六十三話:お祭りわっしょい
今日はスーパームーンの皆既月食らしいですね。
「では始めるとしよう。此度の緊急避難、避難誘導の協力に感謝すると共に、新たな仲間であるワカバとの出逢いを祝して――乾杯!」
首をかしげつつも、乾杯! と一斉に声を上げるヒト達。
お酒を飲まないけれど、僕も一緒に『乾杯!』と言うと、「わぁ!」と小さく声が上がった。
窯の中から次々と取り出されているのは、鉄串に刺して、炭で焼いたお肉達。
あの四つの木箱は、炭が入っていたみたい。
取り出されたお肉は串のまま運ばれて、ナイフでうすく切りわけられたり、小さなお肉が刺さったものはまるまる一つで、みんなのお皿の上にのせられていく。
食べたい量をもらって、食べる。
とってもわかりやすいね!
あ、ウィンナーもあるみたい!
よーし! 僕もたくさん食べるぞー!
お肉を刺した串を持った男のヒトに、お肉を切りわけてもらう。
切りわけてもらわなくても食べきれるけれど、それはしない。
それは、ほかのヒトとお肉をわけ合いたいって気持ち、もあるけれど、一番はお腹がいっぱいの時に、食べていないものが出てきたら困っちゃうから。
それに、お祭りだからね! 雰囲気をたのしまないと!
『いただきます!』
切りわけてもらったお肉を食べる。
うん! おいしい!
それに、たくさんのヒト。
たのしい!
みんなもたのしそうで、僕と目が合っても、顔色を変えないで、手をふってくれるヒトがちらほら。
通りがかりに、「楽しんでるか?」とか、話しかけてくれるヒトまでいる。
うれしい!
勝負と言って、お酒をたくさん飲むヒトや、お肉をたくさん食べるヒトを見ながら、お肉を食べる。
お話がたのしいのか、あちらこちらで笑い声がする。
あ、メラニーだ!
ほかよりすこし背が低いテーブルに、お肉を食べるメラニーを見つけた。
お話しにいこう!
お皿を口でくわ……くわえ……られない!
ツルーって歯が滑って、お皿が持ち上げられない!
どうしよう!
「やあワカバ……て、なにしているんだ? 皿は食えないぞ?」
え、あ!
あごがジョリジョリしていそうな……
『スコット!』
「私もいるよー」
黄色い髪を襟足の辺りで切り揃えた女の子。
ぱぁ! っと明るい雰囲気。
『ザリア!』
「あたりー!」
イエーイ! とザリアが右の手の平を見せてくる。
なんだろう? ……あ、手相? 手相ってものがあるんだっけ? それを見ればいいのかな? でも僕は見てもわからないし、太陽も沈んで、今はあちこちの松明を灯りにしているからか、影で手の平のシワがよく見えないや。
「ハイタッチー」
『はいたっち?』
「そそ。お互いの手の平を叩き合って、嬉しい! って気持ちを分かち合うの! こう、ばーんと! イエーイ」
そう言って、ザリアはスコットが出した左手の平を勢いよく叩いた。
いつものことなのか、おどろいた様子のないスコットは、「ははっ」と優しい目と笑顔をザリアに向けていた。
「ほらワカバ」
ザリアがもう一度、僕へと手の平を向ける。
僕は右前足を持ち上げて……土がついている感覚。
ぽんぽんと地面を叩いて、土を落としてみる。
うーん、大きい土は落とせたかな?
『すこし土がついているよ?』
「ん、いいよー」
ばーんとザリアの手の平を叩こうとして足を伸ばす。
けれど……うーん、届かない!
「イエーイ」
ぽふっと僕の足がザリアの手の平に触れる。
僕の足がびよーんって伸びたわけじゃないよ。
ザリアが手の平を近づけてくれたの。
叩き合うって言っていたけれど、触れるだけでもうれしいね。
ザリアのうれしい! って気持ちが伝わってきたみたい。
「俺もいいか」
『もちろん!』
スコットへと前足伸ばすと、スコットの手の平がやってきて、ぽふっと触れた。
あ、スコットの手、温かい。
もしかして、
『眠いー?』
「お、よくわかったな。実は酒を飲むとすぐ眠くなって、手が温かくなるんだ。さっきアベルさんに飲まされちゃって、今すごく眠い」
『そうなんだ!』
そう言われてみると、スコット、まぶたが重そう。
「で、皿をかじってなにをしていたんだ?」
『あのね、メラニー達の方に行きたいの!』
「あー、皿を持っていこうとしていたんだな。わかった、俺が持っていこう」
『ありがとう!』
スコットに僕のお皿を持ってもらって、メラニー達の元へと歩く。
「あ! ワカバ!」
僕達に気がついたメラニーが、笑顔で手をふってくれた。
「嬢ちゃん達と話をしたいらしいから混ぜてやってくれ。ほらワカバ、この辺りでいいか?」
『うん! ありがとう!』
「なぁに、このくらいお安い御用さ。俺達はもう暫くしたら帰るが、それまではあの辺りで飲んでる。なにかあったら来てくれ」
『わかった!』
僕が応えると、スコットは僕の頭をぐわしとひとなでして、「楽しい夜を」と言って、「バーイ」と手をふるザリアと一緒に去っていった。
とっても優しくて、とっても素敵なふたり。
「ワカバだ!」
聞き覚えのある声。
右隣りに立つメラニーの反対。
左隣りを見上げると……!
