第21話 メール
試練はクリアした。
つかの間の共闘者達を裏切って。
名前 シェリー
レベル 88
クラス 射手 メイジ
スキル ステータス隠蔽 猛風
それが本当のシェリーのステータスだった。
閉まり切った扉を背にしてシェリーは、「仲間じゃないわよ」小さく呟く。
自分はスキル隠蔽の効果を持っている。あの三人は騙された。シェリーが、風の魔法を使える事を知ることができなかった。だから土壇場で出し抜く事ができたのだ。その事について咎めるような良心は持ち合わせてない。だが、かといってあの三人を想像しながら、ほくそ笑むような性悪な性格でもない。苛立ちと、どういうわけか気持ち悪さは感じているが。
どうせ最後には一人になる。知っているのだ。願いを叶えてもらえるのはたった一人だけ。たまたま願壁攻略者から話を聞ける機会があって、その時シェリーはこの耳で聞たのだから。
「お姉ちゃん」「なあにジュリア、どうしたの?」「私、怖いよ」「眠れないの?」「この村も戦場になるの?」「大丈夫よ、大人達はそう言ってたじゃない」「本当? 本当の本当に大丈夫なんだよね」「当たり前じゃない」
これは、違う。関係ない事を思いだした。まったく本当に関係ない。なんでこんな時に思い出したのだろう。こんなところで考え事だなんて。今の内に殺してくれとでも言っているようなもの。気が抜けてるんじゃないか。まさか。そんなわけない。ずっと、一人でやってきたのに。どんな時でも、自分が一人だという事、周りじは敵しかいないという事を忘れなかったのに。今も忘れていないのに。
頭を振って、シェリーは次のフロアへ行くために歩きだす。
試練をこなして、敵と戦って、願壁の頂上まで行くのだ。
けれど、「私、何の為にがんばってるんだろう」ぽつりと言葉が漏れた。
叶わない願いだって分かってる。それなのに、なぜ自分はこんなところにいるのか。
たとえ自分がこの建物の頂上にたどり着けたとしても、叶えたい願いは叶わない。
分かりきっている事なのに。なぜこんな所に来てしまったのか。
「私の願いはどう頑張っても叶わないのに」
あの男の願いも。
短いひと時の会話で教えてもらったあの少女の願いも。
試練は失敗だ。
俺達は今だに扉の前にいた。
シェリーに騙されたからだ。
あの女……、今度会ったらぶっ殺す。そんな風に苛立ちたいのはやまやまだったが、再攻略について考えなければならない。
アレンの野郎が、冷静な顔で「次はどうしようか」なんて言うもんだから、アイツの態度の方がイライラしてきた。
だが、ここでのんびり立ち止まってはいられない。分かっている。イライラしようが、怒り狂おうが、必ずどこかで気持ちを切り替えねばならない。さもないと、迷宮フロアのときみたいな失敗を繰り返しかねない。
そう思った矢先だった。
着信音みたいなのが鳴った。周囲を見回す「どうしたんだい?」「どうしたの?」アレンと里瑠はこっちの様子に怪訝そうな顔だ。何でか知らんが、俺以外には聞こえてない様だった。
知ってそうな人間に呼びかけてみる。
「おい、白」
『通信伝言欄ですよ』
帰って来る白オリガヌの律儀な声。ご丁寧にどうも、だ。姿を現してアレンと里留に、『先ほどぶりですね』と挨拶している。
俺はステータスウィンドウを開いてみる。何かメールが来ていた。
差し出し人:シェリー
件名
内容 ばか。
「何だこれ」本当に、何だこれ。あれか、騙されたのを笑ってんのか。それにしてはやけに、淡泊な文すぎるが。
「なんて書いてあったんだい?」
「知るかばか」
答え言ちまった。
「シェリーさんは……?」
「一言ばか、だとよ」
アレンはおざなりにしたとしても、里留には出来なかった。渋々正解の方を教えてやる。ひどい内容だったら、言わないって選択もできたが、これは判断に困る。どういうつもりだよほんと。
「つうか、おい白。入口が開くとか聞いてねぇぞ」
『聞かれませんでしたから。それは説明義務にはないんですよ」
セーブポイントなんてもんがあるくらいなんだから、撤退できねぇって思うのが普通じゃねぇか。
今まで不退転で挑んできた意気込みをどうしてくれんだよ。いや、退けない。そう思っていた方が良かったのかもしれない。やり直せるだなんて、思ったらいつか絶対、足元をすくわれる。オリガヌの奴なら、それで突然退路を断つ事くらい、平気でやりそうだからな。
「セーブポイントの回数制限もあるんだろ」
『は、はい……。三回です』
だろうな。じゃなきゃ、時間さえかけりゃ、ほとんどの人間頂上に到達できちまう。聞かなきゃ答えないとか、どこぞの悪徳業者かよ。意識の隅を突いてきやがって。
それはともかくだ。再攻略に向けて作戦を練り直さなければならない。




