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6月20日 12:10 宮近明

〇6月20日 12:10 宮近 明

危機一髪のところで助かった俺は保健室で一時の休息をとっていた。部屋の奥には草鷹と女子が一人おり、扉の前に東と俺がいる。




「作戦か、なにかいい考えでもあるのか?」

俺は話を進める草鷹に質問をした。


「そうだね、作戦と言ってもまだ穴だらけだ。みんなでその穴を埋めていこう」

 草鷹は考えがまとまってないことを前提に作戦を話し始めた。

「まずは出口だ。保健室からそこの扉を使って出るのは厳しそうだな」

 先ほど俺が入った扉の向こうでは、やつらが扉を叩き続けている。この扉はしばらく持ちこたえそうだが、開けるなどとんでもない。

「だからここの窓を使うしかない」

 草鷹は自分の背後にある窓を指さして示した。


「まぁそこしかないわな」

 東が賛同する。その反応を見て話を進める。

「ああ、そして次は玄関に向かい校内に入る」

 すると先ほどまで賛同していた東が話をとめた。

「おいおい!玄関ってやつらがすぐそこにいるだろ!」

 東の反応は当然と言えば当然だった。あの生きながら食われていた女を見た場所。それこそがこの学校の玄関なのだから。


「玄関か。あそこは危険な気もするな。いま扉を叩きまくってるやつらはほとんど玄関の方から現れたんだ」

「だから今は叩きまくってるんだろ?」

 そこで俺は気付いた。近くにいるやつらはほとんどがここにいるということに。

「そういうことか。こっちに集まっているうちに携帯を手に入れるんだな」

 草鷹は頷いた。東もなるほどと言っている。


「だがなにが起こるか分からない。相良あいらはここで待っていてくれ」

 相良。そこにいる女子の名前は相良って言うのか。ずっと分からずなかなか聞くタイミングがなかったが、草鷹の口から聞くことができた。


「そうだな。相良、さんはここで待っていた方がいい」

「分かった、ここで待ってる」

 ここに来て初めて話した相良はとても素直に従っていた。


「でもよー、玄関が安全になっているとは言っても結局はこの保健室の向かいの職員室にいくだろ。どうやって入んだよ」

 東がこの作戦の要点を刺した。

「職員室の窓は中庭に面している。ならばそこを使わない手はないだろう」

 草鷹が冷静に返す。この学校は玄関に中庭へとつながる扉がある。

「そうだな。中庭ならわざわざ逃げ込んだ人も少ないだろうし」

 俺は中庭へ逃げ込んだ人がいなければそれを追いかけるやつらもいないと考えていた。

「たしかに!よっしゃ行こうぜ!」

 東は立ち上がったが草鷹はまだ動こうとしない。そういえば作戦には穴があると言っていた。


「みんな落ち着いてくれ。俺が話した作戦だから言うのもなんだがカギはどうする」

 中庭へと続く扉には大抵いつもカギがかかっていた。それを壊せばその音でやつらに気付かれるかも知れない。

「それに職員室にたどり着いたとして、その中が安全とも言えない」

 いろいろと難点が多い。東はなんとかなるだろうと言い、今にも窓に手を掛けそうだ。




「それじゃあ行ってくる。絶対扉も窓も開けるなよ」

 草鷹は相良に念を押して窓のカギを開けた。外にはいまのところやつらは見えない。俺たちが外に出ると、相良が窓のカギを閉めた。俺たちが戻ってくるまでカギは開けない。

 俺たちは玄関から中に入る。常に周囲の様子に気を張り、バットを持つ手には汗がにじむ。


「やつら、いねーな」

 東がつぶやいた。

「俺が一人で歩いていた時もそうだった」

 いないからこその不気味さを思い出す。


 中庭への扉を開けようとしたがやはりカギがかかっていた。

「やっぱりか」

 俺はあきらめると、東と草鷹の方を見て作戦の方針を定めた。

「それじゃあ二階に行こう」

 草鷹が先陣を切って階段をのぼる。俺たちもそれに続いていく。




 東と俺は辺りの警戒をしていた。草鷹が消火栓のホースを出して窓からつるしている。その窓は中庭に続いているのだ。

「いいよ、行こう」

 草鷹の合図とともに、俺たちはそのホースを頼りに下へと降りて行った。


 俺たちの予想通り中庭には誰もいなかった。それでもできるだけ物音を立てずになおかつ腰を低くして進んだ。

「ここが職員室だよな」

 東が中をのぞいて確認をする。動揺したようには見えない。安全だといいのだが。

「いねーみたいだ」

「本当か、よかった」


 一つ懸念するとしたら、それはすでに割れていたこの職員室の窓だろう。数枚あるうちの一枚が無造作に割られていた。東はそこでケガをしないよう、着ていた制服を掛けている。一体ここで何があったのだろうか。草鷹を見ると彼も浮かない顔をしていた。しかし、こちらに気付くと安心したような顔を作り、多少高めに配置されている窓へ東が入るため手助けを始めた。


「っしょっと」

 東は割れたガラスに気を付けながら職員室に入った。

「って!」

 東は床に着地したと同時に転んだ。


「大丈夫か!」

 草鷹がすかさず声をかける。次に入ろうとした俺は東の姿を視界に捉えた。

 床中に血だまりができている。東はそれで滑ったようだ。

「なんだこれ、」


「宮近!手を貸してくれ」

 草鷹の声で我に返り、手を伸ばし引き上げた。

「気を付けろ、滑る」

 この光景を目の当たりにした俺たちは動揺しつつも声を荒げることはなかった。もっとひどい有様を見てきたからだ。

「すぐ携帯を探そう」

 職員室の向こうの廊下にはやつらがひしめいているはずだ。


 たしか携帯は生活指導の先生の机にあるはず。生活指導の先生は、体育教諭の近藤先生だ。先生の机はどこだったか。

「近藤先生の机にあるはずだ」

「分かった、探してみるよ」

 草鷹はそう答え、近藤先生の机がどれか探していった。東もどこだよとぶつぶつ言いながら探している。


「うわああああああああ」

 突然草鷹が大声をあげた。

「どうした!」

 東がすぐさま助けに向かう。そしてバットを大きく振り下ろし血が飛び散った。


「じ、上半身だ。上半身だけだ、」

 草鷹は先ほどまでの冷静さを無くし、呼吸を乱しながら東に頭をつぶされたそれを指さしている。

 そこには下半身のない上半身だけのやつがいた。


    ”ドンドン”


 次は廊下にいたやつらが職員室の扉を叩き始めた。いまの騒動で気付かれてしまったようだ。一瞬思考が止まってしまったが、食堂の慧たちを思い出すとやらなければいけないことが見えた。

「携帯だ。携帯を探すぞ!」

 俺は声を大にして二人に指示した。もう大きな音は関係ない。

 職員室の扉を確認すると保健室と違いだいぶ痛んでいることが分かった。今にも壊されて侵入してきそうだ。




 宮近は足元に転がる上半身を見て考えた。今までは信じることができずに避けていた言葉。しかしもう自分をごまかすことはできない。こいつらはまぎれもない、死んでもなお生者の肉を求め彷徨う“ゾンビ”だと。

「こいつらは、ゾンビだ」





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