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6月20日 11:50 宮近明

〇6月20日 11:50 宮近 明

 なんとかシャッターを開けることに角藤は了承してくれた。しかし、この危険な中、職員室にまで行けと言われてしまった。幸い行くのは一人だけで他の仲間は食堂で待っていても構わないようだが。


 角藤がシャッターの向こう側でバリケードを崩している。


 先ほどの角藤の条件が頭をよぎっている。「入るのは三人だ。あとの一人はおつかいに行ってもらいたい」と言われた。


「職員室か…」

 目を瞑って小さな声でつぶやく。

 俺は唯と花夜に聞こえないよう小声で慧に言った。


「慧、俺が行くよ。お前は花夜と唯を守っていてくれ」

 慧は俺を見た。


「なに言ってんだよ。一人でこの中を行くってのかよ」

「危険は分かってる。でも、花夜がいるんだ。お前を危険な目に合わせたくない」

 慧は当然頷いてはくれなかったが納得させようとした。もし慧を行かせて帰ってこなかったとき、俺は花夜に合わせる顔がない。


「死ぬ気はないんだろうな」

 慧が目を見てくる。まっすぐと。


「当たり前だ。必ず帰ってくる」


「わかった。生きて帰って来いよ。頼むから俺を後悔させないでくれ」

 俺は小さく頷いた。





「とは言ったものの、想像以上だ」

 角藤がシャッターを開けたあとみんなを食堂に入れて俺は職員室に向かっていた。目標は角藤に言われた携帯だ。没収された携帯を見つけなければ。


 職員室は特別教室棟の一階にある。とりあえず階段で一階に行こう。


 食堂に一番近い階段に向かう。まだやつらとは出会っていない。学校の中は不気味に静まり返っている。辺りは所々血が飛び散っており、血だまりなんかもある。手には先ほど廊下で拾った金属バットがある。数か所がへこんでる。これでやつらの頭を殴ったのだろうか。そしてこの金属バットの持ち主はどうなってしまったのか。


 不気味だ。何が不気味かと言うとこれまで死体を一度も見ていないのだ。死体を見ていたらむしろ冷静さを欠いていたかもしれないが。やはり体育の近藤先生の様子から考えてもやつらに食い殺されるとやつらになるのか。辺りの血の量に対して死体がないことがそれをほぼ証明している。

「映画かよ」

 俺は惨状を見て呟くと、曲がり角を曲がって階段に到着した。ここから一気に一階まで降りよう。

 上から下を覗く。とくに人影は見えない。ただし死角が多く油断はできない。

「ふぅー」

 俺は深く息を吐き、決意を固めて足を動かした。


 バットをすぐに振りかざせるように構えて、階段を一歩一歩降りていく。先ほどの廊下と違い見えないところが多い。一番近い階の廊下から突然やつらが現れるかもしれない。上から降ってこないか?下の階から大勢現れるかもしれない。


「落ち着け、考えすぎるな」

 遭遇するとやばいような状況を想定してしまう。手の汗が普通じゃない。自分の心臓の鼓動までもが聞こえてくる。やつらの声は聞こえない。外から聞こえる音も特にない。強いて言えば自分の足音が周りに響くくらいか。


 そうこう考えていると一階にたどり着いた。

「普段はただの階段だってのに、まるで戦場みたいだ」

 廊下を覗く。人影はない。だが血が飛び散った光景は異常だった。


 職員室はこの廊下をまっすぐ行ったところにある。もう見える範囲だ。しかし横に通じる廊下が一つあり、やつらが出てくる恐怖が襲う。

「あと少しだ」

 再度足を動かして職員室に向かう。

 この横道が最後の鬼門だ。そっと横道の廊下の奥を覗いた。


「っ!」

 血まみれの後ろ姿が座っている。そこには倒れている女もいた。あろうことかその倒れている彼女はかすかに動いている。かろうじて生きているのだ。しかし食い散らかされており立ち上がることはもちろん抵抗する力も残っていないようだ。生きながら自分の体を食われ、絶命する瞬間を待っている。


 だが俺にはどうすることもできなかった。あいつが食うことに夢中になっているうちにこの道を通過してしまおう。非情な選択だが、仕方ない。胸糞が悪い。

 歩こうとしたとき彼女の視線がこちらを見た気がする。その瞬間だった。


「あああああああああああああ!」

 彼女は断末魔のような大きな声をこちらに放った。助けを求めているのだろうか。しかし今の声でやつがこちらに気付いてしまった。


「やばいっ」

 俺は全力で走り職員室に向かった。扉に手を掛けたがカギがかかっていて開かない。

「まじかよ」

振り返りやつの姿を見た。他にも何体かが一緒に迫っている。

「おいおいうそだろ」


 10体近くの数がこちらに迫っている。

 どこか入れる場所はないかと辺りを見回す。職員室の向かいに保健室がある。ここしかないと急いで扉に手をかける。

 しかしやはりカギがかかっている。

「くそっ!」

 迫るやつらを見て声をあげた。奥に逃げようとしたときだった。ガチャッと保健室の扉が開いた。

「入れ!」


 出てきたのは先ほど会った東だ。俺はすかさず保健室に飛び込む。東は俺が入るのを確認してすぐ扉とカギを閉めた。


 安心した俺はその場に座り込んだ。

「東、本当助かった。ありがとう」

 俺と東はお互いに息を切らしていた。その姿を奥の方で東の仲間二人が見ている。

「おう。ところで一緒にいたやつらはどうした。食堂はだめだったのか」

「みんな無事で食堂にいるよ」

 東はそうか、と言いしかしじゃあなぜここに来たと聞いてくる。そこで俺は食堂についてから角藤に出会ったことやここに来るに至った流れを説明した。


「角藤のやろーまた余計なことを考えてやがるな」

 東が眉間にしわを寄せている。そうだった。東と角藤は仲が悪いで有名だ。


「とにかく俺は職員室の携帯を探さないといけないんだ」

 とは言ってもカギがかかっているのでは入れない。その流れを聞いていた草鷹が話し始めた。


「宮近、実は俺たちも携帯を探しているんだ。とは言っても東が没収されたやつな。それを手に入れてから外に逃げるつもりだったんだけど、君も知っての通り職員室はカギがかかっていてね。どうだろう、俺たちで協力して携帯を回収しないか?」


 宮近はすぐに賛成した。一人でやつらに追い詰められたのだ。選択の余地はない。


「よし、じゃあ作戦を考えよう」

 草鷹主導のもと作戦会議が始まった。




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