絶対を覆す約束
「はあ~……久し振りの感触だよぉ~」
「アカネ、苦しい」
温泉から帰ってきて一週間。
今日でテイルが成体になってから一ヶ月。つまりテイルが体の大きさを自由に変えられる様になった。起きてから外に出て、テイルに影から出てきもらい、やってもらうと見事一年前くらいの大きさになり、思わず抱きしめた。
「はぁ~」
幸せ~。
これでお風呂も一緒に入れるし、夜も一緒に寝れるし、街の中でも一緒に歩けるし、良いことばかりだよ!
ちなみにこの一週間、お風呂は毎日あの温泉を使っていた。どういう訳かいつ行っても、魔物がいなくて、ラムネちゃんとアルカン、情報屋さんに、ガートルさんにも聞いたけど、何も分からなかったんだよね……。
アルカンがいた神殿みたいに、なにか特殊な力でも働いてるのかな?
あ、他の国にはいつ行こう? ……今はテイルに遊んでもらおう!
「ラムネちゃんも遊ぼう!」
「ぁ……うん」
やっぱり恥ずかしそうだけど、良い笑顔で頷き、トコトコと私たちの方に歩いてきた。これでアルカンもいたらもっと楽しいのに……どうにかしてこっちでも人の姿になれないかな……。
なんて思っていると、アルカンが震えた。
「ん、どうしたんだろう?」
「アルカン?」
「うん、何か言いたいことがあるのかも。でも、剣の状態じゃ会話出来ないし……」
アルカンに手を当てて考えているとラムネちゃんが、
「魔力を注ぎながら意識を集中すれば、会話位はできるかも知れない」
と言ったので、早速実践してみることにした。
ちなみにラムネちゃんは、一週間温泉に入ってた時常に赤面していた。可愛かったな。
アルカンを抜いて魔力を注ぎながら意識を集中して、刃を平面にして額を当てる。暫くすると、突然意識がどこかに持って行かれた様な感じがして目を開く。そこはアルカンの空間。目の前には人の姿のアルカンがふわふわと浮いている。
「日中にこうして会うのは、初めてだな? 不思議な気分だ」
「私も。それで、どうしたの? もしかして、何か起こる?」
なんとなくそんな気がして、尋ねてみたけど、何も起こったりしないよと返ってきたから安心した。どうにも油断していると、結構大事に巻き込まれていたりするから、ちょっと不安だったんだよね。
レンドキアに来るまでは大したことは起こらなかったけど。……別の国に行ったらまた何か起こったりしないよね?
それが面白いことなら良いけど……シリアスは得意じゃないんだよ。ラムネちゃんの時は、まあ、ラムネちゃんの為だったから大丈夫だったし、フレイム・ドラゴンの時は、逃げられる状況でも無かったからだし。
偶になら……いやいや、ダメだ。そんなこと考えたら本当に起こってしまいそうな気がする。
「お主は、この短時間で色んなことを考える」
「え? あ、分かるんだっけ?」
「うむ。まあ、それはいいとして……人の姿のことだが、少しなら大丈夫だ」
……ん、大丈夫?
「え、出られるの?」
なんとか理解した頭でそう聞くと、うむ、と簡単な返事で返された。
なんでも、私、テイル、ラムネちゃん。
魔力の大きな私たちと長い時間一緒にいたから、その影響を受けて、一日に少しの間なら人の姿を取ることが出来るようになったらしい。
「だが、本当に少しだ。長く保っても、一時間が良い所だ」
「そうなんだ……ねぇ、それってアルカンの意思で出来ることなの?」
「いや、まだそこまでの力は持っておらん。主かテイル、ラムネの魔力を少し分けて貰わなければ」
神様に頼んで、力なんかは最強にしてもらったけど、やっぱり私がまだまだ武器としてのアルカンを使いこなせてないから? う~ん、どうせなら四人でご飯食べたり、遊んだりしたい。
「今まで考えたこと無かったんだけど、魔力って使えば使う程成長とかするの?」
こっちに来て一年以上経っているから、本当に今更なんだけど……。
「……主、それは、本気で聞いておるのか?」
まるで信じられないと言う様に私を見るアルカンに頷くと、溜息が返って来た。
「世界の一般常識を知らぬとは……主はどの様に育ってきたのだ?」
どの様に……学校行って、色々あって、人間が嫌いになって……まぁ、こんな感じだけど。
「まあ良い。主の言う通りだ。魔力は使えば使う程、最大値が上がっていく。無論個人差は存在するがな」
「そうなんだ~」
私の今の最大値って、どれ位なんだろう?