『アレクト!』
僕が名前を呼ぶと、アレクトは得意気な様子で「へへっ」と鼻の下を指でこすった。
「ぼくたちもいますよ」
そう言ってアレクトの背中越しに顔を覗かせたのは、ウィストール。
そのうしろに、ヘデラにアシュリカ、ストライアと、僕が気づかなかっただけで、みんないたみたい!
「人の子らよ、そこになにかいるの?」
前にあるテーブルの向こうで、だれかの声がした。
うーん、声からして、女の子?
「ワカバがいるんだ!」
「人の子らって、自分も人の子じゃないですか……」
アレクトとウィストールが声に答えた。
「ワカバ。なるほどわかっ……だれ?」
「ここにいるから見ればいいじゃん!」
ビシッとアレクトが僕を指でさす。
「人の子よ、些末な事で怒ってはなりません」
「さっきからそれなんなんだよ!?」
なんだかアレクトがたのしそう。
でも、さっきからだれと話しているんだろう。
女の子っぽいんだけれど、聞いたことない声。
「ん、白くておいしそうなのがいる。この白いのがワカバ?」
右からさっきの女の子の声。
声のする方へ向けば、メラニーとテーブル越しに、こちらを覗く女の子がいた。
肩の辺りで切り揃えた髪は……白、かな? 松明に照らされて、白っぽく見える。
なんだか透き通っているみたい。
女の子は僕を見てもおどろいた様子はなく、じっと僕を見つめていた。
モグモグと口が動いているから、なにかを食べているみたいだけれど、どこから……あ! 腕の上にお皿が!
女の子の右手首からすこし上の辺りに、お肉や野菜が盛られたお皿がのっていた。
そのお皿を落とさずに、女の子はお肉や野菜をフォークで器用に刺して、モグモグと食べている。
すごい! グラリともしない!
なにかでガッシリ固定しているみた……あ!
あの左手首辺りについたものはなんだろう?
女の子の左手。
すこし見えにくいけれど、手首に巻かれた黒い帯についた銀色のぐるぐる。
一筆書きのぐるぐるじゃなくて、三つのぐるぐるが重ならずに巻かれている。
なにかの金属で作られているみたい。
あれでお皿を固定しているのかな?
まあいいや! それより自己紹介!
『若葉だよ! よろしくね!』
「うん、よろしく」
…………。
終わっちゃった!?
「あ、アイシャのお姉さん、それってもしかして……!」
「そうです。あのサンシャインゴルドです。かかっているのは肉桂の王の樹皮ですよ」
「わ……! 一、二切れ下さい!」
「はーい、どうぞー」
横を通った桃色の髪の女のヒト――アイシャ? に、白髪の女の子は反応し、湯気が上がる黄色いもの――パイナップル? をお皿にのせてもらっていた。
いいなー、僕も……じゃなくて!
『名前を聞かせて!』
忘れていたのか、僕の言葉に「あ」と零し、「わたしは偉大なる冒険者でありお肉屋のヨアンの娘ハンナ」と言った。
お肉屋さんの、ヨアンのところの子だったんだね!
ハンナは一心不乱にパイナップルを食べている。
そんなにおいしいのかな!
いいなー、僕も
「ワカバさんもサンシャインゴルド、いかがですか?」
突然の声にふり向く。
いつの間にかうしろにいたアイシャ? が、膝をすこし曲げて、笑顔で僕を見下ろしていた。
ふわふわとやわらかそうな髪にほんわかとした雰囲気。
やさしそう。
でも、僕を警戒しているみたい。
まあ、それよりも!
