれ種類多くない?」


 先程の青年が持っていたのはしょうが焼きに白米に汁物に漬物っぽいものだった。しかし飛鳥のトレイにはサラダが付いており、デザートも付いていた。


「サービスさせていただきました!お口に合えばよろしいのですが」


「おばちゃんありがとう!あ。私は飛鳥っていうの。ちょくちょくくるからよろしくね?」


 何故かおばちゃんも倒れた。落ち着いた後、飛鳥はようやく食事を食べ始めた。

「うまい!イケるじゃん!」


 それは飛鳥の居た元の世界とほとんど変わらなかった。味も食材も食材名も一緒だった。

 飛鳥がそう思いながら食べていると、少し離れた所に一人で食べている赤い髪をした深紅の瞳の鎧を着た少女と目があった。


 ――キラーン!


 飛鳥は目を光らすとトレイを持ちその少女の隣に移動した。

 少女はあまりの飛鳥の素早さに逃げることが出来ずに固まっていた。


「一緒に食べよ!」


「…………………」


 飛鳥がキラキラした瞳をしながら放った言葉の意味がわからなかった少女は固まっていた。


「おーい?」


「はっはい!」


「一緒に食べよ?いいかな?」


「はい!」


 テンパっているのか少女はいきなり立ち上がり前方に向かって敬礼しながら返事をしていた。


「まず座って!私は飛鳥。あなたは?」


「はい!女王陛下様!私はサラと言います!」


「サラって言うんだ。私は飛鳥ね?よろしく」


「はい!女王陛下様!よろしくお願いします!」


「私は十六才の飛鳥っていうんだけどサラはいくつ?」


「はい!女王陛下様!同じく十六才です!」


 ――ぶちっ!


「ねぇサラ?サラは何で鎧着てるの?次名前で呼ばなかったら女王陛下の命令で死刑」


 飛鳥が言った瞬間ピシッと周りの空気が凍った。


「は!はい!あ、あ!飛鳥様!私は魔法剣士隊に所属している為鎧を着てるのです!」


「そうなんだ?軍隊みたいなのかな?今度見てみよう。じゃあその堅っ苦しい喋り方を直す事。逆らったら分かるよね?」


「はいー分かりますよ飛鳥様。飛鳥様は何で剣なんてもっていらっしゃるのですかー?」


 サラは滝のように汗をかきながら聞いてきた。


「あ。これは――」


 その時食堂にベルオスが叫びながら入ってきた。


「侵入者だ!食堂に向かったとの事らしい!侵入者は女で異国の服装だったらしい!侵入者は屈強な衛兵二名を素手で倒し剣を奪って逃走し非常に危険だ!見た者はいないか!」


 食堂にいた全ての視線が飛鳥に突き刺さった。


「貴様かー!って女王陛下様!!」


「てへっ」


「女王陛下様!なぜそんな真似をしたのです?」


「スリルを感じたかった。後悔はしていない」


「それはいいとして、なぜこのような場所でご食事を!」


「お腹が空いたからよ。召喚されてから一日以上経つけど待てど待てど食事が来ないし誘いも無いからこうやって足運んで来たんでしょうが!何?ベルオス。まさか私に餓死しろと?飯を食うなと?」


 ベルオスは顔を真っ青に染めて弁解する。


「滅相もございません!確かに女王陛下様の言う通りでございます。申し訳ございません。しかし衛兵をあそこまでやらなくてもよろしかったのでは?」


「分かればいいわよ。私もご飯が出て当たり前って思ってたのはいけないし。衛兵?弱すぎよ?鍛え直すように言っといて!こんな可愛い少女に一発よ?」


「きつめに言っておきます。お話したいことがあるのですが、後程会議室に来ていただいてよろしいですか?」


「わかったわ」


 ベルオスが去った途端食堂は騒がしくなった。


『衛兵を一発だってよ』

『あんな細い身体にどこにそんな力が』、『怒らせたら間違いなく死ぬな』などとひそひそ話が聞こえてくる。


「サラこの剣あげる。いらないし。それに用事が出来たから行くね?またねサラ」


「はい!またです飛鳥様」

 飛鳥は食堂を後にした。


 ベルオスとの第二ラウンドが始まろうとしていた。




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