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ずっと一緒に

「やっと着いた」

テイルが仲間になって三日。私たちは今、門の前にいる。

 その門は開いていて、上の看板には、フィレンティア王国・二の街と書いてあった。二なのは、多分私が最初に居たあの街が一だからだと思う。この国がそれぞれの街に、ここと同じような名前を付けているなら他の国もそうかも知れない。

「取りあえず、入ろうか?」

「ガウ」

 浮遊していたテイルを腕の中に納めて、私たちは街に入った。

 先ずは食料を買う為に、お店を探す。二日ほど前に食料が尽きてしまい、それからはテイルがいるにも関わらず襲ってくる大型の魔物が二~三体居たから、その魔物達を倒して食べた。

 神にテイルのことについて聞くと、シャドー・ドラゴンと言う種族ということが分かった。

 シャドーとはそのまま影と言う意味で、成体になると大きさに関係なく影に潜り込むことが出来るようだ。成体になるには、早くて二年ほど掛かるらしい。本来テイルの様な子供のシャドー・ドラゴンは、親が一緒に影に潜って守るみたいだ。だけどテイルは、会った時から一人。神は、はぐれたのか親が死んだのか、もしくは捨てられたのかも知れないと言っていた。

 もしかしたら、旅の中で親に会うことになるかも知れない。

 後、他にも龍族は姿を見せないだけで結構いるらしい。魔法の属性と同じで、火・水・風・土・氷・闇・光。

 他には、自然を司る龍もいるそうだ。

 この世界の自然現象の殆どが、それらの龍によって引き起こされており、雨なら水龍族を納めるアクア・ドラゴンが、雪なら氷龍族を納めるアイス・ドラゴンが、と言った具合で。

 それから自然を司るのではなく、存在そのものが自然である龍もいると言っていた。でもこの世界が生まれて、一度も姿を見せたことはないらしい。それはつまり、自然現象の何が龍によって引き起こされているのか分からないということ。

 さっき言った雨なんかは、龍の持つ力によって引き起こされているから、存在そのものが自然と言うわけじゃない。でも、怒らせたり、もし力が暴走なんてしてしまったら世界が滅んでも可笑しくは無いんだとか。

「凄いね、龍って」

「ガウ~」

 食料を買い込んで、次にギルドに向かった。

 仕事もしないとお金が稼げない……とは言っても、まだまだ王から貰った物が有るから、しばらくは大丈夫だけど。あと、戦いに慣れる為にも仕事はしないと。これまで戦った魔物の殆どが、加減しても最初の一撃で倒してしまうから訓練にならない。

 腹の足しにはなるけど……。

 それに魔法の練習ばかりしているから、魔物が出てきたら自然と火を放ってしまう。剣で戦ったことは一度も無いんだよね。

 ギルドに入ると、また視線が集まった。私を見る人とテイルを見る人が半々と言った感じだ。

 ちなみにテイルは、私の腕の中でぐっすり。

 可愛いねぇ。

 癒された所で、クエストが書かれた紙が貼られているクエストボードに向かい、上の方にある紙を見る。上のほうにあるのはランクが下のクエスト。上になれば成る程中央部分に張られ、目に付きやすい場所に張られる。だから私が受けるクエストであるDランクのクエストは、結構上でぎりぎり手が届かない所。

「テイル、テイル」

「……ガ、ガウ~……?」

 はぁ……可愛い。

 と、今はそれよりも仕事。少し寝ぼけているテイルに紙を取って貰った。

 意外と器用に前脚を使ってる。

 ありがとう、と言って紙を受け取り、またテイルは私の腕の中に収まり眠った。

 よく寝る子だね。

 受付に行って、紙とギルドカードを渡す。少しして、受け付け完了。

 外に出ようとすると、前と同じように声を掛けられた。今度は女の人。肩まであるウェーブがかかった金髪に紅い瞳。格好は私と少し似ているけど、鎧と剣は全然違った。

 なんとなく質が違うと言うか、まあそんな感じ。

 身長は、私より五㎝くらい高いから、自然と見上げる形になる。

「…………」

「あら、この私が声を掛けてあげたのに無視?」

 関わるつもりなんか毛頭ないし、この女が誰かなんてことも知らない。興味も無い。

 さっさと出て行こうとしたけど道を遮られた。はっきり言ってうざい。

 なんなの?

「無視するどころか何も言わずに出て行こうとするなんて……貴女、何様のつもり?」

「うざい、どけ」

「なっ……!?」

 何を驚いてるんだか。

 誰だって、知りもしない人物にこんな態度を取られたらうざい。

 周りの連中はなにやら騒いでいるけど、そんなことどうでも良い。私は早く仕事に向かいたい。それにテイルも起きてしまう。折角こんな気持ちよさそうに眠っているのに。

 ……遮音の結界って有るのかな? 今の状況じゃ聞く余裕が……

『あるよ』

「うわ! びっくりした!」

「何よいきなり!」

 こちらが呼びかけていないのに、神の声が頭に響いてきた。今まではずっと私から話しかけていたからやらなかったみたいだけど、あっちからも一日に数回程度なら出来るみたいだ。

