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第51話 いつのまに親玉に?

「山口殿、どうされた?」


「いかに山口殿と言えど、当家のことには口出し無用に願いたい!!」


 助さん角さんが交互に睨んでくる。ひえぇ~。

 怯えながらもサコッシュの中に手を入れて取り出した。あの黒い封筒を……。


「これをお読みくださいぃぃ……」


 僕が差し出した黒い封筒。

 助さんが縁側から飛び降りて駆け寄ってくる。右手には白刃。

 お願いだから抜身の刀を持ったまま駆け寄って来ないで欲しい。


 助さんは左手を伸ばし、黒い封筒をふんだくるように奪った。

 そのまま封筒の中の手紙を一読し、「むっ」と一声唸った。


 おもむろに封筒の中へ手紙を戻し、それから刀を鞘にしまい。縁側に正座をして額の上にその封筒を捧げ、にじり寄るようにしてご老公に近寄った。


「拙者には荷が重すぎます。ご確認をお願いいたします」


 ご老公は封筒を受け取り、中を開くや両目を大きく開いた。


「こ、これは間違いない……山口殿、これをどちらで……?」


 いつの間にか居住まいを正し、背筋がピンと伸びている。


「向こうの世界です。日本で受け取りました……」


 僕が取り出した黒い封筒。これはリサが僕に残してくれた二つの封筒の一つ。そこにはこう書いてあるはずだ。


『私、津田山平吉は、ローデシア王国の伯爵としてのすべての財産と権利をこの遺言状を持っている者へ譲り渡す』


 まったく事情はわからないけど、リサは、日本のどこかで津田山平吉伯爵と出会い、この譲り状を書かせたのだろう。

 リサのことだ。きっと得意の賭け事の形代として津田山さんから全財産を巻き上げたに違いない。


 ご老公は、手紙の上で二度視線を動かすと、丁寧に畳んで黒い封筒にしまい。瞑目して頭上に奉げた。


「拝見いたしました。津田山平吉伯爵の御親筆に間違いありません。我々、津田山家家臣一同、山口様のお下知にしたがいまする」


 ご老公が平伏し、少し遅れて助さん角さんもそれに続いた。


 これにて一件落着って、うわ~っ、黄門様に土下座させちゃったよ。絵面的にまずいな~。松下幸之助さんに怒られちゃう。


 そんなことを思いながらも、なんとかうまくいったと胸を撫でおろした。


◇


「いちろ~っ!!」


 助さん角さんが、何でもお望みのままにと言ってくれたので、まずはマリアちゃんがいるところに案内してもらった。


さすがに小さなマリアちゃんのことは丁重に扱ってくれたようで、座敷でお絵描きをしながらおやつを食べていた。おやつは甘納豆だ。おいしそう!!


「ローザマリア殿下。僕のせいでこのようなところまで来ていただき、申し訳ありません」


 ジャンがマリアちゃんの足元にひざまずくと、マリアちゃんが目を丸くした。


「ジャン!ここにいたの?無事でよかった!!」


「もったいないお言葉です……」


 ジャンが涙ぐんでいる。

 感動の再会。邪魔したくないけど、実はあまり時間がない。


「マリアちゃん、それでこうやってジャンさんも見つかったし、リサ師匠と合流して日本へ帰ろうと思うんだ。僕がリサ師匠を迎えに行ってくるから、ここでジャンさんと待てる?」


「うん。でも、リサがどこにいるか分かる?」


「さっき助さんに向こう岸の様子を偵察に出てもらったんだ。リサ師匠の場所がわかったら連絡をもらって、すぐに僕が向かう予定だけど……」


 そう言っていると角さんがスマホを持ってやって来た。助さんから着信らしい。


「もしもし。お疲れ様です。リサ師匠は見つかりましたか……?」


「はい。しかし、大変なことになってまして……」


 電話口の向こうの助さんの声は暗く、切羽詰まっていた。


◇


「それではお気をつけて。チクワ島の津田山家改め、山口家家臣一同。お帰りをお待ちしております……。」


 チクワ島の南端。埠頭までご老公が見送りに来てくれた。埠頭に横づけになったボートには角さんが乗り込んで既にエンジンをかけ、暖機運転をしている。


「ありがとうございます。無事に切り抜けられたら、きっと帰ってきます」


 マリアちゃんとジャンが先に乗り込む。僕もご老公に何度も頭を下げて乗り移った。


「……では、王都に向かいますが、本当によろしいんですね?」


「はい……お願いします」


 僕たちがリサのいる場所ではなく、王都に向かうのは理由がある。


 偵察に出た助さんの報告によれば、リサはすぐに見つかったらしい。それは、リサが一人ではなく味方をどんどん増やして軍団を組織していたからだ。


 ニオノ湖東岸には、旧ロッテンマイヤー侯爵家の領地がある。ジャンの旧領もある。

 リサが南下するにつれて、そこから2騎、3騎と味方が集まり、今や数万の軍勢になっているとか。それが王都の手前にあるクサッツに集結し、王都の防衛軍と睨み合い一触即発の状況になってるらしい。


「すぐにリサ師匠のところへ向かいましょう」


 僕はそう提案した。ジャンが無事と分かった今、リサが戦う理由はない。それを知らせれば、軍勢を解散して一緒に帰れるだろうと単純に思ったからだ。


 しかし、ジャンは首を横に振った。


「ここまで大事になると、リサ軍団を解散しても、リーダーであるリサはとても見逃してもらえないだろう。追っ手がかかってリサの身が危ない」


「じゃあどうしたらいいんですか……?」


 そこでジャンが提案したのが、逆に王都のタジオ公爵を訪問し、和平を仲介する案だった。タジオ公爵から妥協案を引き出して、リサ軍団の解散を条件に無罪放免にしてもらえないだろうか……そんなアイデアだった。


「大丈夫だろうか……」


 モーターボートの縁に頬杖を付きながら、不安な思いを拭えなかった。


 気を紛らわせようと湖面を見ていると、僕たちの行く先に立ち塞がるように、巨大な壁が見えて来た。見上げるような高さで、しかもずっと先まで続いている。


「あれが我々が管理しているダムです。あそこで治水や発電をしてるんです。あのダム一つで、ローデシア王国の電力の60%を賄っているんですよ」


 助さんが説明してくれる。どこか誇らしげだ。

 ダムの上にはビルのような巨大な建物がそびえ立っている。


「あの建物は何ですか?」


「あれは管理棟と……、それから寮みたいなもんです」


 寮なんて貧相なものじゃない。まるでラスベガスの巨大なリゾートホテルみたいだ。


 すごいな~。圧倒される。


 僕が素直に感動していると、隣でマリアちゃんがその建物に向かって手を振っていた。

 両手を使って大きく手を振っている。建物の窓からちらっと人影が見えた。


 あの人に向かって振ってるのかな。無邪気でかわいいな~。この時の僕はそう思っていた。


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