第03話 具足
天の鍛冶師。鍛冶の腕を神々に認められ、原初の炎を与えられた鍛冶師の頂点である。その店は強い望みを持つ者しか見つけられないと言われている。
『はぁ……良い……』
『ふふっ、ありがとうございます』
『篭手姉様は良いなぁ……』
品物が並ぶ店内で、篭手が布で鎧を拭いているのを見ながら、具足は何もできないと明滅する。
『何を言っているのです。あなたは、あなたにしかできないことをしていますよ』
『そう、なのですか? 具体的には何でしょう』
真面目な具足は、思いつかなかったため曲がりながら悩む。今のところ、具足は鎧の傍に居ることしかしていないのだ。
『鎧様と常に一緒に居てくれるではないですか』
『でも、それだけですよ姉様』
弱めに明滅する具足に、篭手は柔らかく光を向ける。
『それができる者は中々いないのです。あなたもいつか分かる日が来ますから、焦る必要はありません』
『……分かりました』
『はふぅ……』
磨かれて恍惚とした声を上げている鎧は、姉妹の間で交わされた話を聞いていない。具足はそんな鎧に寄り添いながら、甲斐甲斐しく動き回る篭手を見上げるのだった。
「うーん、戦争にか……」
「はい。駄目、でしょうか」
『そんなことはありません。私はどんなときでも、麗しいあなたをお守りいたします!』
『素敵です鎧様!』
『す、素敵です……』
篭手ほど突き抜けていない具足は、ちょっぴり恥ずかしそうに褒めている。商談中の親方は同じ姉妹でどうしてここまで違うのかと考えながらも、どことなく美人神官似の凛々しい女騎士へと視線を向ける。
「駄目ではないが、目立つから危険が多くなる。具体的に言えば、休むために鎧を脱いだときだな。鎧の力に頼り、本気で暴れないと駄目なくらい劣勢なら、簡単に刺客が紛れ込める。さすがに鎧を着たまま寝たら、最後まで身体がもたないのは分かるな?」
「それは……、はい」
『くっ、回復効果を所持していれば、ずっと着て頂けたのに……』
『鎧様……』
『お力になれず……』
夫婦漫才は無視して、親方は続ける。
「後は毒だな。水や食事に入れられたらどうしようもない。つまり、あの鎧を着たところで勝てるとは限らない。むしろ、着ることによってあんたは確実に死ぬだろう。それでも欲しいか?」
女騎士は親方と視線を合わせると、一片の迷いも無い優しい笑みを浮かべた。
「……我が忠誠は王家の方々に。僅か一片でも力となれるならば、この身を失っても惜しくはありません」
『な、何て良い子なんだ……。親方、断っちゃ駄目ですよ! 俺が絶対に守って見せます!』
『あぁ、凛々しいです鎧様……』
『り、凛々しい、です』
親方は頭痛を堪えるようにこめかみに手をあて、大きく息を吐き出す。そして緊張した面持ちの女騎士と目を合わせると、確認作業に入った。
「この契約で良ければ売ろう。買うか?」
「はい。ありがとうございます」
女騎士は迷わず即答し、代金をテーブルに置くと契約書にサインをした。そして契約書が鎧と女騎士に吸い込まれたところで、親方は立ち上がった。
「これであの鎧はあんたのものだ。不要になり、その手で返却されることを神々に祈っておこう」
「ありがとうございます。そうありたいですね」
親方は軽く手を振って奥に消えていった。背中を見送った女騎士は鎧に近づき、手を伸ばす。
「短い間だとは思うけれど、よろしく」
『お任せください。いつか別れるその日まで』
『倒れようとも意思ある限り』
『誠心誠意、最後までお供いたしましょう』
鎧、篭手、具足は光の粒子となって女騎士を包み込む。そして光が収まった女騎士に、銀色に輝く鎧達が装着されていた。
「これは……軽い。それに動いても違和感が無い。まるで何も付けていないと思ってしまうくらい。素晴らしい」
