ー第9話ー 『憎しみと反逆の女神』
今回は後半、勇者回想になってます。
タッ君?え?本当にタッ君かな?
確認してみるか。
「あの勇者の後ろに付いて歩いているのは誰なんだ?」
割と親切なおじさんにそう聞いてみると親切に答えてくれた。
「あの勇者様の後ろに付いているのは僅か5歳で『賢者』の称号を手に入れたリン様だよ。」
リンね…ありきたりな名前過ぎて分かんないな…絶対どっかで見た気もしなくも無いけどな〜
「その後ろを歩くのがあの勇者様の右腕、『雷剣』のタウリス様だよ。」
はい、ビンゴ!やっぱりタッ君か、スゲえな勇者の右腕か、何がどうなってそうなったのか知りたいが場合によってはタッ君と剣を交え無いといけ無いかもね。
だって、今回はおっさんの調子が勇者の所為だってなら勇者を消さなきゃならないかもしれないしね。そんな事はする気は無いけど。
おっと、ちょっと考え事していたうちに勇者一行はシューラ王国の盾と剣のロゴが描かれた馬車に乗り込んで王宮へと向かってしまった。
「色々教えてくれてありがとうな。」
「ああ、良いのさ別に。」
俺は親切おじさんに別れを告げその場から離れようとしたが1人いない事に気付いた。
「ガンマ。ドラグはどうした?」
「え?」
そういうガンマは売店のフランクフルトを夢中で食べていた。どっからそんな金が?そう思った時、腰にぶら下げた筈の金袋が無い事に気が付いた。
「おい。」
「ひぇ」
渾身の怒りを込めガンマを威嚇する。
「ど、ドラグ様が使えと仰ったのでつい…」
あの糞ドラゴン!!ふざけるなぁァァァァ!!!!!!
すぐさま魔力感知を発動させドラグを探る。
見つけた!!路地の角を曲がった通りにドラグの反応があった。すぐさまガンマも連れ急行する。
俺の金だぞ!野郎、ぶっ殺してやる!!
路地を、曲がり血眼になりドラグを探すと見つけた。小さな立ち食いの屋台にのれんの下からムラサキ色のローブが見える。アレだ。魔力感知もそこを指している。
ん?
俺は屋台ののれんに注目した。赤い布の生地に白い人族語の文字で描かれた言葉。『らぁ麺』間違いなくそう描かれていた。
……ほぅ、ドラグめ、良いところに目を付けたな。そういえばお腹が空いたな。
俺も屋台ののれんを手で押し上げ入る。
店主はハゲで白いバンダナを頭に着けていた。
「らっしゃい!」
先ず、俺は隣に平然と立つドラグの顔面を地面に沈める。
懐から金袋を取り返した。
「お、おい、お前さん、何やってんだよ。」
店主が動揺したようだが冷静に対応する。
「すまん、此奴は俺の連れでな勝手にどっか行っちまったものでちょっと頭叩いたら顔が沈んでしまった。……所でどんなものがあるんだ?」
店主は小声で「叩いて顔が地面に埋まるかよ」と言っていたが俺は特に反応しなかった。
「ここはな、あの勇者様がお考えになった。らぁ麺と言う食べ物を扱っている。味は醤油と塩と豚骨だ。らぁ麺は一杯2チールでトッピングは色々ある。此処に書いてあるのを参考にしてくれ。」
「ああ。」
屋台の天井に貼り付けられた黄色のメニューはトッピングと書かれその横にズラリとトッピングの名前が書かれていた。その下にはしっかり値段が書かれている。一番高くて千チールのクックロイの燻製というものだ。
ん?クックロイって高級食材なのか?俺が住んでる大陸は普通にいるけど…
「では、豚骨ラーメンでトッピングに焼豚を載せてくれ。」
焼豚はトッピングの中で一番安い1チールだったので頼んだ。
「では、俺は塩なるらぁ麺にクックロイの燻製なるものを載せてくれ。」
いつの間にか復活したドラグがほざいた。此奴は、数字読めないのか?1000チールって普通に一週間遊んで暮らせる金だぞ?
