第34話 エンディング ~二つの赦し~
オリガヌに突き飛ばされるようにして、扉をくぐった俺達はまず願壁の決着をつけた。
が、その戦いについてはあまり言いたくない。情けない結果だった。予想外と言えば予想外だったが、予想通りとも言えばそう言えた。ただ、スプレー缶はもう目につくところに置いときたくない。そう思った。
眩んだ視界が元に戻ると、あのデパートの屋上にいた。
賑やかな声がする。親と子供達の声だ。
もう何年も聞いてない気がする平和ぼけした声。
「俺、やったんだな」
「ああ、やったね」
至近距離から声が聞こえてきて、心臓が驚いた。せっかく生き残ったのにショックで死んだらどうすんだ。
視線を向けるとムカつく顔があった。アレンだ。
「何でここにいんだよ、テメェ」
思いっきり一人だと思って呟いちまったじゃねぇか。情感たっぷりに、苦労の色なんか滲ませて。
「里留も……いる」
お前もか。
「どういう仕組みだ。こいつら元の場所に戻せよ。違反してんじゃねぇか」
「そこはほら、時間差で叶えるとかじゃないのかい?」
「あのクソ破壊神……」
あいつはとことんクソみてぇな性格してんな。
「そういや、テメェ。あの剣、結局何だったんだよ」
「ああ、あれか。神すら殺せる神殺しの剣。僕が分かっているのはこれだけだよ」
アレンは「僕がオリガヌとした契約は、その剣で彼女を殺せたら願いを叶えてもらえるというものだった」自分の契約内容を話す。「願壁攻略はオマケみたいなものだったよ」そうしないと彼女は出てこないって言ったから、と付け加える。
こいつは本当「俺等はオマケで殺されかけたのかよ」天才という名の馬鹿だな。律儀に頑張るくらいなら、抜け道探せよ。
しかし、「それが何で俺に渡されたんだ」そこが分からない。答えを求めて視線を向け続けるが、アレンは意味深な表情をするだけだ。そして面白がるように「さあ、そこのとこはね。案外……、君の身を心配した誰かの仕業だったりしてね」そう言った。
「ああ?」どういうこった。「夢の中で驚いたよ、里瑠ちゃん以外にも友達がいたんだね」それに対する俺の声は「……あぁ?」我ながら自分の目つきと同じく、人を殺せそうないい声していたはずだ。「テメェも見てたのかよ」俺と同じようなものを。
そこで、「……ん?」何か意識に引っかかった。なんだ。何か忘れちゃいけねぇ事を忘れてるような。
アレンは「さて、これからどうするんだい?」先の事を尋ねる。
「あ、どうもこうもねぇよ。もうする事なんてねぇだろ」
「そうかい? クラスメイト彼女の事は? 君の事心配してんるんじゃないのかい?」
「テメェ」
「白さんにも注意しといてくださいって言われたしね」
「あいつは俺の親か、お前も」
どいつもこいつもなんで人の世話焼きたがんだよ。
物好きにもほどがあんだろ。
アレンは俺の言葉など気にもとめずに、「それに、こっちもまだ終わってないしね」視線で里瑠にバトンタッチする。
律儀に待っていた少女に「はぁ、里留、お前もさっさと行ってやれよ」そう言って背中を押してやる。ったく、もう全部終わったんだから、さっさと行きゃあいいのに。会いたいんだろ。会いたくないわけがない。母親に。
しかし里留は「紅蓮……」どうしてかその場を離れようとしない。「また、会えるよね」てっきり、もう顔も見たくないような反応をされると思ってたのに。別れを惜しまれているようだった。
俺だってまあ、「そら、会えるんだろうな。どっかで。生きてるからな」寂しくないと言ったら嘘にはなる。短い間とはいえ、ほとんどずっと傍にいたしな。いろんな事やったし、いろんな目に遭った。
「友達だよね」
「ああ、……友達だかんな」
サービスだ。そうやって念を押してやれば、里留はデパートの中へと走っていく。どっちかっつうと 俺にとっては仲間に近いが。
横でアレンが「友達ねぇ」笑っている。むかつくな。今の会話、こいつの頭から消してぇ。
「携帯電話の番号でも書いて渡せばよかったじゃないかい」
「するかよ。面倒なガキは嫌いだ」
「素直じゃないな」
うるせぇ放っておけ。
「お前もさっさとどっか行けよ」
それを聞いたアレンは「確かに君にとってこの時間は、何よりも変えがたい贅沢な時間だね。一足はやく、そうさせてらうよ」分かったような口調で離れていく。「ちなみに僕の名前だけど……」そんな余計な知識いらん。だから、「うるせぇ、とっとと行け」手を振って追い払った。
途中でアレンが「おや?」何か呟いたが、俺は聞かなかった。
フェンス越しに町の景色を見る。
元通りだ、何もかも。
もう戻ってこないんじゃないかと思ったものが、再び目の前にある。
何か実感が湧かない。
夢とかじゃないんだろうな。本当に。幻とかでも、ないんだろうな。よせよ。本当に、そういうのはもうこりごりだ。
そこに離れたはずの「紅蓮」里瑠の声が掛けられる。「お前なんで」まだここにいんだよ。
「里留、もう怒ってない……から」何がだよ。
「もう許すから。だから……助けてくれて……ありがとう。……ごめんね」
それだけ、言って、里留は離れていく。
気付いた。
元に戻ったってことは。俺の姿もそうじゃないのだ。何で忘れてた。
ふさがってる左目の眼帯をとりはずす。時間差だった。眼帯は取り外した瞬間消えてしまった。つか、これ。わざとだろ。気づくまで待ってたんじゃねぇか。あのオリガヌの野郎。……ローランもだ。余計なもん渡してきやがって。左目はちゃんと見える。……なのに、お前のせいで視界が復活したことに気づけなかっただろうが。
つまり、里留は俺の事に気付いていて、俺が里留の母親を殺したって事も知ってて、さっきの言葉を言ったのだ。そういう意味で。
「っ……」
どうりで、あんんま実感が湧いてこなかったわけだ。
あれで終わりじゃない。
これで、
これでやっと終わったのだ。
たった今。
ここから始まった橘紅蓮の物語は。
「……俺、許されたんだよな……」
胸の中に沸き起こったどんな言葉でも言い表しようのない感情を持て余しながら、紅蓮は、しばらくその場を動けないでいた。
ここまで読んでくださった方は、ありがとうございます!
この、「理不尽に抗う紅蓮達の物語」が誰かの心の力になれたら幸いです。
(※2018.2.10追記 過去編「ラビリンス・ゲーム」を掲載しました)
(※2018.2.18追記 過去編「ラビリンス・ゲーム」のイフシナリオコードを過去編の最終話に掲載しました)