『ふふふふふ、当然です。麗しい女性に負担をかけることなどしません!』
女騎士は装着された鎧を撫で、思わず口元がほころぶ。そのため鎧の機嫌はどこまでも上昇していく。
『篭手姉様、窘めなくてもよろしいのでしょうか』
『ええ。不備は私達が補えば良いのです。そのための私達なのですから』
『了解です』
姉妹は小声で会話を行い、いつも通り鎧を褒める。そんな聞こえない会話が行われているところに、控えていた見習いが笑顔で近寄ってきた。
「お客様。これはおまけです。私が作った甘い飴なのですけれど、感想を聞かせてください」
「え? ふふっ、ありがとうございます。実は甘いものが大好きなのです」
女騎士は差し出された黄白色の飴を手に取り、疑うことなく口に入れた。飴はすぐさま口の中で雪のように溶けていき、甘い香りだけを残して消えていった。
「……不思議な食感ですね。長く楽しめないのが残念です。ですが、これはこれで良いような気がします」
「ありがとうございます。……月が欠け、夜空に闇が訪れても、いずれまた月は満ちます。お気をつけて。またの来店をお待ちしています」
「……ありがとうございます。それではまた」
『行ってきまーす!』
「ありがとうございましたぁー」
笑顔の見習いに見送られながら女騎士は扉を開くと、力強い一歩を踏み出した。
凄惨。広がる光景はその一言に尽きた。
「せいっ!」
女騎士は敵の只中で血に濡れた槍を無造作に振るう。周囲に居るのは敵だけなので、気を遣わなくても良いのだ。槍が折れれば剣を拾って叩きつけ、剣が曲がれば槍を拾う。
しかし、そんな血濡れた戦場において、女騎士は返り血ひとつ浴びずにいた。
『ふっ、そんななまくら武器など、我が防御の前には無力よ。俺を倒したければ、親方が本気で作った武器を持って来るのだな。……存在しないけど』
『確かになまくらですね。脆すぎます』
篭手は女騎士の動きを補正しながら、的確に急所を狙っていく。鎧の力場に攻撃しても運動量を消去されてしまうので、僅かな時間だが棒立ちになってしまうのだ。そのため簡単に狙えるのだが、それでも長くはもたない。
「はっ……はっ」
『……具足。もう少し強化しなさい』
『はい。姉様』
女騎士に疲れが見え始めたのを見て取り、篭手は具足に身体能力強化を指示する。あまり良いことではないが、まだ引き返せないのだ。味方は籠城。出ているのは女騎士のみ。役割は敵指揮官を討ち取ること。
無謀の極みな作戦であるが、決戦を選べば兵力が劣っているので負けるのだ。そしてここが陥落すると、もう国を保てなくなる。だから女騎士は伝説の聖なる鎧を手に入れたことを報告し、志願して出陣していた。
最初はうまくいっていた作戦も、繰り返せば敵も学習する。そのため今では指揮官を見つけるのが一苦労なのだ。
具足から淡い光が立ち昇り、女騎士を包み込む。それで疲労が遠ざかった女騎士は笑みを浮かべ、敵だらけの戦場を進んでいく。立ち塞がれば死が待っているので敵は遠くから攻撃してくるが、強化された女騎士の速度なら無いも同然の距離である。動きを見ながら飛び込み、殲滅し、次に移動する。いずれ指揮官に当たると信じて。
『ぬ? 生意気な視線を感じる。ちょこざいな!』
そんなことをしているとき、鎧は女騎士に向けて害意を伴う視線が向けられたような気がした。そのため鎧は害意を跳ね除けるべく輝きを強める。そして鎧と繋がっている篭手は、視線の方向を簡単に割り出した。
『……さすがです鎧様。命じる、彼の敵を貫け』
「あっ」
篭手は女騎士の身体を動かし、槍を振りかぶる。そして光を槍に纏わせると、目にも止まらぬ速さで投擲した。光の槍は集まっていた敵を貫きながらどこまでも直進して行き、戦場の端まで突き抜けていった。
直後、感じていた視線は消え去り、敵軍に乱れが生じた。
『……おや、気のせいだったかな? ま、良いか! お、遂に敵が恐れをなして逃げ始めたぞ』
『きっと鎧様の威光にひれ伏したのでしょう』
『格好良かったです』
「……ふぅ」
浮き足立って逃げ出した敵を掃討し終えた女騎士は少し考えてから首を小さく振り、歓声を上げる味方のところへ引き上げていった。
与えられた部屋にて、女騎士は心を込めて鎧を拭いていく。たとえ身体を操られたとしても、気味悪がったりしない。力を求めたのは己であり、鎧はその要求に応えてくれている。一族に伝わる口伝を聞いているが故に、当たり前のように受け入れることが出来ていた。
「今日もありがとう」
『ふっふっふ。これからもお任せください。……あぁ、良い』
『良い人ですね』
『はい』
そして拭き終わると僅かな時間ではあるが眠る。強敵はひとりなので敵は連戦を仕掛けたいのだが、指揮官の損耗が予想より大きかったため、一度失敗してからは行われていない。おかげで休憩なしのまま動くことはないが、確実に疲労は蓄積されている。
それは味方にも言えることだった。
「……う? ごふっ」
『え? ええっ!?』
雲に覆われた空からもうすぐ太陽が沈み、闇が覆う時刻。継続戦闘中の女騎士が突然吐血し、戦場にて初めて膝をついた。そのため十全に力を発揮していた鎧は、わけが分からず混乱する。
『な、何で?』
『具足!』
『はい! 毒分解能最大強化!』
女騎士を光が包み込むも、改善する気配はない。むしろ悪化していて、手が痙攣し始めていた。そして遂に地面に倒れ伏してしまった。
『先程飲んだ水、ですか』
『おそらく。交じり合うと毒性が出る遅効性の毒ではないかと思います』
連戦ゆえに女騎士は戦いの合間に水分を補給している。その水に毒を仕込まれたと篭手と具足は推測した。
即効性の毒では毒見に引っかかるので、要人暗殺用の量が作れず高価な毒が使用されたのだ。
一つ目は事前に食物で体内に吸収させておき、十分毒が体内に蓄積されたところで最後の毒を飲ませる。吸収されてから効果が出るまで時間がかかるのが難点だが、毒は体内で合成され続けるので吐いても意味がない。味方も疲弊しているため注意が散漫になり、混ざらなければ毒性が現れないので毒見をすり抜けてしまったのだ。
立ち上がらない女騎士を見た敵軍は歓声を上げ、女騎士を無視して全軍が砦へと押し寄せる。たまに首級を挙げようと近づく者も居たが、女騎士に触れることは鎧が許さない。
『触るな。お前達みたいな者が触って良い人じゃない!』
鎧は輝きを増すと力場を広げて敵兵を退ける。しかし、攻撃力は皆無なため、弾かれた者は悪態をついて砦へと向かった。
『くそ、くそくそくそ! 何が守るだ! 守れていないじゃないか! 守ることしかできないのに!』
鎧は泣きそうな声で己をなじる。その本気の嘆きに、篭手と具足は慰めの声をかけることさえ憚られた。
『具足、どうですか?』
『駄目です。分解するより早く臓器が破壊されていきます。これでは毒が無くなっても……』
『そう、ですか』
まだ女騎士は生きている。しかし、その顔色は青ざめ、半開きの瞳は焦点を結んでいない。そしてもう、鎧達には女騎士を助ける手段がなかった。
「お、うき……」
『王旗?』
そんな絶望に包まれようとしたとき、力を失っていた指が動き、女騎士は震えながらも身体を起こそうとする。戦場を見れば、敵軍の只中に今まで見たことの無い豪奢な旗が、雲の切れ間から差し込む夕日を浴びながら翻っていた。それを見たとき、知識の無い鎧にも分かった。あそこに敵の総大将がいるということを。
『……あそこ』
『はい。お任せください』
篭手は女騎士の身体を操り、静かに立たせた。そして広がった力場の中にある武器を呼び寄せ、光を纏わせる。
『具足』
『はい。飛翔翼展開!』
具足の装飾が光を放って浮き上がり、薄緑色に輝く翼が現れる。そうして一度羽ばたくと、女騎士の身体が地面から離れて浮き上がった。
女騎士は戦争に勝利するため王旗まで辿り着きたい。だから叶える。そしてこの場所から篭手が吹き飛ばしても、最大戦力を倒して勢いに乗った敵兵は止まらない可能性がある。そのため具足は女騎士を注目させるべく、夕闇迫る天空に向け飛翔の力を解放した。
『行きます!』
「……あ」
もう目も見えなくなりかけていた女騎士は、己の手を引きながら空へと翔け上がる黒髪の少女を幻視した。そして煌く緑の瞳が向く先に、求めて止まなかった敵の総大将を見つけた。手にはいつの間にか輝く槍が握られており、その穂先は逸れることなく豪奢な鎧を着た敵と相対している。
上昇が終わり、一気に下降へと転ずる。近づく総大将の表情は恐怖に彩られ、慌てて逃げようと身を翻そうとしていた。しかし、その動きは遅く、背を向けたところで槍が鎧ごと易々と貫く。それを確認した女騎士は役目を果たせたと小さく微笑むと、広がる闇に意識を委ねたのだった。
『どよーん……、どよどよーん……』
「おい、いい加減邪魔だからどうにかしろ」
親方は眉を吊り上げながら鍛冶場の隅でたそがれている鎧を指差し、篭手と具足を見やる。
『申し訳ございません。あと少しだけ時間を頂けないでしょうか』
『お願いします』
鎧に寄り添っていた篭手と具足は、そっと離れて親方に近づく。
「甘やかすと為にならんぞ。だいいち、助かったんだから良いじゃねえか」
『ですが、力及ばず一度亡くなられたのは事実ですし……』
『なぜ蘇ったのかも不明です』
あの後、本陣を蹴散らしてから再上昇したときには、毒による臓器不全で女騎士の鼓動は止まっていた。それでも鎧は守ることを止めず、篭手と具足も戦闘を継続した。
王旗が斃れ、女騎士が復活したことよって敵軍に動揺が駆け巡り、指揮官が減っていたために統制を取り戻せずに瓦解した。その様子は砦にも伝わり、ここぞとばかりに全軍を上げて追撃した。そのときには空を覆っていた雲が途切れ明るい満月が戦場を照らしていたため、追撃は死力を尽くして行われた。
そして敵軍が完全に敗走したため、追撃を助けるために飛翔し続けた女騎士を砦へ降ろそうとした。そのとき、止まっていた鼓動が突然再開し、気が付けば毒に冒されていた身体も元通りになっていたのである。
そして後日、女騎士の手によって鎧は返却された。周囲には惜しむ声もあったが『我欲で留めれば、百年前のように見捨てられる』と女騎士が説得した。
百年前、我欲に溺れて鎧に見捨てられた貴族令嬢は、自室で恐怖の表情を張り付かせたまま鼓動を止めているのが発見された。それが引き金となって外敵も引き込んだ内乱に発展し、今日の衰退に繋がったのだから誰も異論を唱えなかった。
『親方様は心当たりがございますか?』
「蘇生なぁ……。恐らくどこかで古い精霊に会っていたんだと思うぞ。最初からあてにすると大変な目に遭うが、気に入った者をきまぐれで助けたりするからな。完全な蘇生が可能なものとなると、精霊の作る秘薬しかない。確か、満月の光を集めて作るとか言われていたな」
『精霊ですか。確かに、気に入られてもおかしくない方でした』
「お前らも、一応精霊の一種なんだが」
ふむふむと明滅する篭手と具足に、親方は苦笑しながら指摘する。それを聞いてどちらも動きを止め、やがて具足がかかとを鳴らした。
『親方様。それでは、命を扱える仲間を生み出すことは可能なのでしょうか』
具足の意図を悟った親方は、髭をさすりながらたそがれている鎧を見る。
「まあ、今までの傾向から狙えばできると思うが、例によって確証は無い」
『どよーん……』