『うん! 食べたいな!』
「では、一切れから試してみましょう。食べてみて、明日まで体に不調が見られなければ、次回も食べられます。食べ過ぎても体調を崩すことがあるので、追加で食べるにしても、ニ……三枚程度を限度としましょうか」
『わかった!』
アイシャ? がパイナップルをその場で切りわけて、僕のお皿に一枚置いてくれた。
『ありがとう!』
「いいえ。ワカバさんには冒険者としてこれから頑張っていただくのですから、このくらいは当然です。あ、申し遅れました、私は冒険者ギルドカンタラ支部、職員のアイシャと申します。ワカバさんとは冒険者の基礎的知識を学んでいただいてからのお付き合いとなりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
わぁ! なんだかむずかしい言葉がいっぱい!
でも、よろしくってことだよね!
『うん! よろしくね!』
アイシャはニコッと笑って、ほかのテーブルへと去っていった。
うーん、まだ一日目だからね!
「みんなとも仲良くなれたようだし、そろそろお話ししよ! ワカバ!」
メラニー!
『うん! そうしよう!』
みんなとお話しする。
内容はこんな魔法が出来るようになったとか、今日はこんな夢をみたとか、このお肉おいしいとか、いろいろ。
途中からテオがやってきたと思ったら、一度窯の方へ歩いて行って、空になった樽を持ってきた。
その上に乗せてもらって、さらにみんなと一緒に食べたり、お話ししたりした。
やっぱり、みんなの顔が見えると、お話ししやすいね。
なにより、表情が見えるのがいい。
ここのテーブルだけじゃなくて、ほかのテーブルのみんなもたのしんでいる姿がよく見える。
みんなの仲間になれたって気持ちが、すごくする。
パイナップルは、とってもおいしかった。
それに、食べると元気が体の底から出てくるような感覚になる。
不思議で、おもしろかった。
ウィンナーがたくさん刺さった串を持ったヒトから、ウィンナーを二つもらった。
お礼を言ってパクッと食べると、ぴゅーっと汁がウィンナーから出て、僕の口からよこへと飛んだ。
飛んだ先にだれもいないことを確認してホッとすると、わっと笑い声が上がった。
いつの間にか、話したこともないたくさんのヒトが僕を見て、近くにいたみたい。
ほかの空になった樽をテーブルに、みんなもたのしそう。
とってもうれしい。
「追加の肉を持って来たぜ!」
いつの間にかいなくなっていたアベルとギルスが門をくぐって、大きなお肉をかついできた。
そういえば、マットはどこだろう。
「カンタラはどうだ?」
のっしのっしと歩いてきたのはビル。
『たのしいよ!』
「……そうか」
ビルはそうつぶやいて、どこか遠くを見つめた。
その瞳の中に、揺らめいて輝くものが見えた。
「ワカバ、俺はビル、ビル・カンタラだ。今更だが、よろしく頼む」
そう言ったビルが右手を出した。
これって、ハイタッチだね!
『うん! よろしく!』
僕はそれに右前足で応えた。
ビルの手は、ごつごつしていて力強かった。
今の僕のうれしい! って気持ちが、ビルに伝わっていればいいな。
あれ?
ビル、カンタラ?
『ビルの名前には、町の、カンタラの名前が入っているんだね!』
「それは皆同じだ。名前の次に所属している場所の名前が付く」
『そうなんだ!』
その次には、特別な称号? ってものも付くことがあるみたい。
ほかにも、そのお家で受け継がれている称号ってものも、付くことがあるみたい。
不思議ー。
「ギルド長が来たぜェー!」
お屋敷の入り口の方から、だれか男のヒトの声がする。
見てみれば、なんだか疲れた顔をしたマットが男ヒト達に捕まっていた。
ヨアンがマットに何か長い紙を渡している。
それを見たマットが一層疲れた顔になった。
「ギルド長に感謝!」
「痺れるぜ!」
「皆囲めー!」
と次々と上げられる声に、ヒトがマット目がけて向かっていき、胴上げが始まった。
「わーしょいっ! わーしょいっ!」のかけ声が辺りに響く。
こっちの世界でも、わっしょいがあるんだね。
広場を見回す。
スコット達は帰ったみたい。
ほかにも帰ったヒトがいるのか、すこしヒトが減ったように見える。
いるヒトのなかには、その場で眠っちゃったヒトや、満腹って顔のヒトがいっぱい。
お祭もそろそろ終わりかな。
すこしさびしい。
大事に取っておいた最後のお肉を食べる。
うん、おいしい。
ごくんと呑み込むと、ふわりと体が温かい。
そして、すこしだけ眠い。
眠るヒト達の顔を見る。
とっても幸せそう。
僕もこのまま眠ったら、素敵な夢がみられるかな。
「おろ、下ろせ! まだ私は一切れも食べていないんだ!」
松明が揺れる空へと、投げ上げられたマットの声が響いていた。
読んでいただきありがとうございます。




