ー第3話ー 『商業ギルド』
「旨い飯屋ですか?エリア96ではなく?」
「ああ、そうだ。」
「ではミーク商店街に何でも揃うミコク定食屋がありますよ!」
「ほう…では其処に連れて行って貰おうか。」
ミコク定食屋。名前だけだとかなり良さげな定食屋だな…
ミーク商店街は冒険者ギルドから少し離れた小さな商店街だった。いや…シャッター街……シャッターじゃ無いが木の板で店が閉められている。
そんなところのかなり隅の方から油の匂いが漂って来た。
其処は何年も年季が入ってシミや油汚れが目立つ様な雰囲気が出てるお店だった。
「あい!いらっしゃい!」
客席とだと思う椅子に腰を掛け挨拶をしてきた綺麗に整えられた白髪のお婆ちゃんがいた。
店の中はガラガラで誰も居なかった。
「おい、本当に旨いのか?」
「ええ、味は保証しまっせ!」
念のためジャックにも確認しておく。
四人掛けのテーブル席に二人で座った。
メニューは無い。壁にメニューが有るのかと思いきや無い。
「すみません。メニューは無いのですか?」
「ええ?あんだって?」
お婆ちゃんがどっかの議員さん見たいなポーズで聞き返してきた。
俺は少し大きな声で再び聞いた。
「メニューは無いの!?」
「ああ?目にはねぇ…お茶、茶を飲むのが一番だよぉ…あたしゃもねぇ…昔は目がねぇ…ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数分間のお婆ちゃんによる目がどうたらの話を聞き流しやっとメニューは無いのかと聞き取ってくれた。
「メニューは無いねえ。定食で良いかい?」
「ええお願いします。」
もう駄目だこの婆さん…
相手するの疲れるわ……
「あいよ、定食。」
お盆に並べられ出て来たのは玄米が少し混じった白米と白味噌の味噌汁、若芽とネギが入ってる。それにコロッケ?が一つ小皿に乗せられ沢庵と多分鮭の塩焼きと薄切りの何かの肉がタレに絡められて出て来た。
うむ、美味しそうだが……普通だな。
「…頂きます。」
味噌汁をすする。
………普通だな…
至ってシンプルな味噌を使ってるね。
じゃああれか?コロッケか?コロッケが旨いのか?
一口かじる。
サクッと揚げたての食感中は普通にジャガイモと肉ミンチ……
……美味しい…美味しいけど…何とかのそうま、みたいに裸でバァァン!!みたいな衝撃も無いし……
嫌いじゃ無い…嫌いじゃ無いけど別に来たいと思って来ようと思う程の美味しさでは無い。あれば行こうかくらいの感覚だな……つまり普通。
もしかしてあれか?肉のタレが実は凄く美味しいとか!?
一口食べる。
……うん、エ◯ラ焼肉のタレの方が旨いわ!
期待してないけど鮭はどうだ?鮭かどうかは分からんけど…
骨を取り外しほぐして食べる。
…………………普通に鮭だわ……
ご飯を一口食べる。
……旨い……
噛むたびに甘みが出てとても美味しい……
日本米って感じだな…でも別にこれは地球レベルなら普通の味だ……
結果、別に普通だった。
多分ここら辺じゃコレくらいで美味しいんだろう……美食屋の俺にはまだ甘いがな…
「ご馳走様。いくらですか?」
「ええ?5チールだよ。」
安い!玉ねぎ2個半分じゃないか!
それでこの美味さは確かにおいしいな!やるなジャック!侮れん!
ジャックも同じ定食を食べ払い店を出た。
「では、早速案内して貰おうか、エリア96に。」
「はい。…ですが、ダンジョンに行くのでしたら装備を揃えていく事をお勧めしますよ。」
「剣を買えと言うのか?」
「それもありますが回復薬やポーションを持って行くこともお勧めしますよ。」
「問題無い。私は回復魔法も使えるしポーションは元から持っている。」
「左様でしたか。では行きましょう。」
俺はジャックの案内で西門に向かった。
ジャックは途中の武器屋で身の丈ほどの大剣を受け取り背中に背負った。
西門を出ると冒険者ギルド専用と書かれた馬車が四つほど馬小屋の前に停められていた。
そのまた少し離れた別の所にも同じ様に馬車が停められていた。
「あれは何だ?」
俺はその少し離れた馬車を指差す。
「ああ、あれは商業ギルドの馬車ですよ。ギルドの人間なら誰でも申請すれば直ぐに乗れますよ。」
「ほう……それはタダなのか?」
「ええ、我々が乗るこの馬車もタダですよ。…商業ギルドの人間ならどんな場所でも申請なしで商売がする事が可能になりますし税金も毎月売り上げの1割を其処に納めれば良いらしいですよ。」
流石にダンジョンで商売する人は聞いた事無いですけどと付け加えた。
へぇー商業ギルドなら色々とお得なんだ……
「おい、商業ギルドに案内してくれ。」
「ええ!?今からですかい!?」
「そうだ。」
ジャックは馬の手綱を握って馬小屋から頑張って馬を出していたところだった。ふふふ、すまんな(笑)
商業ギルドは西門から歩いて10分位のメインストリートのほぼ中心に構えられていた。
デカイ……二階建ての豪邸だな…
そして何よりドアが横開きの自動ドアなのだ!