「じゃあ、私は醤油で、べにしょうがを下さい。」
紅生姜……
メニューを見つめる。クックロイの燻製と書かれたその隣に紅生姜と描かれていた。値段は950チール。嘘だろ?何で紅生姜がそんなにするんだよ……ただじゃないんだな。
いやいや、そもそも、醤油に紅生姜は合わないだろ…
一応金袋の中身を確認するが5、6万チールは入っていた。大丈夫。うん。大丈夫だ。
「あいよ、じゃあ豚骨の焼豚と塩のクックロイと醤油の生姜ね。」
店主は直ぐに麺を茹で始めた。麺の固さは指定出来ないんだな。まあ、その店の自慢の麺の固さがあるのかな?
「はい、お待たせ。」
程なくしてラーメンが目の前に並べられた。
俺の目の前に置かれたのは本格的なラーメンの丼に少し茶色の白いスープに肉厚のチャーシューが一枚、乗せられている。そして、香ばしいゴマの香りもする、恐らく、香り付けに胡麻油が垂らしてあるようだ。
見た目は前の世界と比べてしまうと具の無いスープと麺の様になってしまうが、それでも十分美味しそうだ。
はし箱に入れられた割り箸を手に取り綺麗に割る。
「頂きます。」
丼を両手で取りスープを一口。
うん、美味しい。
前の世界で食べてきた豚骨ラーメンと比べると余り良いものでは無いが、美味しい。少し生臭さを感じる豚骨スープは前の世界の昔ながらの豚骨ラーメンという様な感じだ。
何度も言うが味は前の世界より遥かに劣るがそれでもこの世界では十分に美味しいと言われるレベルだろう。
だがやはりラーメンは自分で創るより他人に作って貰ったものの方が良いな。色々個性があるしね。
続いて箸で麺を掴みスープから救い出す。麺は少し柔らかめのちぢれ麺だ。…正直に言ってしまうと豚骨ラーメンはちぢれ麺よりストレート麺の方が俺は好きだコレは個人差があると思うからコレが美味い!とは言えないのが残念だな。俺はストレートが好きだが。冷めないうちに麺を一気に啜る。熱々のスープが少しローブにはねてしまったが許容範囲だ、問題は無い。
麺を7割ほど食べた所で厚切りのチャーシューを一口かじった。
……ん、柔らかい。相当タレに漬けた豚肉だと思う。コレはかなり柔らかい。それなりに硬さがあると覚悟していたが裏を突かれたな、これはこれで嫌いじゃない。
何も考えずひたすら食に没頭するこの時間が一番好きだ。
「それにしても仮面の兄ちゃん凄いな」
「ん?」
突然店主が俺に声を掛けた。
一体何だと聞くと返ってきたのは良くある質問だった。
「箸を綺麗に使える人は余りいなくてな、仮面の兄ちゃんくらいの若さで使えるのは勇者様の次に初めてだぜ。」
俺の年齢、実質35くらいあるのだが、『不死身』の所為で見た目が老けずに17歳で年を取らなくなってしまっている、いや、そんな事はどうでも良い。俺は店主の『勇者』と言う言葉に反応してしまった。
「勇者はそんなに箸が上手なのか?」
別にだから何だと言う話ではあるね、でも、考えれば箸って日本人が良く使うじゃん?だから扱いが上手いと同じ地球から来たんじゃね?みたいな?でも、この世界にも昔から箸はあるから箸が上手に使えるから日本人ってなるわけは無いね。まあ、日本人でもそうでなくても俺には興味が無いがな。もう正直、前の世界……地球よりもずっと長くこの世界で生きたからね、今更同じ所から来た人間なんてどうでも良いね。
何か、感動を分かち合う訳でもないし。
「それはもう、勇者様は別の世界から来たというのに箸が本当に上手かったよ、なんでも似た様なものが故郷にもあったんだってよ。」
「ほぅ」
似た様なものか…なんか含みのある言い方だな…
勇者か……暫くは様子見だな。
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………気がつくと真っ白な世界にいた。
『お目覚めですね。神上 長門さん。』
突如目の前に現れたのは白いローブに身を包んだまるで『女神』の様な美しい女性だった。
「…あなたは?」
『私はリムムリル貴方がこれから知る世界の『女神』と呼ばれる存在です。』
その『女神』は微笑んだ。
これから知る?
