第19話 シェリー
とりあえず、初対面の人間にはステータスのチェックだ。
名前 シェリー
レベル 88
クラス ー
スキル -
その女の名前はシェリーというらしい。
だから、どうだってわけでもない。どうでもいいいし、アレンみたいに「美しい響きの名前だね」なんて、気障ったらしいお世辞を言うわけでもない。特に感想はなかった。
「…と言うわけで、二つの国はそうやって戦争になったのよ」
「うん、……分かった」
里留とシェリーは只今コミュニケーション中だ。
女子どうしで会話が盛り上がっている様だ。中身は変だが。
「あのね、虫はね……カマキリとか毛虫とか、飼ったことある。でも変わったのがいて、仲間を食べちゃうのもいる」
中身が変だが。
だが、こうやって会話しているのを聞くと、シェリーはこの世界の住人なんだと分かる。同郷の人間ではない。これで、ひそかに俺の中で恐れていた可能性がなくなった。同じ世界。もしそうだったら、自分はどうしていたのか。分からねぇ。考えたくないからかもしれねぇが。分からねぇもん分からねぇ。だからもういっそ思考放棄だ。考えるだけ無駄だろう。消えたもしもの可能性なんて。その思考力は、先の事につぎ込んだ方がいい。俺は相変わらず馬鹿だから。
アレンの質問に「里留ちゃんは虫が好きなのかい?」頷く里留。「うん、好き……」
「虫なんてみんな同じじゃねぇか、気色悪いし。ちんまいし」それが正直な感想だったが。「可愛いもん! ちっこくてもいいもん!」返ってきたのは、予想外の烈々な反応だった。「そうかよ」そんなにも虫がいいのかよ。
それに対する残る二人の言葉はこうだ。「男でも、虫は苦手な人がいるしね」アレンなんぞにフォーローしてほしくない。「苦手でも、対処できないのなら幻滅ね」そういう、シェリーは台所にでる有名なアレの対処できるのかよ。
紅蓮はきっと額に青筋を立てているだろう。「嫌いなだけだ。お前はゴキブリ見て好きとか言えんのかよ」好き勝手言いやがって。
虫怖い、とか言ってる女子の近くにいた経験なんてないからな。撃退法なんて詳しく知らねぇんだよ。
「ゴキ……?」
眉根を寄せているシェリーは、頭を振る。気を取り直したように、周囲を見回して観察する。
目の前には扉だ。そしてセーブポイント。珍しい。一つのフロアに二つあるなんて。
「着いたようだね。さて、今度は一体何をさせられるのだろうか?」さあな。どっちにしてもお前ならさして苦もなくクリアできんだろ。「それは買いかぶりすぎだよ」心を読むな。
近づいて、開く扉の先へと進んでいく。
そこはまた、のっぺりとした無味乾燥な部屋だ。床を除いて、所々によく見ると小さな穴が開いているが。
少なくとも、今までの調子からして考えようとして……。
「簡単じゃねぇだろ」
それぐらいは、考えるまでもなく分かった。
「シェリー。もし何かあったら僕達を頼ってほしい」
「別に出来ない事をしようとは思わないわ」
「そうじゃないよ。僕達は、一応仲間だからね」
「……」
アレンが念の為にと声をかけるが、シェリーの反応は鈍い。
「……仲間なわけないわ」
「あ? 何か言ったか?」
「何でもないわ、行きましょう」
聞き逃した言葉を俺が尋ねれば、そいつは口を閉ざしたままにして先へと進んでいった。




