募る不安
「さっきの、何だったんだろうね?」
起きた私達は、今現在夕食の真っ最中。近くを通り掛かった、まだ見たことが無い奴。本で見たかも知れないけど、引っかかるところが無いから多分初めて見たと思う。鳥型の魔物なんだけど、トゥース鳥みたいに歯がびっしり生えてたりするのじゃなくて、翼が三対六翼で目は黄金。色は青。首元は白い毛に覆われていた。大きさも今のテイルと同じくらいの二メートル弱で、寝ていた私達を攻撃しようとしたみたいだけど、生憎結界に弾かれて、その時起きた私が火で倒した。
で、その魔物を食べている。
私達が話しているのは、さっきの洞窟で遭遇した何か。関わりたくないとは思っても気になってしまうのは仕方無い。テイルに、何かしら関係が有るかも知れないなら、尚更。
あんなテイルは初めて見たから、それも手伝ってあの狼なんなのか気になる。ただ、テイル自身も何故あんなに警戒したのか分からないらしい。理由を聞いても首を横に振って、声からしても本当に分からないと言った感じだ。
「あの狼についても、前の神殿についても、どこかで分かるかも知れないけど……できれば、あの洞窟には行きたくないな。神殿の方は気になるけど」
「ガウ~」
「でも、洞窟にいた奴があなたと何か関係が有るかも知れないなら、知っておかないと。テイルも知りたい?」
「ガウ!」
「うん。それなら、次は一旦街に向かおう。図書館みたいな場所があれば、何か分かるかも知れないし、何より食料も買い足さないといけないから」
「――――! ―――――!」
まだ居たんだ……あの女の子。
朝に襲われていた馬車に乗っていた女の子は、まだ私達を追いかけてきていた。何かを叫んでいるけど、これは遮音の結界。何を言っても意味がない。
テイルは私の横で、つい今し方最後の一切れを食べ終わった。
何かご飯の代わりになるものって無いかな?
テイルを見ながらぼんやりと考えて、神に聞くことにした。
『久しぶり、茜』
『うん、名前を呼ばれたのも、久しぶり。早速だけど、シャドー・ドラゴンて普段はどんな物を食べてるの? 今の食生活で、テイルが満腹になるとは思えないけど、この子、ある分しか食べないから。私としてはもっと我が儘を言って欲しいんだけど……大きくなって精神面も成長したからなのか、全然そんなこと言わなくて……』
もっと、色々言って欲しいんだけどな……。
『そうだね……今の食生活が悪いと言うわけでは無いんだろう?』
『うん。魔物ばかりだけど何とか……』
『それなら大丈夫だよ。肉を喰らうと同時に、その魔物が持つ魔力も一緒に食べてるから。魔物にもよるけど……今のテイルは、どれくらいの大きさだい?』
『二メートル位だけど?』
『魔物が主食になり始めたのは、いつ頃から?』
『えっと……二の街を出て暫くしてからだから……多分、一ヶ月位前から』
『その一ヶ月で、テイルは急激に成長しなかったかい?』
『あ、うん、した! 街にいた頃は、ほんの少ししか成長しなかったのに、この一ヶ月で急激に!』
前にも言った通り、テイルは一ヶ月で急激に大きくなった。街にいた頃とは明らかに成長速度が違うから、成長期ってすごいな~、って思ってたけど、どうにも違ったらしい。
魔力を食べていたから、その分成長が早まったのかも知れない。
『だろ? それなら、何も心配しなくていいよ』
『うん。分かった、ありがと』
『ああ、それじゃ』
神との通信を終えて、隣で私を見ているテイルが、何か言いたげな目をしていた。
何か、寂しいというかそんな感じの目。
どうしたんだろう……?
今まで、テイルがこんな目をしたことは無かった。
「どうしたの? テイル」
「ガウ~……グゥ」
抱きつきながら問いかけると、テイルも甘えるように擦り寄ってきた。
そう言えば、こんな風に抱き合ったの、久しぶり。
寂しかったの? ごめんね、気付けなくて。あなたは、ずっと隣に居て私を助けてくれていたのに。
「ごめんね、テイル。そうだよね、大きくなっても、まだまだあなたは子供なんだよね? だからテイル、あなたはもっと、我が儘を言って良いんだよ? 私にとってあなたは、どれだけ大きくなっても子供なの。だから、もっと甘えて? 二の街に居た時みたいに……ね?」
「ガウ~……」
精神面も成長したのかと思ってたけど、そんなことは無かった。テイルはまだまだ子供。成体が大きいから、子供でも大きいだけなんだ。今の大きさだと前みたいには出来ないけど、それでも、もっと甘えて欲しい。
「ガウ~、ガウガ~」
「ふふ、可愛い所はそのままだね……今日はもう、何処にも行かずにこうしてよう? 急ぐ旅でもないし」
「ガウ!」
それから夜まで、テイルはずっと私に甘えていた。顔をぺろぺろしてきたり胸に顔を埋めようとして鎧にぶつかったりもして、鎧を外すと今度はちゃんと埋めてきた。
そんなテイルを、私は撫で続けた。本当に可愛いのはそのままだ。
「ずっと……このままなら良いのにね?」
「ガウゥ」
テイルも同じ思いで、嬉しかった。でもテイルは、その内成体になって今よりずっと大きくなる。
それは仕方ないことだって、分かってるけど……やっぱり、寂しいな。
すっかり夜になって、私達は寄り添い合ったまま横になっている。こうするとテイルの成長がはっきり分かるんだよね。腕の中に収まっていた小さな体は、私の身長では足りない程に成長して、逞しくなった。でも、やっぱり子供で、そんな所が愛おしい。
まだ会って三ヶ月位しか経ってないのに、テイルは私にとってかけがえのない存在になった。もし、テイルと引き離されたら、私の心は壊れてしまうかも知れない。それ程に、テイルの存在は大きい。
テイルがもし、あの男達に殺されていたらと思うと、そう思う度に怖くなる。水龍と会った時から偶にそんなことを考える時があって、隣にテイルが居ることを確かめて、その体を抱き締めた。
そして目が覚めて、テイルが居ることに酷く心が安らいだ。本当に怖かった。
もし、ずっと一の街に居たら。
もし、遅れていたら。
もし、違う時間にあの場所を通って居たら。
もし、あの場所を通らなかったら。
もし、テイルが追われていたのが違う場所だったら。
そんな考えばかりが浮かんでしまう。
でも、テイルは、今確かに私の隣に居てくれている。もしかしたら、いつかどこかに行ってしまうかも知れないけど、今は確かに隣にいる。それだけで、私には十分だ。
初めて剣で魔物を倒した日、テイルとずっと一緒にいると誓った。
テイルもそれに答えてくれた。
それでも不安は募る。
いなくなるんじゃないか。
嫌われるんじゃないか。
――――永遠の別れが、来るんじゃないか。
様々な偶然が重なり合って出会った、人間の私と龍のテイル。
些細な何かが起こってしまえば、簡単に切れてしまうかも知れない、曖昧な繋がり。
「…………ずっと、一緒だよね……?」
テイルの体を、ギュッと抱き締めた。