入り口手前のマットを踏むとその重さでドアが開く仕組みになっている。
看板には『商業ギルド ロトムス本部』と書かれていた。
迷わずドアの向こうへ入る。
「いらっしゃいませ〜」
受付カウンターが三つと馬車申請カウンターが一つ、納税カウンターが二つ横並びで無駄に広く取られていた。
よく分からんが取り敢えず真ん中の受付カウンターに向かった。受付の人は赤い頭巾の様な帽子を深く被っていた。
「いらっしゃいませニャ、本日はどの様なご用件ニャ?」
その人は何故か語尾がネコだった……
「商売を、始めたいのだが……」
「うにゃ?では、幾つかご質問させて貰いますニャ。」
「ああ。」
俺は受付の人と目を合わせた。青色の目をしていて頬にはピンと伸びた六本のヒゲが生えて本当にネコを連想させる顔だった。
よく見ると、首に何か黒い物を付けていた。
「先ず、一つ目ニ、その商売はどの様なものにゃ?」
「アイテムを売る事だ。」
「商人という事で良いですかにゃ?」
「ああ。」
受付がスラスラと紙に書き込んでいく。
「では、店舗販売かにゃ?それとも露店販売かにゃ?」
ダンジョンは露店に入るんかな?
まぁいいや
「露店だ。」
「分かったニャ。」
また少し書くと手を止めコッチを見てきた。
「露店販売での注意点を説明しておくにゃ。」
「ああ。」
「先ず、露店販売は税金を納めなくて良いにゃ。」
「ほう…」
税金無しってなにそれ、露店販売最強じゃん。
「ただし、そのエリアやブロックごとの取締役に指定の額を納めなくて駄目にゃ。無断で販売などを行った場合には罰金が発生するにゃ。気をつけるニャ。」
「それは王都や街、村の中だけの話か?」
「そうだにゃ。基本的ニャは森や山、海や移動経路の道なんかは誰のものでも無いからにゃ。税金なんか掛からにゃいが、危険にゃし誰も止まらにゃいし、盗賊にゃんかに襲われるから、オススメはしないにゃ。」
「それはダンジョンもか?」
「……そうにゃねぇ……」
一瞬固まったが直ぐに返事をくれた。
よし、税金無しだぜ!
「じゃあ、ここに名前を書くにゃ。」
冒険者ギルドとは違いちゃんとした白い紙に名前欄の所に書く。
「……ディラデイルにゃね。」
「ああ。」
「じゃあ商業ギルドメンバーの会員証を発行するからちょっと待つにゃ。」
受付が席を立ちどっかにいった。その間、俺は風魔法を使い空気椅子で腰掛ける。
暫くして受付は帰ってきた。
「お待たせしたニャ。コレがあにゃたの会員証にゃ。」
渡されたのは免許証みたいな小さなカードだった。名前と商売方法とここのギルドの名前とハンコが押されていた。
「うむ。」
「商売繁盛を祈っているにゃ。」
「ああ。」
受付が立ち上がり頭を下げてきた。
その受付は何故か黒い首輪を付けていたのを俺は見逃さなかった。
「……奴隷か…」
ふと言葉が漏れた。その言葉に受付は少しビクと反応したが俺はさっさとギルドを後にした。
「有難うございました〜」
奴隷か……
確かにこの世界では、いや、この人族領では奴隷制度が存在するが俺にとってあまり良い気はしない……
ただ、ここの奴隷制度は少し違って異種族。つまり人間以外の人の形をした生き物ならば奴隷として扱って良い。となっている。
そして現在は人族と獣人族、魔族は戦争をしている。
人族が勝てば魔族や獣人族は全て奴隷という事になるな。
話が逸れた。
俺が言いたいのはさっきの受付は獣人族で奴隷って事だけだ。俺が嫌と思ってもこの世界では奴隷が居るのは当たり前だ。だから俺は何もしないし出来ない。
それは良いとして、さぁ、さっさとエリア96に行こうでは無いか!
「さあ、案内を頼むぞ。ジャック。」
「はいはい。」
ジャックは本当に疲れている感じだった。