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マスト・ビー・マッド!!  作者: 射月アキラ
第一章 無法都市の法
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第一節 情報屋と殺人鬼 02

 周囲の建物にも増して、汚れらしい汚れがどこにもない。それでも古さを感じるのは、事実この屋敷がアグローでもっとも古い時期に建てられたものだからだ。


 アメリカの荒野、どの大都市からも離れた場所に住み着いたのは、当初十数人のエルフたちだったという。


 尖った耳の青年に従って、仮面の男女は屋敷の中へ入る。


 隅々まで管理の行き届いた屋内を進んでも、誰ともすれ違わない。かろうじて、廊下の角や部屋の中に消えていく人影がちらりと見えるだけだ。


 人の気配があるのに、視界には入らない。


 少し古いだけの清潔な屋敷であるはずなのに、言いようのない気味悪さがあった。


 屋敷に入るのは今回が初めてのハルが、居心地悪そうに襟元を直したころ。青年は歩みを止めた。


 木製の扉を、二回ノック。


 高い音が、静かな廊下に響く。


「オクルスさまをお連れいたしました」


「……あぁ」


 重々しい返事から数拍おいて、青年は扉を開く。


 促されてオクルスとハルが部屋に入ると、青年はそのまま部屋の左、主のいる方へ一礼して廊下へと戻っていった。


「長旅の疲れは癒せたか?」


 気遣うような言葉でありながら、その声はどこか重い。


 扉から見て左側に伸びた部屋の奥、本棚を背にして屋敷の主人が机に向かっていた。


 椅子に座ってはいるものの、その体は筋肉質で大柄だ。


 ただそこにいるだけで、威圧感のある男だった。顔に深く刻まれた皺も、体に合わせて作られたダブルスーツも、男が放つ存在感や圧力を弱めはしない。


 エルフ族特有の尖った耳を持っているのに、そこから想起される繊細さとは無縁そうな男だ。


「えぇ、おかげさまで」


 扉の近くに立ったまま、オクルスは男の問いに答える。


 室内に椅子は一脚のみ。部屋の主が座る一人掛けだけで、その事実が主人と来客の力関係を明確に表していた。


「それで、そちらのお嬢さんが、日本から連れてきた──?」


「ハル、といいます。ミスター」


 感情をにじませずに返したハルに対し、老齢の男はわずかに眉を寄せた。


 太い指が、髭のない顎を撫でる。


「日本の名か?」


「こちらでも呼びやすいように、音を減らしたのですが」


「ほう、なるほど」


「なにか問題でもありました?」


 ハルの問いで、男は初めて笑みを浮かべた。


 にやりと、満足げに。


「いやはや。私としたことが、つまらん些事を気にした。実に似合いの名だ、お嬢さん……いや、ミス・ハル?」


 訂正にハルが会釈で返すと、男はさらに笑みを深くした。


「行き先が日本と聞いて心配していたが、どうやら杞憂だったようだな、オクルス」


「あなたの導きがあってこそです」

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