計画
「ガウ~」
翌朝、私はテイルの声で目を覚ました。挨拶をして、水で顔を洗って周りの状況を確認するために見回して見ると、結界が解除されていた。心が不安定だったからかも知れない。今までこんなことは無かったから分からないから、多分だけど。
初めの頃、起きたばかりの時に水を出そうとして危うく窒息しかけたのは、今ではいい思い出……? 取りあえず襲われることは無かったみたいだけど、これからは気を付けないと。
「あの!」
「……?」
声がした方を見ると、昨日の女の子が居た。
武器なんか何も持ってないのに、よく生きてたもんだ。もう一度遮音の結界を張り直して朝食の準備をしようとしたけど、食料がもう無かった。仕方なく結界を解き、テイルと一緒に近辺を回って食料を探し始める。
「あまり居ないね?」
「ガウ……」
二十分程歩いても、中々見つからない。
もっと居ると思っていたけど、この辺りは少ないのかも知れない。何体かいるにはいるけど、私達を見た途端に逃げてしまうから魔法を使う暇も無い。いくら無意識レベルまでになったとは言っても、見えなきゃ使おうと思うことすら出来ない。
気配も常に探れる様にならないとか……テイルに手伝って貰おう。
結局見つかったのは、アークロンが一体で、他には逃げられた。
その場で焼いて三等分くらいに分けてから、私は少し食べて残りをテイルに。元々私は、あまり食べる方じゃないから十分足りる。
テイルは大きくなるにつれて食べる量も増えて行くだろうから、やっぱりそろそろ街に行かないと。
それから―――
「いい加減にしてくれない? 昨日からずっと後を着いてきて」
「っ……あなたが、わたしの話を聞かないからじゃないですか」
「何の関係もない他人の話しを聞く必要なんてない。私達の時間を邪魔しないで」
「あなたたちの時間? その魔物といる時間ですか?」
「遮音・展開」
―――キン。
「っ!」
これ以上話すと殺してしまいそうだ。テイルをそこらの魔物と同じように扱う奴の声は、耳に入れたくない。
朝食が終わって結界を装備型に変え、テイルにも展開。以前使った時テイルは寝ていたから分からなかったみたいだけど、この結界は遮音状態でも、私が拒絶しなければ声は聞こえるから、テイルとも会話することが出来る。
食料を補充するため、私達は何処に有るか分からない街に向けて街道を歩き始めた。
それから数日後の夜。
私達は四の街に到着した。三の街は飛ばしちゃったけど、別に問題は無い。
テイルには不可視の結界を掛けてる。出来るかどうか分からなかったけど、不可視と付けると出来た。今の大きさで街に入ると、騎士やら何やらが来てしまって面倒なことになってしまうだろうし。そうなったら全員吹っ飛ばせば良いけど、その後が更に面倒だろう。
当初の目的通り、先ずは食料を買い込む。仕事もしないといけないから、暫くはこの街に滞在するつもりだ。
そう言えば私達が街に入った後、少しして誰かが騒いでいた。何か、姫様とか聞こえたけど気にせず宿に向かった。女将さんに鍵を借り、二階右端の部屋に入りテイルの結界を解く。
この街は殆どの建物が石造りだから、テイルが階段を歩いても大丈夫だ。
「ねぇ、テイル、あなたはまだ影に入ることは出来ないの? 出来たら、誰にも邪魔されることは無いんだけど」
「ガウ!」
「出来るの?」
「ガウガ! ガウガウ」
テイルは私の影を指さした。
「私の影? でも、大きさが足りないんじゃない?」
「ガウガウ」
問題ないとでも言うように首を振って、テイルは私の影に溶けるように入っていった。
本当に大きさは関係ないんだ。凄いなぁ……でも、なんか不思議。影の中に居るのに姿が見えるなんて。テイルはすぐに出てきて、どう、と言う感じで私に振り返った。
「うん。これなら大丈夫だね。凄いよ、テイル」
「ガウ~」
あの夜から、テイルは私によく甘えてくれるようになった。この街に着くまでの数日も、寝る時や起きた時にテイルが密着していなかったことは無い。他にも魔物を倒した時は飛びついて来るから、衝撃に耐えるために構えてないといけなくなった。
でも、私は最強の肉体が有るから押し倒されるだけで済む。褒めると嬉しそうに鳴いて擦り寄せて来るから、余計に可愛い。
「でも、成体になっても大丈夫なのかな? 流石に大きさが違いすぎるし……」
「ガウ~」
「う~ん……闇属性の魔法で、何とか出来るかな? 大きな闇を造るとか……どう?」
「ガウガウ」
「それはいやなの?」
「ガウ!」
「私の影がいい?」
「ガウガウ!」
「そっか。それなら何とかしないとね。あなたが成体になる前に、出来るようにするから」
「ガウ!」
それから少し遅めの夕食を摂る事に。テイルが影に入った状態で下に降り、皿に乗せて部屋に戻り一緒に食べ、お風呂に入った。流石に浴槽にテイルが入ることは出来なかったけど、何とか洗い場には入ることが出来た。旅の途中でお風呂に入れるようにしないと。体を洗ってから湯船に浸かり、上がってからテイルの体を丁寧に拭いて、自分の体を拭いたら服を着てベッドに座る。
ベッドにはテイルと一緒に寝られるだけの広さが無かったから、床で寝ることにした。念のため結界を張って、テイルに抱きつき横になる。
そのうち部屋にも収まり切らなくなるんだよね……そうなったら毎日野宿だ。
「一緒に居られるなら何処でも良い」
「ガウ?」
「何でもない。お休み、テイル」
「ガウ」
顔を擦り寄せて来たテイルに抱きついて目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。やっぱり疲れは溜まっていたみたいだ。
どこかに家でも造ろうかな?
私とテイルだけの家を。