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妖精族の少女

「今日はここで野宿か……一日で次の街まで行けるなんて思ってなかったし、戦闘なんかも多かったから仕方無いけど」

 フィレンティアの街を出た私は、ひたすら街道沿いに歩くことにした。

 やっぱり異世界だけあって、見たこと無いものばかりの道。

 六本足に四つ目の狼。頭が三つに別れている蛇に、目がある花。

 興味が尽きなくて、見つける度に街道をずれてしまって戻るのに時間が掛かったり……お昼ごはんを食べてる所をゴブリンに襲われたり、口の中に歯がびっしり生えている鳥にお昼を取られかけたりで、結構疲れた。

 適当に広けた場所を見つけて、集めた薪に抑えた火を点ける。と、半分以上が燃え尽きて使い物にならなくなったから、またその分を集めに行って更に力を抑えた火を点火。今度は成功。

 途中で倒した魔物を丸焼きにする。

 この魔物は地球のワニみたいな外観をしていて、大きさも同じくらい。普段は土の中に潜み、人や他の魔物が歩く時に発生する振動を感知して下まで移動。飛び出して捕食するらしく、夕方頃にここの近くで現れたのを火の魔術で倒した。その時は咄嗟だったからつい力を抑えることを忘れそうになったけど、何とか落ち着きを取り戻して一度目に薪に火を着けた時と同じくらいの力で攻撃した。今の所、剣は全く使っていない。その内練習しないと。

 四~五分経つと、ワニが良い感じで丸焼きになった。それを剣で小さく切り分ける。

 全部を食べる程の胃袋は持ち合わせてないから、三分の二をそこら辺に居るであろう魔物にやるつもりで茂みの中に放り込んだ。すると思った通り、聞こえてくるガツガツと噛みつく音。やはり野生の魔物は食べっぷりがいい。

 私がまだ三分の一も食べてないのに、もう気配が消えた。

 どこかの街で、保存が利く袋とか買わないと……大きさに関係無く入る物とかあると尚よし。

 まあ、フィレンティアで買えば良いんだけど、今更戻るのは疲れる。

 今日は保存方法が無かったから仕方無い。それに結構いける。

 袋は次の街で探せば良いか。

 次の予定を立てながら火を消しす。

 寝るために防御魔法を張ろうと思い、どんな効果が有るのかまでは分からないから神に聞くことに。

『起きてる?』

『ああ、起きてる。というか僕は、毎日二時間しか寝ないから。それで、用件は?』

『野宿するんだけど、それぞれの防御魔法にどんな効果が有るか分からないから、それを聞こうと思って』

『成る程。それなら防御魔法じゃなくて、結界の方がお勧めだよ? それなら、茜が許可したモノで無い限り、侵入できないから。やり方は力と同じ。君の魔力なら、展開って言えばすぐに出来る。解除する時は、解除って言えば解けるよ』

『分かった。やってみる。聞きたいことはまだ有るから、少し待ってて?』

『うん』

「展開」

 キンと高い音が鳴り、半径三メートルほどの半円が出現した。半透明だけど、確かにそこにあるのが分かるから成功なんだろう。試しに触れてみると、簡単にすり抜けてそのまま外に出てしまった。それでもまだ結界は張られていて、これまた試しにそこら辺にあった小石を投げてみた。

 石は結界に当たった瞬間、逆再生よろしく返ってきたから結構焦った。

 あやうく鼻が砕ける所だった……。

 次にまた触れてみると、出た時と同じように簡単にすり抜けた。

 確かにこれなら安心できる。

 確認した所で、話を再開する。

『お待たせ』

『いや。ちゃんと出来たかい?』

『うん。それで、次に聞きたいことだけど、私の魔力はどこから来てるの?』

『ん、それはどういう意味だい?』

『気になったの。あなたから貰った力とは言え、この世界に居る以上、私の魔力はこの世界のどこかから来てるんじゃないのかなって』

『ああ、それなら心配ない。君の魔力は、君が元々持っていた潜在的な力を引き出しただけだから』

『え、それって……』

『そう、その魔力は、正真正銘君の物なんだ。地球には、魔法なんてものは存在していないことになっているから。それに君自身、そんなことを考えたことは無かっただろ?』

『うん』

『だから、君自身もその力に気付かなかった。そして君は、気付かないまま死んでしまい、僕に〝無限の魔力〟を望んだ。これは君の力が無かったら、僕にも出来ないことだったよ。だから何も心配する必要は無い。あ、でもうっかり制御を誤るようなことが無いように。全力の魔法なんて使ってしまったら、大陸一つは余裕で消し飛ぶからね?』

『うわ……分かった、ちゃんと抑えられるように練習する。それじゃ、お休み』

『ああ。ゆっくりお休み』

 会話を終えて剣と鎧を外し横になると、すぐに眠気が襲ってきた。やっぱり結構疲れてたみたいだ。

 明日からは、日中は訓練しようかな? 間違って大陸を消す訳にもいかないし、剣も使えるようにならないと……今は単に長くて細い包丁になっちゃってるし。砥石とか、剣の手入れに必要な物も何も無いから、それも揃えないと。

 魔物が出てきても、無意識レベルで剣と魔法を使えるようになったら、訓練の時間を短くして街に向かおう。夜に移動するなんて、今の私じゃ無理だし。

 ――翌朝。

 目を覚まして、一瞬ここがどこだか分ずぼ~っとしてたけど、数分して理解した。

 ここは、名も無き異世界だ。

 水の魔法で顔を洗おうとしたら、寝ぼけた頭で制御が上手く行く筈もなく危うく窒息するレベルの水が出てきた。

「ぶはっ! はあ、はあ……危なかった。でもばっちり目が覚めた。でも気を付けないと死ぬ」

 朝から死にかけるなんて、17年の人生で初めてのことだった。

 結界を見てみると、未だちゃんと発動したまま。解除と言うと、発動した時とは違って頂点の部分から静かに消えて行った。

 取りあえず服を乾かすことに。先が別れている棒を二本と、真っ直ぐな棒を一本取ってきて、簡易的な物干し竿を作り、服を全部脱いで長い棒に通す。

 鎧は濡れてても問題無いから、とりあえず着けた。

 下は何も無いから、すごい変な格好に……服も、次の街で買おう。

 小さな火で乾かそうとも思ったけど、間違って燃やしてしまう可能性が多いにあるから大人しく待つことにして……約一時間。天気も良いからすぐに乾いた。

 鎧を外し、下着と黒い服を着てスカートを履く。最後に鎧を着けると、鎧はまだ少し濡れていてまた服が少し濡れてしまった。

「……これくらいなら、問題ないか」

 鞄と剣を提げ、先ずは魔法の練習をするため余り人目に着かない茂みに入り奥を目指す。

 暫く進むと広けた場所に出て、そこには湖があった。ここなら水分補給も出来るし丁度いいと思い、鞄を下ろして魔法の練習を始める。

 小さな小さな火をイメージして指先に魔力を集めると、昨日地図を燃やした時に出た半分くらいの大きさの火が出てきた。

 もっと小さくしないと。

 一度消して、また集中する。今度は更に半分くらいの大きさになった。

 これくらいなら丁度いい。後はこれを無意識レベルで出来るようになれば……その次は、少しづつ大きくしていく練習をして、剣の練習に入ろう。

 それから二時間程の時間を要して、何とか小さな火はすぐに出せるようになった。

 こんなに早くできるようになったのは、この環境のお陰だろう。どうしてかは分からないけど、ここはとても澄んでいて静かだから、集中するのに向いている。

 もしかしたら、神聖な場所だったりするのかも知れない。水も底が見えるし。

 泳いだら気持ちいいだろうなぁ……タオルも水着も無いから無理だけど、そのうちまた来よう。

 少し休憩して、今度は大きくする練習を始める。魔力が尽きないとは言え、まだ慣れていないから疲れるのも早い。

 こんなんじゃ、まだまだ魔法と剣を同時に使うのは無理か。早く両方を扱えるようにならないと。

「…………」

 さて、集中集中。

 大きくするのは、イメージだけなら小さくするよりも簡単。でも、制御が難しい。間違ったら大爆発なんてこともあり得るから、その緊張感もあって余計に。

 少しずつ大きくして、手の平大にしようと集中。

「わっ!」

「うわぁっ!?」

 もう少しで火が出ようとした所で、いきなり目の前に小さな羽のある少女が現れた。勿論そんなことをされて、今の私が魔法を制御出来るわけも無い。

 爆発が起きると思って目を固く閉じたけど、いつまで経っても爆発しなかった。

 恐る恐る目を開いて見てみると、少女が何か力を使ったのか、火の周りを何かが包んでいた。

 これは……。

「風?」

「うん。貴女、まだ魔力を完全に制御はできないのね?」

「うん。魔法を使うようになったのは昨日からだから、まだ全然上手くできなくて……とりあえず、その火、消すよ?」

「あ、うん」

 風が収まっていき、完全に消えてから火を消すと、少女が自己紹介を始めた。

「わたしの名前は、ミレイン。見ての通り、妖精族よ」

 彼女ら妖精族は、この世界に流れる魔力とは別の力であるマナという力から生まれる存在で、名は生まれてすぐに、妖精を束ねる女王が与えるみたいだ。偶に自分で考えたいという妖精がいて、女王はそれを尊重するらしい。

 寧ろそういった妖精が増えて欲しいと思っているみたい。ミレインもその一人。

「へぇ~。その女王って、ミレイン達からすると、母親みたいな存在なの?」

「まぁ、そうなるのかな……考えたことが無いから、よく分からないけど。それはそうと、アカネはどうして此処に来たの?」

「人目につかない場所を探してたら、ここに辿り着いた。それで、すごく集中できたから練習してたんだけど……迷惑だった?」

「そんなことは無いけど、人間がこの場所に来たのは初めてだから」

「そうなんだ。だからこんなに綺麗なんだね……」

「え、ここ綺麗?」

「うん。空気も澄んでるし・・・何よりも落ち着く」

 人間みたいな汚い生き物が一歩でも踏み込んだら、これだけ綺麗な場所も一瞬で汚れてしまう。

 …………って、私も人間じゃん!

「ごめん、人間が来たこと無いなら私も駄目だね。すぐに出て行くから! それじゃ! 機会があったらまた会おうね、ミレイン!」

 鞄と剣を提げ、早足にこの場を去る。

 後ろでミレインが何か言っていた気がするけど、体に比例して声も小さいのかよく聞こえなかった。

 来た道を辿り茂みを出て、別の練習場所を探すためにまた街道沿いに歩き出した。

「また、会えると良いな……」

 ミレインとの再会を願いながら。


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