暗闇の洞窟
「あの! わたしも一緒に連れて行って下さい!」
不思議な神殿を後にしてから数日。あれから面白いことは、特に見つからなかった。
今日は久しぶりにちゃんとした街道を歩いて、途中で魔物に襲われている馬車を見つけた。道を塞いでて邪魔だったから倒した。殺してはいないし、勿論テイルにも手は出させていない。
かわいいテイルを血で汚させたりするものですか。
馬車には女の子が乗っていて、護衛の騎士らしき人物が二人いたけど、どっちも死んでいた。すると何を思ったのか、女の子はそんなことを言ってきた。
言っておくけど一々見た目の説明なんかは面倒だからしない。
「テイル、どこに行く?」
「ガウ」
「分かった。それじゃ行こう」
テイルが指さした方向へ向かう為に街道を外れて、道無き道と言う程ではないけど整えられていない道を進み始める。暫く進むと洞窟が見えてきた。中は暗くて何も見えないけど、テイルはしっかり見えるみたい。
でも、なんだか様子がおかしい。中を見る、と言うより睨んでいて。
何か、あるのかな? この中に……。
「テイル、どうする? 中に入る?」
「……ガウ」
「分かった。それじゃ、道案内はよろしくね?」
テイルに乗せてもらい、中に入る。入り口はすぐ後ろにあるのに、一寸先も見えない闇が広がっていた。でもテイルは、迷うこと無く進んでいく。
道は下に向かっているのか、少し体が前に傾いている。
暫く進むと、急に周りの空間が広くなった気がした。そこはまた一段と暗くて、本当に何も見えない。 テイルの背から降りて、指先に魔力を集め最近練習をしている雷の魔法を指先に作り出す。少しずつ注ぐ魔力を多くしていき、多分中央だと思われる場所の上空に向かって飛ばした。一瞬だけこの空間が照らし出され、中央辺りに何かの影が見えた。
「――――っ」
その瞬間、心臓を直に掴まれた様な、凄くいやな感じが背筋を駆け上ってきた。
そして溢れてくる、ここには居たくない、早く逃げ出したいと言う気持ち。この世界に来て初めて、こんな感情に駆られた。
テイルも何かを感じているのか、ずっと正面を睨んだまま唸り声を上げている。
「テイル、ここから出よう……ここはイヤ。早くここから出たい」
「グウウウゥゥ……!」
唸り声を上げながらでも、私の声は聞こえている様だった。背中に私が乗ったことを確認すると、警戒したままゆっくりと後退し始める。その瞬間何かかが動いた気配がしたけど、そんなことを認識する前に吹っ飛ばされた。神から貰った力のお陰でこれ位で死ぬことはないけど、痛いことには変わりない。
とにかく、相手の姿が見えない以上うかつに動く訳にはいかない。結界を張ってまた来るであろう攻撃に備える。テイルもそれが分かっているのか、隣でじっとしている。
でも、攻撃はいつまで経っても来なかった。
もしかしたら、音で居場所を特定しているのかも知れない。
そうだとしたら……。
右に水、左に雷の魔力を集中。結界を装備型に切り替え、人差し指に集めた水の魔力を目の前の床に発射。水の弾けると音と同時に一歩前に踏み出すと、何かが衝突してきた。
雷の光が照らしたのは、狼の姿。
でも、普通の狼とは似ても似つかない。
不気味な光を放つ黄土色の三つ目。黒い体から突き出した骨は獲物に突き刺すためか、先端が鋭く尖っている。口から滴る涎は床に落ちた瞬間、その場所を溶かして……。
「テイ――」
「ガアアアァァ!」
呼び終わる前に、テイルが狼へ黒い炎を零距離でぶつけた。
光の届く範囲外まで飛んでいき、壁にぶつかったのか何かが砕ける音がした。
それで終わったかは分からないけど、逃げるなら今しかない。
「テイル、お願い!」
「ガアッ!」
テイルの背中に乗り、降りてきた道を今できる限りのスピードで飛んで貰い外へ。出た瞬間、眩い光に視界が包まれた。
「っ!」
「ガウッ……!」
目を瞑り、なんとかふらつきながらも着地したテイルにお礼を言いながら降りて、怪我はしていないようだけど念の為に治癒魔法を掛けておいた。
昼食を食べるには丁度良い時間でお腹も空いているけど、今は予想外のことに対する疲れの方が大きくて、食べるよりも眠りたい。何とか結界を張って、私とテイルは眠りに着いた。
あの狼がなんなのかは分からない。
でも――もう関わりたく無かった。