 そういうことは早く言って欲しかった。

 ごめん、ごめんと軽く謝られ、余り長くは話せない様なので遮音の結界の出し方を教えて貰った。単純に、展開の前に遮音と付ければいいそうだ。

『それから、結界を鎧の様に体に沿って張ることも出来るから。装備って付ければね、それじゃ』

 と、最後にそう言って神は通信を切った。

「装備・遮音・展開」

 早速試してみようよと思い唱えると、これまでと同じようにキンと音を立てて私とテイルの体に何かが張られた感覚があって、周りの音が一切聞こえなくなった。

 おぉ、便利。

 テイルの鼻をちょんとつついて、私は今度こそ外に向かった。

 初クエストの内容は、近くの森に生息するトライ・サーペントの討伐。最初の頃に会った、頭が三つに別れている蛇だ。駆け出しの冒険者(ギルドに登録してる人のこと)でも、十分一人で戦える魔物。

 取りあえず結界を解いて、未だ寝ているテイルを連れて森に向かった。一時間程歩くと森が見えてきて、立てられている看板には水龍の森と書かれていた。

 何で、と思ったけど、細かいことは気にせず中へ。

 トライ・サーペントが森のどこに居るのかまでは分からないから、地道に探すしか無い。

 それからまた一時間程歩いていると、テイルが目を覚ましたから、今の状況を説明。ガウっと一鳴きして理解したことを示し、ふわふわと浮遊を始めた。

 大きくなったら、背中に乗せてくれたりするのかな?

 聞いてみると、元気な返事を返してくれた。

「やった! その時はよろしくね!」

「ガウ!」

 一緒に奥へと進んでいくと、以前ミレインと会った時の様な場所に出た。違うのは、湖の中央に周りの木を悠に凌ぐ大きさを持つ巨木があること。

 こんなに大きいのに、どうして気付かなかったんだろう?

 そんな疑問が生まれたけど、それは突然聞こえて来た声によって遮られた。また神かと思ったけど、声が違う。何か威厳がある声だ。テイルにも聞こえているみたいで、首を忙しなく動かしている。

『フ、探しても見つからんよ。今は、頭に直接語りかけているのでな』

 テイルの姿が微笑ましかったの、かさっきより声が柔らかくなった。孫に語りかける様な、そんな優しさに溢れた声。

 テイルを腕の中に納めるとその声はまた、語りかけてきた。

『そなたはシャドー・ドラゴンだな。何故、人間の娘と共にいるのだ?』

「ガウ?」

『人間達は儂等を見つければ、力を恐れ危害を加える存在だ。何故そんな者と居る?』

 その声にさっきまでの柔らかさは無かった。

 どうして人間などと居るのか。自分たちに危害を加える存在である人間。正しくそうだ。私が会った時も、テイルは人間に襲われていた。

 もしも後少しでも遅れていたら、そう思うと背筋が寒くなる。

「ガ……ガウ」

「あ、ごめん、テイル! 苦しかったでしょ?」

「ガウガ~」

 知らない内に力が入ってしまった。謝ると気にするなと言うように前脚をひらひらと振る。

「ごめん」

「ガウ~」

 今度は優しく抱き締める。テイルが何を言ってくれたのか、私には分からないけど……。

『お主は……その者を好いて居るのか?』

「ガウ!」

『……そうか。それならば、何も言うまい。次に会う時は、儂も姿を見せよう。ではな』

 それっきり、声は聞こえなくなった。私達は暫くその場で立ち尽くして、それからまたトライ・サーペントを探しに行った。

 それから見つけ出して、剣で戦った。頭が三つ有るのは、思った以上に厄介で、どれか一つを攻撃していると他の二つが攻撃してきた。危ない場面があったけど、テイルが頭を一つに纏めてくれたから、一気に切り落とした。

 これで、このクエストは終わり。

 ……でも。

「帰ろうか」

「ガウ?」

 剣に付いた血を払って鞘に収め、テイルを抱き抱える。

 街に戻ってクエスト終了の旨を伝え、報酬の銅五枚を貰い、宿の場所を教えてもらってその宿に向かい、部屋を取った。

 二階にある一番右奥の部屋に入って、剣と鎧、鞄をベッドに放り、備え付けのお風呂にテイルと一緒に入る。体と髪を洗った後、テイルの体を洗って湯船に浸かる。

「…………」

「ガウ? ガウガウ!」

「テイル……」

「ガウ~」

「あはは……くすぐったいよ」

 ぺろぺろと頬をなめてくるテイル。舌がざらざらしていて、くすぐられている感じがする。

「テイル、私ね……怖くなったんだ」

「ガウ?」

「今日始めて、剣で魔物を倒したけど、その感覚がずっと残ってて、離れないの。怖かった……この先も、あんな感覚を、味わうのかって……」

 私の声は自分でも分かるほど震えていて、目からは涙が流れていた。

 テイルを抱き締めて、私は湯船の中で泣き続けた。こんな感覚を味わうなら、この世界に来ることなく、あのまま死んだ方が良かったとも思った。

 でも――――

「ガウ~……ガウガ、ガウ」

 この世界に来なければ、テイルと出会うことも出来なかった。

 また、顔を舐めてくるテイルをきつくと抱き締める。苦しい筈なのに、テイルも首に手を回してくれた。それが嬉しくて、更に涙が溢れてくる。

 暫くして落ち着き、お風呂から出てテイルの体を拭いて、別のタオルを体に巻き付ける。装備を机に纏めて置いて、ベッドにテイルと一緒に横になる。

「テイル」

「ガウ?」

「私、あなたと出会えて良かった。出会ってくれて、ありがとう」

「ガウ!」

 元気な返事をしたテイルを抱き締めて目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。

 これから先も、今日みたいな感覚を味わうことになるけど……あなたと一緒なら乗り越えられるから。 だから――。

「ずっと、側に、いて、ね……?」

「ガ~ウ~」

 この時のテイルは、笑ってくれていたと思う。

 テイル、ずっと、一緒に。


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