『そうです。では単刀直入に言いましょう。神上長門さん。世界を救って下さい。』
僕はこの時気が付いたこれは所謂、『転生』なのだと。
『そうですね、正しくはトリップと言うところでしょう。貴方の世界、つまり地球にはまだ、貴方の器は存在しています。』
器?
『はい。器です。貴方は今、いえ、正確には貴方の身体は今、地球ではベットの上で横になっている状態です。失礼でしたが、その魂、つまり今の貴方を此処へ連れて来させてもらいました。』
申し訳ありません。そう女神が頭を下げた。
「頭を上げてください。…でもなんで僕を此処へ?」
『それは、私達の納める世界が今、危険に晒されています。魔王と呼ばれる存在が人族へ攻め入り最終的に人族を皆殺しにし世界のバランスが取れなくなってしまうでしょう。』
それを防ぐ為に僕に勇者となって魔王を倒して欲しい。
良くあるお話だな。
『私達では世界に直接干渉する事は出来ません。ですから神託と言う形で人族に危機を促し勇者を召喚せよと送りました。』
その召喚に僕が選ばれたと?
『その通りです。…勿論、私達の世界にそのまま送る事は有りません。それに見合う力を私が付与します。』
?どういう事だ
『私達の納める世界は魔法が存在する世界です。貴方の世界でいうなら「剣と魔法のファンタジー」の世界です。』
なぜ僕なんです?
『運命ですから。』
意味が分からない。
運命?なんの事だ?
『……これでも行く気にはなって頂けませんか?』
………行ったら帰ってこれるのですか?
『…勇者の目的はイレギュラーの排除でもあります。』
女神が突然語りだす。
『全てのイレギュラーを排除し世界の真理を知った時。帰る道標は現れるでしょう。…私は世界に直接手を出す事は出来ません。私が言える事は此処までです。』
女神が一呼吸おいて頭を下げた。
『お願いします。どうか、イレギュラーの『魔王』を討伐し世界を救って下さい。』
……帰れるなら…
「分かりました。魔王を倒せば良いんですね?」
『ありがとうございます!』
その女神は美しく微笑んだ。
『では、ナガト様に世界へ対抗する力を授けます。』
その瞬間頭に機械的な女性の声が聞こえた。
《称号『勇者』を入手しました。これにより新たなスキルが解放されました。》
《称号『神の加護』を入手しました。》
『それではお願いします。』
女神が手を一振りすると目の前の白い空間が裂け僕はその中へ吸い込まれる様に入っていった。
ナガトが居なくなった真っ白な世界に女神は立っていた。
ナガトを送った女神は口元を引き上げニタリと笑う。
その瞬間、真っ白な世界は砕け真っ黒の世界へ豹変する。
女神と名乗った彼女の本当の名はリマザリル。『慈愛と祝福の女神』リムムリルと対になる存在。『憎しみと反逆の女神』彼女はそう呼ばれている。
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気がつくと城の様な部屋にいた。
「おぉ…成功したのか!」
「やりましたね!お父上!」
「陛下!これで我々も安泰な国になりますな!」
見下ろすと其処にはいかにもファンタジーな服を着た人と王様と姫様の様な人が喜びに満ちていた。