「……だが、あれを続けられるよりはましだ。辛気臭くてかなわん。だが、さすがに今回は姉妹にはならないぞ。兜はあの馬鹿が顔が見えないなんてとか言って却下するだろうからな。おそらく従妹程度か。それでも構わないか?」
『はい。今回ほど己の力不足を感じたことはございません』
『よろしくお願い致します』
迷いのない明瞭な返事に頷くと親方はゆっくりと立ち上り、原初の炎が燃える炉へと向かった。
『どよどよどよーん……』
「ほれ。新しい嫁だ」
『どよ……、新しい嫁?』
壁に向かってたそがれていた鎧は、新しい嫁という言葉にあっさり振り返る。
鎧の前には、銀色に輝く丸い小盾が置かれていた。顔を覆える程度の大きさであり、盾としてはいささか心許ない。表面は緩やかな弧を描いた鏡面になっていて、裏側には天の星々を模した装飾がある。そして中央には黄色の宝石が填められていた。持ち手が無いため武骨さは無く、厚みがあっても女性らしい慎ましさを印象付けている。
それを確認した鎧は、不思議そうに明滅する。
『親方。綺麗ですけれど、どうして装飾が裏側なんです?』
「そりゃあ、これは盾であって盾じゃないからだ。守りはお前が居れば十分だから、こいつはお前の力が及ばない場所を守る。その象徴だな。お前は自己主張の激しい嫁が欲しいのか?」
『要りません。でも、もう篭手さんと具足ちゃんがいるし……、頼りない僕じゃあ見限られるかも……』
守れなかったため弱気になっている鎧に、篭手と具足が寄り添う。
『大丈夫です。どんと構えて背中で語る鎧様は、とても頼りがいがあります』
『はい。一緒に居ると安心できます』
『そ、そう?』
擦り寄られたため、だらしない声を上げながら鎧は持ち直し始める。親方はそんな鎧を生暖かい目で見つめながらも、状況改善のために言葉を紡いだ。
「おめえが十全に力を発揮するには、後ろで支える者が必要なんだ。男なら、全てを飲み込んで俺に任せろくらいは言ってみろ」
『鎧様……』
篭手と具足は優しく明滅しながら擦り寄っている。そうして親方の言葉が心に沁みた鎧は、一気に輝きを取り戻した。
『ふっ、言われるまでもありません。俺に任せてください! ……ぬふふ』
「何が言われるまでもありませんだ……」
親方は先程まで落ち込んでいたことを忘れている鎧に呆れながら、背を向けて椅子に座ると用意していた酒を飲み始める。そしてお試しとして見習いから渡された酒の肴を食べていき、これは良く合うと頷いた。
もちろん鎧は、立ち去った親方の挙動など全く気にしていない。小盾を前にして機嫌良く輝いている。
『こ、こここれからよろしく。力を抜いてね。大丈夫、痛くないから……』
自信を取り戻した鎧は小盾を力場で力強く包み、篭手と具足に見守られながら見えない絆を優しく繋いだ。瞬間、白光が部屋を塗り替え、ゆっくりと消えていく。
そして鎧の前には、先程まであった小盾の姿は影も形も無くなっていた。
『あれ?』
『あら?』
『えぇ?』
「ん?」
繋がっているのは分かるので、消滅したわけではない。そのため鎧は周囲を見回すが、姿は見えなかった。
『小盾さーん? どこに居るのかなー? 恥ずかしがらずに出ておいでー』
『どこに……あっ』
『あっ』
動き回る鎧の背中に、円形の鏡盾が貼りついていた。そのため篭手と具足は動きを止め、探し回る鎧に教えて良いものかと親方を窺う。
「ほっとけ。そのうち気付く。後は任せた」
『ですね。お任せください。……恥ずかしがり屋さんでしょうか』
『お疲れさまです』
『鎧様……えへへ』
『あれ? 小盾さんどこー?』
鎧の間抜けな声を背中で聞きながら、明日は晴れるだろうと親方は首の骨を鳴らし鍛冶場を後にしたのだった。
精霊姫の秘薬『満月』。世界で唯一、完全な復活を行える蘇生薬。満月の光から作られると伝えられている、おとぎ話に出てくる薬。その製法を知る精霊姫は、片手で足りるほどしか居ないといわれている。