「ねえ、最大値を計測する方法ってあるの?」
「うむ。世界のいたる所で目撃されている水晶体に魔力を注ぐと、最大値に応じて色が変わるのだ」
アルカンの話しだと、変わらなければ下級魔術師、赤なら中級魔術師、黄色なら上級魔術師、紫が王宮魔術師で、金色だと伝説級って感じらしいけど……。
「伝説級って?」
「そうだな……主達にわかり易く言えば、勇者として後世に名を残す、と言うことだ」
「成る程。じゃあ、下級から伝説に成長する可能性もあるんだ?」
「あるにはあるが、人間ではそうなる以前に寿命が来てしまうであろうな」
「――っ」
寿命。
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
フレイム・ドラゴンが言っていたことを、嫌でも思い出してしまう。
私達の命が先に尽きるのは、変えられない事実。
テイルと、ラムネちゃんと、アルカン。
私は、三人を残していつか死んでしまう。
人間である私は、どれだけ願っても永遠に生きることなんて出来ない。
「…………アルカン」
「何だ、主よ」
「人間の私に残せるモノって、なにかな?」
永遠なんて存在しない。
いつかは、テイルも、ラムネちゃんも、アルカンも死んでしまう。
でもそれは、私とは比べ物にならない程先のことで、いつかは、私のことも……忘れて……。
「っ……」
「すまぬ、主よ。我は、その問に答えることができん」
だが、と、彼女は続ける。
「どうか我らを信じて欲しい。我らは、貴女を決して忘れない。絶対にだ」
柔らかに微笑みかけてくれる。
絶対なんて、どんな世界でも一つしかない。
生まれたモノがいつか朽ちる様に、思いも、想いも、記憶も、世界に存在する全てのモノが、いつかは朽ちる。
それだけが、唯一存在する絶対で、でも、テイル達なら、そんな絶対を覆してくれると、そう想える。
「だから主、どうか泣かないで欲しい」
優しく抱き締められて、温もりに包まれる。
「……ん……うん、ぐす、うぁあ、わああん……」
「全く。困った主だな、貴女は」
そんな所が――。
「アカネっ!」
「ひゃっ!? て、テイル? ラムネちゃん?」
気が付くと、そこは私達の家だった。
何かあったのか、テイルとラムネちゃんに飛びつかれて、ベッドに押し倒されてるけど……。
「二人とも、どうし……」
自分の声が震えていることに気付いて、言葉が止まる。
私、どうして?
「アカネ、泣いてた」
「え?」
「ごめんねって、私を忘れないでって……先に死ぬことを、許してって……」
テイルもラムネちゃんも、泣いていた。
大粒の涙を瞳一杯に溜めて。でも、真っ直ぐに私を見つめて。
「忘れない。忘れる訳ない……! 絶対に」
「頼まれたって、絶対に忘れてあげない! だから……だか、ら……」
泣かないで――。
心が重なった様に、言葉が重なった。
「行って来ます。フレアさん」
「行ってらっしゃい。気を付けてね?」
みんなで揃って「は~い」と返事をして、テイルと二人だった頃に見つけた川へ出発する。
水が龍の形になって襲ってきたあの川。
何でも、あの周辺には特別な力を発しているモノがあって、その影響で川の水が通り掛かった生物を襲うらしい。その何かを突き止めるのが今回の目的。
フレアさんて言うのは、情報士さんの名前。
理由は秘密って言われたけど、その名でこれから生きていくことに決めたみたい。
綺麗な名前ですねって、想ったことをそのまま言ったら、お礼を言われて、なんだかこそばゆかった。
「さて、今日は私、練習も兼ねて自分で飛んでみるから。テイル、ラムネちゃん、サポート、お願いね」
「うん」
「慌てずに、ゆっくり行こう」
やっぱり、私はみんなより先に死んでしまう。
フレイム・ドラゴンの言葉通り、それはどうしたって変えられないことで、抗うことなんて出来ない。
私に何が残せるのかも分からないし、もしかしたら、ずっと分からないかも知れない。
それでも、テイルもラムネちゃんもアルカンも、私を忘れないと言ってくれた。
絶対に忘れないと。
頼まれても忘れないと。
その言葉を胸に、私はこれからも、テイル達と在る。
「テイル、ラムネちゃん、アルカン。これからも、よろしくね?」
「うん」
『うむ』
ハッキリと、アルカンの声も聞こえた。
「ありがとう。さ、行こう」
まだまだ拙いけど、ゆっくり浮かび上がり、テイル、ラムネちゃんと並んで飛行しながら、川へ向かった。




