六十七話:白の学舎
摘心したバジルの蕾を水につけていたら、花が咲きました。
バジルの花は、始めはミントのようなスースーと清涼感がきて、途中からバジルの香り、次にボソボソ感とすこしのえぐみがありました。
すこし乾燥しちゃっていたものを食べたので、ボソボソ感とえぐみはそのせいかもです。
今回は早足です。
ヨミちゃんにいろいろ教えてもらって、その夜。
「祖たる鷲の羽搏き……神解き砕く不倒の城壁……」
今日もメラニーが広場で魔法の練習をしている。
でも、様子がおかしい。
「篠突く雨の悉くを弾き……天分かつ無二の剣……」
唱えている魔法は、昨日の夜のものと同じ。
でも、なにも起こらない。
メラニーの魔力は動いているし、その両手で持った杖にもたくさんあつまっているけれど、風は生まれていない。
「正解じゃなかった……? いや、昨日は……ならどうして……」
首をかしげて、うんうん唸っているメラニーを眺めて、僕も首をかしげる。
帰る時間になるまで、メラニーは昨日の魔法を使うことは出来なかった。
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翌日。アベルとギルスが街を案内してくれた。
北の大通りは物を売っているヒトが多いらしくて、色がたくさん使われていて、模様が入ったお洒落な服のヒトが多かった。
大きな鞄を背負っていたり、荷車もあった。
あ、そうそう! ヒトよりも大きな亀さんがたくさんの鞄を背負っていたんだ! 小亀竜っていうんだって。
すっごく大きいから、道の半分くらいを塞いじゃって、連れてきたらしいヒトが怒られていた。
亀竜はもっと大きくて、爪や頭の角や尻尾、甲羅の棘に毒があるんだけれど、それは育つ環境で毒を持たないと生き残れなかったり、食べものに毒が入っているからなんだって。
だから、毒が必要ない環境で、毒のない食べものを食べて育てられた小亀竜は、毒を持っていないし、力持ちだしで、大きな荷物を運んでもらうのに大人気なんだって。
まるく削られた角がうしろ向きに六つ生えた頭を、怒られているヒトへとじっと向けていた姿が、なんだか印象的だった。
アベルとギルスが教えてくれる場所は、どこもかしこもお酒の匂いでいっぱいで、「ガハハ!」って笑い声もいっぱいなところだった。
とってもたのしそうな場所だったから、たのしい気分になりたい時にまた行きたいな。
アベル達と別れて、お昼ごはんを食べたあとは、クエスト!
今日は白の学舎? に行くんだって。
お屋敷の扉を触ってすこし下がると、扉がギーっと開く。
昨日のお昼もだったけれど、お屋敷の男のヒトが言っていた通り、僕でも開けるようになっている。
あの男のヒトには、お礼を言っておかないとね。
お屋敷に入ると、さささーっとまっすぐ掲示板へ。
お目当てのクエストをジャンプして咥えて取ると、次は受注窓口!
今日も土ごーれむさんに持ち上げてもらって、クエストを受けて、お屋敷から出る……!
ふっふーん。
なんだかとっても、冒険者って感じ。
今日もしっかり解決しちゃうよ!
お屋敷の広場を抜けて、門から出る。
すぐに右に曲がって、お屋敷の隣りの白い建物。
ここがトリシアが言うには白の学舎? なんだって。
大きな三角の左側に、縦に長い四角が付いたような白いレンガの建物は、門に使われている赤茶色のレンガを際立たせていて、とっても綺麗だった。
それに、太陽の光でなんだかキラキラしている気がする。
たくさんある窓には、模様を作る様に硝子がはめ込まれている。
縦に長い四角の建物に付いた窓の一つ。
その向こうから覗くなにかと目が合った、と思ったら、下へと消えて行った。
「テレッサせんせーへんなのきたー」
大きな三角のまんなか部分にある出入り口。
開けっ放しの両開きの扉の向こうから声が聞こえた。
さっき覗いていたヒトかな。
意を決して中へと入る前に、足踏みをして、足についた土や砂を落とす。
よし!
気を取りなおして、入って行く。
白いツルツルした石の床。
天井は高く、テントの様な骨組みが見える。
夕焼け石がところどころ置いてあって、とっても温かい雰囲気。
ふと、左の方から、たたたーっと明るい黄色の長い髪を、左右に大きく揺らして、女の子が走って来る。
女の子が僕と目が合う。
「きゃぁあああ!!」
悲鳴が上がった。
女の子は悲鳴を上げながら僕へと向かって走って来て、
「かわいい!」
と僕の頭をガッシリと両腕を僕の首に回した。
女の子にうしろに押され、足が滑って体勢が崩れる。
女の子を支えきれずに、うしろに倒れた。
倒れ込む様に、女の子が僕の上にのっかる。
び、びっくりした。
悲鳴もびっくりしたけれど、たいあたりされたのもびっくりした。
この女の子、いったいどうしたんだろう。
「おねえちゃんがいっていたとおり! とってもふかふか!」
女の子の腕にさらに力が込められる。
痛くはないけれど、首が絞まる。
うぐぐぐ。
だれか助けて―!
「あー! せんせーアニーちゃんがへんなのおそってるー!」
僕の首を絞める女の子と同じ方向から来た男の子が、こっちを見るなり引き返して行った。
白に水色の線が入ったゆったりとした服を着て、頭巾を被った女のヒト――テレッサを男の子――ジルが呼んで来るまで、僕はアニーことアンに首を絞められていた。
テレッサに助けられて、アンとジルに挨拶した。
その時にはアレクトにウィストール、ヘデラ、ストライア、アシュリカと、お祭り前に知り合ったごにんも来ていた。
ごにんはここに住んでいるんだって。
今日はこのななにんが僕と同じクエストを受けたみたい。
みんなで中で繋がっている隣りの建物に移る。
門の方から見ると、縦に長い四角だったけれど、奥にも長いみたい。
光沢のある木の床に、澄んだ空気、たくさんの窓からは太陽の光が入る。
六つの背の低いテーブルにたくさんの小さな椅子があって、一番奥には、カウンター越しに台所のような空間が見えた。
みんな一斉に好きな場所に座っていく。
日が当たっている場所に座ろうとキョロキョロしていたら、よいしょー! とアンに持ち上げられて、隣りに座ることになった。
最初にテレッサは、紙で作ったお金を使って、数字について教えてくれた。
僕は“二”から上は全部“いっぱい”でいいと思うんだけれど、ヒトと関わるなら、そうも言っていられないみたい。
がんばって計算出来るようにしないと!
紙で作られたお金をたくさんあつめるゲームで、ウィストールが一番になって、「このお金に働いてもらって、さらに増やします」って得意気に言っていたけれど、どういうことなんだろう。
あ、そうそう。
硬貨っていう小さな円盤が、この町で使われているお金みたい。
冒険者ギルドや商人ギルド? とか、いろんなギルドが認めた硬貨で、ほかのお金を使っているところももちろんあるらしいけれど、一番使われているのは、この硬貨なんだって。
なんだかよくわかんないけれど、すごいね。
銅貨、銀貨、金貨があって、銅貨が千枚で銀貨。
銀貨が百枚で金貨。
銅貨一枚でも買える物はパンとか、小さなリンゴとかたくさんあって、このクエストの報酬は、銅貨五枚なんだって。
あ、お肉は銅貨三枚から買えるんだって!
そう考えると、銀貨とか金貨って、なにを買うためにあるんだろうね。
やっぱり、一度にたくさんお肉を買うのかな。
そのあとはすこし休んで、裏のお庭でセンチメートルとメートルについて教えてもらった。
うん。
よくわからなかった!
センチが百個でメートルなのはわかったけれど、目で見てパッとなんメートル! とはわからないね。
お庭の中に隠された模型を探し出して、形と大きさを伝える役と、伝えられた情報を元に模型を作る役にわかれるゲームをしたけれど、模型を見つけるまではいいんだけれど、伝えるのがとーってもたいへんだった。
練習しないと、だね。
終わりごろにテレッサの服の裾に、いろんな色のお花の様な模様を見つけて、『綺麗なお花だね』って言ったら、「はい。天の遣いもこふわです。空の花束とも言われているのですよ」って、皺のある顔を綻ばせていた。
もこふわ……不思議ー。
太陽もかたむいて、空も橙……オレンジだっけ。
みんなでお屋敷に行って、クエスト完了と報酬受け取りをして、白の学舎にもどって、テレッサに別れの挨拶をした。
その時に「寄り道して遅くなると、エイダに攫われてしまいますよ」と、テレッサがアンに注意していて、アンが攫われないように、『僕がお家まで送るよ!』と言ったけれど、テレッサに「この時間帯は、冒険者達が帰って来るから真っ直ぐ帰れば大丈夫」って言われたから、僕はそのままお屋敷の広場に帰った。
でも、今考えてみると、アンは一度捜索願いが出ているよね。
大丈夫なのかな?
うーん。
きっと大丈夫だよね!
よーし、日も落ちて来たし、メラニーが来るまで寝ようっと!
読んでいただきありがとうございます